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フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第三章『未来のための喪失』編
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第59話「二年前、それぞれの忘れ物」


 色々と話したい事はあるし、混乱もしているけど今言いたい事は一つだった。


「竜さん……お久しぶりです……。ちゃんと話してお会いしたかった……です」


「あ~……まぁ、あれだ愛莉さんから話は聞いてるから気にはすんな。それより俺らと会って話しちゃマズイんじゃ無かったのか?」


「それは……もう問題無いです。話したい事が、ほんとにいっぱい有るんです……私は……」


 あの最後の戦いの後に私がドクターと七海先輩の監視下に置かれた時に、当時はボクの精神の安定化と何より狭霧と『シャイニング』の皆を巻き込みたくないとの思いで愛莉姉さんにしばらく直接会わないようにとお願いしたのだ。


『分かった。じゃあたまに連絡したくなったら連絡だけはしな……ユーキにとってアンタは弟みたいなもんなんだからアタシにとっても弟だよ。だから辛くなったら連絡するんだよ』


 そう言って他のメンバーや関係者にも連絡してくれたらしい。竜さんとレオさんにも直接話してくれたらしいけど、どうしてそうなったかまでは話してなかったそうだ。今にして思えば七海先輩との直接的にやり取りして色々と陰で便宜を図ってくれていたのかも知れない。


「そうか。なんかよく分かんねえけど。もう遠慮しねえで連絡も取っていいのか? てかレオの野郎がこの間すれ違った後に、コッソリ連絡しやがったらしいじゃねえかあの野郎」


「アハハ。そうですね。『お幸せに』って言う内容の簡単なメッセージでしたよ……はっ!? しまった狭霧!?」


 突然の再会ですっかり忘れていたが狭霧の危機だった。取り合えず水を持って行かなきゃいけないと思っていたら背後で地獄の底から響いてくるような幼馴染の声が聞こえて来た。


「じ~~ん~~やぁ~~苦くて辛いよぉ~~お水ぅ~」


「ああ、すいません!! 竜さん水を大至急お願いします」


「ほれ、早く渡してやんな」


 そうして狭霧がゴクゴクと二杯目の水を飲み終わってようやく落ち着いたのかジト目でこっちを睨んで来た。


「私待ってたのに……酷いよ信矢……それにこの人って……」


「ああ、この人は俺の大事な先輩で師匠の一人、川上竜人さんだ。紹介するのは初めてだよな?」


 大事なと言った瞬間にピクッと狭霧の眉が動いたが昔に比べ幾分か冷静だった。エライ!!昔なら取り合えず威嚇してたけど取り合えず……すご~い嫌な顔してるけど話す気は有るようだ。いきなりこの不良とか言わなくて良かった。


「うん。愛莉さんと同じで信矢と一緒に戦ってた人だよね……この間も信矢の事見てたし……うぅ……なんでここに……」


「俺はここのバイトだ……」


「タイミング最悪!!」


 狭霧はしっかりいつものポジションの左腕にガッチリ抱き着くと早く戻ろうと言う。不安そうな顔で今にも泣きそうだ、もしかしたら少しロシアンタコ焼きの影響が残っているだけかも知れないけど……。


「狭霧……ですがこの間のお話した通り私は……ぐっ……」


「信矢!! あっ……まさか時間!?」


「ったく、どうしたんだ? 体調悪いなら救急車呼ぶか? 取り合えず部屋に戻ってろ」


「い、いえ結構……です。これが皆さんや狭霧を遠ざけていた……原因の一つ、ですから……少し休めば問題有りません」


 頭痛は何もずっと続くわけでも無く波が有り少し経てば落ち着くし、ドクターの分析ではこの頭の割れるような痛みは最初の三分でその後は痛みが鈍化しズーンと弱めの頭痛が続くと出ている。いつもはその三分が耐えられずに自我変更を起こしている。だけど耐えなくては……狭霧の隣に私は居られない。


「信矢……私、離れるよ……ゴメンね。本当に……ゴメンね」


「ふっ、狭霧……何を言ってるんですか? 今は私が弱っている……最大の……チャンスじゃないですか……彼に会えるんです……よ?」


 そう言うと狭霧をしっかり抱きしめた。仕方ありません。カラオケ店内、狭霧と一緒……です。後は任せ……え?頭痛が引いて……どうして?


「おいおいサッパリ分かんねえぞ!! 顔真っ青じゃねえか!? やっぱ救急車だな、呼ぶからな!!」


「バカっ!! 信矢!! 放してっ!! こんな……こんな思いをしてまで私は……信矢をっ……」


「狭霧……その……もう大丈夫そうです……」


 なぜか狭霧を抱きしめて少しの間は凄まじい痛みがあったのにそれが一気に解消された。なんで?取り合えずこんな事は初めてだった。まさか痛みが消えるなんて……今まではあり得なかったのに。そもそも頭痛がしていた原因は本当に狭霧だったのか?そんな疑問が頭を駆け抜けていた。


「え、えっと信矢? 本当に大丈夫なの? 無理してない? それとも入れ替わっちゃったの?」


「いえ、残念ながら私のままですよ。なぜか狭霧を抱きしめた後から頭痛が急に……そう言えば頭痛がしていた時に狭霧は近くに居ましたがこうやって抱きしめたのは初めてでしたね……」


「おい、なんか分からねえけど大丈夫なら取り合えず今日はもう帰れ。信矢あとで連絡すっから」


 そう言って落ち着いた私たちを部屋に戻そうと竜さんと話していると階段から誰かが上がって来る音がした。そして上がって来たのは先ほどロシアンタコ焼きを届けてくれた女性の店員さんだった。


「あ、いたいた、探したよ竜くん。そろそろ上がりの時間だよ……って、すいません対応中?」


「お、おう。いや大丈夫だ。昔馴染みにたまたま会っただけだ。俺は大丈夫だからよ汐里も上がりだったろ?」


「そっか……でも竜くんこの後学校でしょ? 私は少し遅れても大丈夫だから変わろうかと思って……」


 メガネの黒髪の女性の話では竜さんはこのままバイト上がりのようだ。しかもこの後に学校なのか……。


「えっ!? 竜さん。この後もしかしてバイト上がりなんですか?」


「ああ、そうだが……」


「信矢……ふぅ、たぶん私たちも延長しなければあと十五分くらいだよ?」


 狭霧がすぐにこっちの意図を察してくれてその表情に気付いた竜さんも少し渋い顔をしている。


「おい信矢それは……」


「その代わり!! もしこの後どこかに行くなら私も絶対に一緒に行くから!! それなら許可します。今だって頭痛してたんでしょ? 私が付いてなきゃ」


「あ、えっと……取り合えず二人ともお友達も見てるし一度お部屋に戻ったら?」


 その後、私と狭霧の帰りが遅いので他の四人が出て来たので簡単に事情を説明するとあと五分だったのでそのまま出ようと言う話になり、そのままなし崩し的に退店する事になった。その際に竜さんには店の前で待っていると言って別れた。


 ◇


「じゃあね狭霧!! 副会長、大丈夫だと思うけどちゃんと送ってね~!! 今週はいい休憩になりそうだからね」


「そうそう最近タケ色々と頑張り過ぎだからね部活もかなりハードワークだったし」


「別にそこまでは……」


 そう言って目線を逸らすのを私は見逃さなかった。ハードワーク気味なのか……そこら辺も聞かないといけないな。澤倉と河合くんにも挨拶をして店の前で解散となった。そして数分後に竜さんとさっきのメガネの店員さんが一緒に出て来た。なんか引っかかるな……こう喉まで出かかってるのに思い出せない……。


「おう、待たせた。あんま時間取れねえけど……飯行くぞ、あと悪ぃんだが……こっちもツレを一人良いか?」


「さっきのお姉さん。えっと……」


「問題有りませんよ狭霧。竜さんの都合を優先して下さい」


 そう言うと四人で近くのファミレスに入る。狭霧が家に連絡をしているので私もスマホで連絡するとすぐに返事が返って来て狭霧をしっかり家まで送るようにと帰って来た。おかしい、狭霧と一緒とは書いてないのに……。


 ◇


「改めて、お久しぶりですっ!! 竜さん……ちゃんとお会いしたかった……ですっ!! あの時は道具とか武器とかあと金とか色々ありがとうございましたっ!!」


「んな事気にすんな。むしろ最後は任せちまって悪かった。お前を逃がす事しか出来なかった情けない先輩で悪かった……」


「でも、また会えて嬉しいです。私は……あれから色々あって今日まで……俺は」


 言葉が出て来ない、恩人の一人にちゃんと今までの事を話したいのに自然と涙が出そうになる。そんな私の震えている手を狭霧が握ってくれた。横で柔らかな笑顔を向けてくれている。頑張ろう。


「ったく情けねえな、信矢。すっかり前とは逆じゃねえか。だけど……お前も良かったな……大事な女だったんだろ?」


「はい……。ですが、『だった』では有りません今でも大事な私の恋人です」


「けっ、相変わらず可愛くねえガキだ。そう言うの変わってねえ……ったく」


 自然と笑顔になって話していると横のメガネの黒髪の人が竜さんの服をチョンチョン引っ張ってる。なんかこう言う仕草は狭霧に似てるな……とか思ってたら狭霧は握っていた手に力を込めてさらにギュッとしてくる。


「おっと、そうだったな信矢。まずこいつは……俺のツレでお前は覚えてるか分かんねえが名前は相良汐里さがらしおりって言うんだ」


「相良汐里……さん……?」


 どこかで聞いた覚えが……あ、そうだ……確か……。


「あ、確か一度……そうだ、竜さんの嘘コクの……」


「あはは……やっぱりそう覚えられてるんだ……しょうがないか」


 中学の時に会った人だ。そう言えばあの時に竜さんとレオさんとバカ騒ぎして、でも悪い人には見えなかった人で俺にも気を使ってくれた人だ。


「えっと……信矢知り合いなの? このお姉さんと……どういう関係なの?」


「あ、えっと……一度だけ会った事ある人で……何でこの人と一緒に居るんすか? 竜さん、だって二年前は……」


 そう二年前は絶縁的な事を言って確か名前で呼ぶな!!みたいな事まで言って遠ざけていたはず……それがどうして当たり前のように二人は一緒に?


「あぁ……ま、色々あってな、今は、そのよ……俺のカノジョなんだよ」


 はい?カノジョとはあのカノジョですか?SheではLoverの方のカノジョですか?


「えっと……そのぉ。おめでとうございます? でも一体……」


「実はよ……あの廃工場でサツにパクられた後にユーキさんとサブは院に俺とレオは鑑別になったんだ……てか他の奴も鑑別でな、あの二人だけが院だったんだよ。たぶん最後まで抵抗したからだろうな」


「そうだったんすか……」


「え? でもあの大きい人、愛莉さんの恋人の人、全然服とか汚れて無かったよ?」


 ここで狭霧が思い出したように言う。そうか警察に通報したのは狭霧だし俺が気絶している間に最後に見れたのって狭霧しか居ないんだ。


「何で知ってんだよ?」


「ふふんっ!! だってあの時、私が警察に通報したからですっ!!」


 狭霧そこドヤ顔する場面じゃないからっ!!てか全く反省してないなあの顔、第二に叱られた時は色々と反省してたのに……。


「アァン!! テメーの仕業かっ!! タイミングが良いと思ったら!!」


「ひぅっ!! 信矢ぁ~!!」


「あぁ……竜さん。その件については私が徹底的に叱ったんで問題有りません。今はこんなんですけど当時は反省したんですよ、何とぞここは怒りを抑えて~!!」


 困ったら取り合えず私に抱き着いて来る狭霧を何とか宥めすかしながら竜さんに必死に謝る私……おかしい、あの時は私も被害者だったはずなのに……。でも仕方ないな仮とは言え大事な恋人なのだから……甘いなぁ。そう思っていたら意外な所から援護が来た。そう相良さんだった。


「竜くん? 女の子に怒鳴っちゃダメだよ? ごめんなさい。お名前は?」


「狭霧です。竹之内狭霧です……えっと相良さん?」


「はい。それに竜くん、あの事件の事なら竹之内さんのした事は間違って無いんじゃないかな? 暴れている不良集団が居てそれを警察に通報するのって間違ってる?」


 言われてみれば狭霧がどう見ても私怨でしかしていない行動だが実はパッと見ではただの善意の市民の通報でしか無い。例えそれがどんなに不純な動機でも見た目だけなら極めて正常な行いだ。


「それは……だがよぉ――「竜くん? それに私としては少しだけ竹之内さんに感謝もしてるんだ……だって、ね?」


 そこからは竜さんに代わって相良さんが話を引き継いで話してくれた。警察に捕まって手続きの後に約一ヶ月の間、少年鑑別所に居た二人はたまたま出所のタイミングが合ったのでほぼ同時に出たらしい。


「そこで、まあ居たんだよ汐里がさ……」


「うん。あとマリちゃんとマスターもね?」


 そして出所した二人の前に現れたのがレオさんの恋人の真莉愛さんと目の前の相良さんだったらしい。二人を乗せて車を出したマスターも来てくれたらしい。ちなみにそこでレオさんは思いっきりビンタを食らったとか……。


「あの大人しそうな人が……確かに叱るとか言ってたけど……でもどうして相良さんもその場に?」


「うん。私の行きつけが『Vermillon Ailes』だったの。マリちゃん……真莉愛ちゃんとは同じピアノ教室通ってて教えてもらってたの……それで竜くんの事を甲斐くんも話してたらしくて知り合いならって……」


 その後は色々あったらしく五人で喫茶店に戻り話を聞くと謝られた後にあの時の真相を話したそうだ。


「ま、あの時の推理通り全ては伊藤の仕業だったんだよ」


「でも、私も悪かったんだよ竜くん……由希ちゃんに命令されて従っちゃった私が悪いんだし……」


「いんや、嘘コクだったけど途中から本当に俺のこと好きになってくれた汐里を信じられずに、嘘コクだと言われて信じられなくなって自爆した俺も悪い」


 どうやら件の伊藤は幼馴染である汐里さんを使って竜さんの成績を落とすのが目的で気の弱い汐里さんを近付けたのだそうだ。だがここで問題が起きた。汐里さんと付き合って逆に竜さんは学力は上がって、しかもこの時には汐里さんは竜さんにベタ惚れだったらしい。


「もうその時は嘘コクとか忘れたいって思ってたんだ……」


「汐里……」


 そして竜さんは見事に東校に首席で入学し挨拶をした。それが気に食わなかった伊藤がその後に嘘コクの事を言うように脅迫し罪悪感から汐里さんは自ら嘘コクした後に、本当に好きだと伝えようとしたらそれを妨害したのがまたも伊藤だった。そして二人はすれ違い、竜さんが鑑別に入った事で汐里さんが我慢出来ずに真莉愛さんに相談し二人で迎えに行く事になったらしい。


「良い話だよぉ……ぐすっ……」


「えっと、あ、ありがとう……?」


 狭霧は号泣していた。なぜか汐里さんの手を両手で握って握手していた。この姿に竜さんは完全に毒気を抜かれていた。しかしボロボロ泣いているので取り合えずハンカチを渡す。


「狭霧ハンカチどうぞ」


「ありがとぉ……信矢ぁ……それと川上さん色々とすいませんでしたぁ……」


「お、おう……まあ俺らも悪かったしな……」


 竜さんが引いてる……ドン引きしてるじゃないか……。取り合えず狭霧と竜さんの二人の確執も無くなったのでこれで安心か、その後に色々と話を聞くと竜さんは今は東校を転校し夜間の高校で三年になっていた。留年した形で一年多く高校に通っている最中らしい。そして汐里さんは大学生らしく同じ大学を目指しているとのこと、今から夜間の高校だと言うので二人と別れると後日また連絡すると言われた。ちなみに私たちはこのまま残って夕食だ。


「なんか悪い人じゃなかったね……相良さんもだけど川上さんも……」


「だろ? ま、最初はあれで結構スパルタだったからキツかったんだけどさ」


「あのさ……信矢は今でもやっぱり怒ってるの? 私が警察呼んだこと」


 正直分からない。確かにあれが原因で全てが狂ったと言っても過言では無い。だけどアレが無ければ私はここに居なかったし、何より狭霧とこの不思議な関係にもなれなかっただろう。だから……。


「もしかしたらアニキは怒るかも知れないしサブさんや他の仲間はキレるかもしれない……それは私にも分からないです」


「そっか……あはは、そうだよね……はぁ」


「だけど、私は少し違います。あなたをあんな不安にさせてしまったと言う後悔が強いです……ただこの感情も彼に引かれてなのかも知れませんが……」


 その後は二人で今日のカラオケの話などをして盛り上がった。そしてカラオケの別れ際にバスケ部の二人が心配していた部活のハードワークの事を聞くとやはり自覚はあったようで今週は練習は控えるそうだ。実は前回の大会時に少し左ひざが痛んだらしい。そんな話をしていたら夕食も食べ終わり私たちは帰路に着いた。

 

 もちろん狭霧を家まで送ったりしたのだが結局その後に奈央さんに捕まり、帰りがかなり遅れてしまった、しかし帰り際に狭霧が笑ってくれたのでこの程度ならいくらでも出来る。今の私にはそれだけで充分だった。

誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想での報告は止めて下さい)


ブクマ・評価などもお待ちしています。


この作品はカクヨム様で先行して投稿しています。(未公開の話もカクヨムで公開しています)


カクヨムへは作者のTwitterからリンクが有りますのでご確認頂ければ幸いです。

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