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冒険始めたけど、最初からLv.120だった  作者: 雨音きつねこ
第1章 伝説の幕開け
10/11

10話 狂

 シオンが影の勇者と分かったその日の夕方、シオンたちは謎の穴、そして謎の大剣を見つける。その大剣はシオンとどのように関係しているのか。そしてこの世界で起きている狂いとは。




 そこは、朽ちた世界だった。


 木々は枯れ、いつもはやかましいほどの鳥の声は聞こえず、ただ冷たい風の音だけが耳に入った。空からは澄んだ青は消え、紫一色が大地を覆っていた。


「なんなんだよ、どうなったんだよこれ……」


 ふと、握っている大剣の刃に大量についている赤い液が目に入った。足元に何かが触れていることに気づいたシオンはゆっくりと目を下に向ける。

ーー足元には、無惨に斬り殺されたエレミネアとルアメルが転がっていた。

 ルアメルの服に滲む大量の血と、エレミネアの血の色が混じった美しい銀髪がその惨さを物語っている。彼女らの匂いと血の匂いが混じり思わずむせ返る。


「うっ……は、はははははは」


 情緒不安定になり、笑いがこみ上げる。体の震えと、彼の瞳から流れる涙は止まらない。

彼女らから離れるようによろよろと後ろへ下がる。すると、何かにつまずいた。バランスを崩し、後ろに倒れてしまった。倒れた時、背後が濡れたような感じがしたのがはっきりと分かった。恐る恐る震える右手を見る。

ーー手のひらは真っ赤血で染まっていた。

 付いた血は、シオンの左右に倒れるフィネルとペディアルから流れている血だった。

 目が開いたまま倒れている2人の表情からは驚き、悲しみさえも感じれた。


「あははは、はははははは!」

 

 悲惨すぎる状況で笑いと涙が激しくなる。体は止まることなく震えている。シオンの体と心は完全に絶望に侵されていた。


「こんなところで倒れていたのか、勇者」


 紫色の空を呆然と眺めるままのシオンの耳に男の声が入ってきた。


「おっと、失礼。勇者は僕の方もだったよ」


 その瞬間、金髪の白い服装をまとった男が顔を覗かせた。正義感のあるその水色の瞳をした顔はまさに美男子だった。


「……誰だ」


 男の目も見ずに尋ねる。彼は少し微笑み答えた。その微笑みは、完全にシオンを軽蔑していた。


「僕はラークス・フルトニア。予書に記されし光の勇者だ。影の勇者とは違ってね」


 名乗った後に手を差し伸ばしてきたフルトニアだったが、シオンは彼を目にも入れずに立ち上がった。足元に落ちていた大剣を持ち上げ、刃を引きずって歩き出した。


「何処へ行くんだい?ちょっと待ってよ」


 話しかけてくるフルトニアを無視して、下を向いたままその場を去ろうとする。


「ここを去るのは僕に勝ってからにしてもらえるかな!」


 声を荒げたフルトニアに足を止めたシオン。その声からは強い怒りが感じられた。


「僕たちは戦う使命がある。そうだろう?」


 気がつくと、フルトニアはシオンの前に立っていた。敵意を感じたシオンは静かに大剣を構える。


「君が死ぬ前に一つ聞いておこう」


 フルトニアは剣をこちらに向けたまま尋ねてくる。


「影の勇者、なぜ君はこの世界に現れた」


「分からない……」


「君は仲間も殺した、さらにはこの僕も殺そうとしているはずだ。どうなんだ、答えろ影の勇者!」


「……」


 声を荒げ、怒りを露わにするフルトニアに対し、シオンは絶望によって悲しみすらも消え、無表情。答える気力すらも失せていた。


「眠れ、影の勇者」


 言葉を全て聞き終わる頃には、彼の持つ剣の鋭い刃がシオンの首元にきていた。







 はっ、と目を開くと見慣れた天井が視界に広がっている。屋敷の自分の部屋だ。


「夢……か」


 大きな安心感がシオンにため息をもたらした。体を起き上がらせ、窓を見る。窓から差し込む光はオレンジだ。リビングルームで起きたところからが夢だったのだろう。


「おはよう、シオン。よく眠れた?」


「ルアメル……生きてる……」


 横を見るとルアメルが椅子に座っていた。

 生きている。彼女はしっかりと生きている。透けたりしていない。彼女はシオンの言葉が理解できていないのか、首を傾げている。


「う、うん。もちろんだけど……どうしたの、死人を見たような顔をして……」


 困惑するルアメルは心配げにこちらを見ている。しかしシオンは目を閉じて首を横に振った。


「んにゃ、やっぱりなんでもないよ」


 歯を見せ微笑むシオンだったが、ルアメルの心配げな表情は治らなかった。


「ネイからシオンが影の勇者って言われて落ち込んでるって聞いたんだけど……大丈夫?」


「ああ、君たちが生きてるからもう大丈夫だよ」


 手でグッドをして答える。困惑しつつもルアメルはシオンの無事を確認すると、満足そうにうなづき、部屋を出て行った。

 彼女が出て行った後、シオンは記憶を辿い、頭を整理する。

 自消夢で出会った男、ラークス・フルトニアと名乗った男は光の勇者なのだろうか。自消夢は、見た後に酷似していることが現実で起こるのだ。


「近いうちにあいつに会うのか……」


 いろいろと考えているうちにマニが頭に浮かんだ。彼女なら何か知っているかもしれない。そう思うと、シオンは出掛ける支度を密かに始めた。

 そして、月明かりが窓から差し込む頃に静かに馬車に乗り、マニのいる村へと走らせた。


「こっから長いし、着くまで寝るか」


 あくびをしながら目を瞑る。頭が少々混乱していたシオンは疲れていた。

 自分が見た自消夢どのような未来を示していたのか。シオンは不安を抱えたまま眠りについた。




「んん……?」


 目が覚め、瞼を開くと牛と目が合った。四足歩行で、ツノの生えた動物と。


「もおおおお!?」


 驚きで眠気が吹き飛んでしまった。周りを見ると、自分は見覚えのある牛小屋にいた。


「着いたってことか」


 ゆっくりと馬車から降り、背伸びをする。村を見渡すと、まだ人は見られず、肌寒さが早朝を感じさせた。


「マニのやつ、起きてるかな……」


 小さく呟き、マニの家へと歩き出す。

 歩き始めて十分も経たないうちに何者かに肩を叩かれ思わず声をあげる。


「ひゃうっ!」


 素早く振り返ると、そこには寝癖のついたライドンが立っていた。


「早いじゃねぇか、あんちゃん」


「おっちゃんか、驚かすなよ」


 少し不機嫌そうな顔をしたシオンだったが、ライドンは気にせず笑った。


「何の用で来たんだ?なんだ、恋人探しか?」


「ちげぇよ!ある人に聞きたいことがあって来たんだ」


「ほぉ……分かった、恋愛相談だな」


「それもちげぇよ!俺、急いでるから!」


 ライドンにそう叫ぶと、足早にマニの家の元へ足早に向かった。


「ふぅ、行くか」


 マニの家の入り口の前に着くと、小さくため息を吐き、中へ歩き始める。マニの家はどこか不気味な雰囲気を出しており、入りづらい。家は洞窟のような形をしており、マニの元へ行くためには少々歩く必要がある。

 奥へ着くと、マニは水晶をいつも通り見ていた。シオンが声をかけようとすると、シオンよりも先に彼女の方から話しかけてきた。


「やはり来たな、シオン」


「ああ、来たぜ。昨日の朝は悪かった。んで、ちょっと聞きたいことがあるだ」


 素早く本題を持ちかけるシオンを嫌がる事なく受け止めてくれたマニに安心する。彼女の前に座るとマニは水晶から目をしおんに移した。


「俺、昨日の昼寝でまた自消夢を見たんだ」

 

「ほう、どんな内容じゃった?」


「俺が……ルアメルたちを殺して、フルトニアっていう男に殺された。光の勇者って言ってたんだ」


 マニはシオンの話を聞き終わると後ろにある本棚から何か分厚い本を取り出した。埃をかぶっている。古い本なのだろう。


「全てを教える前に、影の勇者と五人の魔女の話をしようかのう。わしが貸した本は読んだかね?」

 

「それがまだ一冊だけで……」


 仕方がないという顔をしたマニだったが、すぐに本に目を落とし、読み始めようとしたその時だった。


「抗い者は……どこですかネ」


 空いた口が塞がらないシオン。あの狂人は、レクラウスは始末したはずである。しかし、確かに外から声が聞こえたのだ。


「おかしい、俺はあいつを……」

 

 シオンは混乱し、頭を抱える。マニは冷静に口を開いた。


「自消夢が二つあるせいじゃ……世界が、狂い始めたんじゃ」


 自消夢が二つ。再び混乱する。答えはシオンが尋ねる前に帰ってきた。


「職業が勇者である者はこの世界に一人しかいてはいけない。自消夢は勇者のみ見れるんじゃよ。その者がみる自消夢で世界の未来は決まるんじゃ。だが、今は光と影とで二人いる。つまり未来が二つあるんじゃ。お前さんが決めた未来では始末したとしても、もう一方の勇者の夢ではまだ始末されてない可能性があるんじゃ」


「なるほどな……あー、めんどくせぇ!」


 勢いよく立ち上がると、凄まじい速さで外へ駆け出した。


「光だろうが影だろうがどうでもいい!俺は誰かを守れる勇者であれば!」


 外に出ると恐ろしいモノが村の道を進んでいた。それは、彼が知る狂人ではなかった。


「なんで魔獣とお前が合体してんだよ!」


 顔だけレクラウスの魔獣がこちらを見ている。シオンとの距離は数メートルほどしかない。姿は一言で言うと、気持ち悪い。一言では足りないくらいかもしれない。


「はじめましてですネ。私はレクラウス・ギルバート。嘆きを愛し、運命に抗う者を裁く……これが使命なのですネ!」


 レクラウスは今にも暴れ出しそうな様子である。歯をガチガチと鳴らし、こちらを威嚇しているかのようにも見える。


「どうどう、落ち着いて落ち着いて。魔獣さん」


 聞こえて来た声は、フルトニアのものだった。若く、勇ましく、まさに勇者の声にふさわしい声である。気がつくと、レクラウスの目の前に彼が立っている。

 

「魔獣とは何ですネ!無礼ですネ!」


「まぁまぁ、落ち着いて」


 レクラウスは目を見開き、狂気を剥き出しにしている。今にも襲いかかって来そうなレクラウスだが、目の前に立つフルトニアは剣も出さずに彼を見ている。


「これも夢の通りだねぇ、勇者ってすごいや」


 彼の声が静かな早朝の村に響いた。


今回も読んでいただきありがとうございます!原稿を書いていたもので少し投稿が遅れてしまいました。

これからどうなってしまうのか……

どうぞご期待ください!

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