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秘密の打ち合わせ

 あの警告以降、彼女からの直接的な接触は無い。

 基礎課程の授業は同じ教室で受けるのだけれど、今までのように話しかけられる事は無くなっていて、挨拶でさえ軽くお辞儀をする程度で済まされている。クラスメイトは何か有ったのだろうとは感じているようだけれど、婚約者候補としてライバル関係にあったのだからと、不干渉を貫かれている。


 クラスメイトが私に対して不干渉なのは、魔術の授業を別に受けていることも原因だとは思っている。

 毎回授業の前には王城から護衛の騎士がやって来て、王城内にある魔導師団の訓練施設に案内される。この建物は高い天井を持ち、強度を上げる魔術刻印を施された建材が使われているので、余程大きな攻撃魔法を使わない限り壊れることは無い。さらに王宮からの命によって、私が使う時間は許可が無い者の立ち入りを禁じられている。

 毎回訓練に同席してくれるのは、ポーラ司祭と正妃殿下が手配してくれた数名の侍女のみ。あとは月に二度ほど、ヴィンセント殿下がいらしてくださる。彼女からの警告の報告を受けていたのであろう殿下は、間を空けずに今回もいらっしゃった。


「いくら護衛が付いているとはいえ、十分注意しないといけないよ。リアには魔術が効かないとは言っても、刃物でも使われたら治癒魔術も効かないのだから」

「ヴィンス様は心配し過ぎです。そもそも学院内での魔術無断使用は厳罰対象ですから、王子妃を狙っている彼女は汚点を残すはずがありません。出し抜かれたと思っている様ですので、彼女は積極的にアプローチしていくのではないでしょうか」

「それは弟に対してだろうか。なんとなくだが、セドリック達にも粉をかけそうだと思うが」

「不貞を疑われる様にはしないでしょうが、味方として引き込みを画策しそうですよね」


 四度も私から婚約者を奪い、合わせてベネディクト殿下達を味方にして糾弾したのだから、今回もその可能性は大きいだろう。そこで障害となるのは他の婚約者候補かもしれないが、ライバルと思われている私の味方になってもらえるだろうか。

 同じ様に思案なされていたヴィンセント殿下は、良い事を思いついたとでも言いたげに選択し得ない言葉を発する。


「来月行われる学年末考査の試験前に、担当教員に話をして四年生修了相当の実力を示してしまえば、ジャックウィル殿と同じ最終学年に上がれるし、あと一年で卒業できるではないか」

「そもそも、強制力が予想外の方向に転がらない様にと、この様な無理を通してまでも学院に入ったのですから、早く卒業するのは問題ではないですか。ダメです、却下です」

「お話中に申し訳ありません。殿下の考えを彼女が行う事もあり得るのではないでしょうか。マーリア様が昼食をご一緒なされていらっしゃる男性方は、全て二学年上でトップクラスにいらっしゃいます。そこに入り込むことができれば、きっかけも出来ますし関係を築き上げやすくもなります」


 ポーラ司祭がそう言って話に混ざってきたので、三人で大筋の流れを予想していく。

 彼女がポーラ司祭の言われた行動をとれば、断罪の舞台となるデビュタントは二年早まるだろう。もしその場に私が必要ならば、ベネディクト殿下の婚約者発表を合わせて行えば良い。候補者の全てに参加が求められるはずだ。

 来年度は彼女が昼食に呼ばれるのであれば、私はできるだけ遠慮したいところではある。ただ彼女と殿下達の親密度が見えないと、対応に遅れや手違いが生ずるおそれもある。


「ヴィンス様。私も基礎課程をスキップさせてもらいます。ただし一学年だけです。そうすれば、トンプソン公爵家のシェリル様と同じクラスになれるでしょうから、彼女の情報も掴み易くなると思うのです」

「選択科目はどうする。経済学や地理はコンラッドやセドリックと同じだっただろう」

「次期公爵領に関わる領地などの把握、地図の見方や作り方は覚えましたので外しても良いかと。経済学も必要な基礎は学べましたので、あとは過去の知識と本さえあればなんとかなると思います。田舎では狩りもしていたので弓術の授業を受けて見たいですし、薬学にも興味がありますので変更しようと思います」

「弓が使えるのか」

「弓も、ですね。護身術の一環として剣も習っていました。腕力的に細身の剣かナイフが使えますし、実際にナイフは携帯しています。薄い物ですが、左腕と胸周りにはチェインメイルを縫い付けてもあります」


 魔法が攻撃に使われるとはいえ、刃物による攻撃が廃れたわけではない。暗殺面で言えば毒のナイフによる攻撃などが多いと聞いていて、立場的に危ういので刃を受けられる準備はしていた。

 知っているのは両親と仕立て屋のごく一部だけで、殿下も司祭も目を見開いて驚いている。


「触っても良いだろうか」

「胸でなければ」


 黙ってしまった殿下に、笑いを堪えつつ左腕を差し出す。そっと握った二の腕の感触に苦笑いを浮かべた殿下は、呆れたと言わんばかりに頭を振る。


「よくバレないものだ。同じ仕様で作らそうかな」

「バレない様に教材などを左で持つ様にしていますし、胸を触ってくる様な不埒者は、学院には居ないと願っていますので、殿下の場合は難しいでしょう」


 チャイムが鳴ったので、殿下達に挨拶をして教室に戻る。寂しそうな殿下の表情に後ろ髪を引かれる思いだけれど、私も同じ表情をしてしまったら困らせてしまうだろうから、殿下から見える様に頂いたブレスレットにキスをした。

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