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フラれた秀才は最高の器用貧乏にしかなれない  作者: 他津哉
第4章『決戦!空見澤市動乱』編
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第100話「想いに集う人々」

第四章終了で次章が最終章になります。次回更新は来週になります。よろしくお願いします。


「うおおおおおお!!」


「来いガキ!!」


 大声を出して気合を入れているけど心は冷静だ。止められないとは言ったけど僕の勝利条件は敵を排除する事じゃない目の前の男とは優先順位が違うのだ。


「‥‥‥なんてね、狭霧!!」


「んんっ~!!」


 叫ぶと同時に目で合図すると狭霧は動く足だけで後ろの谷口社長をお尻で突き飛ばす、ヒップアタックだ。それを確認すると僕は男に向かって電磁警棒を放電状態のまま投げつけ狭霧の方に向かう。


「なにっ!?」


「くっ、やってくれるわね、小娘!! なっ――――」


 そして一切の躊躇無しで谷口社長の顔面をぶん殴って二人を解放した。昔の僕なら躊躇しただろうけど今の僕はとっくに振り切れてる。


「ぐぶっ――――うっ」


「ふぅ、狭霧……お待たせ」


 僕は下で倒した奴らから奪ったナイフで狭霧を拘束していたロープを切ると素早く背後に向き直る。あまり後ろを見せ続けられる相手ではない。


「やっと取れたぁ~ってシン、いくら何でも女の人にこれは……」


 顔面を殴られてピクピクしている谷口社長を見て少し困った声を出している狭霧の声に安心する。自分で口のガムテープは取れたようだ。


「それより狭霧、冴木さんのも助けてあげて……僕が時間稼ぎするから」


「えっ? シンなの? でも、大丈夫?」


「うん、もう大丈夫……だからそこで見ててね狭霧」


 後ろに向かって言うと「うんっ!!」と元気よく返してくれたから僕のやる気は一気にマックスだ。


「舐めたことしてくれたなガキが」


「傭兵なのに対象を守れなかった気分はどうです?」


 僕が挑発するけど一瞬イラっとした顔を見せた後にスッと表情を殺して僕を睨みつける。下の二人とは別格なようで気を引き締めた。


「シン、梨香さんは助けたよ!! あと社長は縛っておくね~」


 さすが狭霧、指示通りだ。あとは目の前の敵を倒せば全て解決、でもそれは難しそうだ。そんなことを考えていると奴が喋り出した。


「お前の初手、初動は完璧だ素直に褒めてやる。下の二人を倒したことと言い想定外だ。空見澤署の刑事にヤクザの栄田、喧嘩師の秋津や配下のチンピラなど邪魔者は排除か裏から工作をしたが……お前は何だ?」


 アニキや頼野さんの父の栄田など聞いた名前がポンポン出て来て驚いたが最後の質問の意味が分からない。


「意味が分からない。僕は僕だとしか言いようがないけど?」


「この街で邪魔になりそうな人間の情報の中にお前は居なかった。計画は完璧だったのに昨日、お前と遭遇してから計画が崩れて今はこの様だ」


 そりゃ工藤先生やアニキ達なんかと比べれば僕なんて取るに足らない普通の高校生だから当然だろう。


「それはご愁傷様。あんた達が僕と狭霧にさえ関わらなければ、こちらは手は出さなかったし首も突っ込まなかったよ」


「そうだ、その金髪を事務所で見るようになってからだ。そう言えば一度だけ事務所に……あの時からか!?」


「ええ、ニアミスしたあの時も普通じゃないのは気付いてた。まさかPMCだとは思わなかったけどね」


「……もう一度聞く、お前は何だ、いや何者だ」


 少し前の僕には答えることの出来なかった問いかけ。だけど今の完全に自分が見えている状態の僕なら答えることが出来る。


「僕は……僕だ。幼馴染を取り返しに来た凡人、それが僕、春日井信矢だ!!」


「凡人だと、傭兵とヤクザが固めるビルに突っ込んで来るバカが凡人、そんな人間に俺の計画が狂わされているだと……」


「少し前までは色々考えてた……だけどもう止めた。だって僕は僕で、ただ大好きな幼馴染を守れればそれだけで良かったんだ」


「シン……」


 最初から強くなりたかったのも頭が良くなりたかったのも全部そのためだったのに気付けば色々な物を勝手に背負い込んで難しく考え過ぎていた。


「だから今日ここに来たのも、お前らの下らない計画だとか関係無い。ただ世界で一番大切な幼馴染を取り戻しに来た……それだけだっ!!」


「それだけ……だと、ふざけるな億の仕事を傭兵の名誉を、それだけで……済ますなよクソガキがっ!!」


 同時に突っ込むと敵は僕が投げた電磁警棒を拾って殴り掛かって来た。あくまで銃は使わないようで安心したが脅威は去っていない僕は無手で、しかも相手はさっきの敵より格上の人間だ。


「ちょこまかと……動きは素人じゃ無い。昨日は暗くて分からなかったが」


「傭兵ってのは無駄話が好きなんですね」


「煽るのが上手いガキだ……あいつらが負けたわけだ」


 ビュンと風を切る音と同時にバチバチと電気の音までする。僕が攻撃を避ける度に狭霧の悲鳴も聞こえる。できれば冴木さんと逃げて欲しいけど動く気配は無かった。


「ちっ……早い」


「余裕が無くなって来たな……避けてばかりじゃ勝てないぞ」


 過去の経験や技術が生きているから僕は戦えている。アニキの教えや師匠の技、そして父さんとの小さい頃からの練習が無ければ僕はここまで動けなかった。


「まだまだ勝負はこれから」


「そうか……だが今度こそ終わりだ」


 一気に間合いが詰められバックステップで飛びのいた瞬間、元いた場所に電撃と風の切り裂く音が聞こえた。


「そ~ら、逃げろ逃げろよ!!」


「ちっ、はっ……残念、当てられない、ですね?」


 挑発してるけど打開策が無いのも事実、一か八か賭けに出るしかない。だから僕は奴の間合いに入りながらギリギリで攻撃を避け、そして一瞬の隙を待つ。


「くっ、逃げ足だけか、ならっ――――「その隙、待っていた」


 電磁警棒ではなく右腕、素手で攻撃して来た瞬間に最大の隙が出来るのを確認していた僕は博士から貰ったスプレーの中身の原液をぶちまけた。どうやら運良く右目に直撃したようだ。


「ぐっ、ぎぃ……だが捉えたぞ、おらっ!!」


「がはっ、ぐっ……ううっ……」


「信矢っ!!」


 だけどそれは僕の方も足を止めるという意味で振りかぶられた電磁警棒が僕の脇腹に直撃する。狭霧の叫び声と同時に僕も重い一撃を受け膝から崩れ落ちた。


「ぐっ、俺の片目を奪ったのは褒めてやる。胡椒、違うな唐辛子スプレーか……惜しいな本格的な訓練を受ければ立派な傭兵になれた」


「あっ、ああ……シン、そんな……」


 捨て台詞を吐いて僕から離れると狭霧と冴木さんの方に向かった。それを後ろからしっかり見てから奴の視線が完全に外れるのを待って僕は静かに動いた。さっきの一撃で骨にヒビが入ったかも知れないけど動けるから問題無い。


「じゃあ女共、今度こそ終わっ――――「終わりだああああああ!!」


 僕は一瞬で起き上がると傭兵の右後ろから奇襲をかけて中段蹴りを決めた。右目は見えてないから完全な死角からの一撃だ。渾身の蹴りで態勢を崩した男が俺の方を振り返り驚愕の表情を浮かべる。


「ごふっ、なっ、お前、何で、動ける? だがっ!!」


 男は再び電磁警棒で殴りつけて来たけど僕はそれを手でしっかり掴んだ。それを見てニヤリと笑う男は電流を流したようだが今の僕には効かない。


「そんな電撃じゃ僕は痺れない!! 痺れるくらい僕をおかしくしてくれるのは、いつも狭霧だけなんだよ傭兵崩れがっ!!」


 そして渾身の一撃をボディに叩き込む。続いて腕を掴むと背負い込みコンクリートに全力で叩きつける一本背負いでフィニッシュだ。この技は小さい頃から何度も見た。父さんが小さい頃にいつか教えてくれると言ってた技だ。


「ぐっ、が……どう、して……電撃が、効いて、ない?」


「ああ、お前の部下の絶縁体スーツと、このグローブを拝借した」


 僕はシャツの下に隠していた絶縁体スーツの一部と両手に付けた黒の絶縁グローブを見せつけた。


「鹵獲品で……敗北、だと……こんな所で俺の、計画が、狂うのか……」


「ああ、お前の計画は僕が、僕達がいたから狂ったんだ……よっ!!」


 最後に僕は蹴りを入れて傭兵の男を気絶させた。後頭部を蹴ったからたぶん気絶したはずだ。僕は最後の力を振り返って狭霧の方に向かった。





 奪った絶縁体スーツを着込んでいたとはいえ鈍器で殴られたからダメージは大きい。電撃が通らなかっただけで物理的なダメージは有った。


「ぐっ……うっ」


「シン!! シン、大丈夫、なの?」


 いけない……狭霧をまた心配させてる。僕は本当にダメだ器用貧乏じゃなくなったと思ったけど凡人じゃ格好よく勝つなんて無理だった。


「ダメ、だなぁ……カッコ悪いなぁ……」


 骨だけじゃなくて内臓もやられたのか口から血まで出す始末。少し霞む目で見ると目の前で狭霧が泣き出していた。


「信矢ぁ、死んじゃ嫌だよ~」


「あ、はは……だいじょう、ぶ……見た目よりは無事、だから」


 そして狭霧に倒れ込んだ。柔らかい感触に、いつもの狭霧の匂い……落ち着くと意識が持って行かれそうになる。


「あっ、エッチな顔してる……本当に大丈夫そうだねシン」


 少し雑に扱われながら二人で座り込むと僕は限界で倒れ込む。すると頭を掴まれて何か柔らかいものの上に乗っけられた。


「ふぅ、楽ちんだ」


「いつかやってみたかったんだ膝枕……どう?」


「最っ高……」


 ああ、このまま死んでもいいかもと言ったら狭霧に怒られた。そして、また泣かれてしまった。


「冗談でも次言ったら……三日は口聞いてあげない!!」


「それは、困るかな……狭霧と話せないと、それこそ死んじゃうよ」


 そう言って俺達の側に寄って来る気配がした。少し首を向けるとそれは冴木さんだった。


「本当……凄いわね、あなた達って」


「少し、休んだら脱出を――――」


 僕が冴木さんと続きを話そうとした時にバンと空気を震わせる音が響き渡る。それは銃声だった


「よくも、やりやがったなぁ!! ガキが!!」


「……もう動けるのかよ」


 思いっきり蹴り飛ばしたはずだ。まだ一分も経ってないのにもう起きるなんて完全に僕のミスだ甘く見過ぎていた。


「傭兵を、大人をなめるなよ!! 今回はバラすつもりは無かったが仕方ねえ殺してやるよ、今度は外さねえぞクソガキぃ!!」


 そして奴が銃を構えた瞬間、狭霧が僕を庇おうと覆いかぶさって胸で前が見えなくなって焦った時には二度目の銃声が響いた。慌てて狭霧をどかして起き上がると冴木さんが驚いた顔をして傭兵を見ていた。


「これって……」


「なにが起きた?」


「何とか間に合ったようだね……」


 肩から血を流す傭兵を茫然と見ていた僕達の後ろから声が聞こえて狭霧と同じタイミングで振り向くと、そこにいたのは銃を構えた工藤先生だった。


「「先生!!」」


「遅れてすまない。下の階の人たちを救出していたら遅れてしまった」


「え、うそ……アキ、くん?」


 後ろを見ると冴木さんの震えた声が聞こえた。どうやら工藤先生が忘れてなかったように冴木さんも忘れてなかったみたいだ。


「ぐっ、ううっ……警察、密約は……」


 落とした銃を拾おうとした傭兵だったが僕達の後ろから暴風のように飛び出た人物によって吹き飛ばされていた。


「やらせるかっ!!」


「アニキ!!」


 アニキは武器を失い無防備になった傭兵を片腕で掴み上げると得意のアイアンクローで宙ぶらりんにした後に地面に叩きつけた。


「秋津ぅ、勇輝……ごほっ……俺の、計画……うぐ」


「よ~くも俺の舎弟とそのツレに手ぇ出したな。このやろうが!!」


 さらに顔面を踏みつけると今度こそ気絶させていた。やはり僕の蹴りは甘かったみたいだ。


「無事かシン、それと竹之内も」


「はい、アニキ!! 僕も狭霧も無事です!!」


 僕が答えると一瞬とまどった顔をした後に「そうか」とだけ言って笑顔を見せると傭兵の男を縛りあげていた。


「痛いけど何とか立てる。もう大丈夫だよ狭霧」


「本当? でも肩は貸すから、ね?」


 必死な狭霧に僕は頷くとお願いしますと言って歩き出した。アニキは男を縛り上げると谷口社長の横に転がし先に下に降りて行った。


「あっ、その……えっと」


「今はここを出るのが優先だ行こう……梨香」


「うん、アキ君」


 僕たちは急いで下の階からエレベーターで降りていたら途中の階で急に止まり構えてると倒れ込むように二人の人間が入って来た。


「よぉ、信矢……ぐっ」


「相乗りさせてくれるかいシンくん」


「竜さん、レオさん……よくご無事で……」


 頭から血を流している竜さんと口の端を切って顔に青あざの有るレオさんが苦笑いしていた。


「吾輩がいたから当然であろう? 信矢氏?」


 そしてエレベーターの外から聞こえた声はあの人だった。


「サブさん、こっち来て大丈夫なんですか、そもそも下は……」


「うむ、吾輩たちが来なければ二人がやられていたからな。ちなみに先ほどまで愛莉殿もいた。吾輩は動けない二人の護衛である」


「下は下ですげえぞシン。覚悟しとけ」


「どういう意味ですかアニキ?」


 アニキは着いてからのお楽しみだと言って話してる内に今度こそエレベーターは地上に到着した。ちなみに僕は騒ぎの中で工藤先生と冴木さんの手がしっかり握られているのを見逃さなかった。


「せんっ――――「シン、ダメだよ。梨香さんって実はね……」


 狭霧に止められ話を聞くと僕は驚いた。何でも昨夜拘束されている時に少しだけ冴木さんと二人だけの時が有ったらしくて工藤先生との関係を聞いたらしい。


「狭霧も聞いてたんだ……僕も先生から少し聞いたんだ」


「そっか、何か話聞いてたら色々考えちゃって……だから今は、ね?」





 狭霧とそんな話をしていたらエレベーター内には僕たち二人だけで慌てて出ると想像以上の大混雑となっていた。


「これは……」


 まず驚いたのが暴れていたヤクザが全て拘束されていて、空見タワーには多くの人々が集まっていたことだ。


「シン坊、よ~く狭霧ちゃんを連れ帰った」


「愛莉姉さん。何とか片付きました」


 そして次にシャイニング連合の皆が居て揉みくちゃにされていると別な方からも声をかけられた。ドクターと七海先輩と驚いたことに後ろには多くの涼学の生徒が集まっていた。


「副会長、いったい何したんだ?」


「ほんと、いきなり千堂先輩に春日井が大変だから集合ってさ」


 見るとクラスの河合、澤倉もいて狭霧に勉強を教えていた椎野と田町そして、おまけの三人組もいた。


「狭霧~、お嬢に言われたから人集めて来たよ。とりまクラス全員ね」


「ツッチー!! タマちゃんも」


「竹之内さん、それやめてよ~」


 三人でワイキャイしていると反対側から狭霧に抱き着く二人組が出て来た。反応が遅れたけど大丈夫な二人だった。


「タケ~!! 千堂先輩の招集で来たよ!! 大丈夫だった!?」


「狭霧、涼学女バスもみんな来たよ!!」


「凛、優菜!! 部長も皆も……」


 さらに土曜の午前中なのにも関わらず多くの生徒が集まっている。これは二人の仕業だろうと改めて視線を向けるとドクターこと仁人先輩が顔に青あざを作っていて肩を七海先輩に支えられていた。


「二人共、特にドクターどうしたんですか?」


「少しな……非科学的だが罰が当たったんだろう」


「もう仁人様も今後は無理なさらないで下さいね。お願い致します」


「分かった七海。お前には敵わないのが証明されたからな」


 この二人も少しだけ雰囲気が変わった気がする。周りを見ると涼学の生徒も含めて数百人以上の人が集まっていた。僕の知り合いもいたが知らない顔も多い。ヤクザを取り押さえている制服を着たガードマンのような一団がそれだった。


「この人達は……」


「彼らは私の部下だよ春日井くん」


「秋山さん……」


 僕が商店街で偶然出会った師匠の古い友人で会社の経営者だという秋山さん。そう言えば責任は取るとか言ってたのはこういう事だったのか。


「それに私の部下の子でも有るのなら助けるのは当然だよ」


「え? それって、どういう意味ですか?」


「信矢!! このバカ野郎がっ!!」


「父さ――――っ!?」


 さっきの戦いでは無事だった顔面にキツイ一発が入って口の中で再び血の味がしたけど、それよりも驚いたのは早くて全然反応が出来なかったことだ。


「ぐっ、ってぇ……」


「信矢!! シンパパ!? 何でいきなりシンを……」


「すまないな狭霧ちゃん。だけど一発は殴らせろ信矢。何で、何でこんな危険なことをした!? 母さんを、翡翠をこれ以上泣かすなよ、頼むから」


 目を見ると薄っすら潤んでいて僕は父さんが泣いているのを初めて見た。そして人垣をかき分けるように母さんと奈央さんも出て来た。


「あ、お母さん……」


「狭霧、危ないことしないで……本当にあなたまで失ったら私は、もう」


「ごめんなさい……ママ」


 狭霧の方は抱き締められてるのに僕は殴られるのは理不尽な気はしたが諦めよう。今までと違って一歩間違えば死んでいた可能性も有ったのは事実だ。


「その辺にしたらどうだミスターK、私の護衛がそれでは少し不安だ」


「はっ、すいません会長。あと今回は妻の申し出を受けて頂き感謝しかございません一介の社員に、このような破格の待遇を……」


 父さんが頭を下げると母さんも頭を下げて両方から僕も頭を下げさせられた。でも僕の中では疑問だらけだった。


「父さんが秋山さんの部下ってどういう事? あとミスターKって何だよ」


「こら信矢、すいません会長、職務については家族にも大部分は秘密にと社長と夕子さんの二人と話してまして」


「そうか、あの二人が言うなら仕方ない。だが殴ったのなら息子と腹を割って話すのも悪くないんじゃないか? 私はそれが最初出来なくて後悔した。君はまだ間に合うのだから、な?」


「はい。ですが……」


「それに私は君の子息を気に入ってしまった。できれば私の孫にも会わせたいと思っている。どうかな?」


 恩人の頼みだし問題無いかなと思っていたら狭霧が横から出て来た。足を引きずっているから心配で気になったが本人の顔は真っ赤だった。


「あの!! お爺さん、その子は女の子ですか!?」


「ちょ、狭霧ちゃん!!」


 母さんと奈央さんが二人がかりで抑えるが狭霧の目が血走っている。


「竹之内さんだったか? 心配しなくても男の子だよ。ただ少し気弱で心配でな」


「な~んだ、ならシンも友達あんまりいないから大丈夫です!!」


 そう言うと一同からドッと笑いが起きていると今度は人垣から大柄の男性と一緒に頼野さんが出て来た。


「狭霧、お姉ちゃん、それに春日井さんも大丈夫?」


「綾ちゃん大丈夫……って何か凄い怖い人が傍にぃ~!!」


「ああん、んだと――――「お父さん、静かに……ダメ、だよ。さっき撃たれた傷も開いちゃうし……」


 お父さんと言うことは、この人が栄田、頼野さんのお父さんなのか……いかつい顔してるし横の狭霧がガクガク震えてる。


「そうですよ……あなた、ゴホッゴホッ、すいませんね綾華の友達よね? 夫と娘が、ゴホッゴホッ、お世話に……」


 そして二人の後ろから出て来たのは幸薄そうな頼野さんそっくりの美女で頼野さんのお母さんなのは見てすぐに分かった。


「狭霧お姉ちゃん。実はお父さんが監禁されてたお母さんを病院から助けてくれて、ここまで連れて来てくれたの」


「監禁って確か療養していたのでは?」


 三人の話を聞くと頼野さんと二人は小さい頃から一緒に過ごしていたらしい。苗字は違うがもちろん二人の実子だそうだが、いかつい顔したヤクザな男のDNAが頼野さんのどこに入ってるのかは謎だ。


「俺も親父に瞳と綾華を人質に取られてな……昔は良い人だったんだが」


 二人を溺愛した栄田だったがヤクザな世界で妻子を守りながら生活なんて難しいからと籍を入れず人知れず二人を隠して生活をしていたらしい。


「それで何でバレたんですか?」


「あっ、それは……春日井さん実は……」


 しかし舎弟や組員に美人な奥さんと可愛い娘を自慢している内に公然の秘密としてバレて小児性愛者ロリコンの組長に目をつけられたのが今回の事件の発端だったそうだ。


「俺の娘が可愛すぎたのが原因でな、俺もバカだから隠すの忘れてたんだ。つい、うっかりでなぁ……」


「あなたのそう言う所いつも心配してたのよ。銃の密売のメモとかお薬の売人リストをいつも冷蔵庫に貼って行くから注意したじゃない、相変わらずね~」


「わりいな瞳、お前にはいつも苦労かけて……」


 会話が異次元過ぎてついて行けないと思って頼野さんを見ると目が死んでいた。なるほど家庭環境がこれなら煌びやかな芸能界に憧れるのも納得だ。ちなみに頼野さんのお母さんの名前が瞳さんだというのは流れで察した。


「谷口社長に聞かされていたのは、お二人が綾華を利用しようとしてるから会わせないようにと言われてたんで……本当にすいませんでした」


「いいのよ。冴木さん、どうせ洋子さんに騙されてたんでしょ? あの人、昔からそういう人だったから……」


 冴木さんが頭を下げると瞳さんも気を使って肩をポンポン叩いていた。しかし思った以上に、あの女社長は裏の世界にドップリだったようだ。


「つまり、この場の人間はほとんど谷口社長に騙されたと……」


「あとは俺の親父つまり三津組長だ。あいつは俺の綾華を、綾華を愛人にだなんて抜かしやがって、盃を叩き返してやった」


「でもヤクザって組長の言うことが絶対なんじゃ」


「おう坊主、詳しいな、まあ親父が言うなら人も殺すし代わりに死ねと言われたら死ぬのがヤクザ、極道だ……」


 昔ネットで調べた限りではそういう認識だったが現実もそうらしい。だから余計に疑問だった。


「だけど俺はヤクザ失格だ。瞳と綾華を差し出せって言われて頭に来てすぐに組抜けちまったよ……。一緒に付いて組抜けした奴らには悪ぃことした」


 後ろで野太い声で「兄貴ぃ~」と叫んでいて少しだけ気持ちが分かった。でも僕も狭霧を差し出せなんて言われたらアニキでも殴るだろう。


「僕も狭霧を守るためなら何でもしますから、気持ちは分かります」


「そうか、金髪の姉ちゃんも愛されてんな~!! ガハハハ!!」


「お、お父さんもう止めて~!! ごめんね狭霧お姉ちゃん、春日井さん」


「いいよ~私も大告白されたばっかりだし~!!」


 すっかり元気になった狭霧が僕の腕に抱き着いてくるから、どうしようかと思っていたらそこで工藤先生が出て来た。


「自分は空見澤署の工藤警部補です……栄田さん、娘さんと奥さんを思っての行為とはいえ犯罪は犯罪です。署まで同行を」


「ま、しゃ~ねえか。一年くらいぶち込まれれば出て来れるか?」


「そう、ですね……ですが強盗傷害と認定されたら五年以上は……」


「そんな……お父さんはバカだけど私を助けようと」


 頼野さんや俺と狭霧も先生を見るけど工藤先生もこれが仕事だからと言って手錠を出した時だった。


「それは少し待ってもらおう、日本にも弁護士を付ける権利は有りますよネ?」


「あなたは……どこかで……」


 いつの間にか背後でグレーのトレンチコートで立っている男性を見て驚いた。その人は狭霧の髪と瞳が同色で何より記憶より少し老けているだけで良く知る人だったからだ。


「パパ!?」「リアムさん!?」


「仕事で帰国したら大事件、話を聞くと出番だと思っタのだが違うかナ?」


 そう言ってこちらに向き直るとシニカルな笑みを浮かべて僕と狭霧を交互に見た。


「パパ、どうして……」


「それは姉さんと母さんに万が一の事が起きるかもって私が言ったの、その時の慌てようは見せたかったよ。ちなみに二人のアパートに行っても誰も居なくてしょんぼり駅前歩いてたら騒ぎに気付いてここに来たのよ」


「こ、こら霧華!! それは黙っておくようにと言ったダロ!!」


 リアムさんの後ろから出て来たのはアメリカにいるはずの狭霧の妹の霧ちゃんだった。


「霧華も帰って来たの?」


「ふふん、ギリギリセーフ。な~んだやっぱり二人共も元鞘か、別れてたら私がシン兄を貰おうと思ってたのにね~」


「ちょっと霧華!! 信矢は私の、私のなんだから~!!」


「落ち着いて狭霧、暴れると足の怪我が!!」


 この後に帰国してすぐの姉妹喧嘩が始まったり色々と有ったけど、これで空見澤市史上最大の事件、後に『S市動乱』事件と呼ばれる事件は一応の決着を見た。だけど、この裏では様々な事件が起きていた事を僕も狭霧も知らなかった。

誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想ではなく誤字脱字報告でお願いします)


感想・ブクマ・評価などもお待ちしています。


この作品はカクヨムで先行して投稿しています。


下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。

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