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町、それからりんご。

川を見つけたので顔を洗おう。

そうしてヴィーナスの如き水浴びが始まったわけだが、

せっかく水があるというのでさっさと脇で糞も済ませてしまい、ケツも洗う。

ウォシュレット派の自称貴族が、こんな野糞をさせられること自体、とんでもない屈辱だというのに、

水もなく、得体の知れない野草でケツを拭くことを考えるとそれだけでも死んだほうがマシなくらい。


清らかな水辺がある内に、糞のついたシリを洗ってしまう。

選択としては全くもってベストである。


「何してるんですか!!!!アホ!!**!!○△!!(日本語では表せない罵倒)」


そうしていると、川辺の坂を猛スピードで降りてくる女の子がいた。恥ずかしい……

服装から見るに、日本人っぽくはないようだが。


「すまん!獣と戦ったあとでな!!」


「意味わからないこと言ってんじゃないよ、その水は町の生活用水にもなっているんだぞ!ケツを洗いたいならちゃんと桶を用意してだな!」


ん?今、町と言ったな。


「俺、この辺詳しくないんだ、気が付いたらここにいてさ。川を下ると町なのか?」

「は? さてはお前、薬をやってるイカれた冒険者だな、わかった、ぶん回して気絶させて、僧侶さんところまで連れてってやるからな」

そう言って彼女は、腰のベルトに下げた木刀を取り出した。そして、躊躇なく構えると、半ケツを見せたままの俺にズンズンと近づいてくる。


「待て、話せばわかる」

「よし、あと一言許す。説得できなかったら殴るからな」

「冒険者とか僧侶とか、アホみたいなこと言ってんじゃ」

瞬間、ゴウという音が聞こえてブラックアウト。



○○○


……ッ

「ふうん、彼に異常は、ないみたいだね」

「じゃあなんで川辺でケツだしてあなを丹念に洗うことがあんのさ」

「いいかいユミルちゃん、転移者や転生者っていうのは、総じて違う文化の元で生きてきているものなんだよ。多少異常なことをしていても、それが彼らにとっての常識なんだよ?」

「獣のいる森で、そんな無防備なことをすることが?」

「知らなかったのかも」

「獣のいない森が、彼らの常識だったってことなの?」

「ありうるよ。転移者、転生者の多くは、高度に発達した技術を持っていることがままあるらしい。森の獣を殺し尽くすことができても不思議じゃあ……」


二人が、なにやら難しい会話をしているようだった。


「あ、起きた」

「おはようございます、少年。あなたに災いが降りかからないことをここに祈ります。」


「……」

視界が開ける。さっき俺をぶん殴った女が俺を覗き込む。もうひとりは大学生くらいの歳に見えるおとなしそうな青年。おっとりしてそうだが、それとは不相応に腕も太く、指もごつごつしている。ぶかぶかの白いローブ。西洋の何かの祭りの仮装か?


「さっきはごめんね~」

「あちこち打撲の跡がありましたから、軽い治癒の魔術を施しました。痛みがあってもそれは気の所為ですから自然と引きますよ」


「あ、それはどうも……」

それはそうと、おれは起き上がる。

日がよく当たる場所の、硬いベッドの上。建物の設備はボロい。


「異世界の少年さん、よろしければ名前を教えてください。」

「あ、六豆東一ロクトウトウイチです」

「ロクトウトウイチ……ううむ、やっぱり異世界のような名前だ」

神官っぽい服装の兄ちゃんは、名前をザラザラの紙に書き記すと、そそくさと降りていった。


それはそうと……

「リンゴ食え」

と背の低い女は俺の口に丸々のリンゴを口に押し当ててくる。

「お前、切るとか剥くとかあるだろ!くれるのは嬉しいけどさ!」

「切った瞬間からリンゴは古くなる!味が落ちる前に食え、ホラ!」

態度のデカい女だ……

「そういうことは切ってから言え!!」


それから、

ユミルとかいうチビ女に服装だ顔だ髪だ、全身を観察されながらリンゴを食い終わる。

そのタイミングで、下から神官さんの呼び声が聞こえた。


その女と一緒に階段を降りると、そこは礼拝堂のような場所だった。およそ悠々300人は座れるだろうそこは、誰もおらずシンと静まり返る。


「こっちこっち」

と僧侶兄さんに手招きされる。

礼拝堂の端にある扉。底に入ると、まさに事務用といった居室だった。

本棚や机に置かれた本類は、知らない言葉で書かれているのに、なぜか読むことができた。

曰く、

[薬草学の基礎]

[穏やかな死の宣告~遺族に寄り添う心の治療~]

[識別魔術の方法論 万物の知恵への接近と接触について]

[光の訓話集]

[冒険者名鑑 987年版]


など、興味の湧くもの湧かないもの、様々な題字が見えた。


「えっと、ロクトウトウイチくん」

ロクトウでいいっす、と俺は僧侶兄さんに付け加えた。


「これから、あなたの身体、状態、知識、身分、あらゆるものを示すことのできる、自己紹介用のカードを作ります」

「よかったね」と女。


「このカードは一度登録すれば、あなたの状態が変わるたび、常時示してくれます。悪いことすれば犯罪歴が国に登録されますから悪事は働かないように。」

「ステータスみたいな?」

「あれ、これの呼び名知ってんのあんた?」

だってゲームとかでそう呼ぶじゃん。


「……そうですね。伝統的に、ステータスカードと呼ばれるものです。私はあなたを保護観察する都合、どうしても内容を拝見させていただきますが、本来は他人には最低限しか見せないものとして知っていてください。詐欺師に騙されないように。悪人にむやみに見せると、弱みを握られて奴隷にされてしまいますよ。」


「そうそう。宿屋なんかで見せるときは、名前と資格、定住先のところだけ見せるように念じて渡せばいいから」


「はぁ……」

よくわからん。つまり、なんでも一枚でわかる身分証ってことか。日本より便利だな……

というより、ここ、いわゆる異世界なんじゃ……

明らかに地球のものじゃねえだろ!!!!


さっきの丸い化け物しかり、状況に気づくの遅えわ俺!!!


「じゃ、手だして」

と言われて手を出すと、サッとナイフで指の腹を切られる。


切り方がうまいのか、切られてしばらくしてからじわじわと痛みだす。


僧侶兄さんが差し出したのは、手のひら大の大きさのカード。

名前だけ書かれたそれの右下の空白に、切られた指の腹を乗せるよう促される。


指を置くと血が広がるが、空白の枠内以上は広がらない。


「次から使用する場合は、どの指でもいいから載せて、表示したい情報を念じれば見れます。」


しばらく息を呑んで待つと、カードの上に文字が出てきた。


「こら女!あっちいけ!見るな!」

「いいじゃん、私も保護観察ナンチャラっていうの手伝ってやるし。親みたいなものだよ」

「めちゃくちゃな理屈を……」

それを見て、ははは、と僧侶兄さんは苦笑いしていた。


「あ、出た」


――――――――――

名:ロクトウトウヤ

歳:14

職:学生


LV:1

EXP:1


生命力:20/20

魔力:0/30


筋力:5

器用:5

体力:5

知力:3

魔力:8

運気:-986



E:ぼうきれ(呪)

 攻撃力:2

E:布の服

 防御力:3

E:山登り用軽量靴

 防御力:1 素早さ:8


スキル/技能評価

○流れ者LV1(ス)

 →異世界の言葉や文字が読める。

  (但し通用しているものに限る)


●チンピラ(技)

 →格下の相手には強く出れるぞ。

――――――――――


チンピラってなんだチンピラってよ……


「流れ者……転移者ですかやはり」

「ねね、僧侶さま。前々から気になってたけど、転移者と転生者の違いって何なんですか」

「ユミルさん……あなたは宿屋の跡取りなんですから、もう少し座学も真面目にね」

「だって、本物見たことないもん。武勇伝とかだとの話だと、どっちも転移も転生も凄い活躍してるし、違いなんてあるのって感じ。」

「大いにあります!」


それよりチンピラについて教えてくれよ……


「転移者というのは……それを語るにはまず神聖ファリクス王時代にまで遡らなくてはならなくてですね……神暦3年、女神ナスタと大悪魔レインとの戦いがありました、流石に知ってますね?その戦によって……」


……(中略)……


彼の熱い何時間に渡る伝説上の説明によるとこうだ。


転移者とは、言ってしまえば事故的にこっちの世界に来ちゃった人。女神たちが作ったシステムによって、なんとか言葉と文字の知恵は自動で授けてもらえる仕組みにはなってるみたいだけど、身体も能力も向こうの世界そのまま。

ただただ移動してきただけらしい。原因は、戦争時代のなにかの魔法の名残りらしいところまでは特定できているが、そこから先は「帰る方法含めて」わからないらしい。


対して、転生者は全然毛色が代わり、異世界の死者に新たな肉体を与えて、強力な戦士として呼び出す禁術で作られた奴らのことらしい。

だから、スキルと呼ばれる悪魔か神族以外ほとんど持ちえない超絶能力をいくつもいくつも持っていたり、戦闘マシンとして作られたがゆえに、魔力や筋力がもう人間のソレを凌駕していたり。

さらに、技術の進んだ異世界の知恵と経験をそのまま携えて来るから、即戦力もいいところとか。


かつては悪魔VS女神の戦争の道具に使われたらしい。

異界の生まれだから、こっちの人間も魔物もためらいなく惨殺できたとかで、敵味方問わず恐れられたらしい。

ようは、人間の形をした殺戮用の怪物人間。

(女神側の転生者を勇者、悪魔側の転生者を魔族と呼ぶとか。)


…………


僧侶兄さんの入れてくれた、独特の味がするお茶を飲みながらくつろぐ。

兄さんは満足げだが、俺とユミルとかいうチビ女は、げっそりしていた。

初めてこの女と思いが重なっているのを感じる。


長話にうんざりしたところで、話題は自然と今後のことに流れた。

「で、俺、どう動けばいいと思います? ボクリールさん。 お金もないし、寝るところもないし、住み込みでなんとか働かせてもらえるところがあればと思うんですケド……」

「あぁ、それなら心配ないよ、ね、ユミルさん」

「うん。ちょうど人手が足りないからウチの店に来てほしいんだ。給料はちょっとだけ神霊協会が出してくれるし、寝るところと、まかないで食べ物も出せる。繁忙期に手伝い人を雇わなくて済むし、みんな丸く収まるでしょう?」

「あんたのところ、宿屋か?」

「宿屋兼酒場。」


「さらに言えば、滞在は私が王都まで定例報告に行くまでの2周間ですね。

 2周間後、私に同行して頂き、私の仕事と合わせて、あなたを協会に連れて行きます」

「連れて行かれてどうなるんすか」

「能力に応じて仕事が与えられます。能力の許す限り、研究者でも、冒険者でも。あとは定住先の住所。カードに王都の名が書ける、これが大きいですよ」

「貴族とは言わないけど、チンピラじゃないってことぐらいの証明にはなるよね~ ロクトーくん」

こいつ、チンピラ技能のことをわかってコスリやがって……

「お前のステータスはどうなんだよ!」

「それはもちろん、貴族並とは言わないけど、それなり……」

「ほお~! 見てみたいなぁ! プリンセスか? 巫女か?

 それとも、そうか、騎士並の素晴らしい能力なのかな?(筋力だけ)」

「男のくせに筋力5に言われても、何も悔しくないね~」

「何を!!」


――――

それを傍目で見ていた僧侶ことボクリールだったが、意識はカード上のある表示に行っていた。

運:-986


通常であればカードの異常としてもおかしくない表示だが、

彼が呪われた棒きれを装備していると表示されていることも気になる。


死ぬほどの悪運が降りかからなければいいが。


馬車と護衛団の手配さえ間に合えばすぐにでも王都に出発したいという気持ちを抑え、彼は今後の計画に思案を巡らせ続けた……


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