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ナルシストで自分が大好きなフィリップ。
ディアンテと会っている時も、大抵は自分がどれだけ美しいか、どれだけ自分がモテるかという話である。
何に対しても自分ファーストで、いかに自分が優れているかを証明しないと気が済まないようだ。
顔も整っているし、上辺や家格は良いので令嬢にも、さぞモテることだろう。
フィリップに群がっていた御令嬢達もディアンテが婚約者でいると知るや否や、焦った様子で去って行く。
それはアールトン家に伝わる"呪い"のせいだった。
それが普通の反応なのだが、フィリップはディアンテと婚約したことで自分がモテない事を不服に思っている。
フィリップは婚約者がいるにも関わらず、常に女性に囲まれる事を望んでいるのだ。
とはいっても、フィリップを好きでもないディアンテにとってはどうでもいい話ではあるが。
婚約者がいる時点で、そんな考え方を持っているのがおかしいはずなのに、自分の息子がいかにモテるのかと自慢しているサムドラ公爵達にとっては婚約者がいようといまいと関係ないようだ。
いつも互いを想い合っている父のクレオや母のマリアム、姉のメロディとラシードを見ているディアンテにとっては不思議で仕方なかった。
(早く家に帰りたい‥)
フィリップの自慢が長引いた所為で、家に帰る時間が遅れてしまう。
アールトン家はある妖精の血を引いていた。
国で一番有名な御伽噺に出てくる妖精アイネ。
初代フィルズ王の命を禁忌を犯して救った心優しきアイネは幸せをもたらす妖精だった。
フィルズ王国はアイネを守る為に作られた王国だと言われていた。
アールトン家は、その妖精アイネの力を継いでいた。
時代が流れて血が薄れると共に、徐々に忘れられて力も弱まり続けている。
ディアンテの父であるクレオ・アールトン
マリアムに一目惚れして、アールトン家に婿入りした。
ディアンテの母であるマリアム・アールトン
子供を2人産んだとは思えない若々しい美女である。
ディアンテの姉であるメロディ・アールトン
その美貌と美しい所作で社交界でも"フィルズの妖精"と言われるほどに可憐な姿をしている。
そんなメロディはこの国で魔導具の研究者として大成功しているラシードと婚約中。
侯爵家の次男であったラシードはクレオと同じくメロディにデロデロに惚れ込んでいた。
アールトン家を継ぐために色々と学んでいる。
クレオにもマリアムにも気に入られているラシードは現在、子爵家に滞在しながら魔道具の研究をしている。
そんな温かい家族と自然に囲まれた子爵家でのんびりと暮らしていた。
田舎貴族と馬鹿にされる事もあるが、森に囲まれたこの場所がディアンテは好きだった。
そんなディアンテはアールトン家でも華やかさに欠けた"影の令嬢"と呼ばれていた。
居るか居ないのかすら分からない程に影が薄いからだ。
不思議な事に、アールトン家は代々金色の髪を持ち蒼目女児しか生まれない。
誰と結婚したところでそれは絶対の決まり‥同じだった。
メロディとマリアムは綺麗な金色の髪と蒼目を持っていた。
しかしディアンテにはアールトン家特有の金髪と蒼目は受け継がれていなかった。
ミルクティー色の髪とライラックの瞳‥。
ディアンテだけが産まれた時から何もかもが違っていた。
けれど両親はディアンテとメロディを同じように育ててくれたのだ。
ディアンテはそんな自分の容姿を隠すように、ひっそり過ごしていた。
ディアンテは重たい前髪で目元を覆い隠して眼鏡を掛けていた。
中でも眼鏡はこだわっており、レンズが分厚いものを選んでいた。
髪はキッチリと一つに纏めているが顔の輪郭を隠すようにサイドの毛を下ろしていた。
この色が何を意味するのか‥‥。
それはアールトン家ですら知らない秘密の話だ。
きっとその意味は、ある男とディアンテしか分からないだろう。
ディアンテは意図的に目立たない事を心掛けている。
ドレスも一番地味なものを選んでいた。
そこに流行りなどは一切関係ない。
ディアンテは兎に角、誰の目にも映りたくない‥‥映ってはいけないのだ。