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「かしこまりました」
「‥‥っ!」
「出来ればサムドラ公爵家が全員いる事が望ましいな」
「はい、今すぐ連れて参ります」
「や、やめてくれ‥ッ!!」
アルフレッドの護衛に取り押さえられていたフィリップは涙から鼻水からで酷い顔だった。
そこに無理矢理連れてこられたサムドラ公爵と公爵夫人、そして部屋から連れ出されたであろう目元が腫れているレミレの前で、魔導具に保存されていた映像が流された。
フィリップの癇癪と無抵抗のディアンテに紅茶をかける様子。
公爵夫人とレミレがディアンテに吐いている暴言やドレスの貸し借りの会話。
そして公爵夫人のディアンテに対する暴言の数々とサムドラ公爵家の侍女を激しく虐げる映像。
それにサムドラ公爵がレミレの友人の令嬢や侍女を脅しつつ関係を迫る様子と、事業の不正や人身売買等の悪行を重ねている姿。
そしてフィリップがティファニーと不貞を働いている様子。
招待客と公爵達は唖然として、その映像を見ていた。
これは全てラシードが作った魔導具による映像記録だ。
ラシードは、家族とメロディを守る為にフィリップの婚約者になったディアンテの為に裏で動いた。
何より愛しいメロディが心を痛めているのが許せなかったのだ。
以前から悪い噂が流れているサムドラ公爵家。
ルードルフ侯爵家に頼んで人手を借りるのは簡単だった。
ルードルフ侯爵家は代々騎士の家系だった。
サムドラ公爵家に侍女としてスパイを忍び込ませて、ラシードが開発した魔導具でフィリップの不貞やディアンテとのやり取りを撮り溜めていたのだった。
婚約パーティーは地獄のような空気に包まれていた。
アルフレッドはディアンテの額に口付けてから「こんな汚れた場所に居たらディアが可哀想だ‥用も済んだら早く帰ろうね」と優しく声を掛ける。
そんな騒ぎをモノともせずに、フィリップの背後から甲高く甘い声が聞こえてくる。
「アルフレッド殿下ぁ‥!来てくださったんですね」
ティファニーの猫撫で声に、フィリップは小さく首を振った。
震える手でティファニーを止めようとするが、そんな事は全く気にならないティファニーはアルフレッドに手を伸ばす。
そしてアルフレッドに触れようとした時‥‥アルフレッドの隣にいる御令嬢に息を呑んだ。
ティファニーは本能で悟った。
敵わない、と。
けれどティファニーのプライドがそれを許さなかった。
本来はティファニーがアルフレッドの隣に居るはずなのだ。
完璧すぎる王太子であるアルフレッドの隣には、完璧なティファニーが立つべきなのに‥。
(何なのよ、コイツ‥!!)
磨き上げられた美ではなく、自然と咲き誇る花のようだった。
居るだけでその場の視線を惹きつけてしまう。
あまりの透明感にティファニーは言葉を失った。
それこそアールトン家のメロディやマリアムにすら、全く引けを取らない。
ライラックの瞳と目が合うとティファニーは一歩後ろに下がる。
無意識に尻込んでいたティファニーはハッとして、震える唇を開いた。
「其方の、方は‥」
「僕の婚約者だよ」
「なっ何ですって‥?」
アルフレッドの隣に堂々と立ち、当たり前のように腕を絡めている女。
会場にいる人達の視線は主役であるティファニーでなく、その御令嬢に集まっていた。
謎の令嬢はアルフレッドに小さな声で耳打ちをする。
その令嬢の行動を愛おしむようなアルフレッドの表情。
一目見るだけでアルフレッドの全ては、隣にいる御令嬢のものだと思い知らされる。
ティファニーは咳払いをした。
今日の主役は自分だ。
この日の為に、ティファニーはお金と時間を掛けてドレスを用意した。
全ては会場の男の視線を集める為だ。
「こっちに来て私とお話ししませんか?」
「テ、ティファニー!やめてくれ‥っ!!」
「だって皆で楽しんだ方がいいでしょう?」
アルフレッドは必ずティファニーの魅力に気付くはずなのだから。
「遠慮しておくよ‥今日は彼女の隣にずっと居たいんだ」
(どうして‥‥どうしてよッ!?)
ティファニーは手を握り込む。