最終話
「それにサムドラ公爵は爵位を剥奪される」
「‥‥へ?」
「聞こえなかった?今日でサムドラ公爵家とはサヨナラだ」
「‥‥ど、どうして!?」
「君も修道院で頑張ってね‥‥僕の元に沢山の苦情が寄せられて困ってたんだ」
「‥‥苦情、何のこと!?」
「見境ないのも程々にね‥?」
ティファニーは唖然と立ち尽くして、アルフレッドの言葉を理解しようと必死になっていた。
そして床で項垂れているフィリップに掴みかかり、グラグラと揺する。
「こんなの嘘よッ!何で私がこんな目に遭うの!?」
ティファニーは髪を振り乱してフィリップに問い詰めていた。
そして懲りずにアルフレッドの元へ行こうとするティファニーは、後ろに控えていた騎士達に取り押さえられた。
そのまま引きずられるようにして連れて行かれてしまった。
「何これ、妖精の呪い‥?」
レミレの声にアルフレッドがピクリと肩を揺らす。
無知とは恐ろしいもので、それでもレミレは言葉を続けた。
「ディアンテのせいなの!?あの地味でダサい女が‥「ーーレミレッ!!」
公爵が大声でレミレを制止する。
レミレは激しく怒鳴られてベソベソと泣き出した。
そして鋭いナイフのようなアルフレッドの圧力に、レミレの足が崩れ落ちる。
「レミレ嬢‥君の心は随分と醜いね」
「‥‥‥え?」
「ねぇ、ディアンテ」
「えぇ‥そうですわね」
アルフレッドの横に佇んでいるのは妖精のように輝きを放つ美しい令嬢。
レミレはアルフレッドに"ディアンテ"と呼ばれた女性をまじまじと見ていた。
「これが、ディアンテ‥?うそ‥嘘よッ!!」
「僕の婚約者の名を、そう気安く何度も呼ばないでくれる?」
ディアンテを見ながらレミレは震えていた。
レミレを馬鹿にしたティファニーよりも、ずっとずっと比べものにならない程に美しかった。
アルフレッドの言葉を聞いて、驚きに目を見開いたサムドラ公爵と公爵夫人は信じられないという顔でヘロヘロとその場に座り込む。
自分達の置かれた状況がやっと理解出来たのか、無様にも泣き叫び出した。
アルフレッドはディアンテに「行こうか‥」と声を掛ける。
ディアンテは「待ってください」とアルフレッドを引き止めて、フィリップとサムドラ公爵家の前に立つ。
ーーーそして
「‥‥さようなら」
そう一言だけ吐き捨てて、踵を返すとアルフレッドの手を取り歩き出した。
*
「ディア、これだけでいいの?」
「だってアルやラシードお兄様が十分やってくれたもの‥スッキリした気分だわ」
「そう‥ならいいんだ」
「本当は紅茶を頭からかけてビンタしてあげたかったけど」
「今から行く?」
「ふふ‥アルの呪いは怖いわね」
「ディアの為だからね」
ディアンテはアルフレッドを見てニコリと微笑んだ。
身を寄せ合いながら馬車へと乗り込んだ。
「また君に会えた事、嬉しく思うよ」
「ねぇ‥アル。あの時、なんであんな事を言ったの‥?どうしてわたくしが、貴方に魔法を掛ける事を知っていたの?」
「またその話かい?」
「だって、気になるもの‥」
「‥‥。なら、その話は帰ったらしてあげよう」
「アル‥」
「引かないって約束してくれる?」
「昔の話だもの、時効よ」
「安心して話せそうで良かったよ」
アルフレッドとディアンテの距離はすぐに縮まり、とても穏やかな日々を過ごしていた。
共に過ごせる時間が、とても尊く、幸せに溢れていた。
アルフレッドが、たまに見せる執着と愛が重たすぎて引いてしまう事もあるが、アルフレッドとの関係は概ね順調である。
「アル、ごめんなさい」
「‥‥え?」
「アルと会えば、また不幸にしてしまう気がして逃げていたの」
「いいや‥僕の愛が重たすぎたせいだ」
「うふふ、またわたくしを閉じ込める?」
「‥まさか」
「そしたら貴方に魔法を掛けるわ」
「それは無理じゃないか?‥君はもう妖精の記憶を持った人間だから」
「少しなら魔法を使えるの」
「へぇ‥どんな?」
「人を幸せにする魔法よ」
ディアンテとの空白の時間を埋めるように、アルフレッドは自分がディアンテをどれだけ愛しているのかを語っている。
恥ずかしがるディアンテの反応を楽しんでいるようにも見えた。
2人は毎日、笑い合っていた。
やっと掴んだ幸せを噛み締めて、アルフレッドと抱き合った。
「ディア、一緒に歳をとって行こうね‥」
「えぇ」
「今度は置いていかないでくれ」
「アル‥」
「‥‥お願いだから、僕も一緒に連れていって」
「もう、どこにも行かないわ」
「愛してるよ‥ディアンテ」
「私も愛してる、アルフレッド」
end