第60話「合流、集う輝きの仲間たち」
後書きの下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。
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竜さんと再会して一週間、何だかんだで朝は狭霧と一緒に登校し昼はその友人らと一緒に弁当を食べ、帰りは家まで彼女を送る。そんな毎日の流れが出来ていたそんなある日の事だった。愛莉姉さんから連絡があった。
『日曜の11時に南口商店街前に集合、必ず狭霧ちゃんも連れて来るように』
このようにアプリで通知が来ていたのでその日の昼に狭霧にそのメッセージを見せると狭霧も土日の部活はまだ再開してないと言う話なので問題無く一緒に行く事になった。しかし何を思ったか狭霧は準備があるので南口では無く駅の改札の広場で二人で集合して一緒に行くのが良いと言い出す。
「分かりました。しかし準備とは……」
「ふふん。ま、任せてよ。それより今日のリンゴだよ? ア~ン」
いつものようにウサギりんごを「アーン」してもらいシャリシャリ食べながら予定を確認していた。ちなみに周りも適応力が早く既に風景の一つとして受け入れている。狭霧の友人たちがクラスに居るのも既に日常風景だった。
「アーン……では後ほど、今日もいつも通り校門でお待ちしてます」
「うん。ちょっと話したい事もあったし、それで!!」
◇
そして現在、私は午前一〇時に改札口で待機していた。狭霧はあの容姿なので先に待たせていたら高確率でナンパの危険性が有るので一時間前に待機していたのだ。さすがに今日は制服では動けないので私は私服だ。グレーのジャケットに白の無地のシャツそして黒のアンクルパンツと言う装いだ。普通にジーンズにTシャツで出ようとしたら母さんに捕まりこの間マネキンが着ていたものを全て買っておいたと言われ、これに着替えさせられたのだ。
「確かに動きやすい服装ですが……ふむ、やはりジーンズの方が丈夫ですし耐久度を考えれば……」
色々と考えていたが流石に一時間前は早すぎたと思ってスマホを確認しボーっとしていても仕方ないからネットニュースを読んでいると気付けば三〇分が経過した頃だった。
「だ~れだっ?」
全く気配を感じず視界を遮られた。迂闊だったと考えると同時に私に気配を感知させないのは今のところ世界に一人しか居ないし何より声で私が間違えるなどあり得ないのですぐに答える。
「狭霧? 相変わらずこんな子供っぽい事を……」
振り向いて見るとそこには天使が居た。いつものブロンドの髪にヘーゼル色の瞳は美しく輝いているのはもちろんのこと、彼女の装いは明るい若草色のワンピースに花柄をあしらったもので、その上に半袖の白いカーディガンを羽織っていつもとは違う新しい魅力に溢れたコーディネートだった。
「こう言うのやりたかったんだ~。でも本当は『待った? 今来たとこ』もやりたかったんだよ~!! 信矢早すぎるよ~!!」
「え、ええ……そう、ですか……えっと……その」
狭霧の私服姿。最後に見たのはいつだったのか……可愛らしさの中にも確かに女性らしさが出ていて昔よりも魅力的で私の心臓はバクバク鳴っていた。なぜかこう言う時に出て来るはずの頭痛が今日は弱めで気にならない。そんな事を考えていたら後ろから声をかけられた。
「シン君そこはまず褒めてあげなくちゃダメですよ?」
「あ、そうだった……。すいません狭霧、見惚れてました。天使のように幻想的で、そして凄い美しいです……って誰だ?」
「信矢……天使だなんて~……って……その人って」
「っ!? レオさん……!!」
ブルーと金の二色メッシュでにこやかにこちらの背後に立っていたのは甲斐零音、私の師の一人でもあり何より大事な仲間で友人で先輩だ。
「久しぶり、いやそこまででも無いかな? それと幸せそうで何よりだよ」
「お久しぶりです!! あの時はすいませんでしたっ!!」
「そこは『ありがとうございました』の方が良かったかな? 僕の方も最後を任せて悪かったね。そしてよく一人で頑張ったね」
そして握手をされる軽く握った後に軽く胸をトンと押される。
「それにしても前に見た時よりも幼馴染の彼女さらに綺麗になってるね? 僕みたいに目ざとい人間なら今日の彼女は放っておかないと思うよ。本当に魅力的で僕も追わず声をかけたく――「れ~お~ん? まさか、ま~た女の子に声をかけようとしてなかった?」
「ま、まさか……ただ真莉愛、女性を褒めるのはエチケットの話で――「ふぅ、問答無用っ!! しかも後輩の彼女にまで!! 本当に昔から!!」
レオさんが耳引っ張られて怒られてる。しかも割と本気で弁解している。私が過去に見たどこか飄々としていて笑顔を絶やさないようにしながら敵を倒して行く時とはだいぶ違う……。
「信矢? 止めなくて良いのかな?」
「ええと……良いんじゃないかな? あと狭霧、今日はサンダルみたいですし手を繋いでおきますか?」
「えっ、うん。でも頭痛は大丈夫なの?」
心配そうにしているけどあなたは本来それをドンドンして行かなきゃいけないんですよ?本当に優しいですね狭霧は……と、浸っていると零音さんと真莉愛さんがこっちに来た。
「ごめんね春日井くん。うちの零音が……それとお久しぶりね」
「はい。その節は色々とお世話になりまして……」
「むしろお世話になったのは私と零音かな。それと聞いたんだけど汐里ちゃんとも会ったんだって?」
そこからは狭霧にも二人を紹介すると真莉愛さんはしきりに狭霧に話しかけていた。中学の頃の私の話とレオさんの話を聞いていて話したかったらしい。
「ところでシン君それと竹之内さんも君たちも愛莉さんに呼ばれたのかな?」
「はい、私と狭霧をご指名でした」
「僕の方も真莉愛と来てくれって言われてね。聞いたら竜くんも呼ばれてるらしいよ。たぶん相良さんとも一緒なんじゃないかな?」
愛莉さんが私たちを呼ぶ用事なんて限られてる……私と狭霧だけなら私の人格関連かと思ったが……もしかして二人に事情を話すため?しかしそれなら真莉愛さんや相良さんを呼ぶのは変だ……。そうして四人で歩いていると集合場所の南口に到着すると人だかりが出来ていた。
「どうしたんだろ? 信矢?」
「なんか騒いでるようですね……レオさん?」
「一応見に行くよ。ごめんシン君、真莉愛を頼むよ」
そう言うとレオさんが走って行った。真莉愛さんも不思議そうな顔をしているし心当たりは無いようだ。私もそして二人も気になったようなので歩いて行くと数人の男女が言い合いをしていた。ナンパとかそう言う感じかなぁ……とか思って見ると男の方は分からないけど女性の方は知り合いだった。
「愛莉姉さん!?」「愛莉さん!!」
私と狭霧はほぼ同時に言っていた。その瞬間に愛莉姉さんとその男たちの間に二人の男が割って入った。
「愛莉さんに手を出すとか、さすがに放っておけねえな? レオ?」
「そうですね竜くん。南口にはずいぶんと舐めた事する連中がいるみたいですね?」
「遅かったじゃない。二人とも、で? 一番末っ子は遅刻?」
そう言うと愛莉姉さんはこちらに気付いているように言う。そう言われては仕方ない。レオさんには悪いけど狭霧の方を向くと頷いてくれたので走り出す。
「お呼びならば、ここにっ!!」
「遅いシン坊!! ま、どうせ狭霧ちゃんから離れて無かったんだろう?」
「当たり前です。私の狭霧から一時でも離されたんです。こちらの方々にはそれ相応の報いを受けてもらいます」
話を聞くと一人で待っていたらこの男たちにナンパされたらしい。しかし愛莉姉さんにナンパするとか……二年でずいぶんと変わったな……それにここが南口だから私たちの存在を知らない奴が居るのかもしれない。
「「「お、おぼえてやがれっ!!」」」
「一昨日来やがれっ!!」
私を含め三人で簡単に撃退した後に愛莉姉さんに一喝されると逃げ出した男たちは人垣をかき分けて、あろう事か狭霧と真莉愛さんそして合流していた相良さんの三人の方に走って逃走してしまった。あの勢いならぶつかってしまう。
「狭霧っ!!」「真莉愛!!」「しおりん!!」
マズイと瞬時に動く私とレオさんだったが、そのナンパ男三人組は横合いから出て来た太い腕に男二人はラリアットのようにぶつかり倒され、残り一人は転んでその場に倒された。その人物はボロのようなマントを頭までスッポリと被っていたがその闘気は並みの気配じゃなかった。
「ナンパしてミスったら逃げるとか漢じゃねえなぁ……お前ら、しばらく来ない間に空見澤も軟弱なのが増えたか……そしてオメーらもだ、竜!レオそれにシンも!! 尻ぬぐいを俺にさせるとはちょ~っと詰めが甘いな?」
三人が一目散に逃げ出すと今度はこっちに向かって言う、その声はよく聞いたあの声で懐かしさがこみ上げてきて、竜さんやレオさんも気付いたけど何より私たちの後ろに控えていた愛莉さんが走り出していた。
「勇輝!!」
「おう! 愛莉!! 直接会うのは久しぶりだな。元気だったか?」
ボロマントを剥がされると前よりも筋肉質になっていて、そして日焼けしたアニキこと秋津勇輝さんだった。抱きつかれてさすがに照れているようで頬をポリポリかいている。
「ったく!! 戻って来てたならまずはアタシを助けてよ!! なんでチームの他の女なのよっ!!」
胸をドンドン叩いてる愛莉姉さんも半泣きで怒っている。いつもの愛莉姉さんなら流すような場面なのに……もしかして久しぶりだからアニキに甘えちゃっているんだろうか?
「そらお前なら一人で切り抜けられるから問題ねえだろ? あの程度お前なら片手で倒せるからよ……ん? オメーらは……」
だがこの態度に怒りを覚えている少女たちが居た。見ると狭霧と真莉愛さんさらに相良さんもムッとしている。女性陣の三人の威圧感が無駄に強い、アニキですら少し引いてるように見える。
「助けてもらって言う事じゃないと思うけどヒドイと思います!!」
「え? いや何がだ?」
「零音の言ってたリーダーさんですよね? 狭霧ちゃんの言う通り女の子に言う事じゃないですね?」
「うん。真莉愛ちゃん。こう言う時は『君に再会出来た喜びに我を忘れていた。済まない許して欲しい』ってくらいには素直に謝るべき……です」
狭霧に後で聞いた話によると相良さんは最近は恋愛小説にハマっているらしく、中世ヨーロッパ風の物語に影響を受けているとか……そんな事より女性陣四人に睨まれているアニキを見て、ここは舎弟として助けなくてはいけないとすぐにかけつけた。
「いやいや、狭霧も皆さんも取り合えずここは落ちつい――「信矢は黙ってて!!」
「……アニキ。素直に謝るべきだと私も思います」
「あぁっ!? てっめっ……シン!! おいレオ! 竜も!!」
後ろの二人が目線を逸らしたのがなぜか分かってしまった。そして味方の居なくなったアニキは衆人環視の中で愛莉姉さんに謝ってた。理不尽だけど仕方ないですアニキ。前より鍛えられてるし強くなってるように見えるのに少しだけ背中が小さくなってる気がした。
「いやぁ……やっぱ女子多いと助かるわ~! 今までなら百パー謝んないからユーキとか、シン坊とかレオが上手い事庇ってたからね~!」
「ふ~ん、そうなんだぁ……信矢?」
「昔の事なのでよく覚えてないですね……狭霧少し頭痛が……」
頭痛のフリをなぜかジト目で見破られている気がするが横の狭霧は少しだけ意地悪い笑顔で隣を歩いている。竜さんもレオさんも居心地が悪そうだ。
「竜くん?」「零音?」
「「…………」」
こう言ってはあれだが愛莉姉さんは男勝りなとこがあると言う点と私たちの中にいると完全に仲間と言うのと、アニキの恋人と言う点から女性として見ていなかった時が多々有った気がする。
「そうだ、アニキ! それに愛莉姉さん。え~と今どこに向かってるんですか?」
「ああ、そうだったな!! でかしたシン!! 実は今向かってるとこなんだが……そうだ愛莉。手続き任せてたが大丈夫だったか?」
「何かごまかされた気がするけど仕方ないか……問題無いはず。なんせ用意した連中は胡散臭いけど権力的には信用出来るからね?」
「そうか、ま、ここに来る前に見て来たんだが地下室はすっかり朽ち果ててな……聞いてたんだが踏ん切りはついた。だから新しい場所を探してたんだよ」
そうだった。神社の林の地下室はもう使えないんだった……警察に散々荒らされていたしあれから誰も近付けないせいで朽ち果てていたらしい。
「だからよ俺は日本中、仕事しながら体を鍛えていたんだよ。マグロ漁船乗ったり色々やってな。んで稼ぐだけ稼いで愛莉に金を送って探して貰ってたんだ」
「ま、それでも頭金にしかならなかったから私のへそくりとユーキの実家にも少し出してもらってここの建て売りの店舗買ったのよ」
今まで南口の外れまで歩いて来たのだが、そこはレオさんや竜さんと会った狭霧の行きつけのスポーツ用品店のあったすぐ隣でこの間まで建設中だった場所だ。って、店舗を買った!?なんか愛莉姉さんがとんでも無い事言ってる。
「ああ、北口の方に店作るとAZUMAとぶつかるからな、取り合えず入れ。融資してくれるって言うオーナー様が居るんだろ? 愛莉」
「ええ。もう中に居ると思う。みんなも入って」
◇
なんか全体的に薄暗く少しムードの有る場所だった……だってそこは……。
「ここってバーですか? リーダー?」
「ああ、正解だレオ。日本中回ってる間にバーテンのバイトしてた時もあってな。そこの店長の爺さんに色々仕込んでもらって俺もやりてえと思って金貯めたんだ」
「相変わらず即断即決すね……ユーキさんは、にしても駅から一番離れてるとは言え商店街内ですよね? 結構高いんじゃ?」
確かに竜さんの言う通り一等地とは言わないがそれなりに良い値段はするだろう。いくらアニキがあれから高額なバイトやらマグロ漁船に乗っても稼げる額には限界は有っただろう……とてもじゃないが普通の手段で手に入れられる場所ではない。
「なので私たちの出番なんですよ? 春日井くん?」
「待ってたぞ!! 信矢~!!」
店舗内にはなぜかシェイカーを振ってる七海先輩とバーカウンターに座っているドクターこと仁人先輩の二人がいた。
「そう言う事、オーナーこの人らよ? シン坊」
「七海先輩と仁人先輩が……そっか七海先輩ってお金持ちだった!!」
「その様子だと自我変更に少しは耐性が付いたようだね? 信矢?」
そこでいきなりドクターは自我変更を堂々と口に出した。俺もそして狭霧と愛莉姉さんも焦っていた。だって知っているのは三人だけで他のメンバーはまだ私が多重人格者である事は知らない。
それにこんなところで狭霧も近くに居て微妙な頭痛が続いている状態ではいつ自我変更が起きてもおかしくないのだ……この二人が何を考えているのか全く分からなかった。そしてドクターが口を開いた。今回の集まりの趣旨をである……。
「なあ信矢、ここで第二人格を出してくれないか?」
そういきなり言い出したのだった。
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この作品はカクヨム様で先行して投稿しています。(未公開の話もカクヨムで公開しています)
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