知らない世界へ転生
一体ここは、どこなのか…。
気がつくと私は、古びたワンピース姿で湖の畔にしゃがみこんでいた。
私は井戸に身を投げて…死んだんじゃ…。
「アニキ!こんなところに女が1人でいますぜ!!」
脳内整理に大忙しで全く気がつかなかった。
後ろの茂みから、野盗?と思われる大柄の男が2人、ニヤニヤしながらこちらに近づいてくる。
「へぇー、なかなか顔もいいし上玉じゃねぇか。しかも、この髪と目の色、伝説の巫女さんと同じだぜ。隣国の見世物小屋にでも売り飛ばせば結構な金になる」
髪と目の色?伝説の巫女?
まずい状況に焦りながらも、ちらりと湖面を見て息を飲んだ。
両方とも黒だったはずの目と髪が、空のような水色に変わっている。あまりの変貌ぶりに、思わず目を見開いて固まってしまう。
「さて、お嬢さん、俺達と一緒にお越しいただいてもいいですかね?見世物小屋の飯はなかなか悪くないって言いますぜ?」
固まっている場合じゃなかった!
振り返ると2人がニタニタ笑いながらこっちに近づいてくる。
どうにか助けを呼びたいが、周りに人がいるようには見えないし、なにより声がでない。
なんとか距離をとろうと、震える足で湖の際までたどり着くがもう後がない。
「抵抗しない方が身のためだぞ」
下卑た笑いに思わず目を背けて口唇を噛んだ。なにがなんだかわからないうちにこんなことになるなんて。
「そこまでだ。その女性に指1本でも触れることは許さない」
凛とした声が耳に響いた。
はっ、として顔をあげると、アニキと呼ばれいた野盗の親分の後ろから耳の辺りに、鋭く光る切先が突きつけられていた。
彼らの背後に、騎士服姿に仮面をつけた長身の男性がスラリと立っている。
「誰だ!お前!!こいつは俺たちが先に見つけた獲物だ!!横取りは許さねぇぞ!!」
突然のことに一瞬怯んだ野盗達だったが、腰から短剣を抜き、振り返る。
「テメェからふっかけてきた喧嘩なんだ、2対1が卑怯なんてことは言いっこなしだぜ!!」
剣を突きつけてきた相手が1人とわかると、優勢を確信した野盗達は剣を構えて斬りかかった。
危ない!そう思って思わず目をつむってしまったが、なんの痛々しい声も聞こえてこない。
怖いながらもゆっくり目を開けると、そこには短剣を弾き飛ばされ、尻もちをついた野盗が転がっていた。
「もう一度言う。その女性に触れることは許さない」
野盗達はその男の実力に、腰を抜かしたのかその場にへたりこんだままだった。
「お怪我はありませんか?」
先程とはうって変わって優しい声で尋ねてくださる仮面の男性に、私は声も出せずコクコクと勢いよくうなずいてなんとか無事を伝えた。
その人は私の前までゆっくりと歩み寄ると、足を折って屈み、片手でゆっくりと仮面をとる。
仮面に隠されていたのは、柔らかなブラウンの髪と同じ色の瞳、驚くほど整った顔立ち―俗っぽく言ってしまえばとんでもない“イケメン”さんだった。
声と同じく優しい瞳と目が合う。
「フェリスティア嬢、ずっと貴女を探していました。どうか私と一緒にお越しいただけませんか?」
最後までお読みいただきありがとうございました。
明日の夜、次話投稿予定です!