16.ティファニーside
ティファニーの母は元娼婦だった。
けれど母はその美貌とテクニックで幸せを掴み取った。
ティファニーの母はルルシュ伯爵に見初められて伯爵夫人となったのだ。
その華やかな容姿を受け継いだティファニーならば、もっと上へ上り詰められる筈だ。
今まで自分を磨き上げる為に金も時間も使ってきた。
(私はもっともっと上に行けるわ‥!)
学園でティファニーに声を掛けてきた令息達は、ティファニーの体を舐め回すように見ていた。
そんな下劣な男達はティファニーには似合わない。
ティファニーが狙うのは大物だ。
何故か婚約者を作らない王太子のアルフレッドだってティファニーを一目見れば、結婚してくれと頼み込んでくるに違いない。
そう信じて疑わなかった。
どうにかしてアルフレッドとの繋がりを作りたかったティファニーは、アルフレッドと仲の良い令息と距離を詰めようとした。
しかしアルフレッドの友人はティファニーを全く相手にしなかった。
「婚約者がいるから、勘違いされるような事はやめて欲しい」
ティファニーの美貌を前にして断るような男は見る目がないのだ。
ーーーそんな時だった。
フィリップ・サムドラ
公爵家の嫡男でアルフレッドとも繋がりのある男。
他の奴らとは違って、フィリップはティファニーの容姿を褒め称えて、結婚したいと言い始めた。
(使えるわ‥!)
直ぐにティファニーはフィリップを落としにかかった。
けれどフィリップの婚約者は、妖精の血を引いているといわれているディアンテ・アールトンだった。
ティファニーにとって、居るか居ないか分からないディアンテなど敵ではなかった。
けれどアールトン家に伝わる"妖精の呪い"。
それを聞いてティファニーは尻込みしそうになった。
アールトン家に危害を加えようとすれば、必ず不幸が起きる。
それは何故か貴族達の中で脈々と受け継がれている不思議な話だった。
ティファニーの輝かしい未来が消えてしまう事だけは、あってはならない。
けれどフィリップは言ったのだ。
「はっ‥大丈夫さ、何たって俺は"妖精のお気に入り"だからね」
「‥あれは御伽噺なだけさ。こんな扱いをしていたって何も起こらないしね。それに彼女は俺の言いなりさ」
それを信じたティファニーは卒業パーティーでフィリップと共に、ディアンテに対して嫌がらせを実行した。
そしたらまさかの大失敗。
フィリップの評判は悪くなり、ティファニーもはしたないと陰口を叩かれる始末。
それに折角現れたアルフレッドとのチャンスも逃してしまい、最悪な卒業パーティーになってしまった。
今度こそ、アルフレッドの瞳に映りたい。
その為にサンドラ公爵家の財を利用してティファニーは己を磨き続けた。
まあまあ美しいフィリップとフィリップの母親。
けれどフィリップの妹のレミレは自分の醜い姿を理解していなかった。
親切で教えてあげたのに、ショックを受けて部屋に閉じこもってしまった。
意味もわからずにティファニーは首を傾げた。
美しくないモノに美しくないと告げただけで、何故ティファニーが怒られなければならないのだろうか。
それにもっと最悪だったのはフィリップの父、サムドラ公爵だった。
ティファニーの体を舐めるように、じっとりと見る視線は最悪なものだった。
「‥‥気持ち悪い」
そんなティファニーの言葉にカンカンに怒ったサムドラ公爵。
ティファニーは本当の事を言っただけなのに‥。
そしてフィリップは次第にティファニーに冷たくなっていった。
けれどティファニーは、まったく気にならなかった。
アルフレッドが絶対にティファニーを見初めてくれる。
そうでなくても他の令息を捕まえればいい。
フィリップなど居なくとも、新しい相手を作ればどうにかしてくれるだろうと思っていたのだ。
その為には己のアピールを欠かしてはならない。
ティファニーが目指すのは高みである。
鏡に映るティファニーは誰がどう見たって美しい。
同じ歳の令嬢などティファニーの美しさの前では足元にも及ばない。
フィリップにはアルフレッドにも招待状を出させた。
ティファニーの作戦は何もかも完璧だ。
(今日こそアルフレッドを手に入れてやるわ)




