第15話「不穏な放課後デート」(前編)
あれから渋々と二人の写真の使用を許した私と、クレープを食べ終わって満足した狭霧はクレープ屋を後にした。日は傾き少し薄暗いが街灯が要るかと言われれば、まだ必要無いそんな時間帯だ。彼女はまだどこか目的地が有るらしく駅前のロータリーを抜けて今居た駅前とは反対側の新興商店街と駅前ビルが建つ南口の商業地区へと私を連れて行くと言う。
「なんか結局クレープほとんど私が食べちゃってゴメン……」
「お気になさらずに、お腹が空いてなら仕方ないですよ」
「でも三つは食べ過ぎたかも……ちょっとお腹苦しいかな?」
そう言って苦笑いする狭霧、ついつい餌付け感覚で自分の分のクレープを半分以上与えてしまった自分にも責任がなくも無いので少し反省しよう。そう言えばこちら側に来たのは久しぶりだ。私の家からは専ら古くからある商店街か近所のコンビニくらいしか利用しないし、徒歩通学なので駅前は先ほどの北口の入り口くらいしか来ないからだ。
「ここら辺もだいぶ変わりましたね。前は工事中だったのですが……」
「うん。昔は工事現場多いからこっち来ちゃダメってよく言われてたよね?」
「ええ……そう……ですね」
ズキンと頭に響く痛みで一瞬眩暈がしたが、何とか耐える。やはり彼女と思い出話をしたらこうなるのか……人格が切り替わるまでの過負荷は無いけどマズいかも知れない。やはりまだ私は弱いのだな……。
「ん? 信矢どうしたの? 顔色……悪くない……けど、どこか変なの?」
「いえ。少し見ない間に施設も人も増えたので、軽く人酔いしただけですよ。それより行きたい場所と言うのはどのお店ですか?」
「え? あ、う~ん。そうっ!! ちょっとバッシュとか見たくなって……それからテーピング用のテープも少なくなってて、そういうの色々見たくて!!」
明らかに今思いついた感じの彼女のリアクションを見て訝しむ。今の慌てた反応から何かを隠している?まだ分からない。取り合えず彼女の後について行くことにしよう。狭霧の話によるとスポーツ用品店はこの商店街の反対側出口付近らしい。つまりこのまま最奥まで真っすぐに歩いて行く必要がある。だがここで私は気付いてしまった。
「あの……竹之内さん? そこの複合ビルの三階にもスポーツ専門店が入っているようなのですが?」
「えっ!? ほんとだぁ……こんなとこに……。はっ!? で、でも私は一番奥の店じゃないとダメなんだよっ!! だってあそこの常連だし!! 学院指定はあっちなんだよっ!! さぁデートの続き行こう!!」
「はぁ……学院指定。そういうのが有るんですか……副会長として知らなければいけない事でしたね。迂闊でした」
なるほど。顧問のオススメや部活単位さらには学院単位でも、その手の行きつけの店が指定されているとは聞いたことがある。中学から部活を一切してない私が知らないのも仕方ないが生徒会役員としてはこういう情報も仕入れておかないといけないと反省する。それと最後のデートと言うのは……う~ん。
「ま、奥まで行く途中にも色々見たい物も有るしさ、買うもの決まってるからゆっくりと見て行こうよっ!!」
「分かりました。ですが、それではまるでウィンドウショッピングの方がメインのような気が……」
「そっ、そんなことはナイヨ~。せっかくだし色々見たいだけだからっ!! 女子はこういうのが基本なんだよ!!」
そこまで強く言われてしまえば納得するしかない。私は男だし、そのあたりの機微は分からない。おそらく女性は皆このような感じなのだろう。しかし先ほどから雑貨屋、ドラッグストアなどを見た後にさり気無くカラオケ店に入ろうとしたので全力で阻止するはめになってしまった。
「やっと……半分くらいですか。時間もあまり遅くなるのは問題ですし早くその店に行った方がいいのでは?」
「そうかも知れないけど、信矢と二人でこうやって遊ぶの久しぶりだから……もう少しダメ……かな?」
「ふぅ……あと三十分だけですよ? その後はスポーツ用品店に向かいます。そして即帰宅です。それなら許可します」
狭霧が色々と言っていたが最終的に『分かった』と納得してもらえた。さて、では残りをどう過ごすかと思っていたら。狭霧がこちらの腕を取って急かしだす。
「じゃあ後一件だけ!! 急ごっ――きゃっ!!」
「狭霧!! くっ!!」
狭霧が周りを見ないで私の腕を引っ張っていたので、そのまま後ろにいた人に気付かずにぶつかってしまった。さらに狭霧自身は後ろ向きでぶつかったので、こちらに向かって前のめりで倒れてくるので、それを素早くキャッチして転ばないように軽く抱き止めた後に、その流れのまま自分の横に立たせる。
「狭霧? 大丈夫ですか?」
「う、うん。ありがと。少しバランス崩しちゃって」
「良かった……。さて、あちらはどうかな……失礼。大丈夫ですか?」
狭霧がぶつかってしまった相手の、茶髪の学ランを着崩した男子に声をかける。相手は男子三名で行動していたようで、いずれも似たような恰好をしていた。この近隣では見かけない制服、こんなところに他所から来る人間などいないと思ったが、そこまで思案していると尻餅をついた相手が起き上がってきた。
「てっめぇ!! どこに目ぇ付けてんだよ!!」
「大丈夫ですか? 私の連れが失礼しました。狭霧?」
「うん……。ごめんなさい。不注意でした」
私が軽く頭を下げ相手を伺って狭霧に謝罪を促すと今まで気づいてなかったのか相手の連れ二人が狭霧を見て固まった。それは当然だろう今更言うまでもない事なのだが、狭霧は超の付く美少女だ。倒れていた茶髪も起き上がると狭霧を見て目の色が変わるのが分かる。これは……マズイ流れだな。
「あぁ……いってぇ。でも別に許してやるよ」
「あ、そうですか。ありがと――「それよりID教えてくれね? アプリの!!」
「えっ……それは……」
「許す代わりに連絡先くらい良いじゃん!! 今度デートしてよ!! それで全部許してあげるからっ!!」
やはりこうなりましたか……。幼少期の頃も今も彼女はその容姿で人を魅了してしまう、本人の意思に関係無くだ。そして肝心の本人はそんな事を望んおらず、ある種のコンプレックスのようなものになっている。
他人が聞いたら羨ましい悩みと言われるかも知れないが彼女にとっては大問題だった。一度、彼女は本気でその髪を染めようとした。それくらい悩んでいた時期もあった。ゆえに私が取る行動は一つしかない。
「狭霧? 先方はこう言ってますが、こちらの方に連絡先を教えますか?」
「シン……。私はいや……だよ」
呼び方が昔に戻っている……どうやら相当嫌だったらしい。ならば私は彼女を守るしかない。それが彼と私の誓いなのだから。
「分かりました。と、言う訳なので、ここは私の連絡先をお教えしましょう」
「「「「は?」」」」
私が自分のスマホを取り出すとその場の私以外の全員の声がハモった。まさか狭霧までハモるなんて……そんなにおかしい提案だろうか?さり気無く狭霧を背中に庇う位置に半歩動きながら三人組から目を離さないように位置取った。
「おい陰キャメガネ!! なにわけ分かんねえこと言ってんだよっ!!」
「訳の分からない事? そうでしょうか? カノジョが連絡先を教えるのを拒否しているのですから、カレシが間に入るのがそんなに変な事ですか? それと先ほどの彼女へのデートのお誘いはもちろん私も同席させていただきますよ? お喜び下さい全て私の奢りです」
「なっ……はああああ!! なめてんのかよ!!」
「いえいえ。私のカノジョの過失なのですから、私がお支払いすると言っただけですが? 何かご不満でも?」
三人組の一人が『違う、そこじゃない』と言っていたが、聞かなかったことにして相手を再度見ると茶髪くんは顔を真っ赤にしていた。そして、その後ろの二人を見るが一人は苦笑い、もう一人は茶髪くんと同じくこちらを睨んでいる。どうやら少しマズイ事態だ。どうしようかと後ろの狭霧を確認するとなぜか狭霧も顔を真っ赤にして私のブレザーの端を掴んでいた。
「カノジョ……ついに私が……えへへ。夢の幼馴染卒業……」
「てっめえ!! 俺をバカにしやがって!! 陰キャメガネのくせに女の前でカッコつけてえだけかよ!!」
どうやら狭霧は咄嗟についた私の嘘でだいぶ混乱しているようだ。どうやら予想以上に両者を混乱させてしまった。つまり、私の交渉力が試されていると言う事に違いない。この間読んだ『猿が一から教えるネゴシエーション(初級編)』と言う本では、まず交渉相手を落ち着かせる事が肝要と記されていた。ついでに狭霧も落ち着かせよう。
「ほらほら、二人ともそんな顔を真っ赤にしてないで落ち着いて下さい。当事者同士がそれでは話し合いが進まないじゃないですか」
「「オメーが言うなよ!!」」
おやおや、なぜか後ろ二人まで怒ってらっしゃるご様子だ。こちらは誠心誠意対応しているのに……この対応で辟易してくれて解放してくれるかと思ったのですが、思った以上に理性的では無い様子。茶番はここまで……さて、本格的に不穏になって来ました。狭霧を守ることを最優先に考えて、ここは一発くらいは殴られるべきか……思案のしどころですね。
(ふぅ……困りましたね……彼らは三人とも体格も悪くない。少し厳しい)
ふと空を見ると夕日は落ち始め空は橙色と紫のコントラスト。それが商店街に映えていた。まだまだ放課後デートは続きそうだ。
お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。
こちらの作品は習作なので誤字脱字のご指摘などして頂けると作者は大変喜びます。どうしても誤字脱字を見逃してしまうので皆様のご協力をお待ちしています。また些細なアドバイスなども感想で頂けると助かります。