表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第二章『過去-傷だらけの器用貧乏-』編
41/111

第41話「決別の聖夜、始まる決戦」

 狭霧との決別から数週間後、今日はクリスマスイヴ。さすがに工事現場の闘技場も閉まっている。あれから狭霧から報告があったみたいで母さんの監視が強くなったけど、そんな程度では、もう俺は止まらない。母さんも俺を止められなかった。


「どうだった? 母さん?」


「全教科ほぼ満点ね……成績は美術と音楽以外はオール5……でも」


 地下室でも出来るだけ勉強したし学校では勉強するしか暇を潰せなかった。放課後はすぐに道場か地下室に直行するそんな毎日を過ごしていた。当たり前だ勉強は毎日コツコツやっていたし、そのリソースを全て注いで全力を出せばこの程度の点数はあたり前に取れるんだ。知らなかったろ?母さん?だって俺がこの成績を出せないと思ってこんな事を言い出したんだろうからさぁ?


「まさか……約束破らないよな? これから冬休みの合宿が待ってるんだ。確認したよな? 道場にも?」


 母さんは冬休みの間はずっと家に居て、年末は父さんの実家に家族で帰省しようとしていた。ただ俺の成績が良ければ道場の合宿に参加させてもらえると言う話で決着をつけた。そして俺は学年一位の成績で、さらに無理やり受けさせられた予備校主催の模試でも全国100位以内に入った。(97位だったからギリセーフ)


「ええ、そうね……でも信矢。お願いだから危ないことは……」


「俺が何かした証拠とか有る? 疑わしきは罰せずだったっけ? リアムさんがよく言ってただろ? 良い言葉だよね……じゃ、俺行くから」


 偽装工作は愛莉姉さんとサブローさんがしっかりとやってくれてるから証拠なんて有る訳無い。師範も渋々同意してくれている。


「待ちなさい!! 信矢……狭霧ちゃんが今日ね、あんたのためにクリスマスを一緒にって料理をつく――「ゴメン、これから楽しいパーティーなんだ、あいつには悪いって言っておいて、それじゃ!!」


 ドアを閉める瞬間に母さんの嗚咽が聞こえた気がしたけど関係はない。もう何も聞こえないから。頭が少し痛いなぁ……嫌になるよ。



 ◇



 どうして俺はこんなに合宿に参加したいと嘘をついてまで勉強を頑張ったのか、それは今日はこれから決戦だからだ。いつもこっちにケンカをふっかけて来る『黒蛇』と言う北高の不良高校生を中心としたグループから果たし状が来た。そもそも冬合宿なんて最初から無くて、これに参戦するために勉強を頑張ったのだ。


「遅くなりました。もう会議始まったんすか?」


「来たね? シン君。まだ遅刻じゃないから大丈夫。あと七チームがログインすれば全員集合だからね」


 なので今回は『シャイニング』と、その連合の43チームと一緒に殴り込みをかける事になった。向こうもかなりの大人数で来るらしく文字通りの決戦だ。場所は空見澤市記念公園で作戦会議は『シャイニング』のグループチャットで行う。


「吾輩の方でも確認しましたぞ!! 『死硬帝』と『ドムドム団』の方から今回は棄権すると連絡がありましたぞ」


「九人か……痛いな、寝返りそうか?」


「死硬帝の方は三人しかメンバー居ないので微妙であるな、ただドムドムはこちらと同じ六人、敵方と通じてる可能性はあるかと……」


 アニキが裏切りの有無を聞いてPCのディスプレイを見る。そのチャットは特定のソフトウェアをインストールされたPCからしかログイン出来ず、そしてマスター権限はサブローさんしか持っていない。スマホではアクセスが出来ない仕様らしい。


「メインの四チームは全員参加であるぞ……『王華』と『B/F』『AZUMA』『初代空見澤防衛軍』欠員無し……」


「敵は何人だ?」


 アニキの声が少し強張っている。思った以上に状況は悪そうな感じだ。


「黒蛇は北を含めた県立高の連合それと一部卒業生の半グレが居る感じであるな。

吾輩としてはそこから援軍が来ると考えておる。おそらく100と少し」


「マジか? そんな動かしたら流石にサツが気付くだろ?」


 え……100人……こっちは80人チョイと聞いている。そもそもチームとは言っても『シャイニング』の下部のメンバーは基本ソロが多くて、あとは五人くらいの集まりだ。その小規模チームが集まって80人、これだって大人数だ。そして今の状況はそこから9人減って70人弱。


「あの……竜さん、それにレオさん。こう言う抗争ってのは何回くらい……」


「僕は初だねぇ……ま、何とかなるんじゃないかな? 竜くんは?」


「俺は一応三回目だ。ただそん時だってお互い50人も居なかった。こんなん両陣営で100人以上なんて大昔の小さい村同士の戦くらいの規模はあんじゃねえの?」


 戦争……そんなマズいのか……少し、いやかなり怖い。さっき勢いで母さんに散々イキり散らしたり、この間は狭霧に告白した時も調子に乗って勢いであんな事を言っちゃったけどマジで俺、生きて帰れるのか?


(あの時は興奮して言い過ぎたけど……アイツを泣かせた……最低だ俺)


 こんな事なら狭霧の初めての手料理を……って何を言ってるんだ!!強くなって

守る事は拒絶されたけど、本当に強くなれば、そもそも堂々と迎えに行けば良いだけじゃないか!!でも、あんな事を言ったから関係修復なんて今更……と、一人葛藤しているとアニキから呼び出される。


「うし……シン。少し話がある。こっち来い」


「はい。分かりました」


 地下室から出て外の林に出て来るとアニキが少しの沈黙の後に口を開いた。その内容は俺の予想とは違っていた。


「シン。お前、今日は出るな。このまま帰れ。これはガチでやべえわ……」


「え? な、何言ってんすか!! お、俺だって!!」


「この規模の戦争はマジねえんだわ。俺もこのチームでは初なんだ。前の経験って言っても、俺がお前と同い年の時に一度だけなんだ。それも先輩らを後ろから見てただけなんだ。だから正直お前を守って戦う事はできねぇ……」


 アニキがここまで言うって事はかなりマズイんじゃ……でもここでビビっちゃ舎弟の名が廃ると言ったところ、アニキはさらに真面目な顔になって続けた。


「確かにお前を鍛えてやるとは言ったけどよ。今回のケンカは俺のケンカだ。俺の

事情でお前を巻き込むのは……それにお前はまだ戻れる場所あんだろ? また鍛えてやるから今日のところは……」


「アニキ……正直言うと俺ビビッてます。でもアニキにそこまで言われちゃ黙ってられない……俺が頼り無くて実力不足だって言うんなら諦めます。でも……そうじゃないなら連れて行って下さい!!」

 

「ふぅ、オメーは俺の最初の……初めての舎弟なんだよ。愛莉は俺の女だ。そんで竜やレオそしてサブは仲間で同士だが、オメーは違う。それに巻き込んだのも、お前を煽った結果だ。半分騙したみたいなもんだろうが……」


 え?アニキの舎弟って俺だけなんすか?もっとたくさん居るんだと思っていた。それこそ空見澤だけじゃなくて県下一の喧嘩士なら県内中に居るんだと思ってた……。


「アニキ、俺は騙されたとは思って無いです。俺の悔しくて情け無くてどうしようも無い思いを何とかしてくれるって、俺に言ってくれたのはアニキじゃないっすか! 『騙したようなもん?』なら最後まで騙されてやりますよっ!!」


「はぁ……ったく、悩んでた俺がバカみてぇだ。はぁ、俺らしく無かったな……シン!! 今日は俺と一緒に来いっ!! 俺の背中はお前に任せる……付いて来れるな? いや、必ず付いて来い!!」


「はいっ!!」


 そう言って二人で拳を軽く合わせる。そして地下室に戻って通信を再度確認すると俺たち六人は決戦の地、空見澤公園に向かった。時間は深夜二三時過ぎ……もうすぐイヴも終わる。夜の公園の中央広場には大勢の人間が集結していた。


「こっちの人数は六〇人弱……へっ、ビビッて逃げたか。それとも?」


「マズイのである!! 今確認したらあちらの人数は130人強!! こちらのチームを吸収したと思われるぞ!!」


 サブローさんがモバイルPCで相手を確認しながら言う。どうやら公園の監視カメラにアクセスしているようだ。レオさんが見覚えの有る顔が有ると言っている。


「おう、いいか? 勇輝?」


「ん? レンか……マズイ状況だな二倍だとよ?」


「じゃあ俺らも裏切って向こうに付こうか?」


 声をかけて来たのは『B/F』のリーダーのレンと言う頭が真っ赤な人だった。しかも赤いモヒカンだった。世紀末だよアレじゃ……モヒカン頭とか初めて見た。


「じゃあここで潰すだけだな? で? 冗談はそれくらいにして何だ?」


「ふっ、別に負ける気はしねえよ。ただ俺は少しそこのチビが気になってな? あの『シャイニング』の新入り、直接見た事ねえから話させてくれよ」


「おう。期待の新人だ。大事にしてくれよ? シン!! 挨拶してやりな!!」


 なんか呼ばれたから赤モヒカンのレンさんの前に行くと他にも色んな人が出て来た。どうやら今夜集まったリーダー格に挨拶させられるようだ。ニヤニヤしながらアニキは背中を叩いて俺を前に出した。


「春日井信矢。『シャイニング』の新人、今日はすっげぇビビッてるけど退く気はありません。デビュー戦なんで気合入ってます!!」


「なんだお前……スポーツ選手か何かか?……舐めてんのか?」


「いいんじゃない? 中坊が下手にイキって調子乗ってるより好きだよアタシはね」


 なんか凄い色っぽくて胸が大きい女の人が……思わず見そうになった時に後ろから愛莉姉さんからゲンコツをもらった。


「こらっ!! シン坊す~ぐに胸に目を行く。可愛い可愛い幼馴染ちゃんにま~た怒られるぞ? あとサクラ。うちの弟分をすぐ誘惑すんな!!」


「アハハ。悪いわね。坊や。アタシは『王華』のリーダーのサクラよ。うちは皆メンバーが女の子だから可愛い男の子は大歓迎よ?」


 そうだ……俺はゲンコツの痛みで正気に戻った。俺には何よりも大事な狭霧が……え? メンバー全員が女の子……だと。なななな、何を考えてるんだ俺は……。


「な~にが『女の子』だ。全員アマゾネスだろうが……。あとサクラ!! 今日は

アタシがそっちの補助に入るからよろしくな!!」


「へえ……じゃあユーキ君はその子と一緒って事?」


「そうなる。今夜の相棒はコイツだ!!」


 そう言ってバシっと背中を叩かれる。俺も気合を入れて俺がアニキの背後は取らせないと宣言した。


「しっかし愛莉ぃ~? あんたさ。これってクリスマスにカレシを弟分に取られてるんじゃないの?」


「はっ!? そう言えば……」


 こちらをギロリと睨まれてしまう。焦った俺はアニキや竜さんに助けを求めるように視線を向けるが竜さんはプイっと視線を逸らした、見捨てやがったあの人。そしてアニキは困った顔をした後に思いついたように言う。


「あ~……そうだ!! どうせこれが終わったらいつものとこで祝勝会だろ? ならそこでクリスマスもやっちまえば良いんじゃねえの?」


「それはうちの店でやるって事か? ユーキ?」


 集まっていたリーダー格の中の一人でスキンヘッドの迷彩服の男が会話に入る。

この人は『AZUMA』と言うチームのリーダーの吾妻さんと自己紹介してくれた。

そして居酒屋『AZUMA』のオーナー兼店長でもあった。


「ああ、AZUMAさんとこも、どうせ今日と明日休みにしてただろ? 頼むよ?」


「このAZUMAさんに任せろ!! 酒も料理もいいもんを用意してやろうっ!! ここに集った精鋭67人!! しっかり旨いもん食わせてやるっ!!」


 そして吾妻さんが言った瞬間、歓声が沸き上がる。今の歓声でこちらの位置はバレたかも知れない。実際向こうに動きがあった事をサブローさんから報告されてすぐに目視でも動いたのが見えた。そしてアニキが宣言する。


「事前に打ち合わせた通りだ!! 俺らが正面に出る!! あとはバラけた奴らを好きなだけ殴って倒せばいい!! それとこのパーティーが終わったら……本当のクリスマスパーティーだ!! 行くぜええええええええ!!」


 怒号が辺りに響き渡り全員が散り散りになって残ったのは俺とアニキ、そして竜さんとレオさんの四人だけ、それじゃあ初めての戦争……行こう!!


「じゃあ、後ろは任せたぜ……シン!!」


「はいっ!! アニキ!! 任せて下さいっ!!」




 ――――――後に、この夜は空見澤の伝説になった。


 この聖夜の死闘の輝き、そこに新たに加わった一つの光、その輝きに集った者達が織りなす聖夜の夜の一大決戦、これが俺たちの伝説の始まりになるなんてアニキや俺たちは、まだこの時は知らなかった。

お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。


こちらの作品は習作なので誤字脱字のご指摘などして頂けると作者は大変喜びます。どうしても誤字脱字を見逃してしまうので皆様のご協力をお待ちしています。また些細なアドバイスなども感想で頂けると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ