第一話 最強にだって出来ないことくらいある!
森の木々の間から入り込む木漏れ日が、部屋の中を照らす。
ここは何人たりとて近寄らない『死者の森』にある家。
その家には現在、二人の人物が住んでいた。
一人は年の頃、十五歳ほどの男。シエル・オールス。
冒険者の頂点に立つ実力を持つ少年である。
長めの黒髪に、赤い瞳。中性的な顔立ちが特徴の少し背の低い男の子である。
「・・・んお、起きてたのか」
「・・・・・・」
二人目の住人は、生後三ヶ月ほどの赤子。
シエルのベッドの横に、急ごしらえで付けられた簡易空間(柵あり)で横になり、その瞳はジーッとシエルを見つめていた。
「それにしてもお前、全然泣かねえのな」
そう、この赤子、全くと言っていいほど泣かないのである。
同居を始めて二日、泣いたのはただ一回だけ。
それも、オシメを変えた時だけだ。なぜかその時だけ、それはもう狂乱と言っていいほどに泣き叫んだのだ。
オムツの変え方など知らないシエルは、柔らかそうな素材を『錬成』し、取り替えでは無く履かせるタイプのオムツを創り出したのだ。
あとは柔らかい紙で優しく拭いて、オムツを装着。
その間ずっと泣き叫んでいた。ついてなかった。女の子だった。
「・・・なんか反応してくれよ。赤ちゃんだろ、普通泣いたりするよな!?おぎゃー!とか、だー!とかさぁ。」
思い出すのは街まで依頼を受けに行った時に通った、宿屋の前。
女将らしき人物が赤子をおんぶながら、宿前を掃除していた時の光景。
女将さんが風の魔法を使いゴミ等を一箇所に纏めていた時、通行していた冒険者がゴミをポイ捨てしたのだ。
女将さんは静かにキレた。
風魔法の威力を更に強め、その冒険者を天高くまで舞い上げたのだ。
それにビックリした赤子が大声で泣き叫ぶという場面だ。あの女将さんは冒険者ランクSはあった。確実に。
冒険者のランクはFが一番下。
そこからE、D、C、B、Aランクと上がっていき、S、SS、SSSとなり、その更に上で世界で唯一、一人だけ冒険者の中で最強なる存在が得る【X】ランクがあるのだ。
女将さんの目測ランクはS。上級魔族とタイマン張れる。
っと、話がそれた。
普通の赤子ならずっと見られていれば、萎縮したり怯えたりして泣くはずだ。
それも見慣れない人物が相手となると。
「本当、俺は戦いしか脳無いってのに・・・」
「だあ〜?」
「あっ、喋った。」
「だー!」
・・・なんか見てて和むな。そうじゃなくて始めて泣き叫ぶ以外の声聞いたけど可愛らしい、じゃなくてあれだ。この娘はたぶん頭がいい。
俺の反応しろってお願い聞いてくれたし、かわいい・・・じ ゃ な く て
「・・・お前、言葉分かってるのか?」
「だぁあ?」
「首傾げんじゃねえよ!とぼけんじゃねえよ!?」
うん、分かった。なんか知らんけどこの娘、言葉の意味分かってる。
「腹減ってねえか?」
「だあだあだだ!」
激しく頷いている。あ、手が動いてる。
えっと、その形は・・・瓶か?
「『錬成』、これか?」
「・・・」(コクコク)
「なに・・・瓶食うわけでも無いだろうし、何入れる?ドラゴンの血でも汲んでくるか?」
「・・・」(ブンブンブンブン)
もう隠す気ないよな、言葉分かるの。ドラゴンの血美味いんだけどな、力が湧き上がってきて。
なに入れりゃいいんだよ・・・ドラゴンじゃダメってことは、力の湧き上がる感じが弱いのか?ってことは・・・んんん、あいつらは勝てないこと無いけど、かなり苦戦するんだよなぁ・・・聞いて、みる、か?
「ドラゴンじゃ足りねえってことは、『神』か?あいつの血って心臓からしか出ねえんだよなぁ」
「・・・」(ブンブンブンブンブンブン!)
違う・・・だと!?
俺には子育てなど出来なかったと言うのか・・・!
夢のまた夢という事なのか・・・!!
「だぁだあ」
ん、両手を上げて・・・これは抱っこして欲しいのか?
なんか言葉わかったり変な赤子だけどかわいい所もいっぱいあるんだなぁ。
「よいしょっ」
ひょい。
ん?何胸元まさぐってんだ・・・なに人の乳首噛んでんだ!?
ちゅー、ちゅ、ぶちゅ~
「なんで男のち〇び吸ってんのこのバカ娘!」
「・・・・・・」(ピシリ)
────赤子の表情が、固まった。