///8 あっけない終着点
一方、こたつで寝ていた弘樹はすぐに目を覚ましてしまった。それほど疲れがたまっていなかったのかもしれない。
烏山は叫び疲れたのかぐっすり眠ったままだ。
今の内に、と彼はこたつの隣に立てかけてあった聖剣を手に取ると密かに部屋を出、魔王がいるという部屋に向かった。謎の声が魔王のいる場所を教えてくれたのだ。
「そういえば先行隊どうなったんだろう。」
いつの間にか忘れていた、先行隊のことを思い出した。もし先行隊が魔王の居場所にたどり着いているのならすでに倒され、彼らは日本に返されているはずだ。だがまだこの場所に居続けさせられているということはまだ倒されていないということだろう。
「まさか先行隊、全滅とかないよな。」
『ああ、先行隊は全滅してはおらん。だが全く見当違いの場所に行っておる。』
「無事なのか?」
『ああ、無事だ。』
「よかった。」
先程の姿の見えない声と話しているうちにもう一つ、小さな扉の前に出た。
「じゃあ、行ってくる。」
『おう。まあお前なら必ず倒せる。落ち着いていけ。絶対に戻ってこいよ。』
姿なき声に励まされ、彼はその小さな扉を開けた。だが、
「よく来たな。弘樹。」
とはならず、暗闇が続いているだけだった。
念のため。剣を抜き、目の前で構えるとその剣が光り、前を照らし始めた。そして部屋の中心で起きていることも見えてきた。
「え、あ・・・。」
そこにはすでに打倒された魔王らしき生物とローブに身を包んだ5,6人の男たちだ立っていた。驚きのあまりその場に立ち尽くす弘樹にそのなかの一人が近寄っていった。
「君は?」
「俺は、斉田弘樹。で、これはどういう状況だ?」
「我々は王国直轄騎士団だ。この度、王の命令により、魔王討伐に向かった次第。君こそ何者なんだ?」
「俺はなんか他の世界の日本という国から召喚されてこの魔王を倒せと言われた。」
「おお、日本か、リク・ソヴァール様も日本からいらっしゃったと言っていたが。」
「誰だ?そのリクなんとかっていうやつは。」
「先代の英雄で最高レベルの英雄だ。この森を他世界から連れてこられる勇者の鍛錬のために魔改造し、初級の冒険者の育成に励まれたお方だ。」
「ふーん。そういえば俺らはこの魔王を倒せば日本に帰れるはずなんだがお前らが倒してしまった。どうすればいいんだ?」
「我々にはわからない。申し訳ない。」
「いえいえ、大丈夫です。」
すると魔王の近くで撥ねた首を囲んで会議していた男の一人が声を投げた。
「多分倒されていても大丈夫だと思う。ここから出ればな。」
「そうか。ありがとう。」
6人の騎士に見送られ、彼は小さな部屋を出た。すると目の前が真っ白になり、手に持っていた聖剣は音もなく地に落ちた。
「やばい、やばいよ。こっち来てるーー!」
「黙れ!居場所が割れるだろ!」
「あ、ごめんなさい。」
いきなり活動を開始した魔獣から身を隠すために倒木の影に隠れる4人。かなり近くなり、霧に隠れていても全貌が見えそうになるとき、彼らの視界は白で覆われた。何も聞こえなくなり、直前の手の感覚ですらほんの少ししか残っていなかった。
キーンコーンカーンコーン
「は!」
突然耳に飛び込んできた聞きなれないが、懐かしい音。そして騒がしさ。目の前にあるのはよくわからない数式の羅列、前には同じような数式を書いた板がはられ、時計が横にかけてあった。
急いで周りを見渡すと周りも同じようにわけがわからない、といった顔で周囲を見ていた。しばらく沈黙が続いたあと、級長の叫び声で一気にクラスは破裂したような大騒ぎになった。
「戻ってきたぜーーーーー!」
「うっしゃーーーーーー!」
なぜクラスが大喜びしているのかわからない他のクラスのメンツは首を傾げていた。
「なあ、時間、巻き戻ってないか?」
「え?あ、本当だ!」
「助かったーーーー!」
時が巻き戻り、飛ばされた日に戻ってこれたことに大喜びするクラス。思わずガッツポーズを決めた弘樹の胸に七花が飛び込んできた。その顔は泣いてぐちゃぐちゃになりながらも達成感で輝いていた。
転移する前にはなかった友情や愛情がそこにはあふれていた。
一日を終えた太陽が学校を、クラスをかがやかせながらゆっくりと沈んでいった。
その後の葉鳥の処遇は言うまでもないことである。
完
おかげさまで今年中に閑話が終わりました!!本編はまだ続きますのでよろしくお願いします。
閑話の終わり方に少し無理矢理感が出たと思いますがご容赦ください。