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それぞれの意向

 もっぱら一人で昼食をとっているのだけれど、週に二度ほどシェリル様やヒルダと昼食を共にすることがある。普段はサンドウィッチとフルーツジュースなのを知っているからか、シェリル様に誘われての昼食は食堂のテラス席が多い。テラスと言ってもガラス張りの屋根を持ち、寒い時期になればガラス戸が嵌められるので開放感があって快適だ。

 ここに座ればワンプレートとはいかず、コース料理を頼むことになってしまう。頼めばフルコースの用意もあるとは聞いているけれど、大概は日替わりのメインディッシュにパンとスープとサラダを頼む。私が食後に珈琲を追加で頼むのは、肉を食べた後に飲むと胃の不快感が少なくなるからだった。

 他の二人はケーキと紅茶を頼むのが常で、一度ヒルダは珈琲を頼んで飲めなかったことがあってからは、頑なに紅茶しか口にしない。逆に私はケーキを食べる事を頑なに断っている。朝食をしっかり食べる習慣がある私には、甘味の入る胃袋の持ち合わせが無いのだ。朝は軽くしか食べない彼女らは、午前のお茶でもスコーンを頬張ってもまだ足りないのだそうだ。


「最近のハワード様は、シェリル様を置いて殿下のところに入り浸りなのですか」

「そうね。殿下になのかアイリス様になのかは分かりませんが、行ったきりのようね。帰りも遅いし、なにをしているのやら」

「殿下がそれをお許しになっているという事は、彼女は婚約者候補から外れているのでしょうか。それでも王家から正式なお話が無いままというのは、不誠実に思うのですが……」

「それを言ったら、兄にも婚約者はいるのよ。それだと言うのに、父は何の注意もしてくださらない。本当に男とは度し難い生き物なのだと痛感いたしましたわ」

「私は殿下と親しくお話したことも有りませんし、意見を言える立場でもございませんが、それで婚約者候補と言われましても未だ実感がわきません」


 もっとも、実感がわかないのはヒルダだけではないだろう。ジャックを介して話を聞いた残り二人の候補も、そもそも話をする機会も無いのだから実感が湧かないと話していたそうだ。殿下はこれまで、積極的に候補者と話をする機会を設けてはいない。唯一機会を得た私は、そもそも本当はベネディクト殿下の婚約者候補ではないし、凹ませた件を話せとせがまれただけだった。食事を一緒に取ることも多かったけれど、聞き手として男性陣の話に混ざっていただけで、殿下から話題を振られた覚えもない。


「そもそも殿下には、直ぐに婚約者を決める意思は無いのではないでしょうか。昨年度、昼食をご一緒する機会が幾度もございましたが、話しかけられた事は一度きりでした。候補のお姉さま方も、ヒルダさんと同様に機会が無いとジャックから聞いています」

「そもそも、在学中の素行によって判断と聞いていますが、誰がとは聞いていません。第二王妃殿下はアイリス様を頻繁に王宮へ呼んでいるようですし、それで決まりなのではないのかしら。兄が未練がましいのか、殿下が乗り気でないのかは知りませんが、最後は父が決める事です」

「シェリル様は殿下と幼い頃より面識があるとお聞きしましたが、候補から外れる心積もりが出来ていらっしゃるのでしょうか」

「そうね。でもそれは、貴女方も同じではなくて? アイリス様への嫉妬も無いのでしょ?」


 そう言われてしまえばお互いに頷くしかない。アイリスが割り込んでこなければ、シェリル様が殿下のお相手だったはずだし、ヒルダも良き出会いが在学中にあったはずだ。セシリア様もヘンリエッタ様もそれぞれ思い人が既にいて、幸せになるはずだった。

 アイリスが歪め私が歪ませてしまった今世で、はたして彼女らは幸せをつかむことが出来るのだろうかと、干渉した当事者として心配と申し訳なさを感じてしまう。


 暑さも和らぐ時期になり、セシリア様とヘンリエッタ様をお茶に誘ってみた。

 名目上は、まだ一度きりしかお茶会を開いたことが無いので慣れるためにもぜひ、としてある。交友関係が狭い私には、殿下の婚約者候補くらいしかこの様な頼み事はできないだろうと、アイリスなどには納得させるつもりもある。


「この度は、厚かましいお願いをしてしまい申し訳ありません。お越しいただいたこと、感謝申し上げます」

「いいえ、呼んでいただき嬉しく思っています」

「そうね。それに、ゆっくり話をしたいと思っていましたものね」


 ジャックを介して本来の目的も告げてはいるので、来ないという選択肢は無かったと思うけれど、実際に我が家でお会いできて安堵する。

 サンルームに案内をして改めてお礼を述べ、さっそく本題に入る事にする。


「先ずは立場を明確にする必要がありますので、私から述べさせていただきます。私は他にお慕いする方がおりますので、ベネディクト殿下の婚約者となる気持ちはございません。ヒルダ様に至っては殿下と言葉を交わされたことがほとんどなく、候補者としての実感が無いそうです。シェリル様は家の決定に従うそうで、ご本人から動かれるおつもりは無いそうです。そこで、ヘンリエッタ様はこの度の婚約者選定をどう思われているのでしょうか」

「マーリア様は私たちが選ばれた理由をご存じなのでしょ。父にどのような考えがあるのかは聞いておりませんが、私は牽制のために選ばれたにすぎません。ですので、早く候補から外していただきたいと思っておりますの」

「セシリア様も、ですね。えぇ、従兄から聞いております。そこでお願いがございます」


 少し頬を染められたセシリア様に優しく微笑んで、以後も殿下からの誘いが無い限り無関心を貫いてもらうよう依頼をする。アイリスの行動にも無関心でいてもらうなど、いくつかの注意事項やお願いをして、よい時間になったのでセシリア様に声をかける。


「それではセシリア様。庭の方で首を長くしている者がおりますので、申し訳ありませんがお相手をお願いできますでしょうか」


 庭の端にガゼボがあり、そこでジャックがこちらを窺うようにしている。それに気づいたセシリア様は真っ赤になって頭を下げ、小走りに庭へと出て行った。領地持ちとは言え子爵家の嫡男が、三女とは言え公爵家のご令嬢を射止めるとは、どのような手を使ったのか興味は尽きない。事が終わったら是非聞いてみたいと思う。




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