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第二話 最強と幼子

赤子の食べる物が分からなくて、急遽やることが決まった。

ドラゴンの血もダメ、神の血もダメときた。

我儘な娘よ。だがそんな娘もかわいい。

ダメだ。俺のキャラがとてつもなく変化している。

無表情、無感動だった俺はどこに行った。帰ってこい今すぐに。

ぼ く は き み と さ よ な ら さ 。


「ふざっけんなっ!!」

「・・・?」


いかん、突然頭の中に無表情の俺がキザな笑みを浮かべて捨て台詞を吐いて行きやがった。

ほらこの娘も心配そうな顔してるし。

あれ、そうでもないや。キョトンとしたあと眠そうに欠伸してるわ。

それはそうとして、まずは・・・・・・


「・・・名前か」


そう、分からないことは聞けばいい。

この娘は言葉は分かっても話すことが出来ない。

ならどうするか。街まで行って女将さんになんの血を入れれば良いのか聞くのだ。

人と関わるのを避けてきた自分にとっては、物凄く高い関門であり、試練でもある。

だが、この塔を登り終えた時、俺はまた進化する!



まあいい。街に入る為この娘の名前はあった方が絶対に良い。

こいつ、とかこの娘とか、じゃかなり不便だしな。

戦いしか出来ない俺でもこのくらいは考えれるんだよッ!見直したか我が娘よ!


「・・・」(プイッ)


アホなことまたしてる、みたいな顔で見られた。

お父さん悲しい・・・。


「で、おまえ名前とかあんのか?」

「・・・・・・」(コクッ)


ん?なんか乗り気じゃなさそうだな。

渋々ってな感じで頷いたぞ?


「まあいいか、あるってんなら記憶見せてもらうぜ」


発動するのは忌まれし大罪の一つ。『色欲』

記憶を奪うことも可能だが、今回は読み取らせて貰い、名前を知るだけだ。


そして見えた過去は・・・・・・


「・・・・・・ッ!」


記憶を読む、それすなわちその体験をするのと同じようなもの。

忌々しい、汚らわしい、穢らわしい、痛い、苦しい、死にたい、殺して、生きたい。様々な感情が入り混ぜた白髪の少女の心。


両親による暴力に怯え、苦しめられ、挙句臓器も何もかもを失って、傷跡や火傷跡の残った全身に、手足のない状態で虚ろな目をする、俺と同い年くらいの少女。

最後は何処かの山に埋められた、少女の悲惨な過去。


「・・・マシロ」

「・・・・・・!」


最初は黒髪だった。その後、痛みや精神面におけるストレスで髪が色素を失った白髪の少女。

この目の前にいる赤子の、前世の記憶。

納得した。だから言葉が分かったのか。

だから全然泣かなかったのか。記憶を読む、それは相手が持っている記憶を読み取ること。

この赤子は知っているのだ。果てしない苦しみを。痛みを、恐怖を。

だから大抵のことでは泣いたりしない。


「そっか・・・お前、転生者って奴なんだな」

「・・・・・・」(コクコク)


申し訳なさそうに頷く赤子。

少女は思う、記憶を見られた。それはあの自分の醜い手足のない姿も知られてしまった。

気味悪がられるのでは無いか、実は同い年くらいの女の面倒なんて見たくないのではないか。

拒絶される苦しみが、悲しみが、恐怖が赤子になった少女の心をどうしようも無く蝕む。

そんな中、目の前の新しく出来た、少年のような父親は・・・言った。


「同情なんてしねえよ。」


なんてこともなさげに少年は言った。


「正直、手足のない状態で生きていたお前はかなり醜かったと思う」


(ああ、やっぱり。

やはり、醜い。仕方がない。トイレしたくても拭く手が無い。トイレに行きたくても、動ける足がない。

なら垂れ流しだ。やっぱり気持ち悪いのだろう。)


「小便も糞も垂れ流しの状態。あんなの生ける屍だよな」


(ああ、そうなんだ。自分は、私は生きていても意味なんてないんだ。)


「だがな、だから何だ」


(え?)


「俺の見てきた冒険者共なんて、俺が威圧すりゃ大抵どっちも漏らすぜ?」


(?)


「正直、ギルド内で暴れた時なんて、なんだお前らの世界で言う下水道みたいな感じだったな。ははっ」


(この人はなにを・・・?)


「俺はさ、今まで生きてきてずっと思ってたんだよ。

世界は醜い。なんの興味も抱かねえ。

だから俺の見る景色はずっと色褪せてたんだよ。」


(私を乏しているんじゃ・・・無かったの?)


「だけどな、お前と出会ってたった二日。

それでも俺の見る世界は色付いて・・・輝いて見えるようになった」


(・・・・・・)


「正直、世界最強だの何だの言って怯えられて暮らしてきたからな。」


(世界・・・最強・・・?)


「ランク【X】冒険者が何だってんだ!確かに力は化け物だろうけどな。俺だって人間なんだよ!」


(この人は・・・なにを言って)


「なんだよ魔族の討伐って!なんだよ獣人排斥って!ふざけんなよみんな生きてんだろ!

種族差別なんてクソだよ本当。魔族だって悪いことしてりゃ遠慮なしに殺す。それが俺だ」


(この人・・・)


「だがな!なんも悪いことしてない奴の討伐依頼なんて誰がやるかってんだ!

俺が何回見逃したと思ってやがる!四天王共だって、魔王本人だって!」


(ああ・・・)


「その度に失敗扱いだ。討伐なんて・・・無意味なんだよ。なんで他種族は討伐や迫害対象で・・・こんな力を持つ俺は・・・怯えられるだけ・・・なんだ・・・」


(この人は・・・)


「こんな腐った世界に価値なんて・・・感動なんて・・・理由なんて存在しない。だからこんな世界変えてやろうと思った。」


(この人も・・・)


「神だって殺した。でもな、何も変わらなかった。

みんな、触らぬ神に祟りなしとばかりに俺を避け、他種族を迫害するクソッタレな世界のままだった」


(この人も・・・孤独なんだ)


「だからもう無理だと思ってた。俺の世界はこれから先色付くことは無いって。

諦めて無価値で無意味な人生を送って死ぬんだと、そう思ってたんだ。」


(ああ・・・)


「だがそれも昨日までだ。こんなクソ溜めみてえな世界でも、傲慢で豚の姿をしたような害虫共が蔓延っている腐った世界でも、お前と死んでなお、お前を守ろうとする母親に出会って、心が動いた。」


(そうだよ)


「凍てついていた心に光が宿った。

世界が・・・輝いて見えた。」


(今世のお母さんは優しかった)


「だから俺は絶対に壊させない。

たとえ歪な過去を持っていても、それがどんなに汚れて穢れたお前でも」


(今世の本当の父は、私が生まれたあとすぐに死んだ)


「俺は絶対に見捨てない。何があっても・・・守りきってやる。」


(前世の父は私のことを傷つける害悪の塊でしか無かった)


「俺はお前の父親だ。クソッタレで苦しい過去を持っていても、そんな歪な過去なんて全て精算しても全く足りねえくらい幸せにしてやるよ。」


(新しいお父さんは)


「過去の苦しみなんて全て俺にぶつけろ。

俺を不幸にして見せろ。その分俺がお前を幸せにしてやる」


(世界で一番優しくて、誰よりもかっこいい!!)


「おぎゃぁ!おぎゃああ!ぎゃあああああ!」


少女は前世も含めて始めて、心の底から泣いた。

優しい父に抱かれながら。過去が拭われていく様な、心がポカポカと温まる感覚に包まれながら。





「待って名前考えてねえ・・・」

「・・・・・・」(ジトォ)

三話の投稿は本日午後八時頃になります

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