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13.過去①



『人間には近付いては絶対にダメよ‥我々の存在はバランスを壊してしまう』


『人間の感情は争いを呼ぶ』


『我々とは相容れない怖い生き物だ』


アイネはその意味を深く考える事はなかった。

皆にそう言われれば言われるほどに人間に興味が湧いてくる。


アイネは妖精達の中でも一際、美しい容姿を持っていた。

けれど妖精に囲まれて育ったアイネには自分の価値など分からない。


アイネは退屈な日々を過ごしていた。






そんな時、森にボロボロになった少年が倒れていた。

イエローゴールドの髪にオレンジ色の瞳を持った人間だった。


アイネは、その少年に興味津々だった。

ミルクティー色の髪を花の茎で束ねたアイネは、木の皮に水を汲んで男の元へと、そっと運んだ。


どうやら男は足を怪我しているようで、次の日もその場に佇んで動かなかった。


アイネは癒しの力は持っていない。

他の妖精達は人間を嫌っている為、人間の為に力を使う事はないだろう。


どうしようかと悩んだアイネは、少年が寝ている間に森の果実や水、傷に効くという薬草を置いた。


そしてアイネは木の上で、ずっと人間を観察していた。


(‥‥人間って、私達とあまり変わらないのね)





それから、数日経った時だった。

少年は足を引きずりながら川へと向かっていた。

川に入った少年は、どうやら水浴びをするつもりらしい。


アイネがいつものように少年を観察していた時だった。

ズルっとバランスを崩した少年は川へと流されていく。



「‥‥危ないッ!!」



アイネは川に飛び込んで少年を引っ張り上げた。



「ーーーッゴホ!!」


「‥っ、どうしよう」



少年とアイネはびしょ濡れになった。

咳き込む男に触れようとして、アイネはハッと気付く。



(姿を見せてはいけない‥!)



アイネが少年から離れようとした時だった。

冷たい手が、アイネの腕を掴む。



「あ、りがとう‥」


「!!!」


「いつも僕を助けてくれたのは、君でしょう‥?」



アイネは声を出せずに首を振った。

それに人に触れられてしまった。

ライラックの瞳に涙を溜めてガタガタと震えるアイネを見て、少年は眉を寄せる。



「怖がらないで‥っ!ただ君に御礼が言いたかっただけなんだ」


「‥‥っ」


「ごめんね‥ありがとう」

 


アイネは目を見開いた。




ーーーそんな時だった。




「ーーーフィルズ様ッ!!」




遠くから複数の声が聞こえた。

アイネは少年の手を振り払うと急いで森の中へと駆け出した。




「待って‥!名前を!!」



フィルズは声を掛けたが、少女は瞬く間に消えてしまった。

何人かの護衛に抱えられながらフィルズは目を閉じた。








ーーーー数日前、フィルズは森を歩いている時に足を滑らせて崖の下に転落してしまった。




懸命に助けを求めたが森の奥深くに人などいる訳もない。

次第に足は腫れて痛みが酷くなる。

フィルズは絶望していた。

寒々しい夜が過ぎて、フィルズは喉の渇きと空腹で目を覚ました。


そんな時、木の皮に水が置いてあった。

その次には果実、寝て起きるとまた新しいものが置いてある。

布団になりそうな大きな葉っぱも。


フィルズは祖母が言っていた話を思い出していた。

ここは妖精が住む森だと。


(‥妖精が僕を助けてくれたのかな?)


フィルズは不思議な贈り物のお陰で命を繋ぐことが出来た。

そして、それは不安な心を和ませてくれた。


足の腫れも徐々に引いていった。

フィルズは足を引きずりながら川へと向かった。

水浴びをしていた時に、あろうことか怪我をしていない足が攣ってしまったのだ。


もがいても肺に水が入り、さらに苦しくなる。

もうダメだと思った時だった。


「‥‥危ないッ!」


そんな声が聞こえてから、フィルズは誰かに手を引かれる感覚に瞼を閉じた。

ゴホゴホと咳き込んでいると目の前には同じく濡れた少女がいた。


一目で同じ人間ではない事が分かった。

彼女は言葉では言い表せないほどに美しかったのだ。


「‥っ、どうしよう」


フィルズと目が合うと焦ったように去っていこうとする少女を引き留めた。

少女は泣きそうな顔をしていた。

けれどフィルズはどうしても伝えたかった。


「ごめんね‥ありがとう」


直感だった。

フィルズをずっと助けてくれたのは彼女に違いない。


どこからかフィルズを呼ぶ声がした。

スルリとすり抜けるようにして少女は一瞬で居なくなってしまった。


(名前も聞けなかった‥)


少女の姿が目に焼き付いて離れなかった。

フィルズの心を一瞬で奪って、消えてしまった。

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