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噂は当てにならない

 弓術を選択する者はあまり多くは無い。

 平和だと言えるくらいには隣国との揉め事もないが、他国のように貴族が娯楽として狩りをする文化が無いのだから、地方の貧乏貴族くらいしか習おうとも思わないのもある。あと居るとするなら爵位を継げる目途の立たない三男坊などになるが、剣術が苦手だと公言するようなものなので選択し難い面もある。


 三学年にスキップしたタイミングで弓術を選択したものの、男性の中に女子一人で浮きまくるものだと思っていた。だけれど嬉しい誤算で、四半分が女性だったのだ。

 騎士の多くは、平民と恋愛結婚をするのが当たり前のようになってきており、政略結婚を是としない女子が選択しているのだと言う。下級貴族の子は幼い頃に男女問わず平民と遊ぶ事が多くなるので、軍に籍を置いて婚約を免れるのだそうだ。


「だから弓を習っていると」

「そうなのです。剣術の方にも女子は幾人か居りますが、いくら細身の剣を渡されてもなかなか使いこなせるものではありません。それに比べ、弓ならばそこまでの差は起きないのです。もちろん飛距離では敵いませんが、正確さを求めるならば私たちの方が上でしょう」


 家の爵位と王家の婚約者候補なる立場から、しばらくの間は距離を取られていた私だったけれど、弓の腕前と使う弓の特殊さから話しかけられるようになっていた。この国で弓と言えば丸木弓で、一本の木から削り出された本体の弦を張ったものである。兵は主に飛距離の出る長弓を用いるが、狩人や小柄な女性は取り回しの良い短弓を好んで用いる。


「それにしましても、マーリア様の弓は変わった形をしておりますのね。それでいて小型なのに飛距離も出て、命中精度も高いなんて」

「育ったテンパートン領は馬の産地で、他国との取引も行われておりました。そのせいも有って舶来品も入ってくるのです。この弓は複合弓と言いまして、特別な木に獣の角などを用いる事で強度としなりを強くしてあるのです。狩りをするのには小さい方が扱いやすいので、少し無理を言って取り寄せていただいたのです」

「他国ではその様な弓が一般的なのですか?」

「一般的なのは皆さまが使っているような物らしいですよ。これは特殊なものだと聞いていますし、もっと特殊なものも有るそうです」


 未だ本気は出していないけれど、どうやら弓術を受けている中ではトップの実力があるようで、男性から僻まれない程度に抑えている。悪目立ちはしたくはないし、不用意に警戒されるのも好ましくない。

 的までの距離も倍程度なら当てられるし、この程度の距離ならば全て中心を射抜くこともできる。だから引きも抑えてあえて的を散らばすが、講師役の兵士にも褒められるに至って戸惑いさえする。


「狩りに行けば馬上から射る事も有りますので、止まって的を射るくらいできないとパンとスープだけの食事になってしまいますわ」

「まぁ。マーリア様ったら、ご冗談も仰るのですね。もう少しお堅い方なのかと思っていましたのよ」

「スキップしていた才女で、王子殿下の婚約者候補で、セドリック様を言い負かすほど博識なのだと伺っておりましたもの」

「それにダンスもお上手で、あのジャックウィル様でさえ力不足だと授業にもお出にならないと」

「候補を外された場合に備えて、シェリル様にハワード様を紹介していただいたとか」


 いったい何処の誰の話なのだと思わなくもないが、誘導されればそうとも取れる行いも無かった訳ではないので、ただニッコリとほほ笑んでおく。噂の出処は分かっているのだし、これまで幾度となく貶められてきたのだから今更だ。

 ここで否定しようと、悪意ある噂話ほど貴族の間では面白おかしく広がってゆく。足の引っ張り合いなど日常茶飯事なのだ。


「でも、ねぇ」

「えぇ、件の公爵令嬢が広めているのは公然の秘密ですから」

「そう、ご自身の醜態をお隠しになりたいのでしょう」

「こう言ってはなんですが、出自もはっきりしておりませんし。どこまで真が含まれているのか分かりませんものね」


 アイリスが噂の出処であると匂わされて少し驚いてしまった。醜態がどの様なものかは分からないけれど、上級生の受けは悪いようだ。そして、私への評価は悪くないように感じるが、罠や強制力と思いたくないものの慎重にならざるを得ない。


「どなたの事かは推察いたしますが、醜態とは?」

「ご存じないのですか?」

「いろいろと有りますのよ?」


 嬉々として話したそうな彼女らに気圧されて、お茶を用意してもらって情報収集にあたることにした。


 やはりアイリスに関することなのだけれど、どうやらスキップした先で授業に付いていけていないようだった。最終学年まで繰り返しているのだから、Aクラスの最下位でいる事が演技ではないかと思ったものの、前世の記憶を思い起こしてみると中の下辺りだった事を思い出す。噂通り公爵の名を使って圧力でもかけたのかもしれない。

 そしてクラスの女性陣からは、居ない者として扱われているそうだ。いつもベネディクト殿下に張り付いていて、婚約者候補を含めた他の女性を牽制している。それなのに、殿下の補佐候補である殿方にも擦り寄っているのが、受け入れがたいのだそうだ。

 もっとも、男性陣がその行いを正せば問題にもならないのだろうけれど、その素振りが見られないまま半年も経ってしまえば関係修復は難しい。


 以前言われたハーレム状況を其々が楽しんでいただけているなら、外野である私に口を出す理由は無い。そのまま満足してくれて、私に被害が無いならば其れは其れで構わないと思うのだから。




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