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フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第一章『すれ違いと幼馴染の秘密』編
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第5話「秀才は甘やかしたい」

よろしくお願いします


 まもなく集会が始まる。朝のHRと一時間目を丸々潰して高等部の全員を集めた集会だ。相変わらず凄い人数が居る。今日表彰を受けるのは当然ながらスポーツ科の人間で、事前に舞台袖で待機してもらう手はずなのだが……この場には今、水泳部の部長と柔道部の部長と副部長の三人しか居ない。つまり私の仕事はまだ来ていない関係者を呼びに行く事になったという事だ。


「すいません。先輩方少し良いですか?」


「あぁん? 誰だっ……って生徒会の……春日井……くん!?」


「春日井!? って……あ、あの!? お、おう。何か用か?」


 運良く顔を知っている、それも登壇予定の部の部長が二人も列の前の方で固まっていたので声をかけたら意外にも相手も私のことを知っていた。もしかしたら昨日の不良モドキが言っていた件の空手部の騒動で有名になったのかも知れない。


「はい、本日の集会での報告で先輩方と、あと副部長の方にも、そろそろ舞台袖で待機してもらう時間なので呼びに来ました」


「えっ!? マジで!? 悪い悪い!」


「大丈夫です。まだ時間は有りますよ。それでは私は女子の代表への連絡も有りますので、すいませんが他の部の部長や副部長にご連絡お願いします」


「あ、ああ。分かったよ。わりいな春日井……くん。いや副会長」


「いえいえ。これも私の仕事ですから。では失礼します」


 今度は二つ隣の列の女子の列の方に向かう。女子部の人間は知り合いはおろか顔見知りすらほとんど居ない。辺りを伺うと、まだ集会が始まっていないのでガヤガヤとうるさく、一人一人に声をかけて探し出すのも一苦労だ。


「どうしたん? 竹之内? なんか眠そうじゃん?」


「あはは……ちょっと早起きし過ぎちゃって」


「えっ……うちの学院ってどの部活も大会前じゃないと朝練も無いのに早起きなの? やっぱエースは違うね~」


「まぁ、ほんとはもう少し寝てたいんだけど……あっ!?」


 思案しながらグルっと辺りを見ていたら目が完全に合ってしまった。このタイミングで狭霧……だと……そうだった彼女もスポーツ科の特待生、それもバスケ部の有望な選手と言う扱いでこの学院に入学していたのだった。


 特に昨年度の県大会では一年生ながらも途中出場だったがかなり活躍をしていた。私はもちろんバレないように彼女の大会は全試合を確認している。それにしても狭霧の声を聞くまで彼女の事を警戒するのをすっかり失念していた。あの二人の無茶ぶりのせいで集中力が足りていなかったのが原因かも知れない。


「どうしたん……ウェッ!! 何!? あのこっち見てるメガネ? 知り合い?」


「あ、うん。シン……って逃げるな!!」


 よし、気づかなかったふりをして一度戻ろう。もう先輩方も来てるかも知れないと引き返そうとしたが、逃げるタイミングが甘かったようだ。狭霧がすぐに人の間を縫ってピョンピョンとジャンプして私の隣に並んで来る。


「何か用ですか? 竹之内さん? 今は少し忙しくて、出来れば後にしてもらえると助かります」


「そうなの? じゃあ何でこんなとこ居るの? 普通科だよね信矢?」


「ええ。はぁ……実は生徒会の業務で今日の女子部の表彰される部の部長たちに舞台袖で待機してもらうために呼びに来たのです。そして今はその人達を探してる最中なのですよ。ですから……」


「あぁ……生徒会のお仕事か。ふ~ん。部長ならそこだよ? ぶちょ~!?」


「何よタケどったの? え? 生徒会? しかも副会長~!? ヤッバイ、もう時間なのっ!! タケ、私は先行くから後よろしく!!」


 話をする前にダッシュで舞台袖に行かれてしまった。他の部長らにも声をかけてもらう予定だったのだが……どうするかと思案する。すると横にいた狭霧がキョトンとした顔でこちらを見てくる。


「どうしたの? 早く行こ?」


「いえ、まだです。あとテニス部と弓道部にも声をかけなくてはいけないので……」


「ふ~ん……それで分かるの? 誰に声をかけるのか、シンに出来る?」


 なぜそこで狭霧がドヤ顔して少し笑いながらこちらを見て来るのかは分からないが、ここは正直に言うしかない。と、言うよりも時間が無い。


「それは……もう放送で呼び出してもらう位しか……」


「そっか!! じゃあ私に任せてよ!! すいません先輩!! 柳部長どこです? え? もう行ったんですか? ありがとうございます。副部長も? すいませ~ん成田先輩居ますか? トイレ? じゃあ伝言を……」


 こちらが逡巡している間に狭霧がテキパキと知り合い?に次々と聞いて解決していく恐ろしきかな女子ネットワーク。そして同時に驚いていた。少なくとも私の知っている彼女はここまで積極的だったかというと、もっと他人に対して消極的なイメージだったからだ。ただ私にだけは妙に強気だったのは覚えている。狭霧も暫く見ない間に変わったということなのだろうか。


「シン? 信矢ぁ~? 終わったよ? 私たちも行こ?」


「え? あぁ……ありがとうございます。正直助かりました。ですが集合までは十分弱有るので大丈夫です。では私はここで失礼」


「え? でも私……こう言う集会に代表で出るの初めてだから場所とか色々分からないから……連れてってよ」


 どうもさっきから話が繋がらない落ち着こう。狭霧が近くに居て、すっかり舞い上がってしまい冷静では無いようだ。まず女子部の部長に声をかけようとした、そして困っていたら狭霧の協力で全員に声をかけられた……全員!?


「しまった。バスケ部の副部長に声をかけてない!?」


「え? なんで副部長? 副部長は今日休みだよ。さっき部長から聞いたんだけどインフルで今週出られないんだって」


 いきなり知らされた衝撃の新情報……インフルエンザで休みだと。そんな話聞いてない。落ち着け……なぜ情報が私の元に来てない?今日のこの一連の流れは私に委任されているはずでは?それよりも代理は誰だ!?


「なっ……じゃあ代理が!? さぎっ……竹之内さんその人を知って……まさか……」


「うん。信矢の表情がこんなに変わるの久しぶりに見たよ。そう私だよ代理。だから早く一緒に行こ? あ、少し余裕有るんだっけ?」


 完全に会話の主導権を彼女に握られている。小さい時に二人で遊んでいた時は毎回こんな感じで彼女に振り回されていた。ボク……いや、私はいつもそんな彼女のそばに控えていた。今は出て来ないでくれ。君は優しいだけで弱いのだから不要だ。君も承知のはずだろう?私は静かに内心に語りかけた。


「……余裕は有りますが、先輩方を待たせるのはちょっと……。やはりここは早く行きましょう」


「えっ……少しくらい時間有るって……それに私だって少し聞きたいことが有るんだけど……歩きながらでもいいから話そうよ?」


「竹之内さん。昨日も言いましたが学院でも含めて私とはもう話さない方が……」


「さっきあんなに協力してあげたのにそんな事言うんだ? ふ~ん……シンずいぶん偉くなったね? 副会長になったから? ねえ?」


 なんか昨日はもっと殊勝な感じだったのに一気に昔の狭霧に戻っている。前から私にだけは強気で、その癖ヘタレで少し甘えん坊、だけど二人の時には優しい女の子だったのが彼女。そんな過去を思い出すよりも今は彼女にキチンと言わなくてはならない、互いに不干渉であるべきだと!!


「ふぅ……竹之内さん……? あのですね……」


「やっぱり……まだ……ダメ……かな?」


 若干目が潤んでこちらを見上げてくる。身長差なんて昔とは違って逆転してるから今は私の方が目線が上だ。その身長差を生かして、さり気無くこちらのブレザーの端を掴んでジーっとヘーゼル色の瞳で見て来る。だからこのアングルにこのお願いして来る時の目はマズイ……私に効きすぎる。


「…………何を聞きたいんですか? 私に答えられるなら全てお答えましょう」


「うん!! さっすが信矢!!」


 私には無理だった。笑いたければ笑え!!どんなに取り繕うとも頑張って努力して優等生の振りをしているだけだ。本物の天才には勝てない私の本質はしょせんは器用貧乏……なにより彼女への思いまでは変える事は難しい。


「今日さ。なんでジョギングしてなかったの? いつもは……あっ!? いつもって言うか……たまたま、そう!! 偶然今日も朝に公園に居たんだけど信矢が今日居ないのが少し変な気がして気になったんだ。」


「今朝……ですか? 今朝はこの集会の準備のために休んだんですよ? なんせ今年からは副会長ですからね。意外と仕事は多いんです」


「へ~。そうだったんだ!! 良かったよ……じゃあ明日からまたするの?」


 探るようにこちらを見つめる狭霧から少し離れるようにすると彼女も諦めたように私の服から手を離した。手が行き場が無くなって少し寂しそうなので、手を握り返してあげたいが我慢しろ我慢だ私。そのまま彼女に背を向けて曖昧に答える。


「さあ? それは何とも言えませんね……さて着きました。ここで待機していて下さい。私が部活名を呼んだら出て下さいね?」


「うん……分かった。って信矢が司会なの?」


「ええ、色々と事情が有りましてね。では後ほど、次は舞台で」


「うん。分かった……後でね!! ちゃんと私の名前呼んでね!!」


 そう言って私が再度後ろを向くと狭霧はまだ小さく手を振っているので、急いでその場を離れた。そして私は恐らく今回のことを仕組んだであろう壇上で待っている性悪の二人組に舞台で会ったら何を言ってやろうかと今から考えていた。

お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。


誤字脱字のご指摘などして頂けると作者は大変喜びます。どうしても誤字脱字を見逃してしまうので皆様のご協力をお待ちしています。

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