side:草加茜 お隣さんが美少女になってる気がする件
TSはロマン(挨拶)
こうしんです。今回はヒロインちゃん視点
【side:草加茜】
……最悪だ。本当に、最悪。
否応なしに、表情が歪む。心の奥底から嫌悪感が溢れて、零れてしまいそう。
「ほら、行こうぜ? おにーさんたちといいことしようぜ?」
「その制服、近所のお嬢様学校のだろ? 良い子ちゃんのままじゃ味わえないようなこと、いっぱい教えてやるからさぁ」
「ちょっと帰るのが遅くなるかもだけど……まっ、今時の中学生なんてそんなもんだろ? 一緒に朝まで楽しもーぜ」
ニヤニヤニタニタと、品性の欠片もない気持ちの悪い笑顔を浮かべる三人の男。
ガラと頭と育ちの悪さが混ざって最悪な化学反応を起こしている最低なファッションに身を包み、盛った猿の方がまだマシに思えるような視線でわたしの身体を嘗め回すように見てくる。
……気持ち悪い。鳥肌が立って仕方がない。
今すぐにでも目の前から……いや、この世から消えてほしい。
それくらいの気持ちを込めて睨みつけるけど、目の前の愚図共は気持ち悪い笑みを返すのみ。
本当に、この世に存在していることが大罪なほど気持ち悪い。
けれど、腕を掴まれ、壁際に追い詰められているこの状況じゃ、非力な女子中学生なわたしには何もできない。身をよじっても拘束はびくともせず、ただ男たちの嗜虐心を満たすのみ。
……抵抗できない相手を甚振るこの状況を喜ぶなんて、人間として下劣もいいところだ。すぐに物言わぬ肉袋になればいい。
大声を出そうにも、ちょっと近道をしようとしていつも使わない道を通ったのが運の尽き。
人通りの少ない路地裏では、多少騒いだところで誰かが来ることはない。……助けは、来ない。
最低だ。不運……いや、凶運といってもいい。
今日は良い日だと、さっきまで喜んでいたのに、崖から転げ落ちるように不幸のどん底に叩きつけられた。
せっかくの午前授業の日で、面倒な学校から早く帰ることが出来たのに。
それに加えて、お母さんから『今日の夕飯は総司ちゃんも一緒よー』と連絡があった。
その短い一文に、胸が高鳴った。あまり動くことのない表情筋が、自然と笑みの形を作った。
久しぶりに、総ちゃんに会える! 何を話そう? いっぱいいっぱい、話したいことがあるの! ……そう、喜んだ。
訪れるであろう幸せな時間に心を弾ませ、似合わないスキップでもしたくなるような気分だったのに! 振ってわいた幸福に、思わず信じてもいないカミサマにお礼を言っちゃうくらい、嬉しかったのにっ!!
どうして、こんなことになってしまったのだろう。分からない。分かりたくもない。
「おいおい、なーに無視しちゃってんの? ていうか、なに? その目……調子乗ってる? ねぇ?」
何も言わないわたしに焦れたのか、腕を掴む男が顔を近づけて凄んでくる。
気持ち悪くて気色悪くて気味の悪い顔面がドアップに……最悪で最低で最凶だ。あと、息が臭いっ。
背中にぞわぞわと蟲が這いずり回っているかのような不快感。この不愉快で不潔な生命体に見られた場所の皮膚を全部剥いで新しいのに入れ替えてしまいたい。
こんなモノに見られて、可愛いだの綺麗だの言われてもただただ吐き気がするだけ。
わたしが見られたくて、見てほしいのは、こんな汚物以下の下等生物じゃなくて…………なのに。
ああ、イライラする。塵芥の愚図な行為に苛立ちが募りに募る――――だから。
「……しない。いかない。興味ない。やめてって言った。あと……離れて、息が臭いから」
「「「…………あ?」」」
口から、思っていたことが零れ落ちる。
まずい、と思う気持ちはあった。けれど、一度外れたタガは簡単には元に戻らない。
きっと今のわたしは、能面のような顔をしているのだろうと他人事のように考えながら、溢れる感情のままに言葉を紡いでいく。
「もしかして、今時少女漫画でも見かけないような古典的三下ムーブで、わたしがほいほいついていくとでも思った? 本気でそう思ってるのなら……残念だけど、前世からやり直した方がいい。あまりに頭が残念だから。……もしかして、生まれ変わる前はゾウリムシか何かだった? 脳味噌がないのをそのまま受け継いじゃったの? 可哀そう」
すらすらと、溜まり澱んだ鬱憤が言葉となって転び出る。
熱のない視線には自然と哀れみや蔑みの感情が乗り、三体の哀れな生き物を睥睨した。
「さっさと消えて。あと、その戯言以下妄言未満の人外語を垂れ流す口は一生縫い合わせておくことをお勧めする。周りの人を不快にさせるだけだし、何よりそれに使われる酸素が可哀そうだから。分かったのなら可及的速やかに視界から失せてくれる? ……ところで、わたしの言っていることを理解できるだけの知能くらいは、流石に持ち合わせてる……よね?」
最初はぽかーん、とアホ面を晒していた汚染物質の擬人化たちは、みるみるうちに怒りの形相を浮かべる。
「テメェ! 下手に出てりゃいい気になりやがって!!」
「生意気なガキが! 口の利き方ってもんを知らねぇのか!!」
「チッ、ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!! 大人の恐ろしさってもんを教えてやろうか!? ああ!?」
……少し、言い過ぎた? でも、我慢が出来なかったのだからしょうがない。
見られたくないのに見られて、聞きたくない声を聞かされて、触られたくないのに触られた。そんなことをされて、怒らない乙女がいると思っているのだろうか?
三対の怒りの視線に、真っ向から睨み返す。――――誰が屈してやるものか。バーカ。
「ッ! オラッ、いいから来いッ!!」
「ッ! やめてッ!」
掴まれた腕を引っ張られ、体勢が崩れそうになる。抵抗するが、筋力の差はどうしようもない。
引き摺られるようにして、無理やりに動かされる。こんな奴らに連れていかれる……そして、連れていかれた先で何をされるかなんて、考えなくても分かる。
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ! 絶対に、嫌!!
「離してッ!!」
「痛っ! ……この、クソガキがぁ!!」
感情のままに振るった腕は、男の肩をぶった。けれど、身体を少しよろめかせることしか出来なかった。……そして、怒りをさらに加速させただけ。ああもう、本当に最悪だ。
「いい加減にしろよテメェ! 痛い目見ねぇと……分かんねぇのかッ!!」
男が拳を振り上げる。怒りのままに振るわれるソレに、手加減や手心がある筈がない。
……痛いんだろうなぁ。そう思いつつ、目を瞑る。
「――――おい、お前ら」
――けど、いつまで経っても、想像していた痛みは来なくて。
代わりに――――声が、聞こえた。
この声は――総、ちゃん? あれ、でも――なんか違うような……?
恐る恐る目を開く。男たちは……何故か、声が聞こえてきた方向を見て、アホ面をさらに酷くして固まっていた。
目を見開き、何か信じられないようなものを見るように、あんぐりと口を開けている。
つられて、視線をそちらへ。そこにいたのは……………………え?
「男三人で中学生の女の子囲むとか、何やってんの?」
白銀が翻る。
黄金の輝きに、捉えられる。
天女のような、女神のような、人外の美貌が冷たい笑みを刻む。
「しかも無理やり連れ去ろうとして、抵抗されたら逆切れして暴力? ――――最低だな、恥を知れよ」
怒りで震えていても、脳を犯し蕩けさせるような甘い声。
野暮ったいジャージを羽織り、シンプルなTシャツに身を包んではいるが、そんなものでは一切隠せない――神の造形。人外の美。
特に、大きめのTシャツのから伸びる、真っ白な太ももとほっそりとしたおみ足など、女のわたしでもくらくらしそうだった。
信じられないくらいの美少女。薄暗い路地裏が一瞬のうちに最上級の舞台に変貌する。
演目は『女神の怒り』。主演は総ちゃんで――――まって、総ちゃん?
あの女の子が、総ちゃん? え、でも総ちゃんは男で……あれ? 女の子だったっけ?
「な、なんだテメェ!」
「その子の友達だよ。分かったならさっさと手を離せよ。痛がってるだろ?」
良く知った/初めて見た顔で、耳になじんだ/初めて聞いた声で、総ちゃん/見知らぬ少女は男たちを睨む。
その視線の鋭さと、絶対零度の冷たさに男たちが後ずさる。
同時に、わたしの腕を掴んでいた手が外れる。わたしは慌てて、総ちゃん……だと思われる少女の方へ駆け寄った。
その背中に……わたしよりも大きかったはずなのに、今はわたしと同じくらいの大きさの背中に隠れ、黒髪だったはずの白銀の髪を見つめる。
総ちゃんだ。この目の前にいる女の子は、総ちゃんのはずだ。
わたしの記憶も、直感も、この子が総ちゃんだと……わたしのお隣さんで、オタク友達で……。
でも、総ちゃんは男の人のはず。前々から女の子だった記憶があるけど……違う。わたしの一番深いところが、そうじゃないって叫んでいる。
「…………総、ちゃん?」
それは、確認だったと思う。
訳の分からない感覚に苛まれて、不安と安堵の入り混じる複雑な思いに駆られて、わたしはその名前を口にした。
「久しぶり、茜ちゃん。早速今季の覇権について語りたいところだけど……あの顔からして煩そうなのを、ちょっと黙らせてくるから、少しだけ待っててね?」
……あ。
くるり、と振り返り、何の気負いもなく笑ったその顔。
そこに浮かんでいた笑顔は……わたしが一番見たかった、総ちゃんのやさしい笑顔だった。
こくん、と頷きを返すと、総ちゃんは男どもの方へ、何やら持っていた黒い帯のようなモノをくるくると回しながら向かっていった。
「さぁて、大人しく引いてくれるなら通報で済ませてやるが……どうする?」
「「「ど、どっちにしろアウトじゃねぇか!! くそっ、こうなったら……やってやらぁ!! そのキレーな顔、ぐちゃぐちゃにしてやるぜぇ!!! うぉおおおおおおおお!!!!」」」
「ルパンダイブ!? 気持ちわるっ!? くっ、殺す……!!」
ビュンッ! ビシッ! バシッ!! ベシンッ!!!
「「「ぎゃぁあああああああああああああああああああ!!?」」」
黒い帯のようなものが高速で閃き、音速の痛打が男どもを一蹴。総ちゃんの周りに黒い軌跡が刻まれ、男の身体はアスファルトに叩きつけられる。
「「「うぅう……な、なにが……」」」
「悪いな、ちょいと実験台になってもらったよ。なるほど……スキルが手に入れば使ったことのないモノでも、ここまで扱えるのか……いや、ステータスの方か?」
スキル? ステータス? ……何の話だろう?
何が起きたのか分からずにぱちくりと目を瞬かせていると、くるり、とこちらを振り返った総ちゃんが、とてとてと近寄ってくる。そして、にこりと微笑んだ。……しょ、正面から見ると、破壊力がヤバい。あれ? 総ちゃんってこんなに可愛かったっけ??
至近距離からぶつけられた絶世の美。天壌の可憐さ。きめ細やかな肌の白さ、黄金の瞳の非現実さ。幻想的で神秘的で夢幻的な美しさが無限大で……ああもう!! 総ちゃんってこんなに顔が良かったっけ!!? 見慣れてるはずなのに初めて見るっていうわけわかんない感覚も相まって、頭の中は大混乱だった。
それはもはや兵器レベルで……あうう、かお、ちかいよぉ……。
「大丈夫だった、茜ちゃん……って、なんか物凄い顔赤い!? え、どうしたの!!?」
「ひゃうぅう!? にゃ、にゃんでも……にゃい……」
それ以上は……こころが……もたな……きゅぅうううう~~~~(バタン)。
「ちょっ!? 茜ちゃん!? 茜ちゃーーーーーんっ!!??」
読んでくれてありがとうございます!!
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