精霊のお告げ
「「お帰りなさいませ!!殿下!!」」
王太子様に促されるまま、お城に足を踏み入れると30名ばかりの騎士様、執事様、メイド様方がずらっと勢揃いしている。
「ルーベン神官長はいらっしゃいますか?」
クロフォード様に問われて、騎士様の後ろからでてきたのは、流麗な銀髪に白い法衣を纏った細身で長身の男性だった。
「殿下、こちらにおります。そちらが、フェリスティア嬢ですね?グリンフィールド王国の神官長を務めております、ルーベン・アーリアと申します」
そう言って流れるようにお辞儀をする。
顔をあげると無表情の紫の瞳がアメジストのようで思わず、見とれてしまう。
「ルーベン神官長、早速ですが、フェリスティア嬢を“精霊の間”にお連れしてくれ」
「承知いたしました。早々で申し訳ございませんが、一緒にご移動をお願いします」
精霊の間、ということはもしや、早速お告げを聞いてこい、ということだろうか?
急な展開に着いていけず、おろおろしていると、クロフォード様が信じて疑わないという笑顔でこっちを見ている。
「フェリスティア嬢、大丈夫です。私が保障しますよ」
…みんな一体どこから、そんな自信がわいてくるのだろうか…。
~・~・~・~・~
「この扉の奥が、精霊の間となっています」
緊張と不安から足取り重く、ルーベン神官長に付いていくと、重厚な木の作りに金で装飾された、威厳…というか、今の私には威圧感溢れる扉にたどり着いた。
「精霊の間には、代々、神託の巫女しか入れない決まりとなっていますので、ここから先はお1人で入室いただきます」
「あの…ルーベン様…大変申し上げにくいのですが、私、お告げとやらを一度も聞いたことがない上に、その、記憶がなくて、精霊についてなんの知識もないのですが…」
「大丈夫です。この部屋に入るまで神託を賜ったことがない巫女も歴史上、幾人もいますので。それにこの精霊の間は、部屋の作り自体が、精霊が訪れやすい造りとなっています」
そう言うと、ギギっといかにも、重たそうな音をたてながら、ルーベン様が涼しい顔で扉を開いた。
ペンより重いものは持ったことないみたいな体格なのに、どこにそんな力があるのか。
「早速ですが、どうぞ部屋にお入りください。退出の際も扉をお開けしますので、終わったら中にありますベルを2回鳴らしてください。もしなにか緊急のことがありましたら3回ベルを鳴らしてください。私は扉の前で控えておりますので」
どうやら入らないという選択肢はないらしい。
震える足で部屋に入ると、背後で重い扉が閉まる音がした。
念のため扉を押してみるが、私の力ではびくともしない。
というかお告げが聞けるまで、私、ここに軟禁なのでは…。
思わず背中に冷たい汗が流れるが、しょうがない。
雨が降らなくて困っている人達もなんとかしたいし、ダメもとで頑張ってはみよう。
~・~・~・~・~
部屋を見回すと、10畳ほどのスペースは薄い青の光に充ち溢れていた。
どうやら天井に水色のステンドグラスが嵌め込まれているようで、なにか細工もしてあるのだろう。
ステンドグラス越しの割には眩しいくらいに明るかった。
部屋の中央まで歩みを進めると、床になにか模様のようなものが描かれていた。
太陽や月、星といった絵と、全く読めない文字のようなものが書かれていて、本で見たことのある魔方陣といった感じだ。
どうやったらお告げとやらが聞けるか全くわからなので、とりあえず魔方陣の、真ん中に正座をし、手を合わせて祈ってみる。
この世界で通じるかはわからないが、前世の祭事とほぼ同じスタイルだ。
この姿勢のまま、呪文―なんてものは知らないので、とにかく脳内で一生懸命話しかけてみる。
(精霊さん、私なんかのところにいらっしゃりたくはないかもしれませんが、1度だけでもいいのでお願いします。この国の人達が雨が降らなくて困っているんだそうです。どうか、雨を降らせてあげてください。あるいはいつ頃降るのかだけでも教えてください…!)
目をギュっと瞑り、合わせた手に力を込めて何度も同じことを、頭の中で語りかける。
すると、急に体の力が抜け、ふわりと浮き上がるような感覚に陥り、目の前が光に包まれた。頭の中でクスクスと子どものような笑い声が聞こえる。
(座り方、変なの~)
(あの、もしかして、貴方が精霊さん…?)
(そうだよ~なんでそんな変な座り方なの?足、痛くないの?)
(座り方は大丈夫なんですが…そんなことより、教えていただきたいことがあるんです!)
(雨のこと?)
(そうです!この国の方が雨が降らずに困っているそうなんです。なんとか雨を降らせることはできないでしょうか!?)
(うーん、雨を降らすのは出来ないけど~いつ降るかはわかるよ~)
(本当ですか!?いつ降るんですか!?)
(フェリスティア、おもしろそうだから、また僕とお話してくれる~?)
(もちろんです!私でよければいつでも!)
(じゃあ、特別!教えてあげる~!新月の夜が明けたら雨、降るよ~)
(新月の夜が明けたら…)
(また今度遊んでね~約束だよ~)
「あっ!ちょっと精霊さん!」
思わず声をあげ、目をパッと開いたときには、もうなにも聞こえず、先程と同じ部屋が広がっていた。
天井を見上げると、相変わらず明るいが、日が落ちてきているのだろうか、少し暗くなっている気がする。
「新月の夜が明けたら…ね」
私は一人で、呟くと心の中で精霊にお礼を言って、扉の前に置かれたベルを2回鳴らした。
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