悪役令嬢の手記2
今日から2話、番外編です
夏期休暇に入って今日でちょうど1ヵ月。
今日の出来事を綴り、日記を閉じる。
私は今日、新しい人生の1歩を踏み出すことができた。
フェリスティア様とのお茶会で自分自身に誓ったことを、ついに周囲にも認めてもらうことができたのだ。
~・~・~・~・~
「え?手合わせがしたい?」
その日は珍しく、バランタイン家全員が揃って朝食の席についていた。
王太子付の騎士である自分もそうだが、国王陛下付の近衛兵である長兄や、騎士団長である父は忙しく、母や妹と合わせて全員が同じ日に休めることはそうそうない。
その朝食の後、珍しく妹のロザリアに長兄共々話しかけられたのだ。
「はい、リューク兄様のお暇がある時で構いませんので」
「お~リュークとローザが手合わせなんて子どもの頃ぶりじゃないか、面白そうだ。俺が立会人してやるよ」
リード兄は完全に面白がっているが、ローザの目は真剣だ。
よく見ると、いつもの冷めた瞳の中に闘志が宿っている。
確かに小さい頃は2人して手合わせ、というかチャンバラをしょっちゅうやっていた。
騎士貴族であるバランタイン家の子どもは男女問わず、みんな幼少期には剣の修業をするからその延長だ。
といっても、年の差も体格差もあるので、大体は俺の圧勝。
負けず嫌いのローザはしょっちゅう母上のところに駆け込んで悔し涙を流していた。
でもそれも子どもの頃の話。
ローザはとうに剣の修業はやめ、淑女教育に精を出していたはずだし、俺はチャンバラではなく、本格的に騎士となるべく修業に励んでいた。
それがなぜ、今さら手合わせを?
「もし私が勝てたら、リューク兄様にお願いがあります」
その発言にカチンとくる。
「俺に勝つ気でいるわけ?」
「私は勝てる見込みのない勝負を挑むほど、愚かではありません」
ローザの啖呵にリード兄は腹を抱えて笑っている。
「リューク、ここまで言われて勝負しないのは騎士の恥だぜ?」
こうなれば女だ妹だは関係ない。
王室騎士の実力を見せてやる。
~・~・~・~・~
勝負は屋敷の鍛練の間で行われた。
さすがにお互いケガをするわけにはいかないので、防具を身に付け練習用の木刀で戦う。
致命傷になる一刀を与えた方が勝ちの1本勝負だ。
審判として長兄のリード兄様が立ち会ってくれる。
防具を身に付け、剣を携えリューク兄様の前に立つ。
やはり、子どもの頃の戯れで手合わせをしていた頃とは全く違う迫力だ。
そして、私なんかに手合わせを申し込まれたことを怒っている。
その様子だけは子どもの頃のままだ。
たしかに普通に考えれば、私なんかに勝機はない。
でも今回はフェリスティア様との約束のため、そして私の新しい目標を通すためにも、絶対に負けるわけにはいかないのだ。
「2人とも準備はいいか?そろそろ始めるぞ」
リード兄様の掛け声でお互い剣を構える。
私は静かに息を吐いた。
「始め!!」
~・~・~・~・~
驚いた。
まぁでも多分一番驚いているのは、一刀を避けるため、そこで尻もちをついているリュークだろう。
目にも止まらぬ速さの突き。
その突きは正確にリュークの喉元を捉えていた。
妹に挑発されて、平常心を乱された故の隙はあったかもしれない。
だが、リュークも手を抜いたわけではないはずだ。
騎士団の中でも、あれだけの剣速の突きが出来る者はそうそういない。
昔、子どもの頃の練習風景を見て、父上が「ローザが男だったら」とため息をついていたのを思い出す。
兄妹の中で一番剣の才能があったのはローザだったが、まさかここまでとは。
ローザがじっとこちらを見ている。
そうだ、俺は審判だった。
「ローザの1本!」
子どもの頃のように勝った負けたで、はしゃぐような真似をしない。
ローザは床に座り込んだまま、今だに信じられないという顔で固まっているリュークに手を貸した。
その姿はまさしくバランタイン家の目指す騎士道そのものだ。
兄妹の中で、一番勝ちにこだわるリュークも、ここまで見事な剣技を見て、結果に二言を呈することはできないだろう。
「リューク兄様、約束です。私の願いを聞いてくださいませ」
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