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フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第二章『過去-傷だらけの器用貧乏-』編
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第39話「激突?幼馴染VSシャイニング」‐Side狭霧その6‐




「シン……久しぶり!! シン、おはよう!! シン!! 大好き……って言えるようになりたい……これで大丈夫かな……また話せるかな……」


 これは中学の夏休みの明けの私、竹之内狭霧の朝の一幕である。お誕生日にシンから貰った写真立てに、シンと私の写真を入れてそれに挨拶したり話しかけたり色々と練習をするのが最近の私の日課だった。


「初日が大事よ狭霧……きっと私と信矢なら前みたいに……戻れるはずっ!!」


 引っ越し先にもすっかり慣れて、この夏休みは両親の別居や妹との別れ、そして何よりシンと離れ離れになってしまった大事件のダメージを隠すように部活に集中していた。でもそれも今日で終わりだ。今日こそはシンと会える。


「大丈夫。全て上手く行くはず……」


 国際電話で妹の霧華に相談したら自分たちを使えと言った。妹曰く自分たちと別れたので寂しい、悲しいなどと甘えれば信矢ならイチコロだとアドバイスされていた。

それはどうなの?と、思ったけど昨晩の霧華との話を思い出していた。


『お姉ちゃん。夏休み中シン兄と会えて無いんでしょ? 夏休みの間にシン兄に素敵な運命の出会いとかあったらどうすんの?』


『そ、そんな事無い……はず』


『シン兄は小学校の時にお姉ちゃんを助けるために何してくれた? クラブ活動のサポートに宿題の手伝い、さらには自由研究の八割はシン兄と共用と言うよりも共同研究課題にしてもらって他にも色々と助けられたよね? 私は覚えて無いんだけど幼稚園の時なんて、もはやシン兄が居なきゃ生活出来て無かったレベルだって聞いたんだけど?』


『は、はい。そのとーりです』


 妹の霧華の言う通りで困った時は信矢が大体助けてくれてサポートをしてくれていた。だから今年は夏休みの宿題は大変だったし、部活もあったから本当に目まぐるしい日々だった。

 

 また私の私生活も引っ越しで大きく変わって家事の一部も私がやるようになったのも大きかった。両親に無理を言って学区だけは変わりたく無かったので学区内に引っ越して貰ったから、そのせいで母さんも働きに出なきゃいけなくなったからだ。


『そして、そんなシン兄がイジメに遭ってて、それを知りながら見て見ぬふりをした挙句にパパに言えば良かったのに最後まで相談せず、解決後も一生懸命それこそ必死に関係改善しようとしてくれたシン兄に、いつまで経ってもウジウジして好きって言えなかったのは?』


『わたしです……』


『そんな優しい優しいシン兄と運命的に美少女なんかが出会ったらどうなると思う? お姉ちゃんとその人のどっちを選ぶと思う? お姉ちゃんでも分かるよね?』


 妹からトドメの一撃が入った。もうダメだぁ……きっと私はこのまま負け犬幼馴染ヒロインとして最後はすべり台行きなんだぁ……もう霧華に助けを求めるしかない。姉の威厳?何ですかそれ?そんなものはシンのイジメが発覚して以降は完全に無くなったよ……。


『どうしよう……霧華ぁ……このままじゃ私……』


『そんなお姉ちゃんに朗報です。あなたは幼馴染を甘く見過ぎている!! そもそも幼馴染が負ける九割は動くのが遅い、好意を出さなくても安心すると言う慢心!! これに尽きる!! しかし、その点シン兄のことが大好き過ぎてもはや依存状態のお姉ちゃんならまだ勝機は有るのです!!』(そもそも、あのシン兄がポッと出の女になびくのは有り得ないのに、この姉はその事に気付いてない。ある意味周りが見えないくらい好きなんだろうけど……ちゃんと私が遠隔でもサポートしないと……また自爆する)


 色々酷い言われようだし、まだ小学生の妹にここまで言われるとへこむ。だけど私たちの関係性を一番理解していて的確なアドバイスをくれるのは霧華くらいしか居ないので仕方ない。その後も懇々《こんこん》と説教され今朝の光景に繋がるのだ。そして私のシン奪還作戦が始まった。





 いきなり昔のように戻るのは不可能なので、まずは一言だけでも話をするのが課題だった。なので廊下で待機していると登校時間ギリギリに信矢がやって来た。


「ひ、久しぶり。シン」


「さぁーちゃん? え? なんで?」


「何でって……え?」


「引っ越して転校したんじゃ?」


 これは……どうしようかと思ったけど、まずは誤解を解く事を優先して放課後にもう一度会う約束をすると最後に私は引っ越したけど、転校はしてないと言った。信矢が久しぶりに笑顔になって小さく「良かった」と言って教室に入って行ったので私まで嬉しくなる。

 

 そして放課後に改めて二人で再会を喜んで少し話し合った結果、部活前の放課後に二人で会う事が決まった。シンも最近習い事を始めたのでその関係で部活はしてないらしい。だから週に二回だいたい二日に一度のペースで会おうとなった。ここから少しづつ二人の関係を修復していければ全部上手く行くと私は信じて疑わなかった。





 部活が終わって部員同士で話している中、いつもは恋バナとか話しているから私はすぐに帰るけど、その日は少し違った。なんでも怪談らしい、駅の再開発地区つまり駅の南口で夜な夜な変な声や怪しい光が出たりしているらしい。


「それを探しに行ったカップルが帰って来てないんだってさ~」


「嘘ぉ。じゃあ怨霊に呪われて帰って来てないの!?」


「帰って来てないなら誰がその話を広めたのよ。不可能じゃない」


 思わず言ってしまった。だって昔テレビの心霊番組を見てビクビクしていた私に信矢が、これはウソだから大丈夫と言ってくれた時の説明を思い出して、それをそのまま言ってしまった。そこでなぜか妙に部内で高評価を受けてしまった。


「「あ、そうか……」」


「じゃあ、南口で幽霊以外の何かが居るのかな?」(シンなら何か分かるかも。だってシンは頭いいからっ!!)


 気になった私はその噂を翌日に信矢に話したらなぜか若干焦った顔をしていた。聞いてみたけど何か事件性があるかも知れないから私は絶対に近づかない方がいいと言われたので私は素直に聞く。何か隠してるのは分かったけど、まさか信矢があそこで戦ってるなんてこの時は思いもしなかった。





 その日は残暑がキツイ日だったから部活がいつもより早く切り上げられ、私は制服のまま夕飯の買い出しをしていた。するといきなり商店街に大きな声が響いた。気になったので行ってみると人がまばらに居て、その中心には鼻血を出して倒れている高校生二人と介抱している女子高生二人がいて、辺りはガヤガヤしていた。さっきの大声は何だったんだろ?その時にまた大声が聞こえて来た。


「―――ね~!! 俺みたいな――――、もう大丈夫――――竜さん!!」


「ったく……バカやろうが……ああっ!! 最高の――――――楽しくてしかたねぇ!! ―――最っ高だっ!!」


 ん?今の声は小学校の時にシンが運動会のリレーの三番手の私を全力で応援してくれてた時の声に似ている!!まさか近くに居るの!!そう思って近くを探すと少し離れた場所に介抱している人と同じ制服を着た女の人しか居なかった。


「やっぱり……優しいんだね竜くん……本当にごめんなさい。勇気が無くて……」


 その人は叫び声の聞こえた方にお辞儀をした後に、そう呟いていた。私は謎のシンパシーを感じて思わず声をかけてしまった。


「あ、あのぉ……お姉さん? 大丈夫ですか?」


「え? うん。大丈夫よ。あ、その制服って空見中だよね? 私卒業生なんだ」


「えっ!? 先輩だったんですか!?」


 その人は肩にかかるロングの黒髪で眼鏡をかけた見た目が知的な人で、私としては羨ましい容姿してるな~とか思って見てしまった。黒髪良いな……この髪じゃなければ……でもシンが褒めてくれた髪だし、やっぱり大事!!


「もう二年前なんだけどね……あぁ……あの頃は良かったなぁ……竜くん……」


「あの、高校生って大変なんですか?」


「ううん。辛いのは私だけかな。じゃあね」


 それだけ言うとその黒髪ロングさんは騒ぎの中心の四人組の方に戻って行った。

そこで私は夕飯の買い物と言う用事を思い出して慌てて元来た道を戻る時に雑踏の中でその単語を聞いてしまった。


「ほんとバカな嬢ちゃんお坊ちゃまだったよな、あの『シャイニング』にケンカ売るなんてな」


「ああ、それにしてもあれが噂の新メンバーか……あの二人が反応するより速く対応してやがった、小さかったが中学生か?」


「あぁ……だろうな。Bリングの川上竜人が言ってたな……シンヤって」


 一瞬ビクッと反応して声のした方を見てしまう。見るとガラの悪そうな三人組が信矢と言っていた。けど全然関係無いよね……シンは今頃は道場で頑張ってるはずだから、近い内に道場にお弁当とか作って持って行ったらポイント高いかな?とか思って嫌な予感を打ち消すように私はその場を急いで離れた。





 またそれから少し経った日、校内で不良と言われていた先輩三人が保健室に運ばれると言う事件が起こった。不良同士のケンカとか聞いたけど、それよりも私には気になっている事が有った。もちろんシンのことだ。


「信矢知ってる? なんかうちの中学で、あの体育館に近いとこで不良同士のケンカがあったんだって……怖いよね……」


「不良なぁ……ま、いるんじゃね? 俺は聞いた事ねえけどよ」


 なんかシンの言葉遣いが乱暴になってる。それに『俺』なんて一人称じゃなかった。昔は優しかったし、私を怖がらせないように丁寧な言葉遣いだったのに……少し怖い。目つきも最近はキツイ気がする、よく見ると腕とか首筋に擦り傷とか打撲の跡が見える。道場に通ってるからそのせいだって前に聞いたけど心配になった。


「これも部活で聞いたんだけど、凄い強い不良のチームが居てそのメンバーがうちの学校に居るらしいんだ」


「そ、そうなのか。それよりも最近部活はどうなんだ? さぁーちゃん?」


「え? うん。まだ一年だから基礎練と走ってばっかだよ。でも一生懸命頑張ってるから大丈夫だよ!!」

 

 そして校舎裏で十分弱、いつもの通り話し終わると信矢は古武術の道場に行ってしまった。次は明後日……やっぱり毎日会いたいな。その考えを切り替えて部活モードになった私は自分のやる事をやろうと思って部活に向かった。

 そしてその日の部活終わりのいつもの部室では今日、信矢と話していた不良チームの話が出ていた。


「なんかチーム名は『シャイニング』って言うらしいよ。あと女の人も居るみたい」


「それよりあの噂って本当なの? メンバーの名前が分かったって話」


「うん。なんか一年の子らしいんだけど、苗字が春日井って言うらしいよ」


 ボトッと思わずカバンを落としてしまった。部室中の注目を集めてしまったので、ゴメンと言いつつ、その女子の話に加わる。見ると同じ小学校から上がって来た子も何人か入って来て私の方を見ている。クラスは一緒になった事はないけど顔見知りの子だったのでこちらを察したみたい。


「それで? どんな子なの?」


「なんかボッチでよく分からない子なんだって、この間の三年の不良を一〇人倒したのもその子の仕業らしいよ」


「え……そんな……」


 呟くと顔が真っ青になるくらいショックだった。たまらず私は部室を飛び出してしまった。まさか信矢がそんな事……乱暴なんてしない優しくて、いつも笑顔で私を守ってくれた大事な幼馴染。それが信矢だ。きっと何かの間違いに違いない。苗字が一緒の人だって、きっと他にも居るはずだ。


「そんな訳無いよね……だって調べたもん全クラス……」


 そう、信矢とクラスが違うと分かった時に一年の五つのクラスを全て調べたのだから、その時に春日井なんて苗字は他に一人も居なかった。焦った私はもう手段を選ぶべきじゃないと判断してその日の内にすぐ動く事にした。





 家に帰るとすぐに夕飯の準備を済ませて、その後は母さんの帰宅に合わせて炊飯器のタイマーをセットして準備完了だ。最初は苦労したけどもう三ヵ月近くこうやって家事をしているから少しは上手くなっていた。あとはボタンを押すだけだからと時間に空きが出来たから私はある番号に電話をかけた。


「もしもし、春日井さんのお宅ですか? 私、竹之内です」


「はい……って!! 狭霧ちゃん!! もうっ久しぶりね!! どうしたの? 奈央がまた何かやらかしたの?」


 うちのお母さんへの信頼度がよく分かる受け答えありがとうございますシンママ。悪意が無いだけに余計心配になるなぁ……母さん。


「いえ。あのシン……信矢は最近どう……ですか? 家とかで」


「え、ええ。最近は放課後は道場通いで頑張ってるみたいなんだけど何か少し変なのよね……あの子、最近は怪我とかが多くて。それに少しお金のニオイが変なのよね。こう、何か変なのよ」


 シンママこと翡翠さんの言うお金のニオイと言うのはお札や硬貨のニオイでは断じて無く、お金にまつわる微かな変化や使い方など些細な変化を嗅ぎつける鋭い勘の事だ。これをレーダーと母さんなんかは勝手に呼んでる。


 このレーダーは母さんが言うには凶悪な性能らしくまだ学生時代の自分の浪費を糸くずとレシート一枚で発見したり、私が小さい時はシンパパが大人のお姉さんがいっぱい居る飲み屋さんにコッソリ行った事を週明けには把握していてメモと一緒に臨時のお小遣いが入っていたなどの実例が有ったらしい。


 そしてそのメモには『無駄遣いならもっとマシなものに使うように』と書かれていたそうで、うちのパパも苦笑いしていた。どうやらパパが誘ったらしく母さんにもシンママからさり気無い注意が入ったそうだ。シンもそう言うお店に将来行くのかなと当時は不安に思っていたのでよく覚えていた。


「あの、学校でも色々と最近少し変な噂が出てて、それに今日も信矢と話した時に体に痣とか打撲とかあって……その、まさかまた……とか思って心配で」


「ああ、それでわざわざ電話を、ありがとう。でも、それは道場の関連だから大丈夫だって聞いてるから問題無いわ。それより噂って何かしら?」


 そこで信矢の名前が挙げられている事だけを伏せて、最近の南口の幽霊騒動や不良同士のケンカ、謎のケンカ集団のメンバーが中学に居るなどの話をした。するとシンママは少し考えた後に言った。


「大丈夫だとは思うけど……狭霧ちゃん。信矢のこと見れる範囲でいいからお願い出来ないからしら? あんな事があってから頼れるのはもう……ね?」


「お、お任せ下さいっ!! お義母さま!! 今度は絶っ対に私が、シンを助けますからっ!!」


「ふふっ……ありがとう。本当に将来的にそうなると私も安心出来るわ……お願いね。あとそれから……最近の学校での、あの子のこと教えてくれない?」


 その後は私とシンの雑談の内容を少し話したり私の部活の事を話したりと色々話せるだけ話していたら母さんが帰って来たので、電話を切ると炊飯器のボタンを押すのを忘れていた事に気付いた。


 母さんにその事を話すと呆れられた。やっぱり私は母さんの娘みたいです。でも明日からは気合を入れてシンのために情報収集を頑張ります!!そう、全ては私の将来の素敵な結婚生活のために!!





 翌日から私はクラスメイトとの会話や部活の後の雑談にも積極的に参加したり情報を集め出した。そして少しづつ慎重に情報を集めた。途中何回か男子に告白されたけど全部キッパリ断って情報だけを聞き出していた。


「つまりまとめると、その不良集団の名前は『シャイニング』でメンバーは六人。

最近一人増えた。増えたメンバーは体格から中学生……そしてこれが一番問題……信矢がこの中の数人と一緒にいたって事……」


「どうしたんだい? 竹之内さんボソボソと、それよりも情報を話したんだから今度こそ俺と――「あ、それは無理です先輩。私、心に決めた人が居るんで誰とも付き合う気が無いんで、じゃ情報ありがとうございました」


 私は情報提供者にお礼だけ言ってその場を離れた。そして放課後、信矢と話すために急いで廊下に行こうとしたら小学校からの部活の友達やクラスメイトとカラオケで誕生会をやろうと言われた。

 

「え、でも私、今日は……」


「せっかく皆集まれるんだし行こうよ~」


 信矢と話さなきゃいけないと思ったけど、情報収集の事もあって断り切れなかった。だから今日は信矢に事情を話そうと探したけど、結局どこにも居なかった。

今日は私の誕生日だから絶対に会ってくれるって……そう思ってたのに一番つまらない誕生会に私は心の中で終始不貞腐れていた。





 それから数週間後に部活が休みになったから、さっそく信矢に会おうと動いた。

帰り際に何人か友達が誘ってくるけど全部「忙しいから」と言ってすぐに信矢を探したらいつもの場所に居たのですぐに声をかける。


「あ、シン。会えて良かった。今日さ部活休みなんだ……」


「そう……俺は今日少し用事あってな……」


 最近はなぜか会話が弾まなくなってるからそこら辺も気になっていたから少しでもシンから話を聞こうとした時だった。


「え? そう……なんだ。じゃ、じゃあ今度の日曜とか久しぶりにあそ――「竹之内さ~ん!! 少しい~い?」


「ワリぃな……急いでるんだ。じゃ、俺はこれで」


 待って。行かないでと引き留めようとしたら、その友達二人が両脇から私をグッと引き留めた。思わずムカッとして二人を振り払う。


「何するのよ!! シンが行っちゃう!」


「ダメだよ……竹之内さん。たぶん春日井くんは手遅れだよ。もうあの噂のこと知ってるんでしょ?」


「だから私が止めなきゃいけないのにっ!! それを聞き出そうとしてたのに!! 邪魔しないでっ!!」


 そうだ、もう一刻の猶予も無いから急がなきゃと思って後を追ったけどシンは居なかった。同級生二人が後を追って来たけど私の怒りは収まらずにガン無視して家に帰った。





 あれから更に二週間くらい空いたけど入ってくるのは信矢に対する悪い噂ばかりだった。最近は信矢と話しても一言くらい話すとすぐにどこか行ってしまう。だから今日は会話を長引かせようと話しかけたら信矢がチラリと私の後ろを見る、振り返るとクラスメイトやバスケ部の同級生がこちらを見ていたのが蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


「ふぅ……俺は道場行くから。次はいつ会えるか分かんねえから。元気でな」


「え? まだ少ししか話せて……ないっ!?」(あいつらまた見てたの……だから信矢が遠慮して……本当に邪魔な奴ら)


 こうなったら私に出来る事は一つしかない……例の『シャイニング』が目撃されている北口商店街付近を見張るしか無い。そして見張っていると予想通り信矢と他の五人がどっかのお店に入って行く。私もバレないように反対側の本屋さんで立ち読みしながら待機する。二時間後くらいしたら信矢たちが出て来たけど私はその光景に目を疑った。


「んじゃ、払って――――!!」


「おう、頼む!!―――ろよ!!」


「ゴチに――――――? 信矢――」


 信矢が財布を取り出して……高校生たちに無理やり奢らされているっ!!なんか大柄の黒のオールバックの人と頭が二色の金色と青の人がニヤニヤしながら背中をバシバシ叩いてる。


「ま、アタシらの―――だからな? 次は―――よ」


 遠くてよく聞こえないけど大体分かった……そうだよね……シンが、あの優しい

シンが不良なわけ無い……脅されてたんだ。だからいつもメンバーと一緒に居たんだ。それにあの頭がオレンジっぽい茶髪の女の人との距離が近いと思う。


「あいたっ!! ―――止めて下さい―――さん」


(あっ!!信矢が殴られてる……きっと抵抗したから殴られたんだ……ヒドイ。それにあのロン毛、目つき悪いし、きっとモテないに違いない!!)


 凄い怖い……だけどこのままじゃシンが……シンを助けに出て行こうかと考えていたら更に衝撃的な光景が目の前に飛び込んで来た。


「アハハ……――――――すいません。色々――――――のに、うわっ!!」


 それは目の前で信矢が、わ・た・し・の!!信矢があのオレンジ頭に抱きしめられてるシーンだった。はぁ?まさか……信矢が取られた!?あ、少し嬉しそうにしてる……あの人の胸の感触に絶対に喜んでる!!私に胸さえあれば……。そうして六人が立ち去ると私はやっと本屋を出る。


「でもこれで分かったわ。信矢は無理やり付き合わされているのね!! さらにあの性悪女のハニートラップに掛かったんだわ!! だって信矢は巨乳好きだから!!」


 ちなみに私はこれを大声で言ってるけど周りのお客さんは生暖かい目やら胡散臭そうな目で見ていたそうで、なぜそれを知ったかと言うと……。


「こらっ!! 狭霧!! ちょっと来なさい!! おほほ~!! 娘が失礼しました。それでは~」


 帰宅途中の母さんとバッタリ会ってしまったからだ。家に帰るまでお互い終始無言で、家に帰ったらすんごい怒られた。でも、そんな事よりも、ついに信矢の無実の証拠を掴んだんだから……近い内に決戦よ!!





 そして現在、ついに私は信矢を苦しめている悪党たちの前に立った。


「シ、シンから離れて!! こ、この不良集団!! これ以上シンを不良になんかに絶対させないんだからっ!!」


「「「「「は?」」」」」


「え? さぁーちゃん?」


 うん。なんか呆けているような顔も素敵だよ信矢!!きっとそんな顔させられるようになるまで酷い目に遭わされてたんだね!!シンママ……いえ、お義母さまにも頼まれているから私が解決してみせる!!


「シン!! 待ってて!! 悪の道から私が助けるから!!」


「なんだ? この女? てか信矢……まさかコイツ……」


「えっと……幼馴染のさぁーちゃんです」


 そう言うと信矢以外の五人が私をマジマジと見つめて来る。そこで五人を改めて見ると大柄のオールバックに目がキリッとした男、その横に茶色っぽいオレンジ頭のハニトラ女、私を見て来たロン毛と、目が合うとニコニコしてくるちょっとカッコいい二色メッシュの人。あと鉢巻を巻いたヲタクっぽい人。なんか不良っぽい人が二人だけで後はジャンルがバラバラ?


「あのよ……シン? どう言う状況だこれ?」


「えっと、すいませんアニキ取り合えず俺が落ち着かせるんで――「い、今っ!! 今『シン』って……私のシンを『シン』て呼んだっ!! そう呼んでいたのは私だけだったのにっ!!」


 この大柄のアニキとか呼ばれた人。私のシンを『シン』って呼ぶなんて……絶対に許さない。アニキとか言わせてるし無理やり従わせてるのは良く分かったわ。


「これは中々面白い子が出て来たね? サブローくん?」


「金髪ヤンデレ幼馴染とかジャンル盛り過ぎであろう。吾輩、芋でもふくれなかったお腹がいっぱいであるぞ?」


 金髪……やっぱり私は一番最初はそこを見られるんだ。でも信矢を守るためなら今はそんな事気にしてられない。少し震えるけど言い返そうとしたその時、私の前でクルリと五人に向き直って私を背に庇うように信矢が鉢巻と二色頭を見て言った。


「あの、サブローさん、あとレオさんも……その金髪って言うのは無しで頼んます。

さぁーちゃんの髪はアッシュブロンドって言うんで……そこはお願いします」


「お? シン坊どした? この間の工事現場ん時よりヤバイ顔してんじゃん?」


「あぁ……シンがこの顔したの一回だけ見たわ。俺と竜に殴りかかって来た時だわ。サブ謝っとけ、これはガチのだ……キレる寸前だ」


 信矢……凄いカッコいい……いつもみたいに優しいだけじゃなくて不良に向かって怒ってる横顔が凄いワイルドだよ~!!私の……わ・た・し・の!!ために、こんな顔するようになったんだ中学になってから背が少し追いつかれたから気になってたけど少し大人っぽい……。


「おい、なんか……焦点定まってねえぞ? お前の幼馴染、大丈夫なのか?」


「え? マジすか竜さん? あ……さぁーちゃん? さぁーちゃん!?」


「はっ!? 信矢がカッコ良すぎて意識が……ゴホン。とにかく!! 信矢は返してもらいますっ!!」


 そう言った私を信矢はポカーンと見つめていたけど、他の五人は、なぜか生暖かい目と言うか残念な子を見守るような目で私を見ていた。これはガンを付けるってやつだよね!!こうなったら私も精一杯対抗しようとキリッと睨んだ。


「うん。やっぱり、さぁーちゃんは可愛いなぁ……」


「シン……えへへ。可愛いだなんて……」


 だけどすぐに、フニャっと顔が崩れちゃう……もうっ!!シンがすぐにそういう事ばっかり言うから私いつも困っちゃうよ。


「あ~、なんつーかこれ……」


「うん。アタシでも理解したわ」


「けっ……ガキが色気づきやがってよ!!」


「羨ましいと素直に言ったら? 竜人くん?」


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ~~!! リア充滅べええええええ!!」


 なんか外野の声がうるさいけど久しぶりに見た信矢の笑顔に私は癒された。そして私の本来の目的はすっかり頭の中から抜けていた。

お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。


誤字脱字のご指摘などして頂けると作者は大変喜びます。どうしても誤字脱字を見逃してしまうので皆様のご協力をお待ちしています。

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