///5 コボルトとの接戦
閑話、久しぶりとなりました、遅くなりました。
七花が俺を励ましてくれたおかげで俺はチームのメンバーとともにまた森を探索することができるようになり、今日も元気に森にいる魔物を狩っている。
今は休憩中だ。
こんなとき、女子がおしゃべりしている内容を聞いていると、いろいろな情報がもらえると最近わかった。
例えば、今日のお昼では。
「そういえば、最近女子の下着が盗られることが多くなってるって友だちが言ってたんだよね。私達も気をつけないと。」
「そうだよね。私も友達から聞いたよ。なんでも朝には下着を着たはずなのに夜にはその下着がなくなってるらしい。ほんとなんなんだろうね。」
「へ~、知らなかったな。気をつけよう。原因とかわからないの?犯人とか。」
「それが全然わからないらしい。気づいたら下着がない状態だから。被害にあった人は3人。でも、魔物が原因なのかな?それとも、男子?」
それ、絶対葉鳥だろ!何してんだよ、あいつ!狂っちまったのか?!すぐバレるだろうが。俺も会話に参加することにした。
「その3人の女子って先行、後行、拠点?」
「あら、斉田くんも協力してくれるの?」
「いや、まあ・・・うん、そんなところだよ。」
「そう。私は3人共拠点組と聞いてるけど。」
「じゃあ、拠点に魔物なんて来るか?あそこ、全然来ないだろ?犯人、男子じゃね?」
「やっぱりそう思うよね。でも誰かな?心当たりある?斉田君」
「うーん、石板見ればわかるんじゃない?そういうスキルを持ってるかもしれないし。」
「あー、その手があったか。じゃあ、後で見とくね。ありがとう。」
「いやいや」
気づいたときにはもう遅い。俺は友達を売ってしまっていた。ああ葉鳥、がんばれ。
烏山が俺たちの話に首を突っ込んできた。というよりものすごい爆弾を落としてきた。
「あ、俺心当たりあるぞ。葉鳥だよ。そいつのスキルの名前確か『パンツ盗み』だったと思う。」
「あの葉鳥なの!?犯人。これは女子全員に話を通して捕まえなきゃね。」
「そうだね、烏山くん貴重な情報ありがとう。」
「別にいいよ。あ、でも友達だから一応言っとくけど、スキルだからしょうがないよと思うけど。」
「だから何?」
「・・・いや、何もないです。」
先生も参加してきた。
「でもあの葉鳥がそんなことをするとは・・・。人間、見かけによらないものだな。」
「そうですね。今日の夜はみんなで葉鳥に攻撃だね。」
ということで、今日の夜ご飯は葉鳥になった。
この小さな火種がやがて大きな闇になることは、神のみぞ知る。
休憩終了後、俺たちはいつも狩っているところよりもう少し奥のところに行くことにした。いままで見慣れた道の先に何があるかわからないため、いつも取っている三段構えでいく。前衛は烏山と先生、中衛は仁美と香菜、後衛は弘樹と七花だ。
道を進むにつれ、少しずつ暗くなっていく。宿舎から持ってきた手持ちのランタンも永久に明るさは続くものの、照射範囲には限界がある。それ以上になると自分の目に頼るしかない。
周りの暗さに少しずつ警戒するようになると、誰も喋らなくなり、集中してくる。その警戒の中ガサッという音を立てて犬のようなものが飛び出してきた。それが犬ではないことは皆分かっていた。その犬の皮膚が全体的に赤黒かったからだ。いわゆる魔物である。このチームが魔物に出くわすのはゴブリンを含めこれで二度目となるが、今回は以前とは数が違った。
一体目が出てきたのを皮切りに三体がその一体の後ろからやってきたのだ。
しばし呆然としていた俺たちは数瞬後、頭が覚醒し、チームメイトに指示を出す。
「前衛と中衛は協力して三体を!後衛は後ろから補助する!もう一体は手が空き次第誰かが迎撃すること!それと、あんまり遠くに行かないように!はぐれちゃうから。」
「わかったわ。」
俺たちは二人一組で犬と同時に動いた。
前衛が三体にナイフを投げ、指示通りに戦場が動く。
衣良喜が先陣をきって一番前にいた犬を闇を少し付与した剣で切った。
切られた一体の犬はらんらんとさせた目を赤く変化させて身体を黒霧で包み、他の犬へ噛みついた。衣良喜が直前に修得した一定時間のみ使い魔とさせる剣技である。
他の二体はそんな一体に動揺しながらも裏切った犬の弱点を噛みちぎり絶命させる。それを見た弘樹は再度チームメンバーに指示を出す。
「こいつらの弱点は腹の真ん中だ!そこを狙え!俺たちは魔法で援助するから、存分に戦え!!」
弘樹の言葉が場へ放たれた瞬間、七花の魔法が弘樹の魔法とたまたま合わさって三体の犬の前の地面に激突させる。その衝撃で砂埃が起き、犬はその中に入るのを躊躇する。
いつの間にか四人と二人は背中を向けあって立っていた。弘樹は砂埃の中に切り込もうとして動きを止めた。
たまたま吹いていた風により、砂埃が払われると三体は獲物にむけて飛び込んできた。護身用にと持っていた剣で薙ぎ払うも足に少しの傷を与えただけだった。
その時、弘樹は一瞬首をかしげた。彼が今相手にしているのは二体。さきほどの状況から考えるに前衛と中衛が相手にしているのはわずか一体。ならばとっくにこちらに来ても良いはずだ。それにしては時間がかかりすぎている。
弘樹は七花に二体を見張るよう言うと振り返った。そこには予想を裏切った光景が広がっていた。三体の魔獣に対し、四人が苦戦していた。
「うそ、だろ・・。」
思わずこぼれた彼のつぶやきに七花はある程度事態を察したのだろう。小声で弘樹に意見を求めてくる。
(くそっ、増えていやがる。こっちは六人、相手は六体。一人で一体ずつ倒さないといけないのかっ。)
じりじりと間合いを詰めてくる魔獣に対し、弘樹と七花は少しずつ後退しながら魔法を放つ。だが先程放った魔法から学習したのか魔獣は着弾予想地点を迂回して迫ってくる。
試しに横に落ちていた木の枝を投げてみたが首を僅かに傾けただけで避けられた。為す術なく後退する弘樹の背中に僅かな衝撃を感じた。思わず振り返るとそこには先程まで戦っていた仁美や烏山などがこちらに背を向け立っていた。
「なあ、弘樹、どうする?」
「どうしようか?」
「いつの間にか囲まれてるんだよね。」
「ああ、そんなにのんきに言っている隙がないくらいな。」
六人が動けないのを知ってか知らずしてか六体の魔獣は少しずつ、確実に間合いを詰めてきていた。ふと弘樹の記憶から六人分のステータスが引き出された。弘樹は一人のステータスに望みを託すことにした。
「なあ、七花。」
「どうしたの?」
「土石流、起こせるか?」
「え?どうしたの急に。」
「お前の魔法、水系統だろ。だったら土石流起こせるんじゃないかと思って。」
「やったことはないけど、頑張る。」
「じゃあ、俺は犬が七花に近づかないようにひきつけておく。」
烏山が言って瞬間移動を使い、犬を狙って剣を振るが空を切る。
その隙を狙った先程の犬とは違うやつが噛みつく。それを衣良喜がガードし、次は衣良喜が応戦する。その隙を狙った他の犬は傷が回復した烏山が戦う。その繰り返しが起きていた。
時々、仁美がアドバイスを送り俺が犬の目をふさいだりするが、それだけである。
しかし、そんな損も得もなくただ両方の体力が削られていくだけの戦いもある人声で終わりを告げた。
「みなさん!私より後ろに下がっていてください!<水波>!」
七花は波を起こし、その波は巨大だがもろそうな岩々をくだいていく。
「もう一個!<流水>!あ・・・もうダメ・・・。」
「おい、大丈夫か!?」
「大・・丈夫。魔・・・力切・・・れ」
そこまで言って七花は倒れた。
弘樹は倒れた七花を抱くと、目前の景色を見た。そこには・・・崩れた硬そうな岩が三体の犬の頭に当たって血を流し、倒れている姿があった。
近くにいたゴブリンもそれに巻き込まれており、弘樹は他の魔物が寄ってこないうちに、と思って魔物の腹から赤黒く光った魔石を取り出してポケットにしまった。
また、ゴブリンが持っていた小袋や安物そうな剣を拾う。
「集合!」
仲間を集めた。すでにほとんどが満身創痍の状態だった。
「ここは血の匂いが漂っていて魔物とかが集まってきそうだから今日はこれで終わりにして宿に帰ることにしようか。だけど、気を抜くのはまだだよ。あと、恋橋と曾我は七花の世話をしてあげてください。」
恋橋と曾我は「七花だけにそんな無理をさせて」と少し心配の色を覗かせた様子だったため、語尾が敬語みたくなってしまっていた。
その後の宿へと帰る道には幸い魔物や生物は出てこなかった。
七花は自分で歩けるようにはなったが、さすがに疲労が目に見え、今にも眠ってしまいそうだった。
そして、自分の部屋へと着いた弘樹たちは「やっと寝れる!」という気持ちでそれぞれの寝床へとダイブした。ちなみに弘樹がダイブする前、一瞬部屋にかかっていた時計をみると、それはまだ午後にすらなっていなかった。つまり、少しの間に重労働を経験していたということだ。
(そんなしか経っていないのか・・。)
そう思ったのは本当に一瞬で、彼はすぐに眠りの底に落ちていった。
夜ごはんが葉鳥となる約束はいつのまにか皆の頭からは消え去っていた。
夢の中で揺さぶられるような感覚に陥った彼は現実世界に意識を引き戻した。
うっすらと開けた彼の視線にこちらを見下ろす見知った顔を認識する。寝ぼけた意識の中、それが七花であることに気づくのに少し時間がかかった。
ろれつの回らない口で言葉を発しようとするものの、睡眠欲に勝てず、もう一度まぶたを閉じた。
「させるか!」
誰かの掛け声により彼は強制的に起き上がらされた。背中を支える腕に体重を預け、ひとつ息を吐いた。
目の前にいつの間にか差し出されていた水を一杯飲むと眠気が少し引き、脳に血が通い始めた。
「どうしたんだ?」
「どうしたもなにも夜ご飯だよ〜。」
「そうか、もうそんな時間か。」
寝ぼけていて気づかなかったものの、カーテンの向こう側はいつの間にか闇で覆われていた。
自分を支えてくれていた烏山の腕から離れ、足を床に下ろす。頭を振って眠気を追い払うと宿舎の中で移動用に使っているスリッパに足を入れると立ち上がった。寝過ぎで少しフラフラするが、すぐにそれは収まった。
「ありがとう。行こうか。」
「おはよう。大丈夫?」
「ああ、お前こそ大丈夫なのか?」
「うん。私は大丈夫。香菜が治療してくれたから。」
「そっか、あいつ治癒魔法使えるんだっけか。」
「そうなの。彼女、すごいよ〜。例えばさ・・。」
「それはあとで聞くよ。寝起きでそれは辛い。」
苦笑いで七花が語ろうとするのを止めた弘樹は烏山に向き直った。
「悪いな。俺、何時間ぐらい寝てた?」
「軽く7時間って言ったところか。」
「ははっ。情けねえ。あれぐらいの戦いでへばってるようじゃな。」
「みんなだいたいそれぐらいだ。恋橋が一番大丈夫そうだった。」
「あいつ自分で自分に治癒魔法使ったのか?」
「理論上はできなくもない。ただ失敗する可能性が高くなる。」
「そうか。」
「ねー弘樹ー!私置いてかないでよー!」
烏山と盛り上がっていたときに仲間はずれにされていた七花が文句を挟んできた。少し膨れた顔の幼馴染の頭を優しくなでると彼女は頬から力を抜いた。いつも通りだった。
「よし、夕飯行くかー!」
「おー!」
「ようやくか・・。」
それぞれの思いをつぶやきながら彼らは部屋を出ていった。