第95話「合流そして激突へ」-Side勇輝&彰人-
◇――――Side勇輝
「師匠!! シンの奴は!?」
「スマンな間に合わなんだ。彼女は連れ攫われてしまった」
俺達がサブの車で現場に到着すると入れ違いでワゴン車が走り去るのを確認した。竹之内のはあの車かと舌打ちしながら次にシンの様子を見るとシャツは血が滲んでいてボロボロだった。
「シン坊……爺ちゃん。早く道場に」
「分かっておる。勇輝、運ぶから手伝え!!」
サブとアキさん、そして一人では危険だから頼野も連れてきたが道場の前に車を停めてシンを運ぶ。今思えばさっきの神社も、道場もシンと初めて会った場所だったと干渉に浸っていると道場から人が出て来た。
「どうした源一郎? 彼は!? 春日井くんじゃないか……どうしたんだ!! その怪我は……」
「あっ、え? え~っとどこかで……」
「愛莉ちゃん久しぶりだね、ワシだ秋山だ」
秋山、確か師匠の古い知り合いだったはずだ。この道場に免許皆伝の札が飾ってある人で師匠と同門だったはず、そんな人間ともシンは知り合いだったのか。
「秋山のおじさん? あのっ!! 頭が真っ白ですね!? あ、すいません」
笑いながら自分も年を取ったからと言うが、今の声のトーンと目の前の背広姿の老紳士を俺は知っていた。
「って、常連さんじゃねえか!? 火、木、土曜の週三で来てくれてる!?」
「おお、そうだよ。そこの春日井くんに君の店を教えてもらってね……それにしても彼は何が有ったんだね?」
シンを布団に横にするとアキさんとサブさん、それに頼野が入って来てシンを皆で覗き込む。
「ふむ、英輔。聞いてくれないか? お前の意見も聞きたい」
「あの各務原さん。これは高度な誘拐事件で一般人をこれ以上巻き込むのは……」
アキさんの言う通りだし、そもそもシンがぶっ倒れてるのもゲンさんと止められなかった俺達も原因だ。もっと抵抗してればと反省しかない。
「ああ、知っているさ。透真が暴走しているらしいな?」
「なっ、あの男をご存知で?」
「あの男などと言ってやるな仮にも君の父親だ。それこそ君が生まれた時は大喜びしていたのだぞ?」
そして秋山さんの話には驚かされた。アキさんの父親の名前は工藤透真、県警の本部長で今回の事件の裏側を知る人物で目の前の師匠と秋山さんとは昔からの知り合いらしい。
「知り合いと言うよりも奴の元先輩だ。私も英輔も元は刑事でな。家業を継ぐから英輔が辞め、わしの方も父の、愛莉の曽祖父が亡くなってここを継ぐことになってな」
師匠の過去にも驚かされたが、それ以上に驚いたのは秋山さんの情報収集能力だ。まるで今の状況が分かっているようだ。
「そりゃあそうさ。私はこの街にある事のために来たのだが、その際に街を調べたんだ。それに私の秘書、いや息子の嫁が優秀でね必要な情報を集めてくれたのだよ」
「そう言えばお前の家も一段落したんだったな。息子もようやく落ち着いたとか?」
「ふむ、散々迷ったがやっと素直になった。だがそのせいで孫が……おっと今は私の事より春日井くんだ。彼の話は私の方に情報に無いから話してくれないか?」
俺が説明するよりもアキさんが色々と話を切り出していた。元刑事で自分の父親の元同僚だと分かったからか詳細に説明をしていた。
「――――という具合で、私の同僚というか先輩も今はどこに居るのか……」
先輩とはゲンさんのことだろうシンや竹之内に頼んで自分は今は何をしているのだろうか、あの爺さん。思い出したら腹立って来た。
「あいつなら心配いらない。恐らく決着をつけに行ったのだろう。なら、あいつの穴は私が埋めるしかないな」
そう言うと秋山さんはどこかに連絡をしているようでメールを送っていた。今は懐かしいガラケーだ。
「ゲンさんも知ってるんすね。ガチで事情通だ」
しかし目の前の秋山さんの発言は今日一番の衝撃で俺や、この場の人間を驚愕させた。
「いや、知ってるも何も源二は私の実の弟だぞ?」
「「「「「ええええええええええええええ!?」」」」」
沈んでいた頼野まで大声を上げていた。俺や愛莉のようにガキの頃からの付き合いの長い人間もだが、ここ数年で相棒だったアキさんは完全に固まっていた。
「だって、ゲンさんは佐野って苗字で……あれ?」
「それは私達の亡くなった伯母の苗字でな。子がいなくて養子になったんだ。中学を出て上京した時だから十五までは秋山源二だったよ」
そんな感じで大声を出していたら道場の隅で寝かせていたシンが起きてしまった。応急処置はアキさんがしたし愛莉や師匠も傷を見たけど体はボロボロだ。
「うっ、ううっ……ここ、は?」
「無理すんなシン」
「うるっ、さい狭霧が……さぁーちゃんが……」
俺だと認識すらしてないようで意識が朦朧としているように見えた。それとも逆に興奮状態で我を失っているのかもしれない。
「落ち着け、春日井信矢、シン!!」
「あっ……アニ、キ」
そしてまた気絶してしまった。俺の大声で気絶したのかと不安になったが緊張状態が解かれたのだろうと師匠は言った。
「ふむ。もしかして春日井くんの言った狭霧と言うのが幼馴染で先ほど誘拐されたお嬢さんかな?」
「はい。俺が、俺達が悪いんです」
アキさんから先ほどゲンさんの話を聞いていた秋山さんは重々しく頷いて言葉を吐き出していた。
「なるほど、つまり二人が事件に巻き込まれたのは弟の不始末が原因か……はぁ、仕方ない。何より私は相思相愛の男女が引き離されるのは良しとしない!!」
「英輔まさか、お前が動くと言う事は……」
「ああ、秋山総合警備を動かす……相手がヤクザなら元警官が多い我が社の警備部門が一番だ。実は別ルートから相談も受けていて動かせるようにはしていた」
待て待て、何か話が大きくなって来たぞ。どういう事なんだと疑問に思って愛莉と顔を見合わせていると今まで黙っていたサブがPCを前に話し出した。
「リーダー、良いですかな? 先ほどから竜人殿や零音殿が、他にも同士たちが動き出している様子」
「なっ、マジか? だって今は夜中だぞ?」
「関係は無いのであろう……ここに居る事は既に連絡済みである」
そして三十分後には道場には竜とレオ以外にも多くの人間が集まっていた。二人とサブから連絡を貰ったかつてのシャイニングの連合チームが揃っていた。
「よお、久しぶりだな勇輝?」
「レン!! お前その頭……」
レンはチーム『B/F』のリーダーで俺達が少年院にぶち込まれる前に不意打ちで戦線離脱していた男だ。俺にも一度勝ったことがある男で竜やレオは二人がかりで負けた。それほどの強さでトレードマークは赤のモヒカン頭だった。
「ああ、あの戦いで不意打ちでボロ負けしてから寺に入って修行をしていた」
「いや、でも田中の話じゃモヒカンの布教してるって……なんで坊主頭に」
奴はトレードマークの赤いモヒカンから赤い坊主頭になっていた。赤は捨てられなかったのか。
「この頭でも布教は出来たさ……それより、お前の弟分はどうなんだ?」
「ああ、ヤクザに負けたらしい。五対一で戦ったらしい、バカが」
「例の女の子か? あいつが無茶な戦いをするというなら」
それに頷くと「変わらねえな」とニヤリと笑う。他にも愛莉はサクラと話していたり、昔はシンが助手として手伝っていた医者も来ていてシンの容態を見ていた。
「まったく、お前は将来は俺の診療所で助手になれって言っただろうが不良どころかヤクザと関わるなんてバカ野郎が」
そして他のチームも来ていた。防衛軍も役所の車で駆け付け医者を連れて来たのは奴らだった。道場には当時のメンバーが集まっていた。
「こんなに集まったんだ。そろそろ起きろよシン……」
俺の言葉にも舎弟は未だに起きない。だが今は待つしかない待っているのはシンの目覚めだけでは無く上の年寄り二人とアキさんの判断もだ。
◇――――Side彰人
「それにしてもお前まで彼の事を知っていたのは驚いたよ慶野」
「お前こそ大学以来じゃねえか工藤、にしても教育学部のお前が、な~んで刑事なんてやってんだよ?」
今、俺の教え子の怪我の具合を見ている医者なのだが、そいつは大学の講義が何個か被っていた大学の同級生だった。大学ではよく一緒に飲み歩いていたが卒業後はパッタリだった。それが意外なとこで再会したものだ。
「色々あってクビになったんだ。お前こそ海外でNGO関係の医師団に入るとか言ってたじゃないか。何で日本に?」
「お前の言葉をそのまま返すと俺も色々有ったんだよ……今は週三で今の病院と残りは実家の診療所手伝ってる」
それから少し沈黙して「そうか」とだけ言って治療を再開していた。そしてついに彼が目覚めた。先ほど興奮して一度目覚めたけどすぐに気を失ってしまったのだが今度は、ゆっくりと確実に目を覚ましていた。
「うっ、ボクは……ぐっ!?」
「シン大丈夫か!?」
真っ先に反応したのは秋津くんだった。彼とは数年前からの知り合いだが付き合いはここ数ヵ月で一気に濃くなった。その中で聞いた話では信矢くんは彼にとって舎弟というよりも弟のような大事な人間という印象を受けた。
「秋津くん。さっきみたいになる可能性が有るから冷静に……信矢くん? 春日井くん大丈夫か? 喋れるかい?」
「あっ、せん、せい……ボクは、私が負けて。そうだ!! さぁーちゃんが……あのデカイ奴に連れ去られたんだ。行かなきゃ、行かなきゃダメだ!!」
信矢くんの大声に集まったメンバーが気が付いて集まって来た。彼らも秋津くんを通して彼のために集まった人々だ。この中の何人かは彼と連れ去られた竹之内さんの誕生パーティーにも参加していたらしい。
「落ち着けシン。竹之内は助けるが、その前にお前の怪我だ。ボロボロだな、まるで初めてお前に会った時の俺みたいじゃねえか」
「そう、ですね……でも不思議なんです。怪我の割にあんまり痛くないって言うか……割と大丈夫なんです」
「そりゃアドレナリンがドバドバ出てるからな、お前さん。あとは痛み止めも寝てる間に打っておいたからな」
「あっ……お医者さん……何でここに?」
「オメーが怪我したって防衛軍の奴らが騒いでたから来たんだよ。ったく、相変わらず怪我だらけだな」
呆れたように言う慶野は俺の方を見てニヤリと笑って言った。その言葉を受けてゾロゾロと他のメンバーも声をかけている。このメンバーはストリートファイトで一緒に戦った仲間らしい。
「君は小学校卒業後に何をしていたんだ……」
「あれからボクも色々有って……あはは」
それを聞いて俺と慶野も同時に吹き出していた。そりゃそうだ人生には色々有るんだから、それこそ十人十色の人生が有るというのは当たり前だ。
「さて、そろそろ良いかな? 春日井くんも他の皆も、まずは初めましての人間も多いから名乗らせてくれ秋山英輔という、ここにいる各務原源一郎の同門だ」
「ま、つまり俺の師匠のダチって事だ」
横で秋津くんが関係をザックリ説明し出し元不良、いや現役のメンバーも居そうだが彼らは神妙に聞いていた。女子大生や料理店店主に珍妙な髪型の集団、市役所の職員そして医者などが若いバーの店主の周りに集まり会合する様子は中々にカオスな光景と言わざるを得ない。
「って、わけなんだ。そんで今はゲンさんは行方知れずで、このアキさんが協力してくれてる」
「あっ、ああ。市民の皆には迷惑をかけて申し訳ない。彼の春日井君の関係者の君達には心配をかけてしまって重ねて申し訳ない」
「へっ、硬いぞ~工藤。サークルの飲み会で泣きながら元カノの名前叫んでたバカはどこ行った~?」
慶野がニヤニヤしながら人の黒歴史を暴露した。そして爆笑する一同。さらに秋津くんがアキさんも若い頃は色々あったんですねとニヤニヤしている。
「ま、つまりバカみたいに真面目な人って事だから信頼は出来る!! いいなオメーら分かったか!!」
そして秋津くんが言うと次々と分かったと言う言葉が続く。ゲンさんが過去に『お節介なガキ』の喧嘩王の本当の怖さは人望で喧嘩の強さ以上に人と人を繋げる輝かしいばかりのカリスマ性が脅威だと言っていた意味を理解した。
「それで、狭霧は……そうだっ!! 私のスマホは?」
「ああ、現場に落ちていたから回収しておいたよ」
「先生、ありがとうございます。万が一を考えてさぁーちゃんに発信機を付けたんで場所が分かりますから」
待て今かつての教え子はなんと言ったんだ。サラッと恐ろしいことを言ったな。そして秋山さんと俺以外は全員が納得していた俺が間違っているのか。
「やはり空見タワーに居ます。今すぐ突撃します!!」
「いや、お前の怪我は薄皮一枚と打撲だけだが精神的な方がマズいんだろ?」
「頭痛が少しするだけです。そんな事より狭霧の安全です。それに工藤先生、冴木さんも捕まっているんですよ!?」
「ああ、だが目的はあくまで竹之内さんだ。彼女は被疑者の分かりやすく言えば容疑者側の人間でもあるから二の次でいい」
俺が苦渋の決断を口にすると目の前の信矢くんの表情が消えて次の瞬間、目に怒りが灯っていた。
「工藤先生。俺はよ……狭霧が大事なんだよ、俺の命以上にな……だけどあんたは冴木梨香が大事じゃねえのかよ? さっきの様子だと未練タラタラなんだが?」
「今は、それは関係無いだろ春日井信矢くん」
「いいや関係有るね。ここに居る連中は全員が腹割って話してる連中しかいねえ。でも先生、あんたは本心を隠してる。例え恩人でも信用出来なきゃ意味がねえ」
これが人格変更か確かに全然違う。喋り方も雰囲気も多重人格障害か、でも不思議だ今の彼は昔の彼より明らかに成長している気がする。
「そう、だな。少なくとも今も彼女は、梨香は俺の心の中で大事な人間さ。助けたいとも思っているよ春日井くん、いや信矢くん」
「ああ、そう言えば大学の飲み会の時に叫んでた名前も梨香だったな。お前」
この重大な時に過去の黒歴史をさらに克明にするな慶野いい加減にしろよ。
「なんだ、工藤先生も同じか……」
「何が同じかは分からないけど大事な人を救いたい気持ちは同じだと思ってくれ」
俺が元教え子いや、今は仲間になった信矢くんと握手をガッチリ交わすと後ろから秋津くんが近付いて来て声を上げた。
「お~し!! じゃあ俺らは二人の主人公を助ける脇役として今回は露払いしてやるぜ、いいな、お前ら!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
そして道場はまたしても喧騒と気合の声で溢れた。
「若いとはいいな……源一郎?」
「ふっ、何を今さら」
「私も考えてしまう、あと二十、三十若ければとな、そしてやり直したい事も……」
後ろで御老体の二人も話をしていたが時間が無い。竹之内さんと梨香の命がかかっているのだから。
「まずは今いるメンバーで突撃するが、外の人間もかなりの人数がいる。シンの話だと傭兵とヤクザが混じっているらしい。正直、性質が悪い。降りるなら今の内だ」
しかし誰一人として去る人間は居なかった。むしろ市役所チームは途中から着替えるとご当地ヒーローの恰好になって戻って来た。
「本来なら警察官がこんな事を頼むのは間違っている。だが手伝って欲しい。皆さんに、お願いします」
「俺も重ねて頼みます。皆さん、俺の狭霧を取り戻すために協力して下さい!!」
今度は騒がず全員が無言で頷く。そして後ろの老人二人がまた喋り出す。
「私達も行くが諸君は気にせず暴れるがいい。責任は私が、この秋山英輔が取る!! 全力でケンカして来なさい」
「武闘家としては本来はいけないのだが……今日はケンカのための武術を許可しよう勇輝、愛莉よ」
「「はいっ!!」」
そして俺達はそれぞれ分かれて行動を開始した。配置についた俺のスマホに通信が届く。三郎くんの声をスピーカーにしてその場の他の四人に聞かせた。
『作戦は打ち合わせ通りである。正面には吾輩と愛莉殿の他は主力のチーム桜花とチーム「B/F」、空見澤防衛軍を中心に囮としてタワーの正面から突撃、そして信矢氏やリーダーと彰人殿そして竜人殿と零音殿が隙を突いて突入である!!』
そして俺達は正面から大声が聞こえるのを確認すると同時に走り出した。まさか教師をクビになり警察官になって今度は元教え子たちとヤクザ相手に喧嘩し行くなんて人生は本当に分からない。
「だけど、後悔はしない。待っててくれ梨香!!」
「そうだぜ先生!! 狭霧が待ってるから、だから行こう!!」
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