経緯の説明
アイリス達が兵に連行され、卒業生たちがぞろぞろと人が出て行く中、流れに逆らう様にジャックを先頭にしてシェリル様たちがこちらに歩いてきた。
私はヴィンセント殿下の脇に立って彼女らを待つ。一歩下がって傍に控えるハワード様とコンラッド様は、無言で控えているけれど彼らはこちら側だったのだろうか。
「これで一区切りついたと思っていいのですよね」
「そうだな。この後は神殿側にも入ってもらい、沙汰が下るであろう。ジャックウィルにハワード、コンラッド、これまでの働きご苦労であった。一旦任を解くので、しばらく休んでくれ」
「「「はっ!」」」
三人とも返事はしたものの動こうとはしなかった。もっともハワード様はシェリル様と一緒に行動なさるだろうし、コンラッド様はセシリア様と帰られるのだろう。ジャックにはヒルダとヘンリエッタ様を送らせれば済むかもしれないけれど、私を置いては動かないだろう。
「マーリア様、詳しいお話を聞かせて頂きたいのですが」
シェリル様から発せられた言葉に、他の候補者だった方が頷いて催促してくる。
男性陣がどこまで把握しているかも分からないのでは話もできないので、相談の意味も含めて殿下を見上げると、苦笑いを浮かべて移動を提案された。
皆が揃って移動した先は、王族のプライベートエリアに入ってすぐの談話室。三人掛けのソファーに殿下と私、コンラッド様とセシリア様とジャック、ハワード様とシェリル様、ヒルダとヘンリエッタ様にポーラ司祭が分かれて座る。
ポーラ司祭は事の成り行きを控室で気にされていて、神殿が発言しなければならない状況になった際は出てこられるようになさっていた。ここに移動する前に一通りの挨拶は済ませている。
「事の発端はリアが五歳になった年の年始行事だ。その神降ろしを担当したのがポーラ司祭で、王国に禍の兆し有りと出た」
「その啓示では起こる禍はハッキリとはしませんでしたが、二人の女性が関与すると示されました。マーリア・プロミラル様とアリステル・パーマメント子爵令嬢でございます。アリステル様は子爵家に存在せず、マーリア様が当面の監視対象とされたのですが、魔力検査に立ち会いましたところ、マーリア様に魔力が無い事が判明したのです」
「陛下は判断に迷われ、当面の情報統制を指示なされた。そしてプロミラル伯爵から明かされたのは、リアが五歳から十七歳の人生を繰り返している事だった」
「信じられないでしょうが私は四度、自身の卒業レセプションで魔法を暴走させられて斬首刑に処されました。そして首が落ちる瞬間に魔力測定の前夜に戻されるのです。回避しようと努力した時も有りましたが、都度変わる婚約者や生活なのに、最後は決まって婚約破棄を言い渡され死を回避できなかった。だから魔力が無いと聞いて、嬉しかった」
ハワード様とコンラッド様の表情が変わらなかったことから、二人は事前に聞いていたのだと思われた。その他は半信半疑と言った様子で、ジャックのそれは悔しさを含んでいるようだった。なぜなら、膝の上の拳が震えるほどに力が入っていたのだから。
「私は俄かには信じられないのですが、殿下はそれを信じられたのでしょうか」
「直接会って、話を聞いて信じた」
ヘンリエッタ様の問いかけに、殿下は迷うことなく答えを返した。
そこに、ジャックが質問を被せる。
「マーリアが祖父さんの所に預けられたのは、恋愛結婚をさせるためと聞かされていたが、魔力のせいだったのか」
「えぇ。魔力の無い私は貴族に嫁ぐのは難しいでしょ。だから外でも生きて行けるようにいろいろなことを学んだのよ」
「それだけでは無い。若い娘を斬首などに処したとすれば王家の命だ。だからその様なことが繰り返されないよう、アリステルなる娘と会わないためにも王都から離した。それしか一目惚れしたリアを守る術を、当時の私は持っていなかったのだ」
てっきり求婚されに来られた頃に、憐憫や政治的背景があって定められ、王都に来てから愛情に変わられたのだと思っていた。それが幼かったころの一目惚れと聞かされて、吃驚するとともに顔が赤らんでしまったのを感じた。
見回すと、ジャック以外の視線が生温かい。ジャックが不思議そうな顔をしているのは、彼を振り回すほどのお転婆だったから、どこに惚れたのか分からないのだろう。
「ホールで魔法が無効化された力を欲するため、王家や殿下が無理強いしたのではないのですね?」
「私はヴィンス様からの求婚に悩みましたが、断るのは惜しいと感じるほどに、ヴィンス様の優しさに触れてしまったのです。ですからお受けいたしましたし、運命に抗おうと思えたのです。だからヒルダさんが心配するようなことは無いわ。でも、ありがとう」
そして禍の一方がアイリスだった件だが、彼女を養女にとやって来た子爵に自身を売り込んだそうだ。私をウィンザード公爵家に紹介すれば出世もかなう、と。平民が知るはずもない貴族間の勢力図を言い当てられれば、公爵家に押し付けたほうが妥当だと考え、別の少女を養女に迎えてアイリスは公爵家に迎え入れられたそうだ。
調査も段取りも、この日を無事に乗り越えられるように準備をしてきたことを明かせば、誰しもがその役割を正しく果たせたのだと胸をなでおろしてくれた。
ハワード様とコンラッド様は、随分と早い段階でアイリスを怪しんでいたそうだ。知るはずのない家庭の事情を知っており、選ばなかった選択肢を選んだがごとく話すのだから気味も悪かっただろう。ベネディクト殿下の婚約者に対するウィンザード公爵の横槍も御存じで、怪しいと先入観を持っていたことも危険人物認定に拍車をかけたようだ。
注意していたにもかかわらず、彼女に気を許してゆく殿下に愛想を尽かせたコンラッド様は、ヴィンス様にアイリスの危険性を話されてこちらの陣営に入ったとのこと。ハワード様と二人してアイリス側の動向を流してくれていたらしい。
城内も城下も少し慌ただしいという事で、皆このまま王宮に泊まる事になった。私以外はヴィンス様の西宮に部屋を割り当てられ、私は直ぐ隣の正妃宮に賜っている部屋を使う。
ポーラ司祭は王城内の神殿に戻るため部屋は不要と頭を下げ、アイリスに会いに行くと言って去っていった。




