いざ、王城へ
王太子様にエスコートされて乗った馬車はまさに豪華絢爛、壁面は金で装飾が施され、中には深紅の絨毯が敷かれ、同じ色の上等なベルベットのソファが設えられていた。
ソファには肌触りのいい柔らかなベージュのクッションがいくつも置かれ、一つ一つに金糸で紋章のような模様が刺繍されている。
馬車自体も、もっと揺れるものかと思ったが乗り心地も想像以上に良いものだった。
「先程の話の続きですが」
あまりに浮世離れした車内にキョロキョロしている私に、苦笑ししながらクロフォード様が話しかけた。
「この国のこともご記憶にないかと思いますので、簡単に説明いたしますね。ここは、グリンフィールド王国、先程も説明したとおり、この国では精霊がいると信じられていて、他国からは、“精霊に祝福された国”とも呼ばれています」
「精霊に祝福された国…」
「そうです。精霊のご加護のお陰で恵まれた気候と豊かな大地が広がっていて、それを利用した農作物の生産や鉱石の産出、それらの輸出が主な産業となっています。しかし今、困ったことに農業にかかせない雨が降らなくなってしまったのです…」
「雨がですか?どれぐらい降っていないんですか?」
「最後に降ったのが3ヵ月前です」
「3ヵ月も降っていないんですか?国の皆さんは大丈夫なんですか!?」
あまりに勢い勇んで言ってしまったからであろうか、王太子様は少し呆気にとられたような顔でこっちを見ていた。
失礼だったかもしれない、と謝ったが、気にしないでください、と話を続ける。
「飲み水は大丈夫です。しかし、飲料水が優先のため、農業用の水源が足りないのです。このままだと食料不足に陥る可能性もありますし、この国の多くは農民ですので、生活も立ちゆかなくなってしまいます」
クロフォード様は苦しそうにうつむき、少し自嘲気味に言った。
「本当は私達、王族がなんとかしたいのですが、自然のことですから、なんとすることも出来ません。せめていつ雨が降るか、さえわかればと思ったのですが、運悪く、お祖母様が巫女としての力を少しずつ失うタイミングと重なってしまい、完全に打つ手がなくなってしまいました」
「それで最後のお告げに従って、私を探していらったしゃったのですね。では、私の最初の仕事は、雨が降る日を精霊から聞くということでしょうか?」
「そうです。ただ、私自身はお告げを聞いたことがないので、詳しくはわかりませんが、精霊は気まぐれなので、こちらが知りたいことを教えてくれるかはわからない、と祖母は言っていました」
お告げというのも、そう都合のいいものではないらしい。
多くの人が困っているのであれば、なんとか助けてあげたいと思うが、精霊の気まぐれなら私ではなんとも出来ないかもしれない。
というより、王太子様は、私が巫女で違いないと仰ってくれているが、果たして本当に私なんかに精霊と話すなんてことが出来るのだろうか…
王太子様が目の前に座っているのも忘れて、いつの間にか、ぐるぐると脳内トリップしてしまった。
慌ててクロフォード様を見ると、なぜか優しい顔でこっちを見ている。
「とりあえず悩むのは後にしましょう。城に着きましたよ」
馬車が止まり、御者を勤めていたリューク様が扉を開け、降りる私に手を貸してくださる。
お礼を言い、正面を見上げるとそこにあったのは、前世では見たこともない、おとぎ話で見るような白亜のお城だった。
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