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フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第三章『未来のための喪失』編
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第56話「二人の決意と募る思いのその先へ」

カクヨムで先行連載してます。

 呻き声を上げた生徒が十一名、死屍累々の状態で教室内に倒れていた。つい先ほどまで私と戦っていた連中だ。


「ふぅ……五分弱か……すいません狭霧。予定時間をオーバーしてしまいました」


「それはいいんだけど……こんなに……いつの間にいたの?」


「教室に入る前には居ましたよ? クラスメイトにも二名居たようですね……あと一九〇人くらいですか……始末するのは一日はかかり――「信矢!! 今凄い物騒な事言おうとしなかった!?」


 邪魔者は早期に始末した方がいいと思い狭霧に確認すると狭霧は今はこれ以上は止めてと言う、さらに井上さんや澤倉も全力で止めに来た。河合くんは私と試合とか出来ない?と脳筋な事言い出したりしたのでこの場でそれ以上は有耶無耶うやむやになった。


「うっ……強い。あんな噂まゆつば物だと思っていたのに……」


「ここまでなんて……」


「三人に見せかけて十人で挑んだのに……」


 確かに奇襲や不意打ちが普通の相手には効いただろう、しかし基本的に気配探知発動中の私なら問題は無い。何よりも……。


「今の私に敗北は許されない……狭霧を背に守る時の私はもう二度と絶対に負ける訳には行かない!!」


「ゾッコンって奴かよ……やっべぇな春日井」


「でも例の暴力会計の噂って本当だったんだな……俺は一年であの事件は詳しく知らなくてさ、正直驚いた」


 去年の事件……私がまだ未完成の時の……本当の意味で私が私になったのは副会長に任命された時なのですから、少し郷愁の念に駆られそうになるが今はその事よりも後始末が大事だと判断する。


「では、狭霧の集団ストーカー組織に勧告します。徹底的に自重した行動を取るか、もしくは解散をするかの二択です。どうしますか?」


「ぐっ……我らが破れても――「そう言うのいいんで、職員会議の後に学院長と直接面談する事態まで発展させるか今ここで大人しくする宣言をするかの二択を私は迫っています」


 このまま穏便に済ませるか出るとこまで出た後に学院まで出て行くか好きな方を選ばせる。出来ればこの場で全員を分からせるのも手だったのだが、狭霧の方を見るとフルフルと首を振るのでそれは止めておいた。彼女の意思が最優先だった。


「あ、お待たせ~!! 山田せんせ連れて来たよ~!! 狭霧、凛!!」


「お帰り優菜~!! でもタイミング良くないね……今副会長が説教している最中だから」


「これは……ま~た何かやったのか? 春日井?」


 そう言えばいつも三人で佐野さんだけが居ないと思ったら先生を呼びに行っていたのか……では後は教職員に任せて帰るとしよう。


「これはこれは山田先生。問題は解決しましたので後はよろしくお願いします。それでは狭霧、行きましょうか……」


「えっ? でも良いの?」


「良いわけ無いからな? サラッと逃げ出すな春日井副会長。さすがに経緯の説明はしろ。それにしても教室も酷い有様になってんな……まずそれからか……ほらクラスの残ってる奴全員で教室の掃除からだ」


 逃げるのに失敗したので仕方なく教室の片づけをして三〇分弱、元に戻った教室で事情を説明すると山田先生は理解を示した上で狭霧の集団ストーカーの十一人の言い分を聞いていた。


「あ~頭が痛くなる問題だな……それに春日井の手段が一番良さそうだな。俺も職員会議なんてゴメンだ。学年主任と教頭の話がなげえんだよ」


「ですが!! 我ら金色の――「狭霧の集団ストーカーの皆様に一つ教えてあげましょう……狭霧の嫌いな言葉は『金髪』または金色に関わるワードです」


「「「「「えっ!?」」」」」


 やはり知らない……どうやら井上さんや佐野さんも知らなかったようで、狭霧が少しばつが悪そうな顔をしている。


「狭霧? これ以上はどうしますか?」


「うん良いよ。私もいい加減言わなきゃダメだし……ね。嫌なものは嫌って……」


「狭霧は幼少期にその容姿、特にこの輝くアッシュブロンドであまり良くない過去がありました。なのでそれを想起させる言葉自体が好きでは無いのですよ。具体的な過去についてはプライベートに関する事なのでお教えは出来ませんが、彼女にとっては苦い思い出だと言っておきます」


 少し場が静まり狭霧に注目する。狭霧も少し前に出て私の横に並ぶと手を握って私の目を見ると頷いて口を開いた。


「信矢の言った事はほんと。昔この髪の色でからかわれて嫌な思いもいっぱいした。ヒドイ事も言われたし親にも相談して凄い辛い時にね……そんな時にある男の子が言ってくれたんだ『キレイな色だね。まるでお姫様みたいだ』って……それが始まり」


「そうだったんだ……狭霧、なんかゴメン。あの女神様とか言われてんの嫌がってたのそう言う事だったんだ」


「タケ、だからGGとか言われるのも嫌だったんだ。なんか私もごめん」


 狭霧もギュッと私の手を握って二人に向かって「もう大丈夫だから」と少しだけ辛そうに微笑みながらしっかり言った。


「我らは最初から女神……いや竹之内さんの事を……」


「会長……」


「我ら二百人の思いは間違っていた?」


 彼らも色々思う事があるのだろう。11人のストーカー集団も少し憑き物が落ちているように見えた。これで今回のような騒動も起きないだろう。そう皆が思ってた時に澤倉が何かに気付いてアッと声を出した。


「でさ? その竹之内ちゃんに『お姫様みたいだ』とか昔に言った奴って誰なん? それすげえ気になるわ? なあ?」


「えっ……そ、それは……えっとぉ……」


 澤倉コイツ分かって言ってるから性質が悪いな。するとやはり真っ赤になった狭霧がこっちを見ているので視線を合わせると恥ずかしいのか目を逸らしてまたチラっと見てくる。ただ私はそれを黙って見守る。


「あ~はいはいそう言う事ねっ!! いつものパターンねテッパンね!! 結局二人の思い出なのね!! よ~く分かったわ!!」


「ねえねえ狭霧~? それっていつの話なの?」


「えっと……私が引っ越して信矢のお家で言われた時だから――「私たちが四歳の時ですね? もっとも狭霧はその三年後の方が覚えてるのでは無いですか? あの時の方が手を焼きましたからね」


 ちなみにその三年後、つまり小学生の時にも狭霧はこの問題で悩んでいて私はその時も同じセリフと、ある事をして彼女を落ち着かせ彼女のとある行動を思いとどまらせた事があった。


「あ、ああっ!? あの時はあの時で凄い嬉しかったけど……でも私は信矢と初めて会ったあの日のあの言葉で私は救われたから……あの時から私はずっと……」


「サラッと自白したよこの二人!! てか会ったその日にタケを口説いてたの副会長って!! てか四歳って……私覚えてないんだけど自分の事」


「我らの女神……いや失礼、竹之内さん。そんなにその男が好きなのですか!! 我らはこの二年、ずっとあなたを見ていたんですよ!!」


 その言葉に一瞬ビクッとする狭霧、そう彼女が好きなのは厳密には私ではない……しかし彼女の次の言葉に私は内心ドキドキしていた。無駄に緊張して落ち着かない。期待はしてはいけないがそれでも少しは期待したくなる。


「うん。私は信矢を、春日井信矢を四歳の頃からずっと好きだった……そして今も……だから今までの告白も最初から全部断ったし、これからも断ります。だから出来れば今後はもうしないで……欲しいです。私の心が信矢以外に向く事なんて無いから」


「くそおおおおおお!! 春日井信矢!! よ~く聞け!! 今日で『竹之内狭霧の金色に魅せられし集い』は解散だ!!」


「「「「会長……」」」」


 ようやく決心したのか……まあこれで厄介事が消えるのなら良しと考えていたら奴らはとんでもない事を言い出した。


「これより会の名前を変えて再結成する!!新名は『竹之内狭霧と春日井信矢を見守る会』だ!! 春日井信矢ぁ!! 竹之内さんを泣かせるマネだけは許さないから我ら全員で見守るからなぁ!! いいかっ!!」


「実害が無くなるなら構いませんが、残念ながらそれは難しいですね……」


「なにっ!! どう言う意味だ!!」


 そう言うと横の狭霧を見ると彼女は既に涙目になっている。知らないだろうからなこの場の人間は、彼女の女神と呼ばれていた一面は仮面を被った偽りの姿で実は凄い泣き虫な普通の女の子なんだと言う事を……。


「ご覧の通り私の狭霧は大変泣き虫でしてね? 昔から私の背中でよく泣いていました。なので私と居るといつも泣かせてしまいます。ね? 狭霧」


「ううっ……そうかもしれないけど、私だって最近は泣かないように頑張ってるんだよ? でも信矢と居ると昔の私に戻れるからすぐ甘えちゃうかも……ふふっ」


「諸君には悪いが、たかだか数年の想いと私と狭霧の十二年を、いや私たちの今までの絆を甘く見ないでもらおうかっ!!」


「ちっくしょおおおおおお!! 帰るぞおおおおおおお!!」


 最後にせめて一矢報いようとライバルキャラみたいな事をしたかったらしい狭霧の集団ストーカー改め私たちを監視する会は私と狭霧の絆の前に完全敗北して逃走して行った。

 後から聞いた話ではその後に山田先生が動向を調べて構成員は全員がバレたとか……。

 

「あ、お前ら待て……あ~逃げられた。取り合えず春日井、あと竹之内とか他の奴らも話聞くから付いて来い」


 その後は山田先生からの聴取が終わり全員が解放されるとすっかり夕暮れ時、そう言えばこの間クレープを食べた時もこんな時間帯だった……ちなみに今は解放された後で六人が一緒に校門で居る。

 私以外は全員部活に所属しているのだが見澤一派の乱闘事件のせいでバスケ部や空手部は部活が来週まで中止なので女バスの三人と空手部の河井くんは問題無し、唯一水泳部の澤倉はサボりらしい。


「ま、良いじゃんちょうど男女六人だし。どっか寄って行こう!!」


「はいはい!! 私カラオケ行きたいで~す!!」


 佐野さんが提案し狭霧がすぐに乗っかり、さり気無く自分の要望を入れている。ちゃっかりしている……他のメンツも全員が賛成していて私も一緒に流されそうになるが私としては彼女の恋人としてキチンと節度を守らなければならない。


「狭霧、今日は時間が少し遅いので今からですと帰りの時間に支障が出てしまうので今回は――「今日は家まで送ってくれないの?」


「ふぅ……まあ今回は特別という事で……ええい!! 何ですかその目は!?」


「「「「べっつに~」」」」


 私も自覚はしていますよ……少しだけ狭霧に甘いのは、おかげで残り四人は私の事をニヤニヤ見て来る始末、副会長の威厳など消し飛びましたね。と、一人で思案していると腕にいつもの感触とフワッと少し甘い彼女の香りが鼻腔をくすぐる。


「し~んや!! いこっ!? 私なるべく長く一緒にいたいな?」


「はい。では少し短めですが今日は五時間パックで今から予約を――」


「「「「やめろおおおおおおお」」」」


 なぜかスマホで予約を入れようとすると全力で四人に止められた。狭霧の方を見ると狭霧も不思議そうな顔をしている。結局予約などは澤倉と井上さんに任せる事になった。とにかくこれから人生初のカラオケだ……何を歌えば良いのか?


「ふぅ……きれいだ……」


「え? 何が?」


 少し不安だったが不思議と横にいる狭霧のためなら何とか出来る自信が湧いて来た。彼女のブロンドは今日はあかね色の光に反射して、やはりきれいな輝きを放っていた。

誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想での報告は止めて下さい)


ブクマ・評価などもお待ちしています。


この作品はカクヨム様で先行して投稿しています。(未公開の話もカクヨムで公開しています)


カクヨムへは作者のTwitterからリンクが有りますのでご確認頂ければ幸いです。

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