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冒険始めたけど、最初からLv.120だった  作者: 雨音きつねこ
第1章 伝説の幕開け
7/11

7話 正夢と男の夢

 レクラウスを討伐してから一夜が過ぎた。

街崩壊を受け、ルアメルらは全員で魔法陣の点検をすることに決める。


 そこで何に遭遇するかを知らずして。


ーーーそして彼らを待ち受ける運命とは。




「シオン、いつまで寝てる気なのよ」


 レクラウスを倒した翌日の午前11:45分、彼はまだ夢の中にいた。楽しい夢を見ているのか、顔がにやけている。起こしに来たネイとエレミネアは呆れ顔をする他なかった。


「シオン、なかなか起きないね……」


「こうなったら仕方ないわね……はっ!」


「ぐふっ!」


 ネイが気合のチョップを横になるシオンの腹にお見舞いする。流石にシオンも驚き起き上がった。


「なっ何するだよ!危うく死ぬとこだったぞ!」


 謎にキメ顔をするネイに腹を抑えながら怒鳴る。顔を赤くするシオンにエレミネアが声をかける。


「まあまあ、落ち着いて。ネイはシオンを起こそうとしたの」


「もっといい起こし方あったよね!てかこれ言うの2回目な気がするんだけど!」


 ここでの朝はハプニングが必ず来る。ハーレムものでよくある展開だと苦笑いをするシオン。


「シオン、朝食の時間よ。その臭う寝間着から素早く着替えて素早く食事に来なさいね」


「わーったよ、起こしてくれてどうもありがとうございました」


 なかなか毒舌なネイにめんどくさそうに返事をする。

 2人が部屋から出て行った後、洗面所の鏡で自分の顔を見る。


「寝癖……どこかの最強人かよ」


 顔を洗い、水で髪を濡らし寝癖を直す。自分の顔の手入れをするのは彼にとって久々なことである。異世界に来る前は四六時中家に引きこもっていたので寝癖などは放っておいていた。

 

「悪い、寝坊した」


「やっと来た!おはよう、シオン」


 食堂に入るとフィネルが開口一番にシオンに声をかけた。

 昨日の朝の通りルアメルの横の席に座ろうとしたが、そこに席はなかった。


「ルアメル、俺の席は……」


「あ、シオン、今日はエレミネアが隣で食べたいって」


「ああ!また内緒って言ったことを言う!もうルアメルのばか!」


 顔を真っ赤に染めて慌てて立ち上がるエレミネア。ルアメルは楽しそうに微笑んでいる。


「ルアメルって実はS説あるかもな」


 小声で呟くシオンは頰を引きつらせる。


「と、とにかく隣に座っていいよ、シオン」


 シオンは今度はルアメルが向かい側に来るように座った。


「今日も魔法陣の点検をするのか?」


 まだサラダを食べているシオンがデザートに入った少女らに尋ねる。


「うん、今日は全員で。昨日のことがあったから」

 

 少し不安げな表情をするエレミネアが答える。無理もないことだ。たった1人で街をあれほど壊滅させられる人物が近くにいたと考えれば鳥肌が立つほど恐ろしくなる。


「点検の後、ちょっと話があるわ」


 食事を終えたネイが本を読みながらシオンに話しかける。


「ああ、いいけど……そうか、俺に惚れちゃったか」


「可哀想に、そんなに惚れられたことがないのね」


 毒舌のネイが哀れみの目でこちらを見てくる。すると正面に座るルアメルが声をかけてきた。


「食べ終わったら昨日渡された剣を持って玄関に来てね」


 1人、広い食堂に残されたシオン。急な寂しさが襲ってくる。


「ネイが言ってた話ってなんだ?」


 先ほど言われた言葉を思い出す。顔からして、重要な話だろう。

 食事を終えたシオンは部屋に戻り、壁に寄りかかっていた鉄剣を腰の鞘にしまう。自分はこの剣で人を刺したと考えると自然と体が震えた。

 言われた通り準備をし、少女らの待つ玄関に向かった。


「お待たせ、みんな」


 予想通り、シオン以外の面子は揃っていた。食事の時とは打って変わって表情が真剣だ。シオンも、剣を装備している時は自然と表情が硬くなる。


「そういや、ルアメルたちが持ってるその杖って何?」


 昨日のレクラウス討伐へ向かう時にも見た杖が目に入った。するとルアメルが人差し指を立てて口を開いた。


「これは強力な魔法を使うための杖。私たちは杖がなくても結界樹によって蓄えられた魔力で魔法は使えるけど、あまり強力じゃないの」


「つまり、予想通り魔法の杖か」


 魔法の杖、という幾度も聞いたことある言葉だが、いざ本物を見てみると厨二心が擽られる。


「じゃあ、みんな揃ったから出発しようか」


 ルアメルが先頭を切って結界樹の森へ歩き出した。

 森は静かで虫や獣の声は全く聞こえなかった。これが魔法陣の力なのだろう。

しばらく歩くと四方角に分かれた道に出た。その場に緊張が走った。


「みんな、各方角に分かれて」


 ルアメルが指示を出すと、4人の少女は頷くと、無言でそれぞれ担当の方角へと歩いて行った。


「今日は私と一緒に行動して」


 ルアメルと共に北の道へと歩いていく。

 歩き始めて今の所、何かがいるという雰囲気はない。


「結界樹が倒されてる形跡は……」


 目の前に広がる光景を見て口が開く2人。


 結界樹が獣の通った道を示すかのように倒されていた。


 倒された結界樹の幹には並みの獣とは思えない大きさの爪痕がくっきりと残っていた。


「こ、これは……」


 倒された結界樹を辿るように駆け出すルアメル。後を慌てて追いかける。間違いなく危険だ。しかしシオンは止めることができなかった。シオンは、なぜか頭痛を感じていた。


「この爪痕……まさか魔獣」


「魔獣なら俺が倒したはずだろ」


「でもこの有様は魔獣以外に」


「……!?」


 すぐ近くで結界樹が倒される音がした。ここから10メートルもない。


「ルアメル、逃げよう」


 シオンは彼女の手を握り、元の道へと走る。どんどん頭痛の痛みが大きくなっていく。あまりの痛みで手を離してしまった。

 

 背後で、遠吠えが聞こえた。


「魔獣だ……」

 

 これはまずい。逃げなきゃ、彼女を逃さなければ。


「そのまま真っ直ぐ逃げろ!俺が囮になる!」


「そんなのダメに決まってるじゃない!一緒に逃げなきゃ……」


 ルアメルは立ち止まって叫ぶ。彼女の目から大粒の涙が出ているのに気がついた。


「うるせぇ!逃げろって言ってんだろが!」


 ルアメルは俯き、拳に力を入れ無言で走り出した。彼女の腰まで伸びた紺色の髪がなびいた。

 シオンは走る足を止め、魔獣に体を向ける。前に殺した魔獣よりもはるかに大きい。


「くそ、あの夢と同じってか……」


 魔獣が唸る。正夢というものに恐れおののくシオンをあたかも嘲笑うかのように。


「いや、今回は条件がちげぇ、俺には武器がある」


 シオンは腰の鞘から鉄剣を素早く取り出し、魔獣にその鋭い剣先を向ける。 

一歩また一歩とシオンに近づいてくる魔獣。一歩また一歩と魔獣に近づくシオン。


ーーー次は……必ず……


 あの夢で誓った言葉を思い出す。今戦わなくてどうする。いざたて、勇者よ。


 両者の距離はわずか数メートル。正真正銘の一騎打ちである。


 両者のーーー目があった。


「ガァウ!」


「おらぁぁぁ!」




 



 少女は走る。後ろを振り返らずに、ただ前へ、元の道へ。

 息が荒くなる。足の動きが少しずつ遅くなっていく。彼のことで頭がいっぱいになる。


「……!」


 元の道へ、帰ってきた。それでも振り返らずに、他の仲間の元へと駆け出した。

 分かれ道が遠くに見えた。すでにそこには他の4人が集まっていた。ルアメルは少女らに叫ぶ。


「北域、異常あり!援軍求む!」







ーーー勇者は、ネコツキ・シオンは勝利した。


 倒れた魔獣の頭に剣を突き刺し、その場に倒れる。


「流石のLv.120でもボス戦は少し、いや、かなり体力使うな……」


「……ン!シオン!」


 遠くで自分を呼ぶ声が聞こえた。疲れた体をゆっくりと起こす。


「ルア……メル」


 彼女の声が聞こえる。自分は聞くことができている。彼女は生きている。


 運命に抗ったのだ。


「シオン!」


 突然茂みから現れたルアメルが涙を流しながら抱きついてくる。


「もうシオンのばかばかばか!心配したんだよ……」


「悪かった悪かった、でもルアメルも無事で、俺も生きてる」


「怪我はない?」


 ルアメルが眉を寄せた顔で尋ねてくる。

 こうしてルアメルを助けた時を思い出した。彼女は怪我をしていても微笑んで答えてくれた。


「無いって言ったら嘘になっちまうな」


「あ、その言葉って……」


 シオンはルアメルの顔を見て優しく微笑んだ。ルアメルも微笑み、シオンの手をそっと握った。


「ル、ルル、ルアメル!何してるの!?」


 ルアメルの後をついてきた4人が到着した。


「破廉恥だよ!ルアメル、破廉恥!」


 顔を真っ赤にしたエレミネアがルアメルに飛びかかろっとするが、フィネルに取り押さえられた。

 そんな愉快で忙しい光景を見ながらネイは小さく呟いた。


「やっぱり、彼とは話す必要がありそうね」


 シオンはなんとか歩け、家まで帰ることができた。

 すでに空はオレンジ色をしていた。




「で、話ってなんだ?」


 シオンはネイの部屋に呼ばれた。ネイの部屋は15畳ほどのシオンの部屋の倍はある。本棚が多く、図書館のようだ。


「単刀直入に言うわ。明日、私と職業を教えてもらいに行くわよ」


「職業……?」

 

「ええ、職業よ」


 RPGゲームでお馴染みの言葉を聞いたシオンは興奮してきた。


「1つ質問、ネイたちはどんな職業なんだ?」


「私は雷の攻魔術師、フィネルは氷の攻魔術師、エレミネアは念力の攻魔術師、ペディアルは……今は闇の攻魔術師」


「んで、ルアメルは?」


「ルアメルは火の攻魔術師、そして唯一の癒魔術師よ」


 回復魔法を使えるのはどうやらルアメルのみらしい。


「今日見てわかったと思うけど、魔獣は」


「まだいる。神話は違ったな」


 ネイの言葉に被せるように言った。


「鈍感のシオンにしては察しがいいじゃない」


「にしてはってなんだよ!」


 またも毒舌が炸裂したネイ。


「ちなみに、職業を教えてくれる人ってどこにいるんだ?」


 街は崩壊しておりそこにいる、ということはなさそうである。


「少し遠いけど、今街の人たちを避難させてる村にいるわ」


 となるとここから距離がある。毒舌のネイと4時間も一緒だと胸にヒビが数千本いや、数万本入ると苦笑する。


「明日の早朝から行くわよ、朝食は私がシオンの分も作っておくわ」


「お前の弁当か……楽しみだな」


 フィネルによるとネイの料理の腕は人並みではないらしい。女子が作った弁当を食べれると考えると胸が踊った。


「大丈夫、毒は入れないわ」


「そんなこと考えてねぇよ!」


 そんな会話をしているうちにすでに窓から差し込むのは月明かりになっていた。


「じゃあ、明日の朝な」


 そう言ってネイの部屋から出た。全員の部屋は同じ階にあるので移動がしやすい。

 愛着が湧いてきた自分の部屋に戻り、寝間着姿のシオンはベッドに横になる。

 横になって1分も経たない間にシオンの部屋の扉が開かれた。しかし今回はゆっくりと。


「シオン……起きてる?」


部屋の恐る恐る開けたのは怯えた様子のフィネルだった。


「どうした?こんな時間に」


 急に頰を真っ赤にしたフィネルは下を向き、ゆっくりと口を開いた。


「一緒に……ついて来て」


この7話から家で話が終わった場合、シオンの浴場での出来事を覗けるストーリーが始動します。

『浴場来たけど、混浴だったので困ってます』


第1話 ギャップ萌え


「今日こそ、頼みます」


 浴場の扉の前で手を合わせる。この家は女性しか住んでいないので脱衣所は分かれていたものの、浴場は共有である。

 これまでにルアメルとエレミネアに背中を洗ってもらってしまったシオン。


ガラガラガラ


 浴場の扉を恐る恐る開く。人影は無い。だが油断はできない。浴槽にいるかもしれないのだ。

 ささっと洗い場に移動し、ささっと体と頭を洗う。今のところ扉は開いていない。


「今日は流石に大丈夫か?」


 女性用脱衣所の扉を睨みながら浴槽に入っていく。浴槽に浸かってからも扉を睨みながら後ろに進んでいく。


「……!」


 背中に何か『柔らかいもの』が当たった。これは、胸である。

 シオンは硬直した。


「シオン……?」


 声からして、ネイだ。毒舌のネイだ。


「あははは、奇遇ですね、ネイさん」


「と、とにかく私の胸に当たってる背中を退けて」


 慌てて離れるシオン。

 ネイは珍しく頰を赤らめていた。いつもは女の子、という感じのしない彼女だが、肌を普段より露出し、少し困った表情をすると一気に女子らしくなる。


「そ、そうだシオン」


「ななな何ですか、ネイさん」


「さん付けしないでいいわよ、そんなことより上がったら私の部屋に来て」


 今日の朝食を思い出した。


「話……があるんだったな」


「ええ。それと背中、まだ少し汚れてるわよ」







「どうしてこうなった」 


 ネイに背中を洗ってもらっている自分に驚く。


「今日の戦いで土が結構ついてたでしょ、しっかり洗わなきゃだめよ」


「はい、わかりました、先輩」


 ゆっくりと背中にお湯をかけてくれるネイ。


「はい、おしまいよ。今日は特別だったから。じゃあ後で部屋に来て」


 そう言って女性用の脱衣所へ歩いていくネイ。


 また女性陣に背中を洗ってもらってしまったシオンであった。


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