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禍の終焉

 大ホールが静まり返っている。本来であれば逆属性の魔法をぶつける事によって消滅させるしかない魔法攻撃が、私に当たる瞬間に消えてなくなるのだ。おそらく何が起きているのか誰も理解できなかっただろうし、今はホールの誰もが魔法を使うことが出来ない事に恐怖を感じているのかもしれない。

 取り押さえられたアイリスでさえ、唖然とした表情で固まっている。


「さて、アイリス。アリステルであった頃に貴女が教えてくれたように、どうやら今回は天寿を全うできそうよ。四度も暴走させてくれたせいなのか、今回は魔力が空なのよ。でも、神様は見ていらっしゃるのでしょうね、魔法を受けない力を授けてくれたわ」

「そんな出鱈目、あるわけないでしょ!」

「人の魔力を奪い取って、記憶を持ったまま人生をやり直すのだって出鱈目な力ではなくって? 人の婚約者を奪い続けて、さぞ心地よい人生を歩んでこられたのでしょうね」

「全ての攻略対象でハッピーエンドを迎えないと、殿下のルートが出ないのだからしょうがないじゃない! 悪役令嬢が処罰されるのは鉄板なの。だからあんたには、破滅エンドしか許されないのよ!」

「言葉も通じないのでしたら時間の無駄ね。安心して。逃げ出せないように処置したら、『殺してくれ』って頼まれても生かし続けてあげるから」


 唖然から憤怒になろうが、もう彼女には興味もない。でもそうね、今世のめぐり逢いに貢献していなくも無いので、この男と一緒に閉じ込めてしまうのも良いかもしれない。

 ハワード様に腕をねじりあげられて苦悶の表情を浮かべる男に、何度も私に絶望を突き付けた尊大さが滲み出ていて嫌気がさす。それでも追求しなくてはならないだろう。


「ベネディクト殿下は、ご自分のお立場を分かっていらっしゃいますか?」

「それが王族に対する態度か、不敬であろう。お前もだ、ハワード。いい加減に手を放せ」

「分かってはいらっしゃらない様ですね。アイリスやウィンザード公爵に、なにを吹き込まれたかは存じませんが、国家転覆に加担するは大罪です。私の足元に残る魔法陣を調べればわかりますが、設置したのはそこに転がっているアイリスでしょう。目的は王太子御一家の殺害で、私を犯人に仕立て上げる腹積もりだったのでしょうね」

「言っている意味が解らん。たかが伯爵令嬢ごときの戯言に、付き合ってやる義理などない。えぇぃ、放せと言っているだろう」


 容赦はしているようだけれど、痛みにしかめ面の男からは余裕は感じられない。それを涼しい顔でやってのけるハワード様に、少しばかりの恐怖を感じてしまう。


「王子殿下と婚約をしている身なれば、『たかが』と言われる筋合いはございませんよ」

「お前と婚約などした覚えなどない。私の婚約者はアイリスだ。お前の妄想に付き合う気などないぞ」

「誰もお前の婚約者などと言ってはいないだろう。彼女はディックのではなく私の婚約者なのだよ」


 そう言って大扉から入ってこられたのは、公務で出国なされているはずのヴィンセント殿下だった。私の父や伯父、祖父の伝手を駆使し、短期間で結果を出せるように手配した結果、夜更けに我が家へ立ち寄られたのだ。もちろん、成果を上げてである。

 私の横に立つヴィンセント殿下の衣装は、私のジャケットと色も文様も全く同じもので、揃いで作ったものだと誰の目にも明らかだろう。


「ただいま戻りました。詳細は後程ご報告に上がりますが、リアの助けも有って満足のいく交渉ができましたよ。ところで陛下。ここからは私が仕切ってもよろしいでしょうか」

「構わぬよ。外も固めておるだろうし、ここでは魔法も発動せぬようだからな」


 陛下は試すような視線をこちらに向け、腹の上で指を組んで楽な姿勢で座りなおす。


「そういう訳だ、ディック。マーリアが入学の為に王都へ戻る際、私の方から求婚して婚約を結んでいる。それ故に王家の婚約者として名を公表したが、ウィンザード公爵が良からぬ企てをしているようなので、婚約者候補を守る意味もあって勘違いを正さなかった」

「私は、アイリスが王太子御一家及びヴィンセント殿下を亡き者にし、王妃の座に収まる事を予見してこの日に向けて行動してきました」

「アイリスとその取り巻きが流したマーリアに対する噂は、候補者それぞれに付けられていた王宮調査員により、事実無根であることが証明されている」

「王宮にいる間は常に複数人の女性調査員に監視されていましたので、不正や不貞があれば陛下に報告が上がり婚約破棄されていたでしょう」

「逆にアイリスは、セドリック達と随分親しくしていたようだな。師団長を宥めるのには随分と骨が折れたよ。いつか息子を切り殺すのではないかとヒヤヒヤした」

「気に入った一方の意見でしか判断しない者は、為政者として世に出してはならないと思いますわ。それも理解しえないほど、そこの女に熱を上げられたのでしょうかね」

「と言うわけで陛下。手段を知らなかったとしても、目的を知って行動した者には相応の罰を望みます。すでにウィンザード公爵の身柄は師団長が拘束しておりますので、ぜひ慎重なご判断をお願いします」


 最後まで黙って聞いていらした陛下はひとつ頷くと、先ほど魔法を放ったものも含めて関係する者の捕縛を兵たちに命じた。第二妃殿下もその対象に含まれたのは、言うまでもない。


「さて、折角の祝いの場を汚してしまい申し訳なかった。後日改めて盛大に祝おうと思うが、その際は家族や意中の者の参加も出来得る限り配慮しよう。すまぬが今日はこれで解散としてくれ。今日失った王家への信頼は、時間をかけてでももう一度積み上げることを誓おう」


 そして、陛下と妃殿下と共に王太子夫妻が退場してしまうと、ホールの全ての扉が開かれて退室を促された。




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