その後2 王妃の決意
前回に続きちょい長いです
今回は王妃視点のお話です
「失礼致します。妃殿下、フェリスティア様がお見舞いにお見えになりました」
「えぇ入ってもらってちょうだい」
昼下がりの光が差し込む窓辺からは色づいた木の葉が最後の隆盛を見せ、恵みの季節の終わりにさよならを告げるかのようだ。
「シェリル妃殿下、フェリスティアでございます。お体のお加減はいかがですか?」
「こんにちはフェリスティアちゃん。もうバッチリよ!いつまでもベッドにいるのが億劫なくらい!」
そう言って元気よく腕を振り回してみせると、うちの義娘は困ったような笑顔で「ではお医者様の許可がでるまでもうすぐですね」と返してくる。
私が侍医に「早くベッドから出させて!」と要求しているのを見かねたクロードに釘を刺してくるよう言われたのだろう。
せっかく新しくできたかわいい義娘のお願いなら無下にしないと思って。
王族としてこういうところは優秀なのだが、息子としてはまったく可愛げがない。
まぁあの子にも色々あったのだから仕方ないけど。
確かにフェリスティアちゃんを困らせるのは私の本意ではない。
ここは息子の術中にはまってあげることにする。
「今日は木の実のクッキーをもって参りました。先日伺ったアステル伯爵領の秋の名物で、美味しい上に非常に栄養豊富なのだそうですよ」
「あら、美味しそう。外に出れなくてせっかくの秋を楽しめないんだもの。せめて食で堪能しなくっちゃ」
ウキウキする気持ちをそのままに侍女に紅茶を頼むと、今度こそフェリスティアちゃんは「そうですね」と笑顔で返してくれる。
そうそう、女の子にはそういうかわいい笑顔でいてもらわなくちゃ。
私達夫婦は嫁入り前から貴女に多大な苦労を強いてしまった。
せめて貴女の息抜きくらいにはならなくてはね。
~・~・~・~・~
私が目を覚まし、ようやく話ができるまで回復したのはつい1ヵ月前。
ジルの方は2週間前にようやくベッドの上で起き上がれるようになったばかりだ。
夏を経て秋が始まるまでの約3ヵ月、私達は嗅がされ続けた毒のせいで昏睡状態と意識はあるもののうつらうつらとしている状態を繰り返していた。
クロードから事の顛末とルーベン公爵から毒と私達の状態について聞いた時は身をよじるほど後悔した。
国王の妻として、国を脅威にさらし、ジル―国王の身を危険から遠ざけることができなかった。
王妃として失格だと唇を噛んだ。
ジルと私は王太子と公爵家の娘として、旧知の仲だった。
そこで先に恋に落ちたのは私の方だ。
社交の場でも静かに佇み来訪者の相手をし、たまに学院でお見かけすれば本を読んでいる。
お転婆で話好きで自他共に認める社交的な性格の私には、物静かで聡明そうなジルが大人っぽく見えて気がついたら熱烈に恋をしていたのだ。
そもそも座学は全く好きではないし、淑女教育などもっての他という私だったが、自らの恋心を認識してからは人が変わったようにそれらに取り組んだ。
恋の力とは強いものだ。
私の打ち込みように両親や当時の侍女達も「なにか変な病気にかかったのではないか、変な物でも口にしたのではないか」と心配されるほどだった。
それらすべてはジルの目にとまるためだった。
その後、努力の甲斐あって私はジルに見初められ、また様々な家同士の政略の結果もあり、無事に結婚出来ることとなった。
詰め込み型の花嫁修業をなんとか突破した最後の日、ジルの母、当時の王妃であったソフィア様に呼ばれ最後に教えられたのがジルの体の弱さだった。
ジルは当時の国王夫妻の唯一の子として、小さい頃から未来の国王となることが決まっていた。
しかし、ジルは病気がちで体力のない子だったのだそうだ。
しかし未来の国王がそのような状態だと知られると、国政不安、王たる者の適性などと理由を付け、国内外から色々とありがたくない物言いが入る可能性がある。
そのため、当時の国王陛下はジルの健康状態について王城内でかん口令を出し、このことについて知るのはジルの専任侍医と執事、数を絞った専属の侍女と両親である国王ご夫妻というごく限られた者達のみとなった。
私はそれを聞いた時、まさに雷に射たれような心境だった。
華やかな社交の場でも静かに佇む姿は病気やか弱い体調を悟られないようにするためだったのか。
多くの学友が剣技に乗馬にと休み時間を楽しむ中、1人ひっそりと読書をする姿は、それをしたくともできないが故だったのか。
私の恋した彼の姿がことごとく崩れていくのを感じたのだ。
しかし、私の恋が崩れた先にあったのは愛だった。
そのような状態であっても王家に生まれた者として自らの責務を全うしようという姿にたまらなく愛しさを感じ、その人の妻となれる幸運に胸が熱くなった。
そして、私はその場でソフィア様に宣言したのだ。
「私のすべてを賭け、ジェラルド様を支え抜くと誓います」と。
それからは王太子の、そしてジルの即位後は国王の妻として、私ができる限りのことをしてきた。
公務にはできる限り同行し、常にジルの体調に目を光らせてきた。
もしも異変を感じれば、周囲に悟られないよううまく仕事を切り上げさせる。
彼の回りに優秀な事務官を配置させ仕事の量を減らし、とにかく彼の負担が軽くなるよう努めた。
社交の場では持ち前の社交性を生かし、私が積極的に周囲と話をした。
国内外で「国王より前にでる王妃」として半ば揶揄されていることは知っているし、クロードからもおしゃべりが過ぎますとたしなめられるが、聡明なジルの代わりに私ができる仕事はこれくらいしかなかったのだ。
すべてはジルを“王”にし続けるため。
そうやって今までやってきた。
しかし最も大切なところで失敗してしまった。
ジルに危機が迫った時に彼の盾とならなくてはいけなかったのに。
さらにこの一件で息子であるクロフォードや、まだ結婚していないため本来はまだ王家の一員ではないフェリスティアちゃんにまで、ほぼ王と王妃としての仕事をさせてしまっている。
特にフェリスティアちゃんには、すべてがでっち上げだったものの、多くの貴族から罵られ、牢獄に閉じ込められるという恐い思いをさせてしまった。
普通の貴族令嬢ならその恐ろしい体験に寝込んでしまってもおかしくないのだ。
それにも関わらず、彼女は嫌な顔1つせずにクロフォードの公務を手伝い、視察先では巫女としても国民と交流を持ち、慣れない日々の中でも笑顔でいてくれる。
その姿には本当に頭の下がる思いだ。
~・~・~・~・~
「シェリル様、もしやご気分が優れませんか?」
すでに冷めはじめているミルクティーのカップを両手の中に抱えたままぼうっとしている私を見て、フェリスティアちゃんが心配そうに声をかけてくる。
いけない、つい先日の後悔を思いだして呆けてしまった。
彼女の息抜きにならねばと思っていたのが聞いて呆れる。
「大丈夫よ!」とカラ元気な返事をし、慌てて手付かずだったクッキーを取ろうとしたとき、侍女が来客許可を求めてきた。
「失礼致します。母上、お体の調子はいかがですか?」
「えぇ、すごい元気よクロード!だからそろそろ庭園のお散歩の許可をちょうだいな、そしてお見舞いのお菓子はなにかしら?」
「しかるべき時に侍医が判断しますので、あまり彼らを困らせないでください。そして毎回毎回お菓子を持ってなど来ません」
クロードはフェリスティアちゃんをちらりと見る。
少し困ったような彼女の表情を見てなにか察したのだろう。
軽口を止めて私の様子を少しいぶかしげにうかがい始めた。
あらあら目と目でお喋りなんて、恋人を通り越してまるで夫婦のよう!
なんとも仲睦まじいこと。
「お菓子はありませんが、本日は母上に贈り物を持って参りました」
そう言うとクロードは扉で待機していた侍女に合図する。
事前に示し合わせていたのだろう、その合図で人1人すっぽり隠れてしまうほどの大きさの花束が真っ白な陶磁の花瓶に生けられワゴンで運ばれてきた。
ピンクと赤のバラにダリア、白いカーネーションにカスミソウ、ヒマワリに紫のムスカリ…
どの花も美しく豪奢な花束だが色味もバラバラ、季節感もまちまちで正直センスのいい組み合わせとは思えない。
「父上から母上に、と。この木箱とともに渡してほしいと預かって参りました」
クロードから箱を受け取り、そっとふたを開け中を確認する。
私はその中身に思わず目を見開き、部屋にやってきた花達1つ1つをじっと観察する。
なんのことかわからないクロードとフェリスティアちゃんは静かに私の様子を見守っていた。
私は思わず吹き出す。
知識はあるけど口下手なジルは昔から私に愛を伝えたい時、花達にそのメッセージを込めて贈ってきた。
木箱に入った“花言葉辞典”なんて見なくてもわかる。
彼からの愛の囁きをいち早く理解したくて、寝る間を惜しんで丸暗記したのだ。
互いにお見舞いに行くことすらできないが、きっと私が落ち込んでいると思ったのだろう。
改めて思う。
私は彼のそういうところが大好きなのだ。
大好きな彼の隣にいるため、まだまだ私も頑張らなくては。
落ち込んだ様子から一転破顔した私に、一体何が起こったのかと、きょとんとした顔で私を見つめる2人に満面の笑みで事の次第と花々の持つ意味を説明し始める。
このあと無理矢理に紅茶を3杯もおかわりさせられ、侍医に叱られるまで2時間以上も学生時代からの大恋愛物語を王妃殿下から聞かせることを、クロフォードとフェリスティアはまだ知らない。
参考花言葉
バラ(ピンク)、ダリア、カスミソウ→感謝
バラ(赤)→あなたを愛しています
カーネーション(白)→あなたを今も愛しています
ひまわり→あなただけを見つめる
ムスカリ→明るい未来
花言葉は諸説ありますが、一部を使用致しました




