第37話「どこにでもある話?それは俺たちの話」
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◇
俺達はそのまま地下室に戻ると竜さんが開口一番キレたように叫び出す。見るとレオさんがニヤニヤしているし、俺も笑わないように必死に抑えていた。
「恥ずいマネさせやがって……あれ持ってこい!! 信矢ぁ!!」
「はいはい。どうぞ、氷ですか? それともロックですか?」
すでに慣れた手つきで氷割りを作る俺。もう何も言わない……バレなければセーフだし、竜さんの場合はあと三年だし、と諦めて琥珀色のそれを渡す。
「おうおう、どうした? シン? それに竜も? いきなりそれに逃げるとは穏やかじゃねえなぁ?」
「ああ、アニキ。竜さんが、たぶん好きな人を振って、わざと嫌われようとしてたんでレオさんと二人で協力して来ただけっすよ?」
いきなり確信を突いた俺の発言に竜さんが咽た。そして愛莉姉さんとサブローさんが興味津々と言った顔をして集まって来た。
「ブホッ!! げほっ、あぁ……てっ、てめえ!! 信矢っ!! な、ななな何言っやがんだよっ!!」
「いや、さすがにバレバレでしょ? 竜人くん。あの子でしょ? 嘘告の子って」
レオさんが指摘すると明らかに飲んだのとは別の原因で顔を真っ赤にした竜さんがそっぽを向く。やっぱりこれが正解だったみたいだ。てか、あれでバレてないと本気で思ってたんだろうかこの人。
「嘘告……あぁ、吾輩調べたので覚えているぞ!! 相良汐里の事であるな!! 中学の卒業間近に告白され、進学先の東校の入学式の日に嘘告と言われてクラス中の笑い者にされたのであったな?」
改めて聞くとエグいな……でも、あの人そんなに悪い人には見えなかったけど。そう思っているとアニキがサブローさんの言を受けて言う。
「しかも竜はその年の首席で入学だから余計注目集めたらしくてな。主席だけど恋愛は落第とか言われたらしいからな……」
「いつものパターンなら裏が有るんじゃないんですか? サブローさん?」
「それが……これは純粋に嘘告なのである。少なくとも件の相良汐里から間違いなく嘘告と言われたのは事実であるからな。そもそも今回は双方の話だけで我らのように警察沙汰やお家騒動、はたまた民事事件手前など他人を巻き込んだ騒動になっていないから詳細は当人同士しか分からんのである」
確かに愛莉姉さんは会社同士のお家騒動、俺やサブローさんは民事事件、レオさんは痴情のもつれの末のトラブルで全部他人の入り込む余地がある。だけど、竜さんの場合は当人同士の話だ。そして恐らく竜さんはその話はもうしない。さっきので蹴りを付けたんだと思う。
「でも……あの人そんな悪い人には見えなかった。俺に謝ってくれたし」
「確かにね、あのイキった自称優等生集団の中で彼女まともだったよね。それに守ってあげたくなるランキングとかあったら結構高いんじゃないかな? 儚い感じでさ」
「さらにであるが、吾輩が急ぎ調べたら衝撃の事実が!! なんとこの娘スリーサイズが最近急成長で凄まじいでござる!!上から――――「だぁまれぇ!! オメーら!! しおりんの事はど~でも良いだろうがぁ!!」
少し酔いが進んで呂律が回らなくなった竜さんの目が据わっている今なら酔拳とか使えそうだ。殺気が出まくっていて本気のアニキ並みに恐い。だけどそれ以上に好奇心が勝ってしまった。
「「「「「しおりん?」」」」」
俺たち五人のハモリ方は異常だった。完璧だった。だってそれだけ竜さんがまさかそんな事を言うなんて……。
「だぁー、ちっ、ちげえし、ちょっと飲んでて頭おかしくなっただけだ」
「酔うと人は本性を出すと思うけどね? どう思うシン坊?」
「愛莉姉さんの言う通りだと思います!!」
「てっめえ信矢っ!! テメー俺の頼りになる後輩だったんじゃねえのかよ!!」
後輩でもアニキや姉さんには勝てませんからとニヤニヤして言うと「明日の鍛錬覚えておけよ」というとブツブツまだ言うのでチーム全員で「しおりん」を連呼していたら、やっと諦めてポツリポツリと話し出した。
「どこにでもある話だよ。がり勉のバカが図書室で一人で勉強してたら図書委員の女に声かけられて勝手に好きになってたらよ……そいつに告られたんだよ」
「昔の竜は、どっちかつーとよ、お前にけっこう似てんだよシン。オメーも勉強出来んだろ?」
そうなんだ……じゃあ、もしかしたら最初の頃に竜さんが俺にやたらとキツイ絡み方して来たのは同族嫌悪だったからなのかもしれない。でも俺が勉強してた動機は凄い不純だったんだよなぁ……。
「はい、クラスでいつも一番でした!! いつもトップだと、さぁーちゃんが『凄い』とか『大好き』ってコッソリ褒めてくれたんで!!」
「かぁ~、俺なんて60点以上取ったら夕飯のおかず一品増えたってのに、なんだこの落差……」
と、二人で言っていたら愛莉姉さんが、アニキと俺に拳骨して黙らせると竜さんに先を促す。どうやら竜さんの恋バナに興味津々なようだ。まるで乙女だなって思ってたら、もう一発殴られた。思っただけなのに……考えが読まれた!!
「そんで? 話しな竜。同じ女のアタシなら何か分かるかも知れないしさ」
アニキと二人で目を見合わせた。同じ女だったのか?と目で聞いて来るので、どっちかと言うとタイプは全っ然違う大人し目の清楚系メガネ女子でしたと視線で語った俺。一瞬、愛莉姉さんがこちらを睨んできたけど今度はバレなかった。
「あくまで勘なんすけどアイツ、汐里には幼馴染の伊藤由希って奴がいたんすよ。
信矢とレオは知ってるだろ? 俺を煽って来た女だ」
「「あぁ~」」
「嘘告含めて全部あの女の仕業じゃねえかと思ってるんすよ。たぶん、しお……相良は元々、俺なんて……俺なんてぇ、好きじゃ……なかった、けど俺と接点を持ってたから利用された……とかそんな感じだと思ってる」
一応、筋は通ってるけどそうなると次なる疑問が出てくる。そう、それは動機だ。なぜそんな事をしたのか?それがまるで分からない。どうやらレオさんもそれに気付いたようでそこに言及した。
「俺にも分からねえよ。第一あの伊藤とか言う女は図書室で相良と話してた時も一切出て来なかった。てか中学で話した事すら無かった。それなのに、いきなりあの入学式の後に、私の幼馴染が大発表しますとか言い出してクラス中で嘘告をバラした。そんで今の俺の出来上がりさ」
「動機無き事件であるな……Why、なぜ?だけが謎、ちなみにいくつか推論は立てられるがこれから先は完全な妄想になってしまうのだ」
サブローさんの言う通りだ。例えば伊藤が竜さんを実は好きだった?それなら振られた竜さんに何かアタックをしてくるだろうし、そもそもイジメたいのであれば中学でも出来たはず。
仲の良い幼馴染を奪われたから?それなら図書室にいる時点で妨害をしてくるのが自然だと思う……やはりあの伊藤と言う女は本当に理解出来ない。それとも俗に言うレズビアンだった?いや有り得ない、もしそうなら奪い返されるリスクを冒してまで竜さんと接触してくる理由なんて無い。それにあの絡み方は悪意しかなかった。
「ダメだ。分からねえっす。分かるのは竜さんに恨みがあって、それが高校生になってから出て来たって事くらいですよ。てか入学式とか何かしたんじゃないっすか?」
「いや、それはおかしいよシン君。だってあの伊藤は思いつきで相良さんに嘘告だった宣言をさせたんじゃなくて計画的だったんだろ? 竜人くん?」
「ああ、なんか待ちに待ったって感じだったんだよなぁ……あの憎たらしい笑顔はガチでウザかったの覚えてる」
そこで推理合戦は終わってしまった。ちなみにアニキは難しい話は無理だと言ってベッドで眠っている。愛莉姉さんはやはり恋愛絡みだから、竜さんを好きだったのでは?と言うし、サブローさんも俺やレオさんと同じ意見だと言う。結局この話は暗礁に乗り上げてしまった。まさかこの話がこれから三年後に解決するなんてこの当時は思いもしなかった。
「あぁ……なんか話してたらイライラしてきた……信矢っ!! 鍛錬すんぞぉ!! 付き合え……うっ……おえええええええええええ」
そこで竜さんはフラフラしながらも今日買い出しでもらったビニール袋を広げると盛大にリバースした。ツンと酸っぱい臭いが広がるので急いで換気扇を起動するサブローさん、すぐにその袋を非常口からゴミ捨て場に出すレオさん。周りを確認して軽くふき掃除する愛莉姉さん。そしてベッドで寝てるアニキと見てるだけの俺。
「俺の話もそうだけど、こう言う恋愛絡みの話ってどこにでもあるんだなぁ……」
「いや、普通ねえだろ。実際んとこ俺は愛莉と付き合うまでは恋愛なんてした事なんて無かったからな。てかお前いつからボクから俺に変わったんだよ?」
「あ、そう言えば、なんか男らしくしたいと思ってさっき変えちゃったんすけどマズかったですか?」
いつの間にかアニキが俺の真横に居て呟きに答えていた。そして自分の一人称が『ボク』から『俺』に変わったのを今更ながら自覚する。思わず漢らしい口調になったけど良かったんだろうか?と、不安になるけどアニキはそれを振り払うように言ってくれた。
「んな事ねえよ……良いんじゃねえの? 俺って言うのもチームに染まって来た証拠だしな~!! 目指せ漢の中の漢ってな?」
バシバシと背中を叩かれるけど夏休みの時は叩かれたら咽たりしていた事もあったけど今はしない、少しづつだけど体の筋力が付いて来た。今までは戦術や弱点を突いた戦いをしてきたけど最近は打撃力も付いて来た。これなら次の戦いはもっと活躍出来るかもと思って「うしっ!!」と言って手を打った。
「なんか色々モヤモヤするけど俺は俺のやりたい事を、したい事をします!!」
竜さんの事とかもちろん狭霧の事、他にも色々まだまだまだまだ解決しなきゃいけない事は色々あるけどアニキや『シャイニング』の皆と一緒なら先に進めるし、やりたい事、なりたい自分になれるんだって思ってた……この時はまだ、本当にそう思っていたんだ。
お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。
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