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フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第三章『未来のための喪失』編
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第63話「もう一つの自我変更解決方法」

後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。


「俺が出て良いのか……って言っても仕方ねえか……で? 離れろよ女」


「さ・ぎ・り!! リピートアフターミー!!」


「うっせ!! それよりそこの――――「さっきまで泣いてたくせに強がって~♪ こう言うとこは案外シンっぽいよね?」


 クソが、あんなに派手にボロ負けしておまけに今はコイツに肩貸してもらってるとか笑えねえ。


「さて二度も殴られるわけには行かないからな。ズバリ第二人格の君にも協力してもらいたい、具体的に言うと人格が入れ替わっても暴れないで欲しい」


「俺を化け物みたいに言うんじゃねえよ、俺はコイツさえ関わらなければ別に何もしねえよ。あと基本の人格を俺に寄こせば何もやらねえ」


 俺は人工的に作られた野郎や弱い雑魚には用は無い。俺こそが主人格でそれ以外は望まないだけだ。


「それは困るなこちらは第三人格、外装に戻ってもらう必要が有る。それに竹之内さんは本来の人格に戻って欲しいみたいだがな?」


 そう言うと俺を含めた全員が狭霧を見ると少しビクッとした後にこっちを不安そうに見るが俺は視線をそらす。一々甘えんなよ、仕方ないから手くらいは握っておいてやる。


「私は……シンに戻って来てもらいたい。でも、シンの病気? ならこれに向かい合わなきゃいけないのは分かったから……」


 病気か、俺としては病気じゃなくて覚醒のイメージなんだが、やはり周りからは俺は自然発生した異質な存在、誰にも求められてない、だけか……。


「あの、第二のあんたもゴメンなさい。許してくれなくても構わない、だけど言わせて欲しいの……本当に酷い事いっぱい言って、傷つけて、裏切って……ごめん、なさい……」


 そこで狭霧のやつは真剣な眼差しで俺を見て深々と頭を下げて少し肩が震えていた。一応コイツなりの誠意を示したつもりだろうが、正直、虫唾が走る。


「けっ、今更そんな事言われて何になるんだ? アニキは少年院に行かされて竜さんやレオさんも鑑別、立派な前科が付いちまった……分かってんのか?」


「分かんない。けど、私が酷い事したのは分かった……と、思う……」


「思うってな……はぁ、お前のそれは自己満足なんだよ!! お前は自分が謝ったって言うそのポーズがしたいだけだ……」


 イライラする、やり直せるとか言う奴は本当に頭が幸せだ。そもそも狭霧は弁護士の娘だからその辺りは……無理か、リアムさんは甘やかしまくってたからな……。そんなんだから狭霧は……。


「シン、よせよ、またシメるぞ?」


「アニキ、何で狭霧を庇うんですか? 俺は……」


「シン君、君は相変わらず真面目だね? だけど間違わない人間なんてこの世の中に居ないさ。俺も、そして君もね? もしそんな人間を夢想するなら、それは物語の中だけにしか居ない聖人だよ」


 無駄に説得力の有る人の発言でレオさんの後ろに居る真莉愛さんも頷いている。そりゃあ……この人のやらかし具合は凄まじいからな。


「だから許せと? 俺は狭霧にそんな人間に――――「本音隠してカッコつけてる奴よりも素直に自分の言葉で謝ったり、本当に感動して握手求めて来るようなアホの方が俺は好感が有るがね?」


「うん。前も言ったけど竹之内さんには感謝してるんだよ? 私も人に説教出来る立場じゃないけど、春日井くん。少し意固地だと思うな?」


 竜さんと汐里さんも畳みかけるように言ってくるし、お似合いで羨ましい……俺だって……狭霧と……。


「ですが、三人の、それにここに居ないサブさんや多くの人達の人生に影響を……」


「で? 最後はアタシらを出しにして狭霧ちゃんに色々言う……ほんと分かってみると案外単純ね? あんたも含めて三人とも実は根底は一緒なんてねぇ……」


「そもそも俺は帰って来た時点で分かったのに、お前ら気付かなかったのか? ったく兄貴分として言っておいてやる。好きなら好きって言え、それが漢だ」


 そうなのか?いや、俺は……無意識に? いいや分からない、分からない筈なんだ……俺はあいつらとは違うっ!!


「例えアニキや皆さんが言おうと俺はぜんっぜん狭霧の事なんて好きじゃないんで!! 余計な事言わさないで下さい。俺はコイツを矯正したいだけっす!!」


「うん。分かったよ!! じゃあこれからも私をいっぱい教育してね? 信矢?」


 そう言うと狭霧が抱き着いて来やがった……周りの生温かい目が不愉快だ。これじゃ俺が一人で駄々こねて我儘言ってるようにしか見えないじゃないか。だから俺は反論しようと思ったけど良い考えなんて思いつかなかった。


「だっからっ!! いや、良いのか……あ~、もうめんどくせえ……分かったよ。いつまでも、あの睡眠薬みたいなの飲まされんのも嫌だしな……」


 そう、あのクソメガネ(第三人格)が飲む変な薬、あれで毎回眠らされるんだよな……あとメガネかけてる時は金縛りみたいに動けなくなるしな。と、そんな事を愚痴った時だった、お節介野郎の天才様が何か出て来やがった。


「なにっ!? ES276はそのように作用してるのか!? 信矢、具体的にはどのように動きを阻害されているんだっ!?」


「話せばあの薬止めさせるか? あれは全体的にマジーぞ? 外装の強化とか言ってるけど実際あれは痛みを和らげてるだけで……フィードバックやべえからな……あの弱虫が一番割り食ってんの知ってんのかよ?」


 そう、あの人格が変化する瞬間、一番苦悶の表情をあげているのは第一のアイツだ。俺は眠らされたり動きが抑えられ、結果的に動ける第三の野郎がピンピンしている状態になっている。


「えっ、仁人さま……そんな報告は……」


「されて無いなぁ……感謝するぞ、薬の改良が必要だな。他は?」


 その後も質問攻めにされている間、狭霧は俺の腕に抱き着いたままだった。離れろ、あと乳くっ付けてくんな。無駄にデカイんだからって他の二人も注意して言ってんだろうが……。


「そう言えば気になったんだけどシン君? そこの二人の話だと竹之内さんが近くに居ると頭痛が酷くなるんじゃ?」


「ああ、それっすか、あの二人はコイツの事を考えるとストレスと好意が逆転したりして頭痛が激しくなって壊れるみたいなんですよ。で、俺はそもそもが奴の逃げ場だったんでストレスには強いって言う訳なんす」


 レオさんの疑問は最もで、今まであいつらの状況を聞けば当然の疑問だと思う。だが考えてみて欲しい、そもそも俺が生まれた理由は、弱いあいつ、第一人格のあいつの逃避から生まれた。だから第三と違って俺と奴は表裏一体だ。それと同時に俺もいずれストレス耐性が無くなれば壊れるのだろうかとも疑問を感じている。


「じゃあこのままくっ付いてて良いの?」


「良いわけねえだろっ!! どさくさに紛れて何してんだよ……オメーさ。他の二人にも言われてただろ? 改めて言うが、もっと慎み持ちやがれ!!」


 それにしてもこのバカは、本当にあいつら甘やかし過ぎだ。だからいい加減分かった気がする。アニキも言ってたしな、コイツの事を好きとかそんな気持ちは欠片もねえけど俺は決めたぞ。


「信矢? どうしたの?」


「実験にはぜっ~~~~たいに協力しねえ、あくまで大人しくしてやるだけだ。それなら文句ねえだろ!?」


「ああ、これでコロコロ人格が変わっても最後は君で防げる。君が安易に暴走さえしなければね?」


 向こうの要望は意外とシンプルで学園生活をキチンと送る事、狭霧に対して罵詈雑言を吐かない事、条件として第二人格時は実験に協力しない事だった。


「それじゃあんたは何て呼べば良いの? 信矢?」


「勝手にしろよ俺には関係無い――――「あ~拗ねてる! ゴメンゴメン。やっぱり信矢って呼ぶけど良い?」


「二度も同じ事言わせんな。それよりアニキ達はここの交渉どうすんですか?」


「あぁ? そりゃあ、条件全部吞んでくれんだろぉ~? スポンサーさんよ?」


「アハハ……俺はそれで構わないが、七海?」


 お節介野郎こと仁人の野郎がチラリとお嬢を見ると不満顔で了承していた。さり気無く愛莉姐さんがご機嫌伺いをしている。取り合えずは解決か……はぁ、あの二人の事を言えやしねえ。





「ま、そう言う事でマジでおんぶに抱っこになるんだが、そこんとこよろしくお願いするぜ? オーナー様よぉ?」


「分かりました。先程も言いましたが昼は喫茶店の営業の方も頼みます。そして隠れ蓑にしてここを私たちや春日井君も含めて利用させて頂きます」


 あれからアニキがサラサラと契約書にサインしていくから俺は後ろから心配になって見ていたが意外とアニキは契約書の不備とかを指摘したりしていたりしてお嬢相手に一歩も引いて無かった。


「それは問題無いよ。それより七海……アタシは出来ればこっちを手伝いたいんだけど厳しいかな?」


「構いません。ただ特命の時には来て頂けると助かります。出来れば、その……」


 話を聞いていると俺と愛莉姐さんが直接戦った後から七海先輩の護衛と言うか私的な相談役?みたいなものをしていたらしい。そして七海先輩はなぜかアニキの方もチラっと見ていた。


「俺もか? いいぜ今回はシンの事とは言え俺も頭に血が上り過ぎた。ある程度は頭数で考えてくれ。利用されてやるよ」


「助かります。この件とは別に報酬も出しますので」


 その後も色々と話して居ると狭霧のやつが暇になったのかチョロチョロし出したので監視しておく。


「ったく、落ち着かないのは分かるが……」


「だってさ、バーとか喫茶店とかカッコ良くない? 私そう言うとこ行った事無いんだファミレスとかカラオケは行くようになったんだけどね」


「あぁ……確かにオメーはお嬢だから行かないわな。俺はアニキ達とよく飲み屋とか焼き肉屋とか行ったなぁ……」


 そう言えば俺は中坊であんなとこ出入りしてたんだよな。ただのガキがいっぱしに大人に混じってバカやってたもんだ。まだ二年前だけど中々笑えるな。


「それ不良だよ!! あと大人になったら二人で行こうね!!」


「そこまで腐れ縁が続いてたらな……それにしても焼肉ねぇ、久しぶりにガッツリ食いてえな。最近はお上品なもんしか食ってねえしな」


「そうだよ!! 信矢、中学の時に、この人たちに焼肉無理やり奢らされてた!! あれってイジメだよっ!!」


 場に緊張が走り、真莉愛さんと相良さんがそれぞれの恋人を睨むので慌てて二人を庇おうと思って当時の事を語りだす。


「え? あぁ……あれか、あれは違いますよ……イジメってか罰ゲームだな……」


 そう、あれは今から三年前、狭霧に誕生日プレゼントを渡せないで鬱屈していた時の事だ。



――――三年前・某焼肉屋前――――



 あの日もファイトマネーが入って六人で何に使うかを考えて親バレが無いように動こうと言われて飯を食おうと言われ戦勝祝いに焼肉へとなった。そこで俺達はせっかくだからあるゲームをしようとなった。


「んじゃ、払ってもらいますぞ信矢氏? やはり5000円誤差はデカかった」


「おう、頼む!! 次からはもっと金銭感覚は身に付けねえとなっ!!」


「ではゴチになりますね? シン君? 今度は値段の勉強とかしましょうね? デートでは大事な事ですよ?」


 そう言って後ろから軽く小突かれたり、背中をポンポン叩かれたりして苦笑した覚えがある。レオさんが言ったように某テレビ番組の値段当てで一番予想金額から遠かった奴が全部払うと言う奴だ。


「ま、アタシらの完全に負けだからな? 次は負けないように頑張ろうよ?」


「ったく、な~んでタン塩が一番高いと思ったんだよっ!!


「あいたっ!! 叩くの止めて下さいよ~竜さん、俺の行った事ある店では上タン塩が一番高かったんすよ~!!」


 と、こんな感じだったな……狭霧にそう言うと俺が完全に無理やり奢らされているように見えていたらしい。





「そして何よりも許せなかったのは……許せなかったのは……愛莉さん!! 信矢を抱きしめてました!! あれはダメですっ!!」


「あぁ~あれか……あれはなぁ……シン坊言っていいのかい?」


 そう、あの時俺が泣きそうなっていたのは狭霧への誕生部プレゼントを渡しそびれた時だ……確かに愛莉姐さんの行動はあれだったけど凄く安心したんだ。


「えっ、いや……あれは勘弁して欲しいって言うか……」


「何? また隠し事なの?」


 不安そうな顔の狭霧を見ると俺まで落ち着かなくなるから、なら俺は俺のためにこの三年間の秘密を言う事にした。大事な事は言わなきゃ分からないのはこれまでの経験でよく知っていた。


「はぁ……ま、ストレス無く言うのは俺が一番か……お前への誕生日プレゼント渡せなかった事を相談してたんだよ」


「それって……中学の? 一年の時の?」


「ああ、あの時さ、お前は皆に囲まれてて半分不良の俺は、第一人格の俺は少し塞ぎ込んでいたからな、お前が、狭霧が遠くに行ったように思っていたんだよ。そしたら愛莉姐さんが抱きしめてくれてさ」


「うぅ、それ言われると……それに一応筋は通ってる? でも納得は出来ないよ」


 そう言いながらいよいよ俺に抱き着く力を強める狭霧を俺は強く押し返す事が出来なくなっていた。無理だろ……コイツを俺は……そう思っていたら話の終わった愛莉姐さんとアニキがやってきた。周りから今の話を聞いたらしくて仲裁に来たようだ。


「まあ悪かったよ。あん時のシン坊があんまりにも可哀そうでな……つい抱きしめたんだよ」


「ま、あの時のシンはこの世の終わりみたいな顔してたからな?」


 そこでプレゼントを渡せなくていかに第一人格の時の俺が情けなかったのかをアニキが語って行く内に、俺はどんよりした顔になるったがそれと反比例して狭霧は笑顔になって行く。


「うんっ!! なら許すよ!! 信矢そのプレゼントってまだ有るんでしょ? 今年ちょ~だい!!」


「取ってある事前提で話を進めんな……ま、今も取って有るけどよ……」


 あいつらが捨てる訳ねえからな。もちろん俺もせっかくのファイトマネーだから捨てるなんて勿体ない真似はしたくなかったがな。


「うん、やっぱり信矢、だよ。じゃあ今年は、今度こそ、二人で、プレゼント交換しよう!?」


「他の二人に言えよ。たぶん何とかしてくれるはずだ……」


「うんっ!!」


 なぜか狭霧は自信満々な笑顔で俺の方を見て来ていた。俺はどうして良いか分からないけど今は他の二人に習って彼女を見守る事にする。許した訳じゃない、だが俺も前に進む時が来たとそう思ったから……それだけだ。俺が主人格になるためにも少しは協力しなくちゃいけねえ。ただそれだけだ。


「ま、俺も少しは協力くらいするって事だ」


 ポツリと呟いた俺の決意を聞いたのは誰も居なかったと思う。ほとんど心で呟いたようなものだからだ。しかし狭霧には何か見透かされてるような、そんな気がした。

誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想での報告は止めて下さい)


ブクマ・評価などもお待ちしています。


この作品はカクヨム様で先行して投稿しています。(未公開の話もカクヨムで公開しています)


下に他サイト・他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。

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