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フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第一章『すれ違いと幼馴染の秘密』編
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第14話「幼馴染と甘い誘惑」

主人公視点に戻ります。よろしくお願いします


 校門を出ると空は茜色、あと三〇分もしたら日の入りというこの時間に私は、いや私達は駅前のロータリーまで歩いて来た。彼女はこちらを見て何かを思いついたのかブレザーの裾を掴んで軽く引っ張ってくる。


「どうしましたか?」


「その……さ、部活帰りの女子としましては少し休憩をしたいわけなんですよ」


 なぜか改まった口調でこっちを見て言うと、視線を駅前に停車しているキッチンカーを店舗にしたクレープ屋に向けている。顔も少し赤く見えるのは夕焼けのせいかもしれないが、もしかして照れているのだろうか?


「さすがに生徒会の人間が制服で放課後に買い食いと言うのは問題ですね」


「え~!! 大丈夫だよそれに信矢だってそろそろお腹空く頃でしょ?」


「確かに小腹は空きましたが……」


 マズイ……。何だかんだで流されて一緒に来てしまったが、ここ数日は離れていた二年間を埋めるように急接近して来た幼馴染に押され気味だ。思い出せ春日井信矢、私は強くなる。その為にドクターの治療で心を鍛えそして強くなって今度こそ全てを守れるようになる筈だったじゃないか?そのためにはこんな事をしている場合……では……?


「ん……? 別に問題は……無い?」


「えっ!? 放課後デート問題無いの!! じゃあ行こう!!」


「いやいやそう言う意味では、って……デ、デート!?」


「細かいことは良いから!! すいませ~ん」


 またしても彼女の勢いに負け腕を引っ張られてクレープ屋の前に連れて来られてしまった。ほんとに強引になった……いや二人きりの時は割とこんな感じだったような気もするな……厳密には《《私》》の経験では無いのですがね?


「え~っと今日の気分はやっぱりイチゴ……いやいやピーチも、あっ!? 季節限定も有るんだ……う~ん悩む」


「あの~彼女さん悩んでるから先に彼氏さんの注文聞くよ?」


「もしかして私のことでしょうか? いや私は彼氏ではな――「そっ、そうだよっ!! シンが先に決めても良いよ!! カ・レ・シ!! なんだからっ!!」


 狭霧……彼氏を強調するのはどうしてだ?ああ、なるほどカップル割引を使いたいのか……考えたな。クレープ屋の屋台の周りののぼりには『カップル割引(300円引き)』とある。それなら私も演技をしっかりしなくては、演技は得意な部類だ。


「分かりました。おかずクレープ? なるほどこう言うものも有るんですか。では、ちょうど小腹も空いているし、このカレーチーズ「え~」……は、止めておいて、

マヨテリヤキ「甘い方がいいかなぁ」も、止めておいて……狭霧?」


「な、何? 早く決めてイイヨ~」


 こいつ……目が泳いでいる。そして魂胆は大体分かった。前もこんな事があったので対処法は極めて簡単だ。私は無言でメニューを持った。そしてメニューを端から読み上げる。


「アップル、イチゴ「っ!!」、バナナ、桃、ラズベリー「ぅ!?」抹茶……。なるほど……店員さんラズベリージャム&ホイップクリームで」


「じゃ、じゃあ私は……う~んストロベリー&ホイップでお願いしま~す」


「はい。ラズベリーとストロベリーを一つづつね。ちょっと待っててね~」


 注文を終えた狭霧は自分の誘導が成功したと思っているのかニッコニコだった。ちなみにこれは過去にアイスクリーム屋で彼女がグズった時に使った手でもある。しばらくして注文したクレープを受け取ると併設されているテーブルに着く。


「イチゴ~♪ ラズベリ~♪」


 鼻歌混じりで今から食べるクレープを楽しみにしているのがよく分かる。しっかりと私の分まで食べる気のようだ。ま、そのためにあのような作戦を取ったわけなのだから仕方ない。ただ、もう少し隠した方がいいな。可愛すぎて私が困る色んな意味でね……まだ今は耐えられるが……。


「いただきま~す!! ん~っ!!! 部活上がりに染み渡るぅ~!!」


「では私も一口……ん?」


 狭霧は大変満足気な顔で食べている。実にかわいい。世界一かわいい。その笑顔を見ながら私も一口食べていると凄い視線を感じる。もちろん狭霧だ。口いっぱいにクレープを頬張って飲み込むと遠慮がちにこちらを見る。


「あのぉ……信矢……? そのぉ……ラズベリーのお味の感想なんて聞かせて頂けるとですね……嬉しいかなぁって……」


「少し酸味は強いけど生クリームの甘さでちょうどいい…………食べますか?」


「うんっ!!」


 感想を言えば明らかに期待した目をキラキラさせてこっち見ているので、これも予定調和だと思い自分のクレープを口元まで持って行くと何の躊躇も無くかぶりつく狭霧。ここは間接キスとかを気にするとこだろうと思う人間も居るだろうが、そもそも彼女とは幼少期の頃から普通にキスも間接キスもしているのでお互い今更感が強い。これは彼女の父のリアムさんも公認だったりもする。(今も有効かは不明だ)


「おいしいですか?」


「うんっ!! もう一口!!」


「はいはい。どうぞ」


 なので間接キスでドキドキとかは、とっくに卒業していた私は、もはや親鳥が雛に餌を与えている感覚で自分の分のクレープが減って行くなぁ……少し頬を赤くしている狭霧が可愛いと思って癒されていた。


「そこのバカップルさんちょっと良い?」


「バカップルでは有りません。それで何かご用ですか?」


 そこに近付いて来たのは先ほどの店員のお姉さん。何か話でもあるようだ。さすがに風紀を乱しすぎたのだろうか?それとバカップルは止めていただきたい。こんなことは小さい頃から、ほぼ毎日行われていたことなので問題は無いはず……だ。


「なんれふかぁ?」


「狭霧、口の中にものが入ってる時には喋らない」


「あむっ……っと、何ですか? 店員さん?」


「ええ。その……悪いんだけど今、彼があなたにクレープを『あ~ん』してたところを写真に撮らせてもらっちゃったんだけどね……」


 いきなり盗撮宣言とは恐ろしい店員だな、と思いながら何が目的か全く予想が出来ない……高校生相手にまさか脅迫や犯罪紛いのことはないと思うが……とにかく相手の出方次第では即スマホを奪うようにしようと店員を睨む。


「怒らないで~!! 実はこれには事情が有るんですよ~。今カップル割の宣伝も兼ねて店の横のコルクボードにカップルのクレープ食べてるとこの写真飾ってるんですよ~!! コレなんだけど」


「あ、この間来た時もあった。これ……まさか!! 私たちの写真もここに!?」


 店員が持ってきたコルクボードには既に三組のカップル写真が張り付けて有り、イチャイチャしながらクレープを食べている。なるほど、販促用の写真か……確かにこれだけ愛らしい狭霧の写真なら集客力は百パーセント上がるだろう、いや上がらないわけがない。


「そうなんですよ~!! それでいかがですか? お二人さん。もしご協力頂けるならもう一種類クレープ無料か、次回来店の際の無料クーポンなんてあげちゃうんだけどな~?」


 報酬などを提示した上での交渉とは中々に狡猾だが一瞬、狭霧が喜ぶなら悪くないのでは?と、思ってしまう。しかしそれと個人情報の流出は別問題だ。その事を伝えようと口を開こうとしたのだが狭霧に先を越された。


「ね!? シン!! 私あと季節限定アプリコット&ラズベリー食べたい……」


 予想通り過ぎるよ狭霧……目の前の欲望に忠実過ぎる可愛い。だがそんな目で見てもダメだ。これは明らかに個人情報流出の危機、もしくは写真などから第三者に特定される驚異などリターンよりリスクの方が遥かに高い。


「しかし狭霧、問題が二つ有ります。ネット犯罪の凶悪さは知ってますよね? 個人情報の流出は危険なのは分かってますか?」


「それは安心して下さい!! ここでしか使わないんで!! 本当に使わないんで!!」


「ほらほら~店員さんも大丈夫って言ってるし~!! それで? もう一つの問題って何なの?」


 いや、そんな口約束は欠片も信用出来ないのだが……狭霧がアッサリと騙されそうで心配だ。そして実を言うと二つ目など考えてなかった。問題点が複数あれば彼女が留まって考え直すかもしれないと考えから出た嘘だ。そこで苦し紛れに出たのが昔の仲間が言っていた幼馴染特有の断り方だった。


「その、一緒にクレープ食べてるところを見られて友達に噂とかされると恥ずかしいじゃないですか」


「え? でもシンって今の学院に友達居ないよね? 店員さんだいじょぶで~す」


「え……良いの? その……彼氏さん色々放心状態だけど?」


 何の躊躇ちゅうちょも無く私の言い訳は流された。もう少し考えてくれても良いのではないだろうか?確かに、今の私には友人と呼べる人間は居ない……。

 一応はあの二人が思いついたが、あの人たちは私をモルモット程度にしか思っていないだろうし……あの人たちとはほぼ連絡も取れない状況だ……そうだった今の私は友なんて居ないのだな。


「あ……そのさ。シンには私って言う幼馴染が居るし……別に友達とか居なくても……私だけで……」


「え? 今、何か言いましたか? 軽く意識を飛ばしていたのでよく聞いてませんでした」


「むっ……何でも無いでっす!! 店員さんっ!! 私、季節限定の追加でお願いします!! あとシンの分の無料クーポン下さい!!」


 狭霧からの容赦の無い一言で地味にストレス負荷がかかって自我変更エゴチェンジしそうになったのを耐えていたら、彼女の話をよく聞いていなかった。とりあえず無料分のクレープと私の分のクーポンは彼女のものになったらしい。もちろん最初から渡すつもりだったので問題は無い。そんなことは最初から分かっていたよ。だって私は君の幼馴染なのだから。

お読みいただきありがとうございました。まだまだ拙い習作でお目汚しだったかもしれませんが楽しんで頂ければ幸いです。読者の皆様にお願いがございます。


こちらの作品は習作なので誤字脱字のご指摘などして頂けると作者は大変喜びます。どうしても誤字脱字を見逃してしまうので皆様のご協力をお待ちしています。また些細なアドバイスなども感想で頂けると助かります。

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