第五話 最強、怒られる
「へぇ~、シエル様に娘さんが・・・」
謝罪をするために土下座していた騎士達を何とか立ち上がらせて、俺の抱いていた赤子、ブランを紹介した時のフクダンチョー?という奴の反応だ。
いや、土下座していた騎士達を見るブランの目がね?
「なにしてんのこの人達、馬鹿なの死ぬの?」 って言ってる気がしたんだよ。
あの目はとてもとても冷たかった。俺でも肝が冷えた。
なんでも騎士達は、『死者の森』にて、謎の砂嵐を巻き起こしながら街に接近する謎の化け物を観測。
何とか住人達を逃がすために、門の前で体を張っていたらしい。
確実に俺のせいだな、すまん。
既に住人達には騎士達が懇切丁寧に事情を説明してようやく落ち着いている頃だ。
「それで・・・シエル様はなんのご用事でいらしたのでしょうか?
依頼、なら娘さんは連れてきませんよね?」
「ああ、ちょっと用事でな。街ゆくお母さん方にちょいとな」
「ま、まさか人妻狩り!?」
「あ゛?」
んなわきゃねえだろーが。単なる助言をもらいに来たんだよこっちは。
「ま、まさかぁ!女児誘拐!?」
「いっぺん死んでみるかゴルァ゛」
「ひっ!」
全く、そんなに俺を犯罪者に仕立てあげたいのかね?
まあブランが 「キャッキャ」って笑ってるから許してやるけどさ。
「単なる助言を貰いに来たんだよ。子育ての」
お前らブランに感謝しろよ。楽しそうじゃなかったら首と胴体がおさらばしてるぞ今頃。
◇
「あんったは何考えてんだい!情けない!!
それでも世界最強の冒険者かってんだい!」
門を潜ったあと、記憶にある宿の女将さんに突撃取材(ブラン記憶参考)しました。
絶賛怒られているなう(ブラン記憶ry)。
時間は少し遡る。
「女将さん、少しいいか?」
俺は以前通った記憶を頼りに、宿屋の女将さん(恰幅のいい優しげなおばさん)に話しかけた。
「ああ、はいよ・・・ってあんたは!」
案の定、やっぱりと言うか予想通りと言うか、女将さんは俺のことを知っていた。
そして聞いてしまったのだ。あとから考えれば育児をバカにしているような発言を。
「んと、赤ちゃんってなんの血を飲むんだ?」
「・・・はい?」
「いや、ドラゴンの血とか神の血とかじゃうちの娘、まだ飲まないらしくてな。
子供はなんの血が好きなのかなーって」
「・・・・・・」
女将さんの顔を見ると、なんと青筋が浮かび上がっていた。
あとなんか肩とかプルプル震えてる。
そこからはもう、流れるように絶大な説教タイム。
最初は子育てに対する熱情だった。自分を下す罵詈雑言。今まで人に恐れられてきた俺にはなんか新鮮だった。
それからは何故か、最強の冒険者たる誇りとかどうたらを説教された。
戦うこと以外もやれって・・・俺、それしか脳無いし。
だって色褪せていた俺の世界には・・・何も無かった。
そこで見つけた唯一の刺激が、戦闘・・・殺し合いだ。
痛みによる刺激も、強敵を倒し喰らうあの快感も、生きてるんだなって実感出来た。
そんな壊れた俺が出会ったのが・・・・・・ブランだ。
今まで人間達に馴染まず、それどころか関わりを避けていた俺には何も分からなかった。
オムツの変え方から、ブランの食べる飯も、何もかも。
女将さんは呆れながら、それでも丁寧に教えてくれた。
結果から言えば、赤ん坊、血、飲まない。
うん、普通だな。俺がおかしいだけで普通の人間って血なんて飲まないよな。
それからオムツの変え方を教えてもらったり(俺がブランのを変えようとするの泣き叫ぶ)、赤ちゃんは何を食べて生きていくのか教えてもらったり。
長かった説教混じりの育児訓練が終わり、女将さんに礼を言う。
「ありがとうございました」
「た〜!」
もちろん、ブランも感謝している。
「あいよ。ほんっとにあんた戦うことしか出来なかったんだねェ。まだ若いんだから無理しちゃダメよ。
困ったことがあったらまた来なさい。おばさんがちゃんと教えてあげるから」
というとっても優しい言葉を頂きました。まる。
女将さんが作ってくれた粉ミルクはブランに好評でした。はなまる。