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フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第4章『決戦!空見澤市動乱』編
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第94話「決戦の地、空見タワー」

更新再開します。よろしくお願いします。


 少し眠っていたようで外を見ると夕焼けが見える。日が暮れていた。家に帰るとすぐにボクは眠ってしまった。


「信矢~スマホがさっきから鳴ってるわよ。台所に置きっぱなしにしないで」


「ゴメン。母さん……えっと」


 下で夕食の支度をしている母さんに呼ばれ置きっぱなしのカバンの中を見るとメッセージが五件入っている。アニキから連絡しろと有ったが一番古いメッセージは狭霧からの三件だった。


1時間前――――『とんでもないのを見ちゃった。頑張って調べちゃうよ!!』


20分前――――『見つかっちゃった。綾ちゃんだけでも逃がすから』


10分前――――『今、梨香さんと逃げてる。助けて』


「母さん、予定が出来ましたすぐに狭霧を迎えに行きます!!」


 素早くボクは私に人格変更していた。この三つのメッセージでも危険なのは分かったが更に添付されていた画像が危険だった。


「これは……動画も? とんでもないな」


 私は部屋着からジーンズにジャケットを羽織って飛び出そうとした。その背に母さんが大声で待ったをかけた。


「どうしたの!? 狭霧ちゃんに何か有ったのね?」


「はい、どうやら狭霧が追われているようなので今から助けに行きます!!」


「待ちなさい。今、お父さんに――――「では連絡だけ頼みます!! 私は狭霧を助けに行きますっ!!」


「信矢っ!! もうっ、仕方ない取り合えず関係者には……」


 母さんの叫び声を聞きながら私は走りスマホをする。歩かず全力で走りながらスマホを操作すると残り二件の通知はアニキと冴木さんだった。


10分前――――『ごめんなさい。謝らないといけないから空見タワーまで来て』


5分前――――『シン、急いで店に来い。頼野が泣きながら店に来た』


 その二つを見て悩んだ末、私は店に向かった。店に行ったらそのまま直線で走り抜ければ空見タワーだからだ。





「あっ、春日井さん」


「はぁ、はぁ、頼野さん、じょう、きょうを……教えて下さい」


「落ち着きなシン坊。これ飲んで」


 コップの水を一気に飲み干して見るとアニキとサブさんが渋い顔をしていた。


「頼野さん?」


「す、すいませんでした。私、私っ……」


 言うと泣き出して震える手でスマホを差し出して来た。そしてそのスマホは写真フォルダが開かれていた。


「これは……」


「ああ、真っ黒だぜ、あの芸能事務所。ゲンさん達の言う通りだった」


 頼野さん達の撮影したカメラの画像は目の焦点定まらない女性が十数名狭い部屋に押し込まれている写真と、その女性を世話するヤクザ風の男達の写真だった。


「私、たち、偶然……社長が上の階に研修生の子を連れて行くのを見て……それでコッソリ付いて行ったら」


「狭霧ですね誘ったのは?」


「そのっ、はい……」


 その後も話を聞くと二人はこっそり探索して現場を発見し49階を慌てて脱出した後は逃げようとしていた所を冴木さんに見つかったそうだ。


「そ、それで……」


「やはり冴木さんもグルでしたか……」


 先ほどの通知はブラフと考えるべきだろうかと私が思案を巡らせようとしたら頼野さんの答えは違っていた。


「違うんです!! 梨香さん逃げて来た私達を庇ってくれて……」


「冴木さんは向こうとグルじゃなかったのですか?」


「違うんです。それで狭霧さんが……」


 頼野さんの話では狭霧はばれないように動画も撮っていて、それを冴木さんに見せて立場は逆転し今度は三人で50階の社長室に直談判しに行ったそうだ。


「で、でも……そこで……」


 頼野さんがそこまで言った時にバタンと扉が開かれた。そこには肩で息をする工藤先生が居た。


「大変だ!! 本庁が一斉に蛇塚組の事務所にガサ入れに入ったから潜入捜査は今すぐ中止して……ってどうしたんだ。みんな?」


「先生!! 実は今、頼野さんから話を聞いていて、これを!!」


 私は慌てて工藤先生に頼野さんのスマホを見せていた。


「これは……どこなんだ!? 頼野さん!!」


「事務所の上の倉庫です……狭霧さんが動画も撮ってくれて……私、逃げるの必死で、怖くて……」


 そこで中断された話を俺達は聞いた。狭霧と頼野さんは二人で現場を見つけ途中で逃げ出した。そして49階を脱出した所で冴木さんと遭遇し上の階へ行ったのを問い詰められた所で追っ手のヤクザと遭遇。


「それで50階の社長室に三人で行ったんですよね?」


 私の話にコクリと頷くと頼野さんはたどたどしくだが話してくれた。


「は、い。梨香さんが確かめるって、三人で……谷口社長のとこに」


「それで? 梨香と君達に何があったんだ?」


 工藤先生も気になるようで先を急かす。アニキと愛莉姉さんも見守る中で頼野さんは水を一口含むと小さな声で言った。


「……ったんです」


「すまない、もう少し大きな声で――――「谷口社長だったんです!! 誘拐と、そ、それから女の子に酷い事をさせる指示を出してたの、社長、だったんです」


「脅されていたんじゃないのですか!?」


 思わず私は叫んでいた。冴木さんの話では社長は、そのような人物では無いしキャリアウーマン程度にしか見えなかった。あの人が主犯だなんて思えなかった。


「ちっ、違うんです。蛇塚……組と組んで人身売買を主導したのは私だって……確かに聞きました」


「まさか……梨香はそれを正面から糾弾したんじゃ?」


「はい。梨香さんは『こんなの許されない関係者として通報します』って言ったら、いきなり私達三人を消すって……」


「まったく、相変わらず梨香は向こう見ずな所は相変わらずか……」


 工藤先生がため息をついて苦笑しているが今はそんな状況ではない。私はさらに先を促した。


「それで狭霧さんが近付いてきたヤクザの腕を捻って倒しちゃったんです。その拍子に部屋の消化器が倒れて梨香さんがそれを噴射して三人で下まで逃げて……」


「あぁ、そう言えば最近、簡単な護身術は教えてあげたわね飲み込み早かったからね狭霧ちゃん」


「そんな事を!? そもそも狭霧に護身術を教えるのは私の役目なのに……」


「あはは、悪かったわねシン坊。でも潜入調査するから最低限は覚えておきたいって言われてね。しかも怪我も治ってないからバレたらシンに怒られるって」


 その通りでぐうの音も出ない。さらに頼野さんの話では三人の中で足の遅かった頼野さんを守るために二人は囮になって別方向に逃げたらしい。


「私は、梨香さんの、部屋のロッカーの中に……隠れてろって……二人に、言われて、安全になってから……一人だけ、逃げ出して……それでっ、私っ」


「よしよ~し、よく逃げ切った。偉いよ綾華ちゃん。それで狭霧ちゃんのその後は分からないのね?」


「はいっ、スマホにはビルから出たって話だけで……その後は……」


 その言葉を聞いた瞬間に店のドアが乱暴に開かれた。見るとガラの悪い人間が三人、さらに外には二人いるのを確認した。


「はい、見つけました。やっと二人目です。え? このガキはバラさずに無傷で? へい。分かりました」


「言わないでも分かるな? さっさと言うこと――――「を聞くのはお前達の方だ。空見澤署の工藤警部補だ。蛇塚組だな?」


 工藤先生が警察手帳を出して前に出た。アニキと愛莉姉さんが頼野さんを庇うように前に出てサブさんはバーカウンターでPCをカタカタしていた。


「はっ? サツが何でこんなとこに、話通ってんだろ?」


「悪いな。俺は県警のバカな上層部とは違うんだよ」


「てめえがか、オメーら容赦はいらっ――――ぐぉっ!?」


 グダグダうるさい。色々と状況が混乱して来たが狭霧の危機なら早く終わらせるのが一番だ。だから顎を掌底の不意打ちで一人を打ち砕き黙らせた。


「隙だらけですよ? 雑魚が粋がるなよ!! 私の狭霧を待たせているんです!!」


「あ~あ、シンの奴、完全にキレてるな……ま、俺も出ますか。愛莉、頼野を守ってやれ。サブもさぼるなよ……剣は戻ってるだろ?」


 私が二人目と対峙した段階でアニキとサブさんは戦闘態勢を整えていた。さらに店に入って来た三人目は宙に舞っていた。


「ぐあっ……てめっ、こんな事して――――ぐっ」


「どうやら平和的には行かないようだ。秋津くんと三郎くんも手伝ってくれ!!」


 だが先生が言う前に二人も既に店の裏手からの不意打ちで外のヤクザ二人を昏倒させていた。その後は気絶させた四人を縛った上で愛莉姉さんが呼んでいた交番の警官に引き渡し残りの一人の尋問を開始した。


「正直に話した方がいい。ここは警察署内では無いから正当な取り調べは行われないからな」


「けっ、若造とガキが集まって何しても無駄っ……」


「いいから狭霧のことを話せ社会のゴミ、話せ」


「落ち着けシン。アキさん、シンの奴が暴発寸前なんで早く吐かせて下さい」


 私は口調が崩れて第二の彼のようになっているのを自覚していたが我慢の限界だった。アニキに抑えつけられても暴走が収まらない。


「やれやれ、この手は使いたく無かったのだけどね……」


「うるせえガキ共が、いい加減に放しやがっ――――「うるさい。俺も少々、機嫌が悪いんだよ。引き金を間違えて引いてしまいそうだ」


 先生は懐から黒光りするソレを出していた。種類は分からないが間違いなく銃だった。それを拘束したヤクザの下っ端の額に突き立てていた。


「おっ、おい警察が、冗談だろ……」


 先生は無表情のままカチリと安全装置を引いた。数秒後に折れていたのはヤクザだった。ヤクザの話は要領を得なかったが既に冴木さんが捕まっていて狭霧と頼野さんを探している最中なのは分かった。


「では行きます!!」


「待てシン!!」


 聞く事は聞けたから全力で俺は走り出した。狭霧は足を怪我していて本調子では無いから恐らくは空見タワー付近だ。だから急いで迎えに行かなければならない。全力で私はタワー付近へ向かった。





「これは……」


 商店街を抜けて空見タワーへ全力で向かった私の目の前に広がる光景は異常だった。薄暗くなっているがハッキリ分かる。いや、むしろ夜になりかかっているから余計に分かるのは人の多さだ。


「週末の夕方……ならば人はこれくらいいるでしょう。だけど歓楽街でも無い場所に……ここまで人間が……それに何より……」


 目の前の徘徊しているような人間は皆、ヤクザのような人間たちで歩いている一般人を恫喝したり女性を調べている。それだけで奴らが未だに狭霧を探しているのが分かった。


「ちっ、さっさと行け!! 金髪を探せ、ったく日本はいつから金髪多くなったんだよ……ったく」


 昨今は日本人でも増えてますからね染める人間も、なんてことを考えながら私は考えていた。狭霧は今は足が万全では無いし私に連絡をして来ないことからスマホを落としたと見るべきだ。


(ならば行動パターンを考えて……)


 そこで私が考えたのがこのタワーの構造は駅の西口と東口を繋げている点だった。そして抜けた先の西口サイドにはアニキの実家のラーメン屋、そして私達の遊んだ神社も有る。それだけ考えるとすぐに神社に向かっていた。


(恐らくは家には帰れないと踏んで潜伏出来る場所を探したと見ていいでしょう)


 そして私の予想は当たっていた。神社に到着するとアニキと出会った大きな岩の影に狭霧は居た。


「狭霧!!」


「信矢ぁ……」


「良かった。無事でしたか……頼野さんに話は聞きました。急いで帰りましょう」


 やはり無理をしたらしく座り込んでいる狭霧を連れ帰ろうとした時だった。気配探知が嫌な気配を探知した。


「さすが社長だぜ、ガキを追ったら本当に小娘がいたぜ」


「これは……最悪ですね」


 気配は例の社長の取り巻きと手下たちだ。迂闊だった付けられていたのを、この距離まで気付けなかったなんて最悪だ。


「信矢……」


「大丈夫お任せを」(狭霧、これを……)


(えっ? シンこれって……)


 私は不安そうな狭霧を後ろに庇い背水の陣で戦うのを覚悟した。辺りは完全に真っ暗だったが神社の電灯が追加されたのかここだけは明るくなっている。


「ガキ共、大人しくついて来い」


「それは無理な相談です」(これを腕に付けていて下さい)


「でも、これって昔……」(私が……)


「お守りです。それを付けて走って、師匠の道場まですぐですから」


 そう言って彼女に言うが足が震えていた。こうなったら仕方ない。この大人を五人倒さなくてはいけない。


「いいからっ!! 走れ狭霧!!」


「うっ、うん!!」


 狭霧が動き出すのを確認すると私はジャケットを投げつけて一人を回し蹴りで腹を狙い突き飛ばす。ドミノのように後ろの二人も巻き込まれ倒れるのを確認した。


「釣れたのは四人!! 上々です!!」


 一人にのしかかられるが即座にはねのけ、そのままの勢いで拳を叩き込む。相手を引き剥がしながら立ち上がるがそこに態勢を立て直した二人が迫る。


「ガキが!! 死ねやあ!!」


「っ!? まだっ、死ねない!!」


 一人が振り下ろすナイフを武器取りの要領で簡単に取り上げ相手の力を利用し背中から叩きつけた。これでまず一人だが私は油断していた。すぐに背後から迫る気配に一瞬だけ反応が遅れた。


「うおりゃああああ!!」


「くっ、だがっ!! 甘えんだよクソがっ!!」


 脇腹を掠ったもう一人のナイフ、いや長ドスは俺のシャツを切り裂き軽く薄皮が裂かれて血が流れた。


「シン!!」


「この程度、余裕だ狭霧。あと早く逃げろ……」


 やはり第三じゃ乱戦は難しいか、雑魚相手ならあいつが一番だがこの手の相手は俺だよな……やっぱり。俺は落ちてたナイフを投げつけると避けた相手に二歩一撃の要領で接近し肘鉄からの裏拳打ちを決めて昏倒させた。


「これで三人か……」


「ガキが、やりやがったなぁ!!」


 残った二人を見ると社長の取り巻きの三人の内の二人で俺が厄介だと思った人間だ。だが内心で俺はホッとしていた。


(一番ヤベーのが居ない。助かったぜ)


 取り巻きの三人の中の一番デカイ奴だ。あいつが居ない、そして見ると狭霧は神社の入り口まで辿り着いていた。


「死ねやガキぃ!!」


 今までのヤクザとは違って拳を出して来た相手に俺も拳で応じようとしたら、もう一人は手に何か棒状のものを用意していた。特殊警棒のような物を振り回すそれを避けたらバチバチと音が鳴った。


「電磁警棒!?」


「ご名答!! 市街地戦の俺の相棒よぉ!!」


 武器取り、又は無手取りでの無力化は難しい上にリーチが違い過ぎる。足で間合いを取ろうと考えた時に別の一人が接近して俺のリーチを広げさせない。こいつらヤクザと言うよりも戦闘員、プロに近い動きだ。


「くっ、だがっ!!」


 しかも二人一組でのコンビネーションが最大の武器、間合いの外から攻撃手が一人と抑え込む役が一人。しかし甘い、こいつが組み付いてる限りは一緒に感電するから攻撃は出来ない。


「そう考えるよな、普通はさぁ!!」


「でも、出来ちまうんだよ!! これがな!!」


 電磁警棒を更に伸ばすと俺に組み付いた奴が少しだけ体を離したが手でしっかり警棒の先を握り俺に密着させ、そして電流が流された。


「があああああああ!! ぐっ……」


「信矢!!」


 狭霧の悲鳴が聞こえたがそれ以上にまだ逃げてないのかと俺は怒っていた。そして体を貫く電流が俺の意識を極限まで刈り取っていた。


「な、んで……」


「へっ、俺は上半身には絶縁体スーツを着込んで、この特注グローブを付けてるんだぜ? もしかして俺らを他のヤクザ共と勘違いしたか?」


「俺らは谷口社長の雇ったPMC……つまり傭兵だ」


 そりゃヤクザと違うわけだ。軍属上がりの可能性が高い。迂闊だった。そして遠くで悲鳴が聞こえた。狭霧の声だ。


「さっ、ぎり……」


「女はもらっていく社長がまだ利用価値が有るという話でな上手く行けば生きて帰れるかもなぁ……ただ、お前は別だ」


 そう言って俺に組み付いていた奴が銃を構える音がした。


「うっ……ここ、まで?」


「そこまでじゃ!! はあ!!」


 俺が覚悟を決めた時だった裂帛の気合の叫び声が聞こえた。その声は俺の知る古武術の師匠の声だったようだが俺の意識は混濁していた。


「ぐっ、がはっ……なんだこの爺、こいつ、ぐっ!!」


「引け、女は確保した早く社長の元に戻るぞ」


「くっ、ガキ、それに爺、このままで――――「撤退命令だ。退くぞ!!」


 そして車の走り去る音と数人分の足音、それを最後に俺の意識は今度こそ完全に闇に囚われた。


「さ……ぎり……」

誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想ではなく誤字脱字報告でお願いします)


感想・ブクマ・評価などもお待ちしています。


この作品はカクヨムで先行して投稿しています。


下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。

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