学生の日常と貴族の日常
閑話休題、フェリスティアと精霊、ミリーとの普段の生活です
「ダンス楽しそうね~~!」
「うーん、もう少しダンスの腕前があがれば、楽しめるかもしれませんね」
先程、部屋の窓辺に精霊さんがやって来たので、昨日のきらびやかなダンスパーティーの話をしてみたところ、興味津々で思いがけず話が弾んでしまった。
いけないいけない。集中しなくては。
「フェリスティア、それ、なんのご本?」
ダンスと同じく興味津々!という感じだったので、無言で本を掲げて見せる。
「う~ん?むずかしいご本?」
「“薬学”の教科書です」
この学院ではいくつか必修科目に加えて、自由に履修できる選択科目がある。
私も科目の一覧を元に、いくつか履修している。
自分で決めたというよりも、アメリア達が『こちらはお嬢様がとるべきです』、『あれは将来、役に立つ内容です』と言ってほぼ決めてもらったも同然だが。
しかし、いくつか自分で選んだものもあって、その1つがこの薬学の授業だ。
“薬草”、こっちの世界の漢方やハーブのようなものについて学べるのかしら、面白いかも!と軽い気持ちで履修したのが運の尽きだった。
この世界の薬草は元いた世界の薬草をはるかに上回る効果をもっていて、それはもはや魔法のレベル。
体力を回復させたり、安眠をもたらすものなんていう、前世でもよく聞く効能のものはもちろんのこと、足を速くしたり、色を変えたり、幻覚・幻聴を引き起こすなんていう効果を持つものまである。
この国では、これらの効能のある薬草を組み合わせて薬や日用品を作ったりしている。
こういった薬草は悪用されないよう、扱うには国家資格が必要で、これらの専門家達は“薬官”と呼ばれ、憧れの職業となっている。
貴族達の中にも(特に兄弟の多い家の次男三男のご子息)、この薬官になり、お家の更なる隆盛や新規事業の足掛かりにしようという方がいらっしゃるということで、この学院にも薬学の講義がある。
しかし、受講する方はごくわずか。
理由は明白。
授業内容が全カリキュラムの中でもトップクラスに難しいのだ。
受講するのは、本気で薬官を目指す勉強熱心な方だけで、私みたいに興味本意で受講する者など皆無だ。
その証拠に今年の受講者は全部で5名しかいない。
しかもあとで知ったのだが、薬官の勤め先の多くはアーリア家の管理する教会に付随する診療所で、薬官達の管理監督はアーリア家の管轄なのだ。
お夕食の席で学院の講義の話になった際、私が薬学の講義を取っていると知ったルーベン様から聞いた話だ。
そして、その時、ルーベン様が「貴女がアーリア家の事業に興味をもってくださってうれしいです」と仰ってくださったのだ。
この授業、絶対に落とすわけにはいかない。
なんならできる限り良い点を取らねばならない。
そういうわけで、自由になる時間のほとんどをこうして薬学の勉強に割いているのだ。
~・~・~・~・~
「あっ!これ!ぼく、知ってるよ~」
そう言って精霊さんが指差したのは、教科書の中のある薬草の挿絵だった。
「これ、ぼくのともだちが水あげる仕事してるの~変な匂いするよね。あっ、こっちのも知ってる!」
そう言って、精霊さんは楽しそうにパラパラと教科書のページをめくっていく。
…ん?友達?精霊さんって精霊さん1人じゃないの?
「あっあの!精霊さん!ちょっとお伺いした…」
「あれ!時間みたい~!ぼく、いくね~」
そう言って精霊さんは光の中に消えていった。
と、同時に部屋の扉がノックされる。
「フェリスティア様、失礼致します、ミリーでございます。仕立て屋が参りました」
~・~・~・~・~
「ミリー、やっぱり新しいドレスなんて作らなくていいんじゃないかしら?まだクローゼットの中にも着ていないドレスがたくさんあるんだし…」
「いけませんフェリスティア様!次の社交の場は王室主催のパーティーなんです!国のすべての貴族が集まるんですから、アーリア家の威信にかけて、他の方々に負けないよう、フェリスティア様の魅力をさらに引き立てるドレスで臨まなくてはなりません!」
私の魅力とはなんなのか、そして一体なにに負けないようにするのか。
ミリーの迫力と、サイズの採寸をしながら、うんうん、と力強く頷いている仕立て屋さん相手に、私は抵抗することを早々に諦めた。
雨期が空けるとこの間、貴族達の各領地でなにか問題が起こらなかったか、雨量に問題がなかったかなどを報告しあう定例の議会が開かれる。
議会で問題がなかったことを確認した後、神託の巫女が精霊に無事、雨期が終わったことの報告と今年の豊作への加護をお願いし、王国の雨期に関する行事がすべて終了となる。
その後、国中の貴族達が参加する国王陛下主催のパーティーが開催されるのだ。
貴族って本当にパーティー好きなのね、これ、税金の無駄遣いではないのかしら?とも思ったが、各地の貴族が一族や御付きの者達を連れて、王都の宿泊施設に泊まったり、食事や観光、買い物をすることで経済が回るため、意外にも国民からも概ね好評な行事なのだ、とアメリアが言っていた。
「フェリスティア様の清楚さを引き立たせるために、今回のドレスは淡い色合いの水色でいかがでしょう」
「お嬢様のお美しい髪や瞳の色とも合っていていいかもしれませんね」
「今年はドレスのあちらこちらに、花をあしらったりデザインに花を取り入れるのが流行しておりますね」
「そうすると、こちらのデザイン画のスカート部分に小花をあしらったものはいいですね」
「よろしければ、同じ小花のデザインで揃いの髪飾りをつくることも出来ますが」
「ではそれもお願いします」
採寸が終わり、紅茶をすする私をよそに、ミリーと仕立て屋さんとでどんどん打ち合わせが進み、恐ろしい速さで高級なドレスが購入されていく。
もはや完全に私は蚊帳の外だ。
私を着飾ることについて、ミリーは並々ならぬ情熱を燃やしている。
他のお仕事だっていつも完璧で感謝しているのだが、ドレス選びや身だしなみを整えるといった仕事は特に力が入っている。
着飾ることも仕事の1つである貴族であるのにも関わらず、服やメイクの流行に疎く、あまり興味のない私にはありがたいパートナーだ。
いつかミリーにこの気持ちがお返しできるといいのだが。
「ミリーさん、これを機に夏の社交の間のドレスや宝飾品と、夏の外出着なども数点作っておきましょう」
「えぇそうですね!一緒に靴もお願いします」
ミリー、ありがたいんだけど、お手柔らかにね。
本人不在のまま、お嬢様夏のファッション会議は夕方近くまで続いたのだった。
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本日はもう1話投稿予定です




