最終兵器美少女、俺
TSはロマン(挨拶)
こいつTS初日で楽しそうだな? やっぱり能天気が一番強いのかもしれぬ
「なんだこれ」
思わず、素直な感想が口から洩れた。
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【デイリーミッション1:怪力乱神への道】
>達成条件:筋トレを一時間行う(0/60)
>達成期間:今日中
>達成報酬:筋力+1
【デイリーミッション2:叡智賢神への道】
>達成条件:勉強を一時間行う(0/60)
>達成期間:今日中
>達成報酬:知力+1
【デイリーミッション3:至妙巧神への道】
>達成条件:手芸を一時間行う(0/60)
>達成期間:今日中
>達成報酬:器用+1
【デイリーミッション4:塵も積もれば山となる】
>達成条件:デイリークエスト1~3を達成する(0/3)
>達成期間:今日中
>達成報酬:BP+3
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え、めんどくさっ……。
能力値を上げるために必要なミッションを見た素直な感想である。
これらのミッションの内容を端的に表現すれば。
体を動かし、机に向かい、裁縫としゃれこむ。
となるのだ。
ぇぇえ……? これをやらなくちゃいけないのぉ……?
面倒、という感情が心に満ち満ちてくる。
ミッションというのだから、アプリを使ってゲームみたいなことをするのかと思ったが……アプリにそれらしきものはない。
リアルに作用するアプリは、ミッションもリアルで行うモノらしい。クソッたれめ。
運動と勉強、そして手芸。
Vtuberオタクにしてサブカル趣味の現代ライトオタクとは無縁の存在にもほどがあるだろ。
これ、デイリーミッションってことは毎日あるんだよね?
この内容を毎日……やだ、すっごく健康になれそう。【STATUS】は真人間更生プログラムか何か?
でも、やらないとBPたまらないし……。
俺の身体をもとに戻す方法は、何とかして種族を変えるしかない。ほかにもあるかもしれないが、俺には思いつかなかった。
で、種族を手に入れるためには、ガチャしかないわけだ。
残りの九十連はすでに回してある。見事に爆死した。それ以外に言うことはない。
ガチャをするために、BPを貯めることは必要不可欠。
なの、だが……。
ミッションの予想以上のめんどくささに、テンションが萎えていく。
う~う~と唸り声を上げながらスマホを操作し、俺のステータスを表示させた。
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名前:桐生 総司 年齢:19
種族:美少女 職業:なし
レベル:1(1/10)
HP 20/20 MP 0/0
筋力 3 耐久 2(+1)
知力 4(+2) 精神 5(+1)
敏捷 3(+1) 器用 7(+2)
幸運 2(+1)
BP 0(-8)
スキル
《》
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とりあえず、初期BPを全て割り振ってみた。数値的には、一か二の上昇でしかない。
でも、変化は確かにあった。それも、かなりの変化が。
筋力は確認した通り。
耐久は、ちょっと強めに叩いた程度では痛みを感じなくない。皮膚が頑丈になってるのかな? って思って触ってみるけど、やわっこい肌のままだ。
知力、精神、敏捷は……確認手段がないので、よく分からないな。
その内、何かしらで確かめよう。知力はナンプレとかで、敏捷は外にでて走ってみよう。
精神は……ホラー映画、とか? うん、分からん。
そして、器用は……今、確認中だ。
「よっ、ほっ、とりゃっ」
シングルアクセル、ダブル、ダブルアクセル、トリプル。
ダブルシザースピンにフェイクトダブルソニック。おまけにシメトリカルガンマン。
こうして並べてみるとバトル漫画っぽいなー。違うけど。
手元でくるくると縦横無尽に動き回るのは――何の変哲もない、ペン。
これぞ、手先の器用さに自信があった俺の一発芸!
その名も――――『ペン回し』ッ!!
手持無沙汰な時は良くしていたそれが、器用を上げた影響なのか、ほいほい出来る。
高難易度の技でも、ほらこの通り。
くるくると指の階段を下っていたペンが、その勢いのまま元の位置に戻ってくる。
その技の名は――ッ!!
「リバーシブルドラマーリバースッ!!」
ふっ、ちょろいぜ。ペンをビシッと構えて、キメ顔をした。
……うん、何してるんだろうね、俺。
直後、急激に襲い掛かってきた羞恥に顔を押さえて蹲る。
顔真っ赤になってそう……てかこれもうなってるだろ……恥っずい。
ええい! こうなったらこの恥ずかしさ――更なるペン回しの技を披露することによって、晴らしてみせようじゃないか!
決して、ヤケクソとかじゃないんだからね! ね!!
奇声を発しながら、ペン回しを狂ったようにやり続ける。とりゃぁああああっ!!
で、十五分後。
「おれは、しょうき、もどった!」
傍から見たら、『頭おかしくなったのかしら?』と言われること間違いなしな奇行を終えた俺は、そんなことを叫んでいた。うん、頭おかしいね。
もう記憶抹消しておこう。俺は何もしてない。いいね?
さっ、気を取り直してミッションミッション。
とりあえず、簡単な筋トレとかからやってみようか。
めんどくさいとか、引きこもり気味なオタクに運動はキツイとかいろいろと言いたいことはあるが、BPの為にもやるしかない。
それに、能力値を上げるメリットは確かに存在する。
筋力が上がれば力仕事だって出来るし、耐久を上げれば身体が頑丈になって、病気とかに強くなれるかもしれない。
器用だって、今は一発芸レベルでしかないけど、何かに役に立つかも。
『芸は身を助ける』って言うしな。
そう言うわけで、もう一度ミッションの内容確認を……ん? あれ?
なんか、器用のミッション進行してない? なんで?
【デイリーミッション3:至妙巧神への道】の達成件の場所に書かれた(0/60)が、(14/60)になっていた。
うーん、手芸に関係するようなことなんて、した覚えがな……い…………?
ちらり、と視線をスマホを持っている手から反対に動かした。
ヒュンヒュンと回るペンが、視界に映る。
ま、まさか……これか?
手芸って、ペン回しでもいいの?
そんな俺の疑問に答えるように、画面に映る(14/60)が(15/60)になった。
……どうやら、ペン回しでもいいらしい。
いやまぁ、確かに『手』でする『芸』だけどさぁ……なんかさぁ……こう……違うだろぉ……?
大変だと思っていたミッションが、急にしょぼく思えてきた。
肩透かしを食らった気分になり、俺はがっくしと肩を落とした。
ま、まぁ、ミッションを楽にクリアできると前向きに考えよう。そうしよう。
「……とりあえず、もうちょっとペン回しておくか」
この後、滅茶苦茶ペン回しした。
あと、出来るかな? って思って試したヨーヨーやジャグリング、ダーツなど。
そっちも普通に手芸判定でした。いいんかこれ。
…………まぁ、ヨシ!(指さし猫感)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『ミッションをクリアしました!』
スマホにそんな通知が来て、一つ目のデイリーミッションを達成した。やったぜ。
ステータスを確認すれば、器用値にしっかりと+1されている。
この調子で他のミッションも……と思ったのだが、それに待ったをかけるように、朝から何もいれていないお腹が、くぅと抗議の声を上げた。
壁掛け時計に目をやれば、すでに時刻は昼14:00を回っている。そらお腹もすくわ。
てなわけで、先に飯にしようっと。えっと、財布財布……。
料理? はっはっは、何のことかな?
一人暮らしが長いからといって、料理が得意とは限らない。俺はエロゲ主人公ではないのだよ。
飯と言ったら、もっぱら外食かコンビニ飯です。
自炊も、試そうとしたことがあるんだが……知ってるか、包丁って、指が斬れるんだぞ?
なので、ウチにある冷蔵庫は飲料とお菓子専用となっている。
「そいや、飲み物も無くなってたっけ…………ん?」
財布と家の鍵、スマホを手にして、さぁ出掛けようというところで、何かが頭に引っかかる。何か、非常に重要なことを忘れているような……。
なんだったかなーと思いながら、付けっぱなしだったスマホをスリープ状態に。
画面が暗くなり、そこに俺の顔が映る。
花は恥じらい、美の神が嫉妬するような美少女になってしまった、俺の顔が。
「あっ」
そうじゃん……今の俺って女の子じゃん……。
しかも人前に出たら騒ぎになるタイプの超絶美少女じゃん……。
ついでに、裸ワイシャツの恰好から着替えていないことにも気が付いた。
このまま外に出てたら、それは唯の痴女でしかない。町中パニック間違いなしだ。
出発する前に気付けて良かったぜ……。
「でも、どうしよう……」
服装は、まぁいい。
女物の服なんて持っていないが、ジャージとかを着ておけば問題ないだろう。
だが、問題なのは性別も顔も変わってしまっていることだ。
これ、普通に大問題である。
何せ、俺が桐生総司という人間であると証明する手段が、何処にも存在しないのである。
『妙なアプリのせいで女の子になっちゃいました、てへぺろっ』なんて非科学的な話、誰が信じてくれるというのか。
つまり今の俺は、身元不明の美少女ということに……?
くっ、完全にエロゲ世界の住人じゃないか……!
バイトにも行けず、頼れる人もおらず、途方に暮れた俺は、泣く泣く体を売る羽目に……想像するだけでゾッとするな。
作品として楽しむならともかく、自分の身に降りかかってくるとか笑えない。
うーん……こういう時に頼れる存在がいればよかったんだが……悲しきかな天涯孤独。
こんな与太話でも信じてくれそうな親しい人間などいない。ボッチ……? ほっとけ。
…………おや? これはいわゆる…………『詰み』なのでは?
「ま、まてまて、まだだ。まだあわ、慌てるような時間じゃ……」
言葉とは裏腹に、めちゃくちゃアワアワしている俺がいる。
外面だけ見ればとってもかわいい感じになってるんじゃないかなぁ……ははっ、マジでどうしよう。
【STATUS】を考察した時のように、先送りしてどうにかなるような問題じゃない。
なんとしても打開策を考えなければ。
「うぅぬぬぬぬぬぬぬぬ~~~~~~」
考える。
考える……。
考える…………。
考え……ぐぅぅうううううう。
「…………とりあえず、飯買ってこよう」
腹が減っては戦は出来ぬ。
空腹で頭が働かない状態で考え事しても、いいアイデアが浮かぶとも思えないし。
…………決して、現実逃避したいわけじゃないヨ? ホントアルヨ?
というわけで、まずは裸ワイシャツから出かけるのに相応しい恰好になろう。
タンスをあさり、今の体型でも着れる服を探す。
で、発見できたのが、コレ。
フリーサイズの無地のTシャツ。
サイズを間違えて買った黒のジャージ上下。
サイズを間違えて買った無地の靴下。
顔を隠す用の野球帽。
それでも余る袖と裾は、捲ることでそれっぽくした。
鏡に映る自分をじっと見つめる。
…………うん、まぁ。
このファッションセンス皆無の格好により、『超絶美少女』が『超美少女』くらいまで軽減されているかな? という感じだ。
正直、効果があるのかどうか微妙なところである。
「……まぁ、とりあえずこれで行くしかないか」
くるりと回ったり、腕をパタパタと動かし全身を確認した俺は、不承不承という響きをのせた声音でそう呟いた。
鏡に映る美少女が、不満げに眉を潜めて唇を突き出している。
そんな顔も自分の顔じゃなければ見惚れるほどに美しく、愛らしい。
男の状態で対面したら、一発に恋に落ちて流れるように玉砕、失恋のコンボを食らって鬱になって引き籠るだろう。
種族:美少女の恐ろしさを痛感していると、ふと頭の片隅に余計な考えが。
…………全力でカワイコぶってみたら、どうなるんだろうか?
んなことまったく思いつく必要がなかったが、一度意識してしまうと、どうにも気になってしまう。
この身体が秘めるポテンシャルとはいかほどのモノなのか……これは確かめてみる必要があるな。
というわけで、思いっきり美少女ぶってみる。
まず、捲り上げていたジャージの袖を伸ばし、いわゆる『萌え袖』状態に。
ジャージの前を半分ほど開き、片側をはだけさせ、二の腕辺りまで落とす。
野球帽は脱ぎ、最後に片手を顎の前に持ってくる。
そのポージングのまま、上目遣いで小首をかしげながら小さく笑みを浮かべてみた。
こてん、にこっ。
……その、結果。
「…………うん、これは封印指定だな」
――――可愛さの限界など、遥か彼方へと置き去りにする美少女が、そこにはいた。
下手したら、人死にが出る。そんなレベルの可愛さだった。
自分の顔という意識がなければ、可愛さのオーバーフロウに意識を喪失していたかもしれない。
人前でやるのは絶対にやめた方がいいな、うん。
いろんなところに被害が出るだろうし、これはもう実質テロリズムと言っても過言ではない。
……外に出る時は、顔を見られないようにすることと、出来る限り人通りの少ない道を行くとしよう。
急いで野球帽を深くかぶり、バババッと服装を元に戻した俺は。
むんっ、と拳を握りしめ、決意を固めるのだった。
まだ続く? 続くわ