第45話「輝きが翳るとき」
◇
「クッソ……レンの野郎がやられたっ!? アイツまでがっ!?」
「レンさんまで……どう言う事なんすかっ!!」
あれから一週間、あのクリスマス決戦で共に戦った四〇チーム以上の仲間たちは、次々と何者かの攻撃を受けていた。見えない敵からの一方的な攻撃、幸いまだ『シャイニング』のメンバーには誰一人として犠牲者は出ていなかった。
「レン君がやられたのはどこなのかな?」
「行きつけの定食屋を出てすぐの路地である。店主に倒れているところを発見されたようでな、そのまま救急車にて搬送された模様だ」
レンさんは例の工事現場で「A」のリングで戦うほどの猛者でアニキ以外はここのメンバーでも勝った者は居ないと言う。モヒカンなのに強かったんだ……と、失礼な事を思っているとアニキは今まで以上に険しい顔をしていた。
「何人だ? レンの野郎は何人にやられたんだ?」
「逃げて行く三人組を見たらしいのであるが……どうやら直前に変な光や爆発音があったと……」
光や音?まさか爆弾なんて使われたんじゃ?とか思っていたらサブローさんがPCでその路地の映像を発見したので全員で見ると確かに、爆音と光が出ていた。
「これって……」
「これか……なるほどな、シン。俺と初めて会った日のこと覚えてるか?」
俺や他のメンバー言葉を失っている中アニキは突然あの日の事を聞いてきた。それはあの神社でボロボロになって俺が治療した日だ。あれからもうすぐ一年か……なんて思ってるとアニキが口を開いた。
「俺もこの爆弾みてえなやつと同じのをくらったんだよ……あの日……光で目が見えなくなって、クソでけえ音で耳もやられた……てか気絶寸前まで追い込まれた」
「ま、まさか……爆弾ですか?」
「違うのである信矢氏。それはおそらく閃光手榴弾であるな。よく立てこもり犯とかに警察が使うものであるな」
そう言えばなんか昔の刑事ドラマで見た事あるかもしれない、なんか耳栓で防いだとか聞いたけどあんな事出来るのかな?と、疑問を持っていた……てかアニキそれの直撃食らったんですか!?
「もうフラフラでな……使った奴らも何人か自分で使っておいてダメージ受けてたからな。ただその場を這って逃げだしたら別な奴らに待ち伏せくらってボコボコにされたんだよ……ありゃ死ぬかと思ったぜ」
「ちょっとユーキそんな事わたしは初耳なんだけど!! シン坊も報告ちゃんとしなきゃダメじゃない!!」
「す、すいません。まさかそこまで大事だったなんて……。でもアニキがあそこまで追い詰められたなんて、気付かなくてすいませんでした愛莉姉さん……。てか警察の装備!?」
もう頭が混乱しかしない、敵はまさか警察なのか?でも警察が闇討ちなんてする訳ない……だけど『王華』を逮捕したりしてるし……でも……。
「落ち着け。信矢。百面相になってんぞ? 全員、今の状況を整理しよう俺たちは冷静にならなきゃいけない、勇輝さんも、愛莉さんも……レオ何か思いつきそうか?」
「分からない……ただこのままだと、じり貧なのは確実だ。何か手を打たなきゃマズイよ……こうなるとサブロー君頼みだね」
そう言って皆がサブローさんを見る。サブローさんはキーボードを高速で叩きながら映像を確認しつつ次々とデータの洗い出しを続けていた。そして作業の手を止めて画面を睨みつけた。
「この画面を見て欲しいのである。これは去年のクリスマス決戦の映像の敵陣なのであるが……この画面に映っているのは黒蛇に付いていた半グレ集団の一部で所属は不明だった。しかし今回のレン殿の闇討ちの際に顔が判明したのである。コイツは
『血の蛇』の所属の男で前科三犯、いやこの間、四犯になったのだが……」
詳しく話を聞くと『血の蛇』とはどうやら以前から空見澤市の北口の一部で暴力的な稼業をしていた一団で、半グレなのにも関わらず昨今の暴力団禁止条例にも引っかかる程の悪辣振りだったらしい。そこで今度は高校生の不良集団『黒蛇』を使い商店街への嫌がらせをしていた所を俺が加入前の『シャイニング』や他のチームと衝突し妨害されてから因縁が始まったそうだ。
「そんな事があったんですね……」
そこで血の蛇の一派は妨害してきた不良であるアニキ達を一掃しようと果たし状を送り付け、あのクリスマス決戦が行われた。その結果、逆に俺たちに撃退されてしまい勢力を著しく落とし警察のお世話になった。これでその一件は解決したと思っていたが、話には続きがあった。彼らの残りの主だった幹部は空見澤市に見切りをつけ撤退をしたのだが一人残った幹部が居たらしい。
「それがこの人なんすか? サブローさん?」
「いんや、コイツはその男の右腕と呼ばれる男で柳野と呼ばれている者。血の蛇に所属している以外はよく分かっておらぬ。ちなみに残った幹部の名前は須藤と言うらしいな」
「じゃあそいつらが……レンや皆をやった敵なのか?」
アニキがいつにも増して獰猛な顔をしてPCの画面を睨みつけた。見ると竜さんとレオさんも険しい顔をしている。
「現状では可能性が高いと思われるな。吾輩の個人的な推測では80パーセントの確率でこやつらが事件の首謀者である」
「じゃあ残り二割は別の組織の可能性が有るって事なんですか?」
低い可能性でも見逃すのはマズイと思って聞いてみたらサブローさんからは意外な答えが返って来た
「うむ。少なくともこちらサイドの情報が漏れている件はその別組織による諜報が原因だと思われる。あちらは弱体化した組織の幹部一人と手勢がせいぜい数十名、それだけで新たにこちら全員の情報や弱点、行動パターンをピンポイントに抑えるのは不可能なのである……動機はあれど実行犯ではない組織が動いているというのが吾輩の見方だ」
明らかに沈んだ俺たちはただ沈黙するしか無かった。ただ少しの希望は見えて来た。少なくとも敵の存在が朧気にでも見えてきた。むしろそこにしか希望が見出せていない事が現状なのに気付かないようにしていた……。
◇
そしてそれから少し経った夏休み直前、すっかり意気消沈していた俺は明日が終業式かと思って廊下を歩いていた。図書室で落ち着こうと歩いてくると、その前で狭霧が待ったいた。話が有るからと空き教室に入ってそこに置いてあった机の上に座る。狭霧はセットの椅子に座り俺を見上げる形に向かい合った。
「それで狭霧どうしたんだ? 今日は部活有るはずじゃ?」
「うん。大事なご報告!! 私、今日からスタメンでレギュラーです!!」
「マジ? すげえな……やっぱり狭霧には才能があったんだな」
少し悔しいけど仕方ない。やっぱり狭霧は凄い、俺は今こんなんだから応援にも行けないけど頑張って欲しい。
「実はこの前の大会でも途中出場で活躍したんだ~!! それでさ高校のバスケ部のコーチとかそう言う人からも声かけらちゃって~!! スカウトみたいなのもあったんだ!!」
「え……そこまで凄いプレーしたのか?」
「えへへ。スリーポイント三本決めちゃったんだ~♪」
話を聞くと途中出場で劣勢の中で二年生に経験を積ませようと部の顧問が出場させたらしく、負け試合と思ったら狭霧ともう一人の途中出場者のコンビネーションが良くて、そこから奇跡の逆転をし結果的に三年生を押しのけて狭霧ともう一人がレギュラー入りしたそうだ。
「あとね、何か芸能事務所からモデルのスカウトもされちゃったよ!! これ!!
名刺とか貰っちゃった!!」
「は? バスケの試合でなんでモデルのスカウトが?」
「芸能事務所の人がたまたま見に来てたらしいよ。ほら、私の髪の毛って目立ってたからさ……だから物珍しくて声かけて来たんだと思う」
胡散臭い名刺を狭霧に返しながら思う、冷静に考えても狭霧のような美少女なら街を歩いただけでスカウトくらい当たり前にされそうだ。こんな地方都市だから声がかからなっただけで都会なら一歩歩く毎にスカウトされたんだろう。その事務所も見る目が有る、やはり都会から来た人だったんだろうか。
「シンの方はどうなの? 道場とか……あと、いつもの人たちとか……元気?」
「あ、ま、まあな。みんな元気だ。今日も集まるからさ」
現状はサイアクなんだけどな……でもやるべき事を、仇を取らなきゃいけないし反撃を開始しなきゃいけない。なので今日は道場に残存戦力を集めて会議をする事が決まっていた。『AZUMA』は今使えないから師範にお願いしたらしい。
「ふ~ん……そうだ、母さんから聞いたんだけど最近、食中毒とか増えてるみたいだから気を付けてね?」
それは何気ない一言だった。しかし頭にズドンと一撃を食らう程の一言で頭痛もする、なんてタイムリーな話題をしてくるんだこの幼馴染。
「あ、ああ。分かった……じゃあ俺は行くから」
「うん。じゃあ次は二学期だね……九月は絶対に二人で会おう!! だって……シンの誕生日有るから、何があっても時間取るからね?」
「分かったよ。狭霧。俺も……10月の狭霧の誕生日にプレゼント絶対に用意しておくから。じゃあな!!」
「うん。大丈夫……夏休みが終われば……ぜ~んぶ昔みたいになるんだから」
そう言ってドアを開ける時に狭霧が放った最後の一言がなぜか不気味な呪詛のように聞こえた。気のせいだろうけど……。
◇
そして夏休みに入って二週間が経過し八月になったその日だった。新聞の地方版に少し大きい扱いの記事が載っていた。そこには『疑惑の不正資金流用疑惑、空見澤市役所、地域振興課に正義のメス』となっていた。
もう一つ更に小さい記事では空見澤市立病院で一部薬品が盗難され責任者が減俸になったと言う事まで書いてあった。
「ちきしょう……防衛軍や関係者まで……見境無しかよ、直接狙って来ねえとかクソ野郎が!!」
「七月に入って闇討ちや冤罪で約二〇人が戦線を離脱しているのである……これで敵勢力とはほぼ五分五分である……な」
アニキが地下室の土壁を殴りつけパラパラと壁が落ちる。竜さんも無言でレオさんも目をつぶってため息をつく。『シャイニング』が発足されてここまでの危機は初めてらしい。そして愛莉姉さんが地下室に来ると道場にメンバーが集まったので来て欲しいと言われた。
道場に来ると大広間には二〇名弱の男たちがいた。そもそもこの連合は王華と防衛軍以外では女性メンバーは居ない。よって野郎しか居ないのだ。
「ずいぶん減ったな……クリ戦の時の半分以下か」
「ええ。ユーキさんB/Fはもう、俺一人です」
「緑モヒカンさん……」
俺がクリ戦の時に腕と肩の止血と消毒をした人だ。今更ながら互いに自己紹介すると緑モヒカンさんは田中さんと言いB/Fの行きつけの田中理容店の息子さんだそうでレンさんとは幼馴染らしい。
ちなみにメンバーでモヒカンなのは二人だけで他の人はパンチパーマの人と角刈りの人そして最後の一人がアニキと同じオールバックの人だった。その人達は今、どこかの私立の学生と喧嘩して相手に重傷を負わせたせいで拘置所に入れられた。それが一昨日の出来事だ。家業を手伝っていた田中さんだけが無事だったようで今回の会議に出てくれたらしい。
「みんな仲間をやられたんすね……クッソ」
他のチーム、例えば疾風も一人しか居ないのにこの会議に参加してくれた。なんかレオさんと顔見知りらしく話している。その会合では敵のおおよその目的や狙いが分かったので全員一人にならず、そして夜の街へ出るのを禁じると言う内容だった。
「みんなにゃ悪いけどよ……あとは俺たち『シャイニング』に任せてくれ!! 必ずお前らの仇取ってやっからよ……頼む」
そしてアニキの一言で納得した残りのメンバーを解散させた俺たち六人はサブローさんの情報網を使い、その日から相手の構成員を捕まえたりしながら地道に情報を集め、瞬く間に夏が過ぎ去って行った。
そして季節は秋……九月になり、いよいよ敵のアジトが発覚した。反撃の始まりだ……だけどこれが俺たちの最期の戦いになるなんて俺は微塵も思ってなかった。
お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。
こちらの作品は習作なので誤字脱字のご指摘などして頂けると作者は大変喜びます。どうしても誤字脱字を見逃してしまうので皆様のご協力をお待ちしています。また些細なアドバイスなども感想で頂けると助かります。