第69話「だから私に出来る全力で」‐Side狭霧その9‐
更新再開します。一日二回ペースを目指します。
◇
久しぶりに話せたシンは、第二人格の災害と呼ばれたもう一人の自分の話を聞いて欲しいと私に言った。だから聞きたい、少し怖いけどそれでもシンなのには変わりないはずだからと思うと不思議と自然と話せていた。中学の時は、いきなりビンタもされたし拒絶もされたから凄い怖かった。でもこうなったのは私のせい、だから向き合いたいと思った。でも私の謝罪は簡単には受け入れてはもらえなかった。
「けっ、今更そんな事言われて何になるんだ? アニキは少年院に行かされて竜さんやレオさんも鑑別、立派な前科が付いちまった……分かってんのか?」
「分かんない。けど、私が酷い事したのは分かった……と、思う……」
「思うってな……はぁ、お前のそれは自己満足なんだよ!! お前は自分が謝ったって言うそのポーズがしたいだけだ……」
だって、あの当時の私はシンを助けたかっただけだから……そりゃシン以外の邪魔者を全て居なくさせようとは考えたし、それで解決するなんて思ってた。その結果巻き込まれた人たちがどうなろうと構わないと……でも私は間違っていた。そしてシンに怒鳴られた。怖いけど仕方ないと思っていたら救いの手は予想外の方から来た。
「アニキ、何で狭霧を庇うんですか? 俺は……」
悪いのは私のはずなのにシンの仲間の人たちは皆、私を庇ってくれた。私はこの人達の人生を変えて、酷い目に合わせた張本人と言われても仕方ないと思っていたのに話の方向はドンドン違う意味で核心へと迫った。そして気付けば追い詰められているのはシンの方だった。
「例えアニキや皆さんが言おうと俺はぜんっぜん狭霧の事なんて好きじゃないんで!! 余計な事言わさないで下さい。俺はコイツを矯正したいだけっす!!」
あ、シンが凄い照れてる。小さい頃は、いつも私の事を好きって言ってくれたからこれはこれで凄い新鮮だったけど、でも私には分かった。それと同時にこの状態のシンも私の事を好きでいてくれたのが嬉しくて思わず抱き着いていた。
「うん。分かったよ!! じゃあこれからも私をいっぱい教育してね? 信矢?」
「だっからっ!! いや、良いのか……あ~、もうめんどくせえ……分かったよ。いつまでも、あの睡眠薬みたいなの飲まされんのも嫌だしな……」
ついに折れてくれたシンに抱き着いたままで良いかと甘えたら怒られたけど私には分かった。これは本気じゃない、私が甘えても許してくれた昔のシンだ。周りは色々と話していたけど私はとにかく嬉しくて抱き着いていたら色々と注意されたけど気にしない。慎みを持て? 周りに気を付けろ? してるに決まってる。だって私がこんなに無防備になれるのは家族以外では世界で一人だけなんだよ? シンの方こそ私を知らな過ぎなんだからいい加減に気付いて欲しい。
◇
その日からシンは変わった。朝はクールモードの時と俺が一人称の少し怖い信矢。相変わらず私の好きな優しいシンは出て来ないけど二人とも私に気を使ってくれるし、基本は同じシンだと思えた。その証拠に朝から一緒に学校に行く時に最近割と故障気味の私の足を気にしてくれた。
「取り合えずアニキんとこに顔出したいけど……やっぱ生徒会だ。午後にはメガネに代わる予定。それと狭霧、メガネが気にしてたけど足は大丈夫なのか?」
「え? あぁ……ちょっと練習のやり過ぎなだけだから、もうすぐ大会だし怪我なんてしてられないから大丈夫だよっ!! もしかして心配してくれた?」
図星だったらしく大股で歩いて行くのが少し可愛かった。なんて思っていたら少し足がズキンとしたけど大丈夫。いつものように筋肉痛かトレーニングのし過ぎの肉離れだと思う、信矢に心配もかけたく無いし黙っていよう。
そして信矢の変化に気付いたのは私以外もいた。と、言うよりもあからさまに信矢の口調が変わってるからさすがにバレる。部活中も凛と優菜が気にしていた。
「ねえ、タケ? あんたの旦那、副会長がなんか今日は機嫌悪かったって~?」
着替えながらプシューっと制汗剤をかけながら凛が話しかけて来た。見ると優菜と他にも同学年の部員が集まって来る。最近は信矢の話題で集まるのが多いメンツで三年生が引退したらスタメン候補と言われている面々だ。
「あぁ……うん。まあ、ちょっと……」
「そう言えば、あの時も狭霧を守ろうとしてブチギレてた時は凄い乱暴な言葉遣いになってたよね?」
そう言うと皆でキャッキャッと話している。あれはむしろ私が拒絶されたんだけど優菜の頭の中では完全に違うイメージで固定されてるみたい。こっちとしては好都合だから別に良いけど。
「今日もどうせ下校も一緒なんでしょ? 私も彼氏欲しい~」
「でも竹之内さんのカレシって、あの副会長でしょ? いつも丁寧で真面目なイメージなんだけど?」
「あはは、昔はもっと大人しくて優しかったんだけどね? 高校生になったらあんな感じになってて」
そんな感じで皆とシンの話をしていたら少し気になり出して着替えると待ち伏せするために校門前に向かう。居なかったら生徒会室に行けば良いと思っていたら遠目に信矢が生徒会室に向かうのが見えた。なんかガラの悪そうな生徒と一緒に居たのが気になったけど少し待ってると歩いて来た。
「そこの不良っぽい生徒~!! 待って~!!」
「んだよ、狭霧か。もうそんな時間か……って、誰が不良だ!!」
あ、ノリツッコミとかしてくる。昔のシンなら絶対にしなかったのにな。やっぱり秋津さんとか愛莉さんの影響なのかな? そして翌日も信矢は強気モード(勝手に命名)のままだった。
「信矢~!! いらっしゃ~い!!」
「来た来た副会長、この席借りといたから」
「邪魔すんぜ。てかこっちの教室で良いのか?」
いつも信矢の教室ばかりじゃ悪いと思って今回は私の方に呼んでみたら普通に来てくれた。いつものように弁当箱を渡すと「サンキュ」って言って蓋を開けると口笛を吹いて私を含めて皆が驚いていた。
「今日は反抗期モードかぁ……狭霧良いの? 彼氏グレてるけどぉ?」
「俺様ワイルド系副会長……てかまるで二重人格みたいだね~?」
そりゃ言葉遣いは悪いけど、これはこれで……優菜が地味に信矢の正体を当てて驚いたけど顔には出さないようにムンっと顔に力を入れる。
「あぁん? んなに違うか? お、狭霧この和え物ウメ~な、ほんと、お前腕上げたな。俺ん家の味とか完コピしたんじゃねえの?」
「え? そうかな? この間も翡翠さんに味付け見てもらったんだけど……」
そう言われると凄い嬉しい。クールモードも褒めてくれたけどこっちのシンはストレートな分だけ嬉しさが倍増みたいな感じがした。
「翡翠さんて誰よ? タケ?」
「え? シンママ……シンのお母さんだけど?」
「はっ!? あんた、もう花嫁修業してんの? って、そうか幼馴染か」
そっか、人から見たらそうなるんだ。私はただシンの好きな味付け教えてもらってるだけなんだけどな。
「うん。小さい頃からお世話になってるし、最近はお料理教えてもらってるんだ~」
「そういや俺が入院してた時とか来てたんだったな?」
シンが居ない間に色々とやった事を怒ってるのかと思ったけど、そんな事は無さそうで安心した。
「そっか、じゃあ狭霧と副会長の二人って家近いの?」
「昔は近かったんだけど、色々あってね~引っ越したから」
そんな事を話していると信矢はすっかり食べ終わっていた。私も少しだけペースを上げて食べ終えると少し急ぎ過ぎてつまりそうになる。
「ったく、ほれ……どこにも行かねえから水飲んで落ち着け、な?」
すぐに私の異変に気付いてペットボトルのお茶を渡してくれて慌てて飲むと落ち着いた。急いで机の横に置いてたデザートを出す。
「んぐっ……ふぅ……えっと、今日のデザートは梨だよ」
「梨か、旬には少し早ぇけど……って、何してんだよ?」
「え? いつもの『あ~ん』だよ? 信矢の方こそ何言ってるのかなぁ~?」
急いでたのはこれが理由で信矢がご飯を早く食べてたのは逃げる気なのが分かったからだ。第三人格のクールモードも照れてたくらいだから、この信矢は絶対に逃げると思ってたから先手を取りたかった。
「いや、あれはよ……」
「ふ~ん、自分の教室じゃ出来るのに、こっちでは出来ないんだぁ……信矢も案外と《《漢じゃない》》んだね?」
「んなっ!! ったく……さっさとしろ。恥ずいからよ」
「うんっ!! はい、あ~ん」
あれから私は愛莉さんとか真莉愛さんのアドバイスが聞いて成長していた。シンは基本的に頭は良いけど単純で頭で考えないで動けるアニキさん、つまりは秋津さんに憧れているから、そこをちょっと刺激すれば分かってても乗って来る。あとはこっちが気付かない振りをしてあげれば大丈夫だって汐里さんも言ってた。やっぱり本当のカレシ持ちの人達のアドバイスは凄い、シンも案外チョロいね!!
「おいしい?」
「あぁ、うまい……って二つ目!?」
「そうだよ~。逃げないでね? し・ん・や?」
その後はクラス中が騒然となっていたけど構わず私は信矢に食べさせた。そして気付いた。確かに口は悪いし怖いけど今の信矢も基本は同じ。どこか優しいし、少しだけ甘やかしてくれる。私が大好きな信矢のままだってハッキリ分かったんだ。
◇
グループ名『シャイニング彼女連合』
幼馴染《狭霧》【怖い方のシンにも梨をあ~んしてあげました】――5秒前
聖母様《真莉愛》【狭霧ちゃんやるぅ~】――たった今
読書家《汐里》【写真撮れました?】――たった今
元締め【そらまた、シン坊どうなった?】――たった今
すぐに皆から返信が来た。某アプリのグループ機能で私は最近お姉さま方からアドバイスを貰っている。あの日シンが秋津さんや他の男の人と話している時に私達は私達で女同士で話していたら真莉愛さんがグループを作ろうと話になって四人のグループを作成した。そこで今後の方針を三人に相談する。
聖母様【なるほど、じゃあ押しの一手ね】―――8秒前
幼馴染【でも、やり過ぎはマズいかも】――たった今
読書家【春日井君は押しに弱いよ竜くんと似てるかも】――たった今
元締め【てか狭霧ちゃん? 今どこよ? 店にシン坊来てるけど?】――たった今
実は放課後、信矢のお母さん、つまりは翡翠さんから連絡が来ていた。そこで部活終わりに信矢を探していたら愛莉さん達の店に居るのではと近くに来たけど言い出せずにいたら、何かを察した愛莉さんに店の前に居ると白状すると出て来た愛莉さんに捕まって店内まで連れて来られた。
「外で待ってたから捕まえて来たよ狭霧ちゃん」
「ご、ごめん。信矢……その、アプリで連絡したけど返事無かったから……その」
その後は道すがら話していたら信矢の今の状態は色々と複雑らしい、でも二人で一緒にまたシンの家に行けたのは嬉しくて、だから安心していたら信矢の両親の告白に驚かされた。二人は信矢が多重人格になった事を知っていたと言った。私だってつい数週間前に知ったのに二人は数年前から黙っていたらしい。色々と言い合いになって信矢を追おうとしたらシンママに呼び止められたので話を聞く事にした。
「私は……信矢の状況を知ったのは最近なんです」
「そう、ごめんなさいね。あなたにだけは言うなって」
「はい、シンが、本来の信矢が私を守るためにって……だからシンママも二人は悪く無いんです。私が……悪いんです」
悪いのは私だ。シンは私のために頑張ってたのに、その努力を台無しにして自分の我儘でシンを独占しようとした。それに今は相談にまで乗ってくれる良い人達に散々迷惑をかけた。みんな許してくれているけど私は罪悪感でいっぱいだった。今もシンが許せないのも当然だと思う。私がもし同じ立場でシンに酷い事をした人が居たのなら絶対に許さないから。
「でも狭霧ちゃんは、あの子のために」
「違うんです……私は、シンを誰にも取られたくなかったから……」
私が間違ってた事をシンの両親に話すと二人は神妙な顔をした後に、シンパパこと優一さんがそれでも私は間違ってないと言った。
「でも、私は我儘でシンに迷惑を――――」
「確かにな、しかしアイツはその過程で誰にも告げずに動いた。相談出来ない環境だったのかも知れない。アイツにも何か考えはあったのかも知れない。だけどな狭霧ちゃん、どんな理由があろうとも社会的道義に反して警察にお世話になるような時点でアイツは間違っている。それがどんなに正しいと思ってもな?」
「そ、そんな……シンは仲間や街を守ろうとしたって」
「自分の正義を見つけるのは悪い事では無い。しかし余りにも視野狭窄、今のあいつにはそれが分からないかも知れない。守る者が無いアイツにはな……それが分かってない内はな、ただの子供の妄言なんだよ……」
ふぅとため息を付くと黙ってしまった優一さん。そしてその後に信矢を呼んで来て欲しいとシンママに言われて私は久しぶりにシンの部屋に入った。不機嫌そうだったけど、それ以上に何か悩んでたように見えて、だから私は慎重に言葉を選んだ。
「あっ、あのさ、信矢? シンママが、私もご飯食べて行って欲しいって……いい、かな?」
「勝手にしろよ。俺も勝手にする」
「一緒に、食べよ? ね?」
視線を合わせてくれない信矢を下から覗き込むように言うと顔を逸らした後に納得してくれて一緒にご飯になった。小さい頃は、このテーブルに霧華も居てシンパパはあんまり居なかった代わりに、うちの母さんが居て男の子はシン一人だったのを覚えている。
「わっ!! 本当にロールキャベツだっ!!」
「狭霧ちゃん好きだったから、どうかと思ってね?」
「はいっ!! あと出来れば今度作り方教えて下さい!! 覚えたいです!!」
覚えたらシンのお弁当には……難しいから、私の家に来た時に作ってあげようと思っていたら信矢がポツリと口を開いた。その後はシンママと私と言い合いになったりしたけど話は平行線で、今度はシンパパが冷静に信矢の言いたい事を受け止めた後に静かに諭していた。それでも信矢は止まらなくて、だから私は真剣に信矢に偽りの無い本当の気持ちをぶつけた。最後はダメだけど泣きながらお願いもした。
「…………俺が悪いって、そう言う――――「違う、違うよ!! 皆ね、すれ違ったんだよ。でもね、そのすれ違いも全部……終わりにしよ? ね?」
「そんな簡単に、加害者が今さら……違う、俺も、なのか?」
その後、シンパパの話は良く分からなかったけどシンは納得してた。シンママも謝って、その後に信矢も自分が悪いと謝っていた。まだ葛藤は有るらしいけどそれでも仲直りしようと、家族の関係をやり直そうとしてくれたのが嬉しくて、そして私にも嬉しい事が起きた。
「ああ、それと狭霧、俺は相変わらずこんな感じだ。他二人と違ってオメーをまだ完全に信用出来ねえ、それでも……幼馴染に戻るか?」
「ほんとに戻って……良いの? 私、いっぱい甘えるよ? 三年分したかった事、全部しちゃうよ?」
「適度な距離を取らせるように矯正はする、それはこの間アニキ達の前で言った通りだ。今日からお前とも幼馴染復活だ、良いな?」
「うん……じゃ、上でゲームやろ!! 良いよね!?」
その日はシンのお家に泊まって行って二人で遅くまでゲームをしようとしたのに私は疲れて寝ちゃって気付けばシンのベッドで目が覚めた。本当はシンママの部屋で寝る予定だったのをシンのベッドから動かなくなったからそのままになったらしい。なぜか凄い怒られた。
「お前はもう少し危機感を持て、頼むからよ」
「え? でも信矢しか居ないよ? この部屋」
「だから、そう言う意味じゃなくてだなぁ!!」
信矢が珍しく顔を真っ赤にして怒っている。そう言えばパジャマが無いからシンのジャージを貸してと風呂上りに言った時も怒られた。昔みたいに二人だからその場で着替えようとしただけなのに……。
「あっ、もしかして信矢は私に何かするのぉ~?」
「すっ、する訳ねえだろっ!! なに言ってんだ!!」
「ふ~ん、私はいつでもいいからね?」
そう言ってからかったら部屋から追い出されてしまった。でも嬉しかった。今の信矢は昔以上に私を意識してくれているって分かったから。
◇
それから数週間、信矢のクールモードと強気な不良モードの両方と話して行く中で私の中の違和感が徐々に無くなって行った。特に不良モードの方はシンが一生懸命不良っぽくしている感じがして新鮮な感じだった。そんなある日、私は信矢に告白する宣言をした。今思えばこの時点で告白はしているような気がするけど、問題はその後の帰り道だった。
「ナンパかな? 怖い……シン」
「ああ、俺と一緒なら問題無いが……狭霧も気を付けろ……あいつら見た事無い奴らだった……」
信矢が言うには街に不穏な気配がするから家まで送ると言ってくれた。しかも夏休みの日まで毎日送ってくれるらしい。理由は私が一番ターゲットになりやすいからと言われた。イマイチ意味が分からないで居ると家の前で別れるタイミングで部屋から出て来た母さん。多分見てたんだと思うけどシンを引き留めてくれた。
すぐに夕食の用意をすると言ったけど、夕食の用意は私がすると言って全速力で用意した。と言っても煮物とかは朝のお弁当の残りだったり不安だったけど信矢には大好評だった。
「あ? 旨いぞ? てか昼の弁当で味は分かってるしな、今回は手際に驚いてたんだよ。もう熟練だな?」
「う、うん……これで信矢のお嫁さんになれるかな?」
「ん? なんか言ったか?」
「なっ、何でもないよ!!」
ついポロっと言ったけど信矢には聞こえてなくて安心した。言うのは県大会優勝後で全国へ行く時だ。母さんにはバッチリ聞こえていてニヤニヤされた。まだまだ私のボーナスタイムは終わらない。もうすぐテスト休みに入る前の部活中に私の足は唐突に限界を迎えた。
「あはは、ちょっと挫いちゃったかな?」(足首でごまかせるかな? 本当に痛いの膝なんだけど……ちょっとこれはマズい……かも?)
その時はシュート後の着地に失敗して足首を挫いたけど本当の原因は違う。膝の皿付近に一瞬だけ激痛が走りバランスを崩し、それで倒れてしまった。上手くこの場を切り抜けようとした私に一番会いたいけど今回は一番会ったらまずい相手が来てしまった。それはもちろん信矢のことだ。部活終わりだから来るのが遅い私を心配して来たらしい。
「怪我……では無いのですね?」
「うん、捻っただけだから大丈夫だよ……」
すぐにバレて凜と優菜それに部長までが私の状態を詳しく話し出す。信矢にバレるかと思ったら、いきなりメガネを取った。そして強気なモードが怒鳴りながら私の足を触診し出した。小さい頃はよくやってくれて懐かしんでいると何かを考えている。たぶん信矢なら私の足首を触っただけで何となく分かったはずだ。膝には触れてないからバレる前に私は信矢に甘える事にした。今の信矢は昔より鋭いけど同時に私にも少しだけ遠慮が有るからそこに付け込む事にした。
「今日は怖い方の信矢が優しいよぉ……じゃあ抱っこで!!」
「調子乗んな。オメーの家まで15分は歩きでかかんだぞ? 腕が持たねえよ昔と違ってお前も育ったからな…………おんぶまでだ。今日は帰るぞ着替えて来い」
私の思った通り甘えると今のシンは凄い照れ屋さんになった。だからゴメン、全国出場までは……信矢に告白するまでは多少の怪我なんて気にしてられないから。凜と優菜に肩を貸してもらって更衣室に入って着替える。思ったより膝は痛いけど大会が終わるまでの辛抱だから大丈夫なはず。中学でも成長痛で似たような事はあったし問題無いとは思う。
「ね? 信矢……」
「なんだ? 今さら恥ずかしいとか言うなよ?」
おんぶしたままの帰り道なんていつ以来だろうか、小学生の頃はよくしてもらってた。あのイジメが起きるまでは……あんな事さえ無ければ中学でも……。
「ま~た何か余計な事でも考えてるのか?」
「う、うん……中学の頃とか、もっと昔おんぶしてもらった時のこと思い出してた」
「そうか、狭霧……今度は、何があっても俺は――――」
最後の方は聞き取れなかったけど、たぶんカッコいい事言ってたんだと思う。男の子はカッコ付けだって真莉愛さんが言ってたし、ちゃんと最後まで分からなかったのは私が信矢の背中でウトウトして夢うつつのまま話をしていたから。ちなみに右膝の痛みも足首の痛みも二日もしたらすっかり取れて何も異常は無くなっていた。ただ毎朝シンが私の心配をして来てくれるのが嬉しくて夏休みまでは毎日が楽しくて仕方なかった。昔のように戻れて本当に嬉しかった。
◇
テストの結果で信矢には説教されたけど私はスポーツ特待生、だから本業をしっかりやれば問題は無い。夏休みに入ってからもしっかり部活に打ち込む。足の不調はたまに違和感を感じる程度だから成長痛だったのかもしれない。全国に出るなら万全にしたいからお盆の後に出も検査をすれば良いと思って私は今日も部活を頑張る。だって部活上がりには信矢が待っててくれて、一緒に帰れるからで、それが崩れたのは『SHINING』絡みだった。今回は事前に愛莉さんから連絡もあってその上で信矢は私のためって言って今回の件に協力したと聞いて嬉しくなった。
「じゃあ行きますか!!」
スマホの待ち受けを見ながら昨日シンママが届けてくれた信矢の作ってくれたレモンの蜂蜜漬けを舐めながら私は気合を入れ直した。次は第三クオーター、試合はリードしていてもまだまだ気は抜けない。
「タケ、ま~た旦那の写真って……今日はそれまで、フル装備ね?」
「うんっ!! だって全国行くって信矢と約束したから!!」
そう言うと部長が背中をバシッと叩いて気合を入れてくれた。そうだった、今は目の前の相手を倒して準決勝に進まなきゃいけない。
「気合は充分ね。今年こそは男子だけじゃなくて女バスも凄いとこ見せるわよ!! なんせ今年は一年からエースで今一番リア充のタケが居るんだからね!!」
なんか凄い照れるけど皆の気合が入ったのが分かった。そしてアッサリと私達は四強にまで残れた。あと二回で信矢に告白だと思うと気合が入る。
でも私達の運命を変える出来事が起こるなんてこの時の私は思ってもみなくて、今はただすぐに信矢に電話したいとしか考えて無かった。
誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想での報告は止めて下さい)
ブクマ・評価などもお待ちしています。
この作品はカクヨムで先行して投稿しています。(未公開の話もカクヨムで公開しています)
下に他サイト・他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。