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冒険始めたけど、最初からLv.120だった  作者: 雨音きつねこ
第1章 伝説の幕開け
6/11

6話 勇者スキルが発動しました

 異世界で初めてのおつかいを経験し、フィネルとの距離を縮めることができたシオン。 だが、その日の夜、エレミネアから聞き捨てならないことを聞く。


ーーー今日、シオンの勇者スキルが発動する。




 「街が……燃えてる?」


 エレミネアから言われたことがすぐに読み込めない。あの街が?燃えてる?自分の後ろにある窓を見る。少しぼやけているが、遠くで燃え盛る炎が見えた。開いた口がなかなか閉じない。


「シオン、力を貸して……お願い……」


 エレミネアの小さな手がシオンの手を強く握った。彼女の手からは不安が感じられた。


「断るわけねぇだろ、エレミネアも準備を急いでくれ」


「ありがとう……シオン」


 そう言って部屋から駆け足で出ていくエレミネア。シオンも寝間着を脱ぎ捨て、クローゼットから明日着る予定だった旅装束を取り出す。


「急げ急げ急げ急げ」


 服の袖だけ通して部屋を飛び出し、長い廊下を走りながらボタンを留めた。


 玄関に行くとすでに騎馬車の前にペディアルとフィネルがいた。2人は俯き、不安な表情を浮かべている。


「フィネル、ここから騎馬車を全力で走らせたら街までどんくらいかかる?」


 フィネルに尋ねたつもりだったが、答えはシオンの背後から聞こえた。


「30分で着くわ。今日だけ結界樹の力『追風』を借りる」


 後ろには準備のできたネイが魔法の杖のような物を片手に立っていた。


「おいかぜ?」


「簡単にいうと、周りの風を速さに変える力よ」


 彼女はシオンに近づき、刃が1メートルほどの鉄剣を差し出した。


「これ、使うといいわ」


「こ、これって……」


 剣を受け取る手が震えた。今までの戦闘では石と素手しか使っていなかったので、初めての武器による戦闘だ。シオンの服装の腰のあたりに鞘が付いていたのでそこにゆっくりとしまった。


「お待たせ。急いで向かうよ、みんな」


 ルアメルとエレミネアが来て、全員が揃った。


「ああ、急ごう」


 シオンは静かに返事をする。騎馬車の座席は4人分しかないので、残りの2人は馬のペトルカに乗らなければならない。シオンは迷わずにペトルカに乗った。


「俺が先頭を切らねぇと」


 するとシオンの後ろにルアメルがすぐに乗って来た。


「みんな、早く乗って」


 落ち着いた様子で声をかけるルアメル。そして目を閉じ祈りのようなものを始めた。


「聖なる力『魔方陣』を持ちし結界樹よ」


 周りに生えている結界樹の葉が青く光り始める。


「我らにご加護を与えたまえ」


 結界樹から放たれた無数の青色の光線がペトルカと騎馬車に当たる。光線が消えたと同時にペトルカは鳴き声をあげ、凄まじい勢いで走り出した。

 『追風』という力の1つなのか、体が全く揺れない。ペトルカの足を見てみると、数センチほど浮いているのが分かった。

 鼓動が徐々に早くなる。本格的な戦闘になるのでは、もしかしたら死んでしまうのではと不安ばかりが頭に浮かぶ。


「その、シオン……巻き込んじゃってごめんね」


 後ろにまたがるルアメルが責任感のある声で謝ってきた。それを聞いたシオンは声を低くして言う。


「ルアメル、君には馬鹿なところがある」


「だよね……私って馬鹿だよね。こんなに危ないことに命の恩人を巻き込んじゃうなんて」


「ちげぇよ、そうじゃない」


 自分を責めるルアメルを否定する。キョトンとする彼女の方を向き、軽く微笑んで言う。

 

「これは、『男の夢』を叶えさせてくれた君らへのお礼だよ、俺がしたいからしてんだ」


「お礼……」


 優しくしてくれたお礼、ということを遠回しに伝えた。

 頬を緩ませ、嬉しそうな表情をしたルアメル。そして顔を上げ


「ありがとう、シオン」


 彼女は目を細くして微笑んだ。彼女の腰まで伸びた紺色の髪がなびく。


 ネコツキ・シオンの勇者スキルが、発動した。




「これはまずいな」


 街に着くと、そこは混乱の渦だった。親とはぐれた子は泣き、建物は焼け、崩れているものもあった。

 馬小屋付近には、盗人を捕らえた時に警備隊に勧誘してきた男が腕を押さえて倒れ込んでいた。押さえている腕からは血が滝のように流れている。


「あん時の兄ちゃんか、まだ幸いにも誰も死んじゃいねぇ。が、このままだと住民が全滅だ。頼む、あいつを止めてくれ…」


「ああ、このネコツキ・シオンに任せておけ、おじさん」


「あいつってことは……やっぱり誰か攻めてきたのね」


 男の腕に魔法治療をかけているルアメルが尋ねる。


「ああ、黒い僧侶だ。運命だとか抗うだとか意味わかんねぇこと言って暴れてやがる」


「もしかして……」


 夢で自分を殺した青白い狂った男を思い出す。少女らは無惨に殺され、挙げ句の果てに自分も殺されたのだ。


「レクラウス」


 騎馬車から降りていたネイが口を開いた。


「嘆きを愛し、運命に抗う者を裁く者」


「ネイ、知ってるのか?」


「ええ、最近派手に暴れてる狂人よ」


  街を1人でこんなにするとはかなり強大な力を持っている。少女らが戦えば夢の通りになってしまう。

 

「ルアメル、エレミネア、ネイ、フィネル、ペディアルたちは街の住民の避難を頼む」


「で、でもシオンは……」


 エレミネアが不安な顔をして聞いてくる。


「大丈夫、心配するな、俺は魔獣倒したLv.120の男だからな」


 そう言ってシオンは燃え盛る炎の元へと走りだした。


「こりゃひどいな……」


 走りながら無惨に荒らされた街を見る。あの賑やかさが嘘のように感じられる。

 走っていたシオンは足を止めた。


「ここは……」


 見覚えのある看板が崩れた建物の瓦礫の下に埋まっているのが目に入った。


「れすとらん……」


 ルアメルと同じものを食べた記憶が蘇る。美味しかった。久しぶりに声に出して美味しいと言った。久しぶりに楽しい食事をした。そして初めて、デートをしたのだ。


「くそっ」


 看板を投げ捨て走り出す。

 あの狂人が頭に浮かぶ。憎んだ。死ぬほど憎んだ。生まれて初めて人に『殺意』というものを持った。


「絶対に殺す、必ず!」


 シオンの叫び声が静かすぎる街に響き渡った。


 街の中心に男はーーレクラウスはいた。

不気味に笑い、何かをずっと呟いている。


「来客……ですかネ、ようこそ」


 深々と礼をしたレクラウス。すると急に顔のみをシオンの方へ向けた。


「失礼、私の名前、言ってませんでしたネ。私の名はレクラウス・ギルバート。嘆きを愛し、運命に抗う者を裁くことが使命なのですネ」


「レクラウス、お前は何がしたい」


 怒りを押し込めた声を出す。


「愚かな彼らは運命に抗っていたのですネ」


「何意味分かんねぇこと言ってんだ!」


「この街は『予書』に滅ぶと示されているのですネ」


「なんだよそれ……おかしいってのが分かんねぇのか?」


 怒りを露わにするシオン。レクラウスは背中を反らせ不気味に笑う。


「ああ、だめですネ、嘆きが足りないですネ…」


「俺を殺すつもりだろ?なら早くやれよ、早く!」


 レクラウスのナイフに膝より下を切られた夢を思い出す。彼は、無数のナイフを投げてくる。


「はぁ?何をおっしゃっているのか分からないです…ネェ!」


 案の定、レクラウスから数十個の投げナイフが飛び出してきた。が、シオンは全てのナイフを鉄剣で弾いた。


 「やはりあなたは運命に抗っているのですネ!おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいぃ!」


 再び大量のナイフを投げるレクラウス。その姿はまさに狂人、だった。シオンはレクラウスが風の如く投げてくるナイフを弾きながら彼の元へとゆっくりと歩き始める。


「運命を知るのは神のみなんだぜ?」


 目の前の光景に唖然とするレクラウスに軽い口調で話しかけるシオン。


「ああああ!なぜなのですネ!これは……ゔっ」


「はい、クエストクリア」


 抑揚のない声でレクラウスの耳元で囁く。シオンの剣はすでに痩せたレクラウスの腹を貫通していた。


 ドサッ

 その場に大量の血を流しながら倒れるレクラウス。吹き出る血しぶきが頬にかかる。


「終わったか……」


 初めて人を殺した、ということを今更に思う。思わず震える己の手を凝視した。


「俺は……殺したのか」


 そこにルアメルら5人が乗った騎馬車が帰ってた。


「街の人たちは隣の村に一旦避難させてるからもうきっと安心、シオン、怪我は……」


 ペトルカに乗ったルアメルが尋ねてきた。血のついた顔を見てひどく心配している。


「大丈夫、案外余裕だったよ」


「やった!シオン凄い!」


 騎馬車から顔を出し、微笑んでシオンを褒めるフィネル。彼女の無邪気な笑顔は恐怖で疲れたシオンの心を癒してくれた。

 シオンはペトルカに乗るルアメルの後ろにまたがった。


「もう夜中になっちゃったし、帰ってまた休もうね」


 ルアメルがそう言い、騎馬車を走らせる。

 また安定した『ハーレム』生活が始まりそうでシオンの鼓動は普段よりも落ち着いた速さになっていた。


「後は……」


 魔獣の呪いにかかっている少女が頭に浮かんだ。


ーーーその呪縛、絶対に解いてやる


 そう心に決めたシオンは強く己の拳を握る。

 

 空には美しい月と星々が輝いていた。

今回も読んでくださりありがとうございました!ラノベにとって敵キャラというのも重要ということを感じています。これからのストーリーにご期待ください!

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