4話 スタート・オブ・ドリーム
3日という帰宅には長すぎる時間をかけてやっと辿り着いたルアメルたちの家。
洋館のような家を前に息を飲むシオンだった。全国の男子の夢でもあり、シオンの夢でもある『ハーレム』を叶えることができるのか。
騎馬車から見えるルアメルたちの家。それは想像を超える大きさだった。大きさで例えると、国会議事堂だ。屋敷は森の中にあるので一層目立って見えた。屋根は青く、壁は全体的に白色をしている。窓が多くあり、日当たりが良さそうだ。
「でかいな……ルアメルの家」
「でしょ。早く帰ってみんなに紹介したいな、シオンのこと」
ルアメルが楽しそうに話す。しかし、それに対し外を眺めているシオンの表情は硬い。
「落ち着け、俺」
「シオン、もしかして…緊張、とかしてる?」
「全然!全くもってしてません!」
「ふふ、分かりやすい。大丈夫、みんな接しやすいよ。きっと」
「きっと!?」
ルアメルの言葉に不安を残すシオンだが、もう既に屋敷の門の手前に来ていた。
いざ、扉の前に立つと改めて大きさを感じる。扉の横幅と高さはシオンの家の扉の2倍近くそれぞれある。
「ようこそ、我が家へ」
ルアメルがゆっくりと扉を開け、中に入る。シオンはその後をついていく。
屋敷を入ると大広間に出た。左右には2階へ上がるための階段があり、床には赤い絨毯が敷いてあった。
「広すぎるだろ……これ」
あまりの広さに息を呑むシオン。驚きを隠せないシオンを満足げに見ながらルアメルが言う。
「お部屋案内するからついて来てついて来て」
「了解、って置いてくなよ!」
足早に歩いていくルアメルを慌てて追いかける。
浴場、食堂に裏庭。ここに住んでる少女らの部屋まで案内された。最後は大広間の階段を上り、2階へ向かった。
2階には長い廊下があり、その廊下を5分ほど歩くと、ある部屋の扉の前に着いた。
「はい、到着でーす」
楽しそうに案内するルアメル。たまに幼さが見えるところが可愛いらしい。
「ではシオン、自己紹介頑張ってね」
「え?」
「この中に、その『男の夢』ってやつを叶えてくれる子たちがいるから。夢、叶うといいね。」
「『ハーレム』か……」
苦笑いをするシオンは続けて口を開く。
「ルアメルは来ないのか?」
「ごめんね……私、騎馬車を小屋に持っていかなきゃダメだから……」
「そうか、でも大丈夫。もう緊張なんてもんどっかに捨てちまったよ」
シオンの言葉を聞き、よかった、と胸をなでおろすルアメル。
「それでは、シオン君。健闘を祈ります!」
敬礼のようなポーズをして下へと彼女は向かっていった。それを見送った後に大きな深呼吸をするシオン。
「楽しんでやる。千載一遇の『ハーレム』を!」
手をドアノブに伸ばす。
ーーそして
「おーす!」
勢いよく扉を開く。中には驚いたせいか背筋をぴんと伸ばし、こちらを見る美少女が4人いた。
「あ、あの……どちら様でしょうか?」
銀髪の少女が尋ねる。シオンは大きく息を吸う。
「俺の名前はネコツキ・シオン!大胆不敵、一騎当千の超紳士!今日から君らの頼れる仲間だ、よろしく!」
ルアメルの時と同様に上乗せ自己紹介をしたシオン。
「んで、君たちは?」
先ほど尋ねてきた銀髪の少女を見る。
「私は……エリミネア。よ、よろしく」
誰が見ても美人、というだろう。瞳には水色が混じっており、腰まで伸びた長い銀色の髪が印象的だ。
「ほ、ほらぁ、みんなも自己紹介してあげて!」
必死に呼びかけるエリミネア。
「わ、分かったわよ。私はネイ、よろしくお願いします」
少し大人しそうな性格をしている彼女は読んでいた本から顔を上げる。緑色の髪をしており、瞳は黒い。
「私の名前はフィネル。よろしくね!シオン君」
続けて口を開いたのはこの中で最も明るいであろうフィネル。肩まで伸ばした髪は黒く、右目は黄色、左目は緑色をしている。
「私はペディアル。その……よろしくです」
肩の下まで伸ばした紫色の髪をいじりながら名乗ったペディアル。瞳に赤が混じっているのが印象的だ。4人の中できっと最も内気な性格だろう。それはそれでいいのだがと、シオンは思う。
シオンが思ったことは全部で2つ。1つ目は全員可愛いかったこと。そして、2つ目は全員Eカップ以上はあるということだ。
「あ、あの、シオン」
シオンを見ながら尋ねるのはエリミネアだ。
「何があってここに来たの?」
「よくぞ聞いてくれた、実は俺、ルアメルを助けたんだよ。そのお礼に来たってわけ。」
腕を組み、少し自慢げにいうシオン。
「で、でも助けるって何から?」
首を傾げるエレミネア。
「それはあの恐ろしき魔獣からだ」
「……え?」
急に部屋に沈黙が訪れる。
「ど、どうした?何か問題あったか?」
戸惑うシオンにネイが問いかける。
「もう一度聞くけど、本当にルアメルをあの最後の魔獣、ラストロクから守ったの?」
確かラストロクというのは俺が倒した魔獣の名前だとルアメルとの街での会話を思い出す。
「ああ、本当だ、嘘だと思うならルアメルに聞いてな」
自信満々に言うシオン。同時にあの時が思い出される。
ーーー「お前はぁぁ!」
怒りに任せて石を思い切り投げた。すると魔獣ラストロクの頭部を貫通、シオンの前であっさり魔獣は死んだ。
ーーー「おーい、聞いてますかー?」
ぼーっと、していたシオンに声をかけるネイ。
「ああ、すまんすまん」
「実は、その魔獣ラストロクっていうのは500年以上昔の神話に出てくる最後の悪の使者として知られているの」
それを、このネコツキ・シオンが倒したのだ。
「そんな魔獣はもう死んだんだ、めでたしめでたし。んなことよりもっとお前らのこと聞かせてよ」
そう言いながら目の前にあるソファーに座る。
その場にいた3人の美少女たちは頬を赤らめた。だが、
「いーよ!フィネルもお話したい!」
フィネルは無邪気に話にのってくれた。彼女を始めとし、ルアメルが帰ってくる頃には美少女4人が、ソファーに座ったシオンを囲むように話していた。
「ただいま、だいぶ仲良しになったみたいでよかった」
「おかえり、ルアメル、お前も一緒に話そうぜ」
こうしてシオンの『ハーレム』は始まったのだった。
数時間後、シオンは自分の部屋に案内され、部屋で5人の美少女のことを考えていた。
しっかり者だが、少し幼さの残るルアメル。オロオロしているところがいいエレミネア。真面目だが、たまに女子の表情をするネイ。純粋で、ロリコンにはたまらない性格のフィネル。内気だが、結局は一緒に話してくれたペディアル。
そんな美女に囲まれた生活ができると考えるだけで心が踊る。
「もうこんな時間か、風呂にでも入るか」
部屋の時計を見ると7:30を指している。風呂に入りたければ、浴場に行かなければならない。場所は聞いてあるから問題無いのだが、まだ、大きな問題があった。
脱衣所で服を脱ぎ、下半身にタオルを巻いた姿で浴場の扉の前に立つ。
「誰もいませんようにっ」
そう、ここの屋敷は女性しか住んでいないため浴場が分かれていないのだ。
不幸中の幸い、というべきなのか、脱衣所は分かれていた。
浴場の横開きの扉を恐る恐るゆっくり開ける。人影は見えない。胸をなでおろし、浴場に入っていくシオン。
体と頭を洗い場で洗い、広い浴槽に浸かる。
「思ったよりいい湯加減だ」
異世界でもこんなお湯に浸かれるとは思ってもいなかったシオンは感心する。
ガラガラガラ
浴場の扉が開く音がして、シオンは硬直し、顔を青くする。
扉の方をゆっくり見る。入って来たのは全身をタオルで巻いたエレミネアだった。まだこちらに気づいていない。
「どどどどうしよう…」
悩んだ末下した判断は
「うん、入り続けよう」
10分が過ぎた。髪が長いからだろうか、まだエレミネアは洗い場にいる。逆上せてきたシオンは顔が真っ赤だ。流石に限界を感じ、立ち上がろうとした瞬間、洗い場のシャワーの音が止まる。こちらに足音が近づいてくる。
熱かった体が一気に冷める。シオンはエレミネアの視線を感じた。
「……!シ、シオン!?」
驚き戸惑うエレミネア。ゆっくりと彼女を振り向く。
「あはは、奇遇ですな」
シオンは苦笑する。エレミネアはタオルの下の方を両手で引っ張っている。服を着ている時より露出されている胸がシオンの頬を赤くさせる。
「悩むな、俺、そうだ、これも『ハーレム』ライフの一環…」
「シオン……?」
「エレミネア、俺の背中を洗ってくれ」
広い浴場に声が響いた。
ーーー数分後
「痛いとことか……ない?」
「全くないよ、むしろ気持ちいいよ」
結局背中を彼女に洗ってもらっているシオン。
「そういえば、気になってたんだけど、どうやってあの魔獣ラストロクを倒したの?」
「石を投げたんだ、冗談抜きで」
「……え?」
「洞窟に落ちてた石を投げて、あの魔獣野郎を倒してやったんだ」
どうせ疑われると思っていたシオンだったが、
「シオンって、すごいね、本当に」
急に褒められて少し戸惑うシオン。
「でもね、少しルアメルが心配してた」
「心配?ルアメルが?」
「う、うん。シオンは頑張りすぎちゃうって」
「頑張りすぎる……」
ルアメルを死ぬ覚悟で助けに行った記憶や盗人をルアメルを置いてまで捕まえに行った記憶がフラッシュバックされる。
「で、でも……」
エレミネアが口を開く。
「その、シオンって勇者みたいだよね」
「俺が、勇者……か」
「いつか私の勇者にもなってね」
「……え?」
何かを耳元で囁かれたように聞こえ聞き返す。
「うんうん、やっぱりなんでもない。はい、背中流すよ」
「やっぱりなんでもないってやつ、男子絶対引きずるんだよなぁ」
そんな言葉を華麗にスルーし、背中にゆっくりお湯をかけるエレミネア。彼女に感謝を述べ脱衣所に向かった。
部屋に戻ると急に眠気に襲われた。広いベッドに横になる。
「はああ、『ハーレム』天国すぎる」
大きなあくびをして、目を閉じる。
「俺は頑張りすぎ…か」
苦笑をするシオン。だが、それが自分の使命と強く思っていた。そんなことを考えているうちに眠りにおちていた。
こうしてゆっくり眠れるのはあと数回だけになるとはまだ誰も知らなかった。
今回も読んでくださりありがとうございました!シオンのハーレム…羨ましいですね。今後のストーリー展開と、シオンのハーレムにご期待ください!!