神託の巫女
「では、クロフォード様は先代の神託の巫女様の最後のお告げに従って、あの湖まで私を探しにいらっしゃったということですね」
思わずプロポーズか!?と勘違いするようなセリフに赤面してしまったが、初対面のどこの誰とも知らない女性に突然求婚するわけもない。
一体どうなっているのかと戸惑っていると、クロフォード殿下(王子様のような、ではなく本物の王子様だった)は、すみません、言葉足らずでした、と説明をしてくれた。
どうやらこの国では、代々“神託の巫女”と呼ばれる、天色―空と同じ色の髪と瞳をもつ女性が存在するらしい。
神託の巫女は、この国に存在すると言い伝えられている“精霊”と呼ばれる存在と言葉を交わすことができ、精霊から聞いた未来に関する事柄を神託として、国の政治に役立てているそうだ。
特に自然に関する予測については、精霊からもたらされる事が多く、そのお陰でこの国には平和と豊かさを維持しているのだという。
先代の神託の巫女が少しずつ、神託を受ける力を失っていき、新しい巫女の名前と居場所を聞いたのを最後に力を失ったらしい。
その最後のお告げに従い、王子様自らが探しに出向いたということだそうだ。
「そのとおりです。お告げは『フェリスティアという名の17才の女性が湖のほとりにいる』というものでした。国中の湖を探してようやく貴女を見つけることができたんです。無事で本当によかった。神託の巫女は、特別な神職として国で保護されます。そのためにお迎えに来ました」
「…あの、その、神託の巫女は本当に私なんでしょうか?」
「と言いますと?」
「私、お告げなんて聞いたことないですし、実は…目が覚めたらこの湖にいて、記憶がないんです…」
実際には、前世の記憶はあるのだが、不審者扱いされても困るし、なにより、どう説明したらいいものかわからない。
微妙に嘘をついているようになるのは心苦しいが、記憶がない、ということで一旦通すことにする。
そして、果たして本当に私が神託の巫女という存在なのだろうか?
お城にまで招かれて、本当は違いました!なんてことになったら、今、むこうで縄を掛けられている野盗のように、犯罪者扱いされるんじゃないかしら。
しかしそれに対して、そんなことか、とでも言うように王太子様は微笑んで仰った。
「大丈夫です。さっきお話ししたとおり、天色の髪と瞳を持っている貴女こそが神託の巫女ですよ。この色を持っている人間は同じタイミングで王国内に2人といたことはありません」
「そうなんですか…」
「えぇ、それより記憶がない、というとご家族やお家についてもわからない、ということですか?」
「はい…申し訳ございません…」
「いえ、謝るようなことではありません。私でなにか力になれることがあればいいのですが…城に帰ったら少し調べてみましょう。あぁ、もしかしたら祖母が力になれるかもしれません」
「おばあさま、ですか?」
「先代の神託の巫女は、殿下のお祖母様、上皇后なんですよ」
リューク、と呼ばれた騎士が野盗達を引っ立てながら、教えてくれた。
「さて、クロフォード殿下、フェリスティア様、馬車のご用意が出来ましたので、城の方に参りましょう」
そう言われてリューク様の視線の先を見て、思わず目を丸くした。
いつの間にやって来たのだろうか。
そこには、今まで見たこともないくらい豪華絢爛な馬車が私達を迎えに停められていた。
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