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【閑話】師団長の評価

 二言三言、言葉を交わしただけであったが聡いお嬢さんだと感じた。歳不相応な物腰と纏う雰囲気に懐かしさを感じてしまうのは何故だろうか。

 全ての者がと言ってよいほど、私室以外での私は恐怖心を抱かせる存在だと実感しているが、あのお嬢さんは平然と挨拶をし、嫌みまで返してきた。それは素直にお礼を述べたからだけではないはずだ。

 こうなってしまえば、私もあのお嬢さんが人生を繰り返していることを認めざるを得ないだろう。それがなんの為かも、その意図も、その結果も解りはしないが、王家と神殿の思惑に今後も乗るしかないのだろう。


 近い将来に王国へ厄災がもたらされる、と聞かされたのは陛下の執務室だった。

 呼び集められたのが宰相閣下と最高司祭に私だけだったら、通年通りの信託報告だと思っただろう。しかし、正妃殿下とポーラ司祭にヴィンセント殿下が同席した事で、よくない事が起こったのだと感じた。

 ましてや始めに話された内容がヴィンセント殿下の婚約話だった事で、最悪の事態を想像させられたが、お相手が名も知らぬお嬢さんだった事で少しばかり安堵した。これが王太子の婚約者が繰り下がるのだと言うのならば、国内の派閥争いに繋がりかねない火種になるからだ。


「プロミラル伯爵にお嬢様がいらっしゃると聞いた覚えがないのですが、親類筋の方でも養子になされたのでしょうか」

「いや、実子だ。ただし少々訳があって、親類筋のテンパートン子爵領で過ごさせていたのだ。ヴィニーとは六年ほど前に一度会ってはいるが、此度ヴィニーの強い願いもあって婚約を許す事にした。ただし『王家の婚約者候補』として公とするので、『誰の』とは明言しないように」

「なぜこの時期に渦中に投じるとはお聞きしませんが、六年前に何が有ったのでしょうか?」


 陛下に問うてしまったのは不信感からだった。ヴィンセント殿下は王太子殿下に『もしも』が有った際の後釜であり、政治に関わる誰しもが暗黙のもとに認めていた事だからだ。それを六年も前から違えていたなどと言うのならば、第三王子派と言われるウィンザード公爵の復権を容認していた事に他ならない。ましてや宰相閣下が驚くのも無理は無い、内示とは言えベネディクト殿下の婚約者である娘の去就さえかかっているのだから。

 すると、ポーラ司祭が発言を求め、ことの経緯を話し始めた。


「六年前、近い将来に王家を揺るがす厄災が起きるとの天啓があったのです。その中心人物は二人居り、マーリア・プロミラル様とアリステル・パーマメント様です。アリステル様はつい最近パーマメント子爵家に養女に入られたお方で、これまで調査はしておりましたが所在が不明だった方です。この二人を引き合わせてしまう事が厄災の始まりだったので、マーリア様には王都から離れていただいており、その判断をお決めになられ、プロミラル家と話されたのがヴィンセント殿下でございます」

「当時の彼女は五歳であったが、とても聡明でいるにも関わらず荒唐無稽な事を話してくれた。曰く、人生を四度も繰り返しているのだ、と。だが話を聴くうちに信じさせられ、ならばこちらに取り込むことで厄災を回避する道を選ぼうと考えた。信用の根拠は示さんぞ、自身の秘密に関することだからな」


 殿下の話をそのまま信じるほどお人好しでは無いが、一時の感情などで道を誤る殿下では無いと、これまでの十数年の師弟関係から感じてもいる。その殿下が初対面で信用したというのならば、相応の根拠を示しつつも、その懐に入れるだけの人柄を感じさせたのだろう。

ならば信じ、従うのが家臣の務め。今後の警護、特に影の配置を変えなくてはならないので、指示を仰ぐことにする。


「それでベネディクト殿下の婚約者は、如何なさるお積りでしょうか」

「ウィンザード家が指名してきた養女を含め、複数の候補者を容認して在学期間を選考期間と発表する。ウィンザード公爵の思惑をかわす狙いもある故、表立って接触を図ることの無いように」


 それからマーリア嬢にも影の者を張り付かせている。まさか監視を緩めろと言われるとは思わなかったが、おとりを買って出るつもりなのだろうか。既にパーマメント子爵令嬢は監視対象を外れ、ウィンザード公爵令嬢の監視レベルを上げてはあるが、特に問題が起きそうな気配は感じない。


 隣で笑みを浮かべる殿下は、マーリア嬢に隠れて会ってはいるようだが頻度は低い。初めての我儘で婚約者を望むのには驚かされたが、今の状況を鑑みると宰相閣下あたりには政略だと見えているのだろう。私には殿下が入れ込んでいるように思えるし、先ほどの彼女の雰囲気からも殿下を慕う気持ちが見え隠れしていた。

殿下が尻に敷かれそうな気もしなくもないが、あれだけしっかりしたお嬢さんなら何が有っても大丈夫だろう。だからこそ、殿下とマーリア嬢が共に幸せを掴めるよう、尽力する事を改めて誓った。



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