精霊の御機嫌と初めての授業
「えっ会えなくなると思って、怒ってらっしゃったのですか!?」
「だって学校って忙しいんでしょ?フェリスティア、ぼくと遊んでくれなくなっちゃう」
ルーベン様との夕食の翌日、朝の登院を部屋で待つ間、今日も精霊さんはやって来たので、思いきって「ご機嫌を損ねてしまいましたか?」と尋ねてみたのだ。
「ぼく、フェリスティアが1人でいる時しか遊べないもん。学校行ったらたくさん人いるでしょ?」
思わず口元が弛んでしまい、慌てて手で隠す。
―なんて…なんて可愛らしい理由!!
相手が精霊でなければ思わず抱きしめたい限りだ。
(もちろんそんな失礼なことはしない。)
「フェリスティア?」
「申し訳ございません。失礼致しました。ですが、学院の中でもいつもどなたかとご一緒というわけではないのですよ。そうですね…たとえば学院内に大きな図書館があるのですが、授業や用事がない時はそちらに1人でおります。館内に中庭があるそうなので、そちらで本を読んでおります」
「そうしたら、遊びにいっていいの??」
「もちろんでございます」
「やった~~~!!!」
精霊さんが喜び叫んだ瞬間、大きな金色の光が弾けて、思わず目をつむってしまう。
恐る恐る目を開けてみるとそこには、天色の髪にクリクリとした天色の瞳の、かわいらしい男の子が飛び回っていた。
「精霊さん!お姿が!!」
「やっと見えた?フェリスティアの力が強くなって、ぼくと仲良くなれたら見えるんだよ!」
そう言いながら精霊さんは、透き通る銀色の羽で私の回りを飛び回っている。
その姿はおとぎ話の妖精に近い感じだ。
「フェリスティア!ぜったい遊びにいくからね~」
そういい残して精霊さんは姿を消した。
「お嬢様、馬車の用意が整いました」
それと同時にミリーが登院の準備ができたことを伝えに部屋へと入ってきたのだった。
~・~・~・~・~
今日からいよいよ本格的な授業が始まる。
この学院はカリキュラムのほとんどを自分で決めることになっている。
私はアメリアのアドバイスも参考に、歴史や薬学などの座学の授業とお茶会やマナー、刺繍といった実習の授業を受講することにした。
(ダンスの授業もぜひおとりになるべきです、と言われていたがそこだけは頑なに断った。)
今日は初めてのお茶会の授業だ。
アメリアによると、普通、ご令嬢達はお茶会のマナーや作法などはすでに各家庭で身につけており、この授業はいわゆる“単位とり”や、交友を広げる場として使われているらしい。
つまり、完全なる初心者は私だけなのだ。
アメリアからスパルタ指導を受けたとは言え、気を引き締めていかなければ。
先生からお茶会の流れやマナー、注意点について簡単に説明を受けると、早速3人一組で円卓につき、実習スタートだ。
「はじめまして、フェリスティア様」
割り当てられた席にカチンコチンになって座っていると、同じグループのお2人のご令嬢がやって来た。
「はっはっはじめましめ!フェリスティア・アーリアと申しますっ!!本日はよい日和でございますめ!」
…最悪だ。噛んだ。
目の前のご令嬢方も必死で堪えてくださっているが、クスクスという笑いがこぼれてしまっている。
完全に第一印象で失敗した…。
「笑ってしまって失礼致しました、フェリスティア様。そんなに固くならいで大丈夫ですよ。学友同士なんですから」
「自己紹介がまだでしたわね。私、コーネリア・ハーバーと申します」
「イリス・プリングルと申しますわ。フェリスティア様とご一緒できるなんて大変光栄ですわ」
2人も席についたところで、甘い香りのアップルティーが運ばれてくる。
それぞれ侍女に目の前のお菓子や軽食からいくつかを皿に盛ってもらい、早速お茶会がスタートした。
「こちらこそ、皆さんとご一緒できてとてもうれしいですわ。…あの、どうして皆さん、私の名前を…?」
「それはもちろん!フェリスティア様が今、社交界で最も注目される有名人だからですわ!」
イリス様が熱を込めて(席から立ち上がらんばかりなので、教師にに睨まれている)語り始めた。
「だって新しい神託の巫女様ですもの!突然、湖畔に現れてそれをクロフォード王太子様が馬車でお迎えにあがる…なんて素敵なお話なんでしょう!まるでおとぎ話のようですわ!しかもこうして同じ学舎で過ごし、あまつお茶会までご一緒できるなんて!自分まで物語に入り込んだようです!」
興奮気味にしゃべりまくるイリス様をなだめるように、お茶を勧め、コーネリア様があとをつないだ。
「神託の巫女のお目見えの際はぜひ一目見に行きたいと、2人そろってそれぞれのお父様にお願いしたのですが、人が多いのでダメだと言われ、お互い悔しがっていたのです。フェリスティア様がこの学院に編入なさるという噂を聞いて、ぜひお話したいと2人で話しておりましたの」
「私も!こうしてお2人とお茶をできる機会が得られて本当にうれしいです!」
「フェリスティア様、ぜひこれから仲良くさせてくださいませね?」
「はい!!こちらこそぜひよろしくお願い致します!!」
ぜひ仲良くしてください…前世で1回も聞いたことのない言葉に思わず、口元が弛みそうになる。
先生の合図でこのお茶会はお開きとなってしまったが、最後まで初心者の私なんかに合わせてくださる終始お優しい2人だった。
ご縁があれば、ぜひお友達になってほしい―そう思わずにはいられなかった。
~・~・~・~・~
「イリス様~!コーネリア様~!ごきげんよう!」
2人そろってお茶会用の教室をあとにしたところ、後ろから声をかけられる。
「あら、ごきげんよう。次の授業へのご移動ですか?」
「えぇ、ところでお茶会の授業、いかがでしたか?」
「運良く憧れのフェリスティア様とご一緒出来て、とても楽しい時間でしたわ」
「…フェリスティア様、いかがでした?」
「お優しい雰囲気で噂どおり、とても素敵な方でしたわ!ね?コーネリア様?」
「えぇ巫女様ですから厳格な方だったらどうしようと思っていたのですが、話しやすくてかわいらしい方でした」
「…そう…、ぜひ私も今度お話してみたいわ。教えていただいてありがとう♪ごきげんよう!」
「ごきげんよう」
別れた後で、彼女が次の授業への移動中だと言っていたのに来た道を引き返していったことにコーネリアは気がついたが、気にすることではないか、と再びイリスとの雑談に花を咲かせ始めた。
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