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「‥‥あのぅ、アルフレッド殿下」
「何かな‥?」
「私っ、ティファニー・ルルシュと申します!!」
体を擦り寄せるティファニーは先程、フィリップと婚約したと言ったばかりではなかっただろうか。
「君は‥フィリップの新しい婚約者では?」
「そ、そうですけれど、でも‥!」
「婚約者がいる御令嬢が他の男にベタベタするのは感心しないな‥‥逆もそうだけどね」
「‥!」
「っ」
アルフレッドの視線は明らかにフィリップを指している。
ディアンテという婚約者が居ながらもティファニーと関係を築いていた‥不貞行為があったと自分から周囲に自慢していたフィリップ。
クスクスとフィリップとティファニーを嘲笑う笑い声が響いた。
アルフレッドの言葉の意味が分かったのか、フィリップの頬が赤く染まる。
そして周囲との温度差にも気付いたのか、更に体を小さくさせる。
アルフレッドはニコリと微笑みながらティファニーの手をそっと外す。
ティファニーはアルフレッドの有無を言わせないオレンジの瞳を見て、一歩、また一歩と後ろに下がる。
アルフレッドはイエローゴールドの髪をかき上げてから、座り込んでいるディアンテに手を伸ばす。
ディアンテは手を離すわけにはいかない為、大丈夫の意味を込めて静かに首を振った。
するとアルフレッドはディアンテを軽々と抱え上げた。
周囲からは感嘆の声が漏れる。
「‥‥皆はパーティーを続けてくれ」
ーーーアルフレッド・ラグ・フィルズ
この国の王太子であるアルフレッドは常に柔らかい笑みを浮かべて人当たりもいい為、令嬢達から絶大な人気を誇っている。
何故かといえばアルフレッドには婚約者が居ないからだ。
理由は分からないが、噂では想い人がいるのではないかと言われていた。
誰にでも優しく物腰も柔らかい為、老若男女に人気がある。
中性的な顔立ちで常に笑顔を絶やさない。
頭も良くキレ者で、フィルズ王国はアルフレッドが跡を継げば安泰とまで言われる程に人望もある男。
同じ学園に通っていたディアンテとアルフレッド。
2人が学園で関わったことは一度もない。
勿論、顔を合わせて話したこともなかった。
いつもアルフレッドの周りには人集りができていた。
一方、ディアンテはいつも1人だった。
そんな2人に共通点などある訳もない。
ディアンテはたった1人、この国の王族であるアルフレッドに見つかってはならなかった。
ーーーなのに
ディアンテはアルフレッドに抱えられながら、廊下を歩いていた。
「手を外してくれないか‥?」
ディアンテは無言で首を振る。
「もしかして怪我をしてるのでは‥?」
「‥してないです」
「はは‥困ったな」
アルフレッドはまるで壊物のようにディアンテをベッドの上へと下ろした。
ディアンテは顔から絶対に手を離さない。
「‥‥」
「‥‥」
目を開かなくても分かる。
ギシッという音と共に、アルフレッドがディアンテの近くにある椅子に腰掛けた。
「パーティーに、戻らなくていいのですか‥?」
「そうだね」
「‥‥」
「‥君って、僕と何処かで会ったことがある?」
アルフレッドの言葉を聞いて、ディアンテは思いきり首を振った。
髪も乱れていたとしても、ドレスが汚れていたとしてもディアンテは頑なに顔から手を離さない。
(早くどこかに行って‥!お願いだからッ)
ディアンテは緊張からか、荒く呼吸を繰り返す。
これ以上、アルフレッドと関わってはいけない。
「初対面の君に、こんな事言うのはおかしいかもしれないんだけど、何か不思議なものを感じるんだ‥」
「‥‥気のせいでは?」
「そうかな?」
「はい」
「‥‥」
「‥‥」
「そうだね‥‥君が大丈夫なら僕はパーティーに戻るよ」
「‥‥はい、ありがとうございました」
ーーバタン
ドアが閉まる音を聞いて、ディアンテは詰まっていた息を吐き出した。
震える手をゆっくりと外して、瞼を開いた時だった。
「‥‥びっくりした?」
「ーーーッキャアァア!?」
目の前にアルフレッドの顔があり、ディアンテは悲鳴をあげた。
「ふふ‥良かった、怪我はないみた‥‥ッ!?」
アルフレッドが悪戯にニコリと笑った後、驚いたディアンテと視線が絡んだ瞬間‥。
アルフレッドはディアンテを見て動きを止めた。