[E:ぼうきれ(呪)+0]
チートスキルなし!!
呪われた最弱武器が外せない!!
スライム相手に苦戦する……
それでもどっこい生きてるぞ。
流された男子高校生の、異世界生活日誌である。
○○○
今日は天気の良い日なので、森林浴に行こう。
そんなことを考えていた矢先、気がつくと森の中にいた。
「んだここはぁ……」
幸いというかなんというか、お気に入りのトレイルラン用シューズは履いていた。
それ以外は着の身着のまま、いつも着てる臭い黒の学ラン。
そういえば今年はクリーニングに出してないなと考えているところに、腕に蚊が止まる。
間もなく痒くなって、腕を叩いてみても目が覚めることはなかったから、ここは現実で間違いないだろう。
「にしてもよう……」
ここは知らない森である。
よく行く近所の森ではない。5駅ほど先の山でもない。だったらなんなんだここは。
……
そうして行くあてもなく、見知らぬ森を歩く。
川のせせらぎが聞こえるから、まずはそちらの方へ。時刻もわからないから方角も謎。
せめて川が見つかれば、その流れを見て山の上と下くらいの方向がわかるだろう。
そうしてまた歩くと、ガサりと物音が聞こえる。
ヤブの中からだ。
姿は見えない。
なにかの獣だろう。うさぎや、臆病な草食獣なら問題はないが、万が一猪だった場合は危険だ。突撃されて足をやられたら、出血多量でお陀仏だと漫画で読んだことがある。
くそ、心もとない。
猟銃でもあれば脅して追っ払えるところだが、俺は残念ながら手ぶらだった。
姿の見えない獣に俺は不安になり、俺は脇に転がっていた手頃な棒きれを手にした。
"ピギューッ!!!"
ヤブから、なにかが飛び出した。
それは赤いボール状の物質。
足だけになったうさぎの死体を咥え(?)、俺に向かってズリズリと近寄ってくる。
気持ち悪い、と思うだけでなく、その形容し難い奇妙な物体が、叫んだことが俺を怖がらせた。
さらに残念なことに、そんな奇妙な物体にビビった俺自身に、「俺自身」がキレた。
一瞬の中に情報と感情が渦巻き、はっきりパニックだった。
「あああああああああ!!!!」
と、負けじと叫ぶ。獣(?)には、野生のパワーで抵抗しなければならない。
そして間髪入れずに飛びかかり、棒きれでぶん殴る。
赤い物体は驚いたのか動くが、棒きれをかわしきれずに直撃、ゼリーのような体がわずかにたわむ。その衝撃で、食べ残しのうさぎの足が転がった。
「死ねやぁあ!」
穏やかな森に、ワイルドな雄叫びがこだまする。
転がった赤いソレに、もう一度棒きれで打ちのめす。
今度はギュっと、悲鳴のような声。
赤いボールは、今度は俺に向かって飛んでくる。
「痛ッ!?」
どうぅ、と体の芯に響くような打撃。
ボーリング玉を間近でぶん投げられたよう。信じられないくらい痛いが、うまく腹筋で受け止められたことと、戦闘状態のアドレナリンでそれどころではない。
しかしこれはチャンスである。
俺はバレーボールの要領で軽く宙に放り、棒きれを握りしめたまま、右ストレートでふっとばした。
またもギュゥと嘆くような悲鳴。
赤いそれはゴロゴロと転がり、やがて命を失ったのか、デロリと溶け出した。
無益な殺生かもしれないが、殺らなければ殺られていたかもしれない。
やがて息が落ち着いて来る頃になると、腕や拳はもちろん、打たれた腹筋がじんじんと痛み始めた。
野生の獣は、強烈な雑菌を持っているかもしれない。
とにかく川で洗わなければ。
不思議なことに、その赤い液体と化したそれは溶けたあと煙を上げて消滅。
服についた僅かな粘液も、自然と消えてしまった。
問題はないかもしれないが、とにかく川のせせらぎへ足を進めた……