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候補者を守る術

 私たちの到着に遅れる事一週間で、父が祖父母の邸に到着した。

 今の王宮は少々騒がしいと義父に愚痴る父は、相当たまるものを抱えているのだろう事が窺え、私も関わっていく事になるようなので聞き手に回った。

 第二王妃の父親でありアイリスの義父でもあるウィンザード公爵が、アイリスが二学年スキップした快挙を前面に出して、婚約者の座を内定していたシェリル様から奪おうとしているそうだ。当然、シェリル様の父トンプソン公爵が許すはずもなく、「国王陛下からの打診が五年も前にあり承諾した。だから婚約者はうちの娘以外無い」と公言し始めた。

 そもそも次代を担う王子三人に対し、第三王子の祖父としての立場しか有しなかったウィンザード公爵が、発言権を強めるべく仕掛けた争いなのだ。引き取った養女を手駒にするしかないほど、身内の人材不足が露呈して立場が危ういウィンザード家は、ここで引くわけには行かないのだろう。


 王太子は予定を早めて秋口に結婚を予定しており、その妃は侯爵家の出である。側近は六人いて、公爵家から一人と侯爵家から二人、残りは伯爵家から登用されている。ヴィンセント殿下の側近は侯爵家と伯爵家から各一人だけで、子爵家と男爵家から各一人が候補として内定しているそうだ。

 それに引き換え、第三王子の側近候補が公爵家と侯爵家から各二人とパワーバランスが悪いのは、第二王妃やウィンザード家の発言権を抑え込みたい陛下の思惑も絡んでいるらしいが、アイリスの動向によって局面が大きく動くことは間違いないだろう。


「休暇明けからヒルダ様と一緒にシェリル様と同じ学年になります。少なからずアイリスやウィンザード家への牽制もできるでしょうから、お父様のお力になれるか分かりませんが、自由に行動することをお許しください」

「実際どうするつもりだい」

「まずはヒルダ様にお願いしてダルトン伯爵と面会をします。伯爵はパーセル公爵派には属しませんが学生時代より深い親交がございますし、パーセル公爵はウィンザード公爵派を抑えるためにセシリア様を候補者として差し出しましたが、セシリア様には公爵様公認の思い人がおられます。その事を明かし、シェリル様を押すようにお願いするのです」

「それなら、ポーラ司祭に中継ぎをお願いしよう。王家の内密の依頼として打診するのに、司祭の依り代としての立場を使わせてもらった方が、リアの負担も少ないだろう」


 確かに依り代の巫女が間に入れば、公にされていない関係を知っていることも納得いただけるかもしれない。私が表立って動くよりも効果はありそうだ。


「他にも考えがあるのかな」

「ベネディクト殿下に関係のある方とは、シェリル様以外の交流を断ちます。多少の反感は買うかもしれませんが、アイリスの危機感は煽れるはずです」

「どうしてだい」

「私がハーレムルートにいると彼女は言いました。言葉自体は分かりませんが、おそらく誰からも好かれる立場にいると言いたいのでしょう。その上で「最後に笑うのは私だ」と宣言なさいましたから、候補者が共闘してアイリスに対すれば危機感が生まれるはずです」

「強制力回避の予定が崩れるけど良いのだろうか」


 殿下の仰ることも確かだけれど、危機感が募って計画が前倒しになれば彼女の準備にも綻びが生じるかもしれない。うまくすればその綻びを突くことだって出来るだろう。なら、躊躇う必要はない。この身をもってシェリル様をサポートしよう。


「ならば、ダジャン子爵家のタシルを頼ると良い。シェリル嬢の護衛であり、シェリル嬢がディックの婚約者になればハワードに代わって側近になる者だ。裏の仕事もこなせる実力がある」

「ならば頼らせていただきます。そしてお父様。急ですが、私は明日の午後にでも王都に戻らせていただきます。ポーラ司祭様とも話をするべきでしょうし、初日から動くには時間が惜しいです」


 戻ると聞いて残念そうに眉を下げた父だけれど、ひとつ頷くと殿下に頭を下げた。


「娘を、マーリアをよろしくお願いいたします」

「逆だよ伯爵。王家の問題に伯爵家の大切な娘まで巻き込ませてしまって、本当に申し訳ない。婚約者として、愛する人を守る最大限の努力をする事をこの場で誓う。伯爵を義父と呼べる未来の為に」


 ジャックもブラウムも怒るだろうが、憂いが無くなった時に謝罪させてもらおう。全てが終わって真実が明らかになった時に。

 夕方には戻ってきた家族に一足先に王都へ戻る事を伝えると、母は寂しそうな顔をしたが黙って抱きしめて我儘を許してくれた。ブラウムはすぐに駆け付けられるようになって驚かせる、と空元気を見せてくれた。

 挨拶がてら付いて来ていたジャックは、苦笑いを浮かべてヘンリエッタ様とセシリア様とのつなぎ役を買って出てくれた。ヘンリエッタ様とはクラスが同じで、セシリア様とはダンスの授業中に何度もパートナーを務めた間柄だそうだ。昨年度は私がその座を奪ってしまっていたけれど、休暇明けからお返しすることになる。私はダンス授業の免除が言い渡されているのだ。


「ならば、ジャックウィル・テンパートン。この一年の功績をもって私の下に来られるよう、事に当たることを期待する。側近候補の実力をしかと見せよ」

「ご命令が下る事を承知しての提案なれば、ご期待に応えられるよう全力をもって当たります」


 こうして父の乗ってきた馬車に侍女と荷を乗せ、殿下と私、ジャック、近衛兵は騎乗で王都に向かった。これから始まる運命に抗う戦に、気持ちは臨戦態勢の三人だった。




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