ち、痴女じゃないし!!
TSはロマン(挨拶)
うーむ、先の展開に悩むなぁ
あの後。
へにゃへにゃになった茜ちゃんを何とか再起動させた後、とりあえず帰宅した。
始終無言の帰り道に戦々恐々としつつ、草加家に通され、俺の身はそのまま茜ちゃんの部屋へ。
八畳ほどの和室に、プリントや教科書の乗ったデスクとベッド。衣装箪笥……とまぁ、ここまでなら普通の学生だが、壁を埋め尽くす勢いで並ぶ漫画やラノベが収められた本棚や巨大なモニターとその近くで唸りを上げるゲーミングPCなど、女子中学生として「ん?」となるようなものが並んでいる。
そして押入れの向こうには、茜ちゃんが翠さんに隠れて入手したR18なPCゲーが存在していることを、俺は知っている。
……なんで知っているのかは、中学生の茜ちゃんがどうやってその手のゲームを手に入れたのか、とだけ言っておこう。
その部屋の中央で、俺は畳の上に正座をし、縮こまっていた。
目の前には、仁王立ちでこちらを見下ろす、茜ちゃん。漆黒の瞳がきろり、と俺を鋭く見下ろす。
十四歳の女の子に睨まれて正座をする十九歳男性(TS済み)……うん、やめよう。それ以上考えたら俺の心が悲しいことになってしまう。
サラサラの黒髪とお人形さんみたいな綺麗系の顔立ちに、呆れと困惑とジト目の混ざった物凄く何かを言いたげな表情を浮かべ、薄い胸の下で腕を組んでいる。
あっ、この姿だと俺って茜ちゃんよりも胸があるのな……って、なんかジト目が!? ジト目がさらにジトってもはや事怒って感じになっちゃってる!?
「……総ちゃん? 何か変なこと考えなかった?」
「イエ、ナニモカンガエテナイデスヨ?」
しれっとそう言って、さっと顔を逸らす。ついでに口笛も吹いてみる? なんかこれも器用判定に入るのか、やけに上手く吹けそうだな。
ぴ~ひゅるぴ~♪ と口笛を吹き、私は無いもしていませんことよ? と無実をアピールしてみるが……うん、あの、その馬鹿を見るような目は止めて頂けると? なんというか、その……心が痛いです。
「口笛でアニソンメドレーして誤魔化さないで……何があったのか説明してくれる?」
「はい……というか、茜ちゃんは覚えてるんだ? その……俺が男だったって?」
茜ちゃんはこくり、と頷きを返してきた。
う~ん、どういうことだろうか? 翠さんは女の姿の俺を『桐生総司』だと認識していた。
そして、茜ちゃんは女の俺を俺と認識しつつも、俺が男であることを覚えていたらしい。
この違いは何なのか? ……年齢? とかいうと、翠さんにドチャクソ怒られるのでこの思考は即座にトラッシュだ。うん、物凄く若く……てか、幼く見えるし茜ちゃんと並ぶとよく姉妹に間違われる(茜ちゃんが姉扱い)な翠さんだけど、やはり年頃の女性ということか、その手の話には物凄い反応を見せる。
あらあらうふふと優雅に微笑みながら、目が笑っていない笑顔……うん、思い出しただけで恐ろしい。
そんなことを考えていると、茜ちゃんが何やら言いにくそうな、もごもごと口ごもりながら、控えめに口を開いた。
「それで……その、どうして総ちゃんは、そんな超絶美少女な痴女さんになっちゃったの?」
「ち、痴女じゃないしっ!!」
「いやいや」
顔を赤くして叫んだ俺に、茜ちゃんは「またまた御冗談を」とでも言いたげに手をパタパタすると、呆れ千パーセントの視線を向けてくる。うぅ、ジト目が痛いよぉ……。
「外でズボン脱いじゃう人を痴女と言わずになんて言えばいいの?」
「うぐっ、そ、それは……」
茜ちゃんの一言で、何も言えなくなってしまう。情けなく縮こまり、そっぽを向く。
だ、だって仕方なかったんだぞ……? あの状況では、ああするしかなかったんだし……というか、俺にはそれしか思いつかなかったんだよっ。
俺みたいな生まれてこの方喧嘩もしたことないようなひょろひょろモヤシオタが、いかにも人を殴り慣れてそうな男どもを鎧袖一触に出来たのは、俺に隠された力が眠っていたわけでも、実は一家相伝の暗殺拳の使い手なわけでも、俺の正体が凄腕のヒットマンなわけでもなく。
もちろんのこと、謎アプリこと【STATUS】のおかげだ。
やったことは単純。戦闘に使えそうな《鞭術》と《絶巧棄利》のスキルをアクティベートしただけ。
鞭――要するに武器の扱いに習熟するスキルと、それを扱うのに必要なステータスを100も上げるスキル。
一気に十倍以上になった器用ステータスは、俺の見る世界を一瞬で変貌させた。
出来ないことが一瞬で出来るようになる感覚。自分という存在が一新されたようなと言えばいいのか、妙な全能感のようなモノまでが全身を駆け巡った。
器用――それは、小手先の技術を表すステータスではない。
どれだけ自分自身を器用に扱えるか。それを表していたのだ。
手先の器用さはその一旦に過ぎず、体操作や道具の扱い、技術的なモノ全てにそれは普及する。
今まで何の意識もしていなかった体の動き。呼吸や視線といった些細な行動にも、無数の意味が込められているのだと、そんなことを漠然と理解した。
これが、ステータス三桁。そして、俺はそれをまだ持て余している――そんなことを理解できる程度に、俺は強くなった。
【STATUS】のおかげで! うん、自分の力ではどうしようもなかった辺り、俺が俺である所以だよなぁ。情けなくて涙が出るぜ。
その力を使ってナンパシーラカンス共を颯爽と一蹴……と、できていれば良かったのだけど。
ステータス上がって武器も使えるようになった! うん、でも武器は何処に?
……そう、鞭なんて持ち歩いているわけがなかったのである。というか、現代人が日常的に鞭を持ち歩いているワケないんだけどね? もし持ち歩いている人がいたら確実にヤバい奴か、そういう職業についていらっしゃる人だろう。
なので、鞭の代わりになるモノが必要だったのである。
紐状の物……紐状の物……と考えたときに、俺の頭に天啓が舞い降りたのである。
そう――鞭がないなら、ズボンを代わりに使えばいいじゃない。
そんなマリーさんが頭の中にご降臨なされたのだ。
ズボン、片方の裾を握れば、二メートルくらいの帯みたいになるじゃん? これを鞭の代わりにすればいいんじゃね? ……そう、考えたわけでして。
……ちゃうねん。焦ってたねん。
茜ちゃんがピンチっぽかったし? 大の男が三人もいたし? 時間もないぽかったし?
だからまぁ……うん、その時は、それが滅茶苦茶いい考えに思えたんだ。
今考えると、莫迦なことしたなぁと頭を抱えたくなるが。うぐぐ……外でズボンを脱ぐなんてぇ……!!
いやまぁ、Tシャツが大きめだったおかげで、下着とかは見られてないし、見られたところで男物だから気にしなくてもいいと言えばいいんだけどね?
それでも、痴女呼びは心に来るんだよ? 中学生の女の子に呆れたように言われるってすっごく悲しい気分になるわ。
「……くすっ」
俺がしょぼくれていると、ふと頭上から小さく笑う声が聞こえてきた。
慌てて視線を上げると、茜ちゃんが口元に手を当ててくすくすと微笑んでいた。
俺の視線に気づくと同時に、しゃがんで視線を合わせてくる。
手の届きそうな距離で、茜ちゃんの幼い美貌に、悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
「嘘。冗談。……助けてくれてありがとう、総ちゃん」
「……もしかして、からかった?」
「ふふっ」
問いかけるも、茜ちゃんは笑みを崩さない。……うん、これは完全に揶揄われましたね。年下の女の子にいいようにされる十九歳男性……情けなさの極みかな?
「くっ……悔しいのぅ……悔しいのぅ……」
「くすくす、総ちゃん可愛い」
「褒められてる気がしないし、あんまり嬉しくない……いやまぁ、今の俺は美少女だけどさ……」
「それ、自分で言うんだ……」
いやだって、ステータスにもちゃんと書いてあるよ? 【美少女】って。
茜ちゃんと違って胸も大き……ああ、イエ、ナンデモナイデス。黙リマス。
読んでくれてありがとうございます!!
感想やら評価やらなんやら頂けて光栄です。めっちゃ嬉しい!!
☆を青色に染めてくれるとさらに喜んだりします。
さて、こっからどうするか……さっさとポスアポにするか、主人公強化とヒロインとの話を掘り下げるか……